〜選んだ未来〜 世界は目まぐるしく変わっていった。 C.E.74 プラント・オーブ連合首長国 停戦合意 これを切欠に双方共に終戦協議に入った。 その仲立ちをしたのがラクス・クライン。 偽者騒動もあり一時は混乱も見られたが、最高評議会の要請でプラントに戻ったラクスはその行動で混乱を収めていった。 だが世界はまだ混乱の中にある。 強力な指導者がいなくなり、混乱を機に成り上がってきた政治家達が意地の張り合いをしながら条約締結に難癖をつけている。 だが、それはシンの仕事とは違う。 《俺がやるべきことは―――》 シンは赤い軍服を纏い部屋を出た。 * * * 「えっ!? じゃあシンってば今はキラさん達と同居してるの!?」 情報通を自認するメイリンが驚いた顔で歩くシンの後を追いながら問う。 ルナマリアとザフトを抜けるかどうか悩んだ挙句、二人は残る事を決めた。 メイリンの脱走についてはラクスのとりなしもあり、議長に濡れ衣を着せられそうになったアスランを助ける行動の延長故という事で不問とされたのだ。それはフレイも同じらしく彼女もジュール隊に復帰している。 ミネルバが無くなった事でバラバラになった仲間達はそれぞれに上手くいっているらしく、たまに基地内で見かけては挨拶をしていた。 それは嬉しいがたまにメイリンに近況をしつこく聞かれるのにはうんざりする。 これでルナマリアが揃うと相乗効果で質問の嵐になるのだからたまらない。 「だってマユと一緒に住むってあの人が譲らないんだから仕方ないだろ!」 「それどっちの事?」 「アスラン・ザラ! ずっとマユの存在すら知らなかったくせにいきなり父親面して引き取るって喚いて・・・。 結局ファミリーネームどうするか決着着けられなくてマユはアスカのままで四人で同居。 キラさんはマユの良い様にしてくれればどちらでも構わないっていってくれてる。 ああもう! キラさんは話わかるのにどうしてあの人はこうもしつこいんだよ!!!」 「しつこくて悪かったな。」 「うわっ!? どっから生えたんだよ!」 「人をきのこみたいに言うな!」 「でも不気味ですよ。アスランさん。 私も瞬間移動してきたのかと思ったくらいですもの。」 「君達が話しに夢中になってて気づかなかっただけで俺はさっきから声をかけてたぞ。」 シンだけでなくメイリンのあまりの言い様にアスランは不機嫌そうに顔を顰めるが、メイリンは苦笑するだけ。 シンに至ってはそっぽを向いてアスランを無視しようとする。 文句を言ってやろうとするがその前にメイリンが話を変える。 「ところでレイとアルバート君はどうしてるの? レイがザフトを止めたのは知っているけど、その先は連絡取れないからわからなくって・・・・・・。」 「二人なら今はオーブだ。」 アスランの答えにこれまた驚いた様子でメイリンが見上げる。 だがその続きを答えたのはアスランではなくシンだった。 「いきなり兄弟として生きていけるほど器用じゃないよ。レイは。 だから二人とも困ってて・・・そうしたらアークエンジェルの艦長さんがオーブのマルキオ導師って人の孤児院を紹介してくれたんだ。 あそこは誰もが他人で誰もが家族だからって。自分達もいるから頼ってくれていいって。」 「今のところ上手くいっているみたいだ。オーブのセイラン夫人もそこに身を寄せていて、連合のエクステンデットだった少年も今はそこにいるらしい。」 「何か・・・・・・凄いところですね。」 「俺もそう思う。」 「時々メールが来るよ。レイが自分が作曲した曲をピアノで弾いたものを録音してデータを送ってくるんだ。」 「ちょっと!」 シンの言葉にメイリンが立ち止まりシンの襟首を掴む。 明らかに怒っているメイリンにシンは戸惑い尋ねた。 「なに・・・どうしたんだ?」 「アドレス知ってるなら何で教えてくれないのよ! 私もお姉ちゃんも、ヨウランやヴィーノだって心配しているのよ!?」 「あ・・・ゴメン。忘れてた。」 「忘れてたですってーっ!!?」 怒りに眉を吊り上げるメイリンに怯えるシンをアスランは助けない。 実際シンも悪いのだ。仲間を心配するのはシンだけではない。 メイリンが怒るのも当然と言えた。 《ひえぇええっ!!!》 「あら、ここにいたのね。」 これまた聞き覚えのある声。 三人が声のした方向を見やるとジュール隊に復帰したフレイが駆けてきた。 「良かった。ラクスに言われて探してたのよ。 突然だけど辞令よ。シン・アスカとアスラン・ザラはラクス・クライン議長の執務室に出頭するように! 直ぐに向かってね。私忙しいからもう行かなきゃいけないのよ。それじゃまたね!!!」 左手を振りあっという間に通路を走っていくフレイを見送りながらメイリンは掴んでいたシンの襟を放す。 漸く開放されたシンが新鮮な空気を胸いっぱいに吸っている間、メイリンはフレイが消えた方向を見つめていた。 「どうした? メイリン。」 ぼーっとそのまま立ち尽くすメイリンの様子のおかしさにアスランが尋ねるとメイリンは逆に不思議そうにアスランを見つめ返す。 「気づかなかったんですか?」 「「何に。」」 二人してきょとんとした顔で聞き返すのに呆れたのか。メイリンは深い溜息を吐いて答えた。 「フレイの左手の薬指・・・指輪があったんですけど。」 「へぇ。」と呟きそうになり、二人は思考を停止させる。 互いに顔を見合わせその意味を理解した途端、驚愕の声が通路に響いた。 * * * 微笑を浮かべながら机に座るラクスはとても優しそうに見える。 だが決してラクスは優しいわけではない。その微笑から寧ろ恐ろしいとアスランは逃げ出したい想いを抑え敬礼した。 隣のシンもラクスの静かな威圧感に緊張しているのか表情が硬い。 二人の様子に満足したのか、ラクスは話し始めた。 「急な辞令で申し訳ありませんね。 ですがジュール隊からむりやり・・・いえ、快く私の補佐官として出向して下さっていたフレイ・アルスターさんがおめでたい事に結婚退職される可能性が浮上しましたので早急に補佐官を新たに選出する事になりましたの。候補としては現在ハイネ・ヴェステンフルスが上がっています。」 「そう・・・ですか。」 「そこでお二人をお呼びしたのですが・・・確認したい事がありまして。」 ラクスの言葉に二人が戸惑いの表情を浮かべるとラクスはすぅっと目を細めてシンに問いかけた。 「シン・アスカ。貴方はザフトに残るのですね。」 「はい。一度決めた事です。」 「・・・まだオーブを恨んでいますか。」 「恨むとか・・・・・・そんなんじゃなくて。此処には俺の仲間がいるから。 それじゃ駄目ですか?」 「いいえ、とても良い答えですわ。 では改めて貴方に辞令です。」 「は!」 緊張の声で応え敬礼するシンを微笑ましそうに見つめながらラクスは辞令を告げた。 「フェイスの称号はそのままに。 私の承認の下、継続して任務に当たって下さい。 そして何人か部下をつけます。メンバー等詳細は追って通達しますがまずは一人紹介しましょうか。 アスラン・ザラ。」 「ぅえ!?」 「返事はどうしましたか。」 「は・・・はいっ!」 「貴方にはシン・アスカの下、私の護衛任務に就くことを命じます。」 ・・・・・・・・・・・。 言われた言葉の意味が一瞬理解できず二人は沈黙し、互いを指差しながらラクスに問いかけた。 「この人が・・・俺の部下?」 「シンの・・・下につけと?」 「何か不満でも? アスラン、貴方は一度決めた道だからと建前をつけたもののその一番の理由がマユやキラにあることはこの場にいる全員が知っています。前議長が特例で復隊にあたりフェイスに任じたそうですが謀略の結果と言えど貴方は二度ザフトを脱走しています。 三度目は許されません。そしてけじめが必要です。 これから馬車馬の方がまだマシと思えるくらいに働いて頂きますので頑張って下さいねv シンも慣れない隊長業務は大変でしょうがフェイスに抜擢された程の人物。 『私の』期待を裏切らない働きを見せて下さい。」 《最初の内はキラとマユの家に帰れないと思ってて下さいねv》 そんなラクスの心の声が聞こえたような気がして二人はこの先の未来を思い互いに手を取り合った。 その後、簡単な説明を終えラクスの執務室から出て扉が閉まるのを確認するとシンは隣に立つアスランに問いかけた。 「なぁ・・・あの人、アンタの婚約者だろ?」 「元婚約者だ。しかも婚姻統制の為に親が勝手に決めた。」 「交流はあったんだろ。昔から・・・あんな性格だったのか?」 「一応がついても婚約者だから家を訪ねたり贈り物をしたりお茶をしたりはしていたが・・・普通に穏やかで可愛らしい女の子という印象が強かった。戦争が長引いてなんて言うか段々と・・・。」 「本性が出てきたってか。」 「多分・・・もともとラクスはああいう人だったんだろう。 アイドルとしてのイメージが先行して彼女自身が押し着せられたアイドルのイメージをどう思っているかなんて考えた事なかったからな。 勿論万能ってわけじゃないから彼女にも人としての弱さがあるんだろうが・・・。」 「・・・やっぱストレスかな。」 「暫くいびられるぞ。俺もお前も。」 「アンタだけだろ。何しろ俺は上官だし。 早速上官命令、他の部下に余波が及ばないように全身で皆の盾になって来い!!!」 「そーゆーのを職権乱用と言うんだ。死なば諸共、お前だけ帰してやるものか!」 「アンタ今は俺の部下だろ!? 上官の命令は絶対が軍の鉄則じゃないのか。」 「暴走する上官を諌めるのは直属の部下の役目だ。」 「あらあら仲良しさんですわね。早速親交を深めているところ申し訳ありませんがお仕事ですわよv」 ギギィ×2 さび付いたブリキ人形のように振り返れば、いつの間に扉が開いていたのか・・・。 微笑を浮かべたラクスが二人の背後に立っていた。 「「ラクス・・・クライン・・・・・・・。」」 「次から敬称を忘れないようにして下さらないと・・・いえ、早速慣れて頂く為にも追加業務を申しつけます。」 「「でぇえええっ!!!」」 「叫ぶ元気があるならもう少し仕事を増やしても大丈夫そうですね。」 「「やめてぇええっ!!!」」 「すみませんでしたラクス様!」 「だから勘弁して下さい!」 「ホホホ・・・・・・では今回だけは見逃してあげましょう。」 にっこりと微笑むラクスに二人がほっとしたのも束の間、止めの言葉が突き刺さる。 「貴方方の運命は私の手のひらの上にあると言うことをお忘れなく。」 この時、シンとアスランはザフトに残った事を心底後悔した。 * * * ハロ! マユ! アーソーボー☆ トリィ トリィ 新しいプラントの住居。 マユはハロとトリィを追いかけ遊んでいた。 BGMはレイが送ってきたピアノ曲。だけど大人しく聞いていられないほどマユははしゃいでいた。 「こらマユ! 走ると下のお部屋の人に迷惑でしょう。止めなさい。」 「だってママ。明日からマユはガッコウに行くんでしょ? だからたのしみでじっとしてられないよ!!!」 「ダーメ。学校は遊ぶだけじゃなくて勉強するところなんだから。じっとして先生の授業受けられないようじゃ困るよ?」 「それにハロとトリィ連れてっちゃダメなんでしょ? その分、あそばないと。」 「家に帰ってから遊べば良いでしょう? それに学校で友達出来たらその子達とも遊びたくなるよ。」 マユを叱りつけ、言い聞かせながらキラは幸せだった。 絶対に手に入らないと思っていた幸せが此処にある。 フリーダムとジャスティスは再び封印され眠っている。 出来れば二度と彼らの眠りを妨げることなく世界を変えていけたらと思う。 甘い考えかもしれない。それでもやり遂げなくては戦った意味はなくなるのだ。 「ママ!」 全開の笑顔が自分に向けられる。 少しずつ心に染みとおる温かさに泣きたくなる。 「凄いね。マユは。」 「なーに?」 「・・・何でもないよ。」 笑顔で問い返すマユは何も気づいていない。 自分の存在で誰の心を癒したのか。 そして今も、キラの心を癒している事に気づいていない。 これから先、マユは自覚の無いままアスランも癒すのだろう。 レイすら自覚の無いままマユに癒されていた。 もしかしたら未来でも、出会う誰かの心を癒すのかもしれない。 《大好きだよ。》 万感の想いを込めてキラはマユを抱き締めた。 END 本当は他にも細かく書きたい各登場人物のその後があったのですがきりがないので止めました! そんなわけで2月のSEED IMPACTに発行予定の番外編集にてその辺りを書きたいと思います。 何にせよ。だらだらっと長く書き続けてきた連載にお付き合い頂き有難うございました!!! m(_)m 2008.7.22 SOSOGU (2008.12.23UP) |
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