24時間戦えますか

 皇帝陛下のギアスが目を合わせないといけないのは確かなのですが、有効期限やら同時に複数の人間に操作が可能なのかは全くわからないので設定捏造でギャグってみました。

  くたりと倒れるルルーシュをスザクは支えゆっくりと横たえた。
 気を失った友の顔は穏やかだった。
 先程皇帝はマリアンヌもナナリーも忘れろと言った。
 皇帝のギアスが記憶操作ならば言葉通り彼は母と妹を忘れた。
 同時に自分が皇子であった過去も消えただろう。幼い頃のスザクとの邂逅すらも。
 これから彼はまた利用される。8年前のように。
 学園に戻され魔女を誘い込む為の餌として生かされるだけの人生。

《後悔はしない。今更だ。》

 意識を失ったルルーシュを連れ出そうと抱えなおした瞬間、再び皇帝から声が掛かる。

「待て枢木。」
「何でしょうか。」
「これからエリア11に行くぞ。」
「皇帝陛下自ら何故?」
「ナナリーが学園から消えルルーシュが妹の事を忘れていたら直ぐに騒ぎになるだろう。
 当然学園にも記憶操作が必要だ。」
「確かにそうですね。」
「ちなみにわしが持つギアスは相手と目を合わせなくてはならぬ。」
「先程無理やりやってたの見ましたからわかります。」
「序でに記憶操作は一人ずつでないと出来ない。」
「え゙。」

《ヤな予感。》

 たらりと流れる脂汗。
 スザクはこめかみを垂れる水滴を拭う事も忘れささやかな望みを掛けて答える。

「ですが、ルルーシュは確か複数同時にギアスをかけられたはずです。」
「親子だから多少能力は似ても不思議は無いが基本的にギアス能力は此処の個性に合わせて多種多様の能力と制限がある。
 故にルルーシュが出来たからと言ってわしに出来るとは限らんという事だ。」
「では学園中の人間一人一人に・・・で、ありますか。」
「何しろ記憶操作はデリケェエトな能力なのでな。一人当たり30秒と考え流れ作業のノンストップでギアスを掛け続けたとしても1時間で120人が限度だ。」
「えーとルルーシュは学園でも有名な生徒会副会長で美貌故に男女問わず人気があって・・・。」
「ふむ、不肖ながらも流石は我が息子。衆人の目を自然と惹きつけていたか。」
「今はそれが徒になってますが。」
「否定はしない。」
「高等部は一クラス約30人、1学年5クラス・・・だったかな?
 生徒数450人ほどとして教師の数と事務員・用務員の数をざっと50人として約500人。」
「4時間強といったところか。致し方あるまい。」
「いえ、8時間強ですね。しかも学園だけで。」
「何故だ!?」
「ナナリーが中等部所属だって事、忘れていらっしゃいませんか?
 中等部からナナリーが消えてルルーシュが平然と学園生活していたら中等部の生徒に突っ込み入れられます。」
「ふぐぅっ!?」

 痛恨の一撃に皇帝も言葉を詰まらせる。
 だがスザクは淡々と事実確認の為に言葉を続けた。

「シスコンとしても有名でしたから中等部の記憶操作は欠かせません。
 中等部の生徒数や教員の数は高等部とほぼ同数。
 大雑把な計算ですがざっと1000人が対象になるかと。」
「ぐぬぅううう・・・・・・・。」
「それからルルーシュの行きつけのお店やリヴァルのバイト先のマスターにも記憶操作は必要です。
 ルルーシュは外に出れば人目を惹きつけてましたから。ナナリーを溺愛している事は多少なりとも馴染みの店や知り合いは知っていますからその辺も押さえないといけませんね。
 なるべく外に出ないようにしていたと言っても数年暮らした租界の行動範囲は多少広がってますし。」
「軽く見積もってどのくらいだ。」
「軍務が忙しかったので一部しか知りません。
 詳しくは調査しないと・・・。仮に200人上乗せして計算してみましょう。
 えーと合計が1200人でぶっ続けでギアスを掛け続けて・・・・・・?
 あの、ノンストップでギアス使い続けて大丈夫なのでしょうか。」
「1時間使ったら最低20分は目を休ませなくてはいけない。目が疲れるではないか。」
「TVゲームの注意書きみたいですね。」
「ギアスを子供のおもちゃと一緒にするな!」
「ゲームは大人のおもちゃでもあります。
 健康のためにも休みは必要・・・という事は。」

 1200(記憶操作対象人数)÷120(1時間に掛けられる人数)=10時間

 9(必要な中休み回数)×20(休憩に必要な分数)=180分=3時間

 推定される最低限必要な記憶操作に掛かる時間=13時間

「・・・半日作業ですね。」
「移動時間を含め1日以上だ。その上、本国での公務は2日以上休めぬときた。」
「ならば陛下自身が赴かない方がよろしいのでは。」

 皇族専用の超高速度のジェット機を使っても移動に片道数時間。
 移動時間に休むと言っても疲れが溜まるばかりで24時間フル活動。
 ご老体には負担が大き過ぎだろう。

「それだけの人数をブリタニアに呼び寄せれば騒ぎになる。
 わしがこっそりエリア11に行ってこっそりブリタニアに帰った方が早くて目立たぬ。」
「確かに。」
「では早速行くぞ枢木。有給休暇は明日1日しか取れないのだ。
 本日の公務はこれにて終了。今晩を移動時間に充てて動いてもギリギリの計算。
 一分一秒でも惜しいこの状況では急がなくてはならぬ。
 学園の生徒にギアスを掛けている間にルルーシュの行動範囲の調査と関係者の出向命令を。
 直ぐに調査隊を編成させよ!」

 はっ!

 皇帝の命を受け、後ろに控えていた侍従の一人が広間から出て行く。
 その姿を見送りスザクは再び皇帝を仰ぎ見た。
 聞き違えでなければ先程威厳たっぷりな皇帝からとっても似合わない言葉が出たような気がする。
 それを確認する為、スザクは静かに問いかける。

「皇帝にも有給休暇なんてあるんですか。」
「年中無休では倒れるだろう。行くぞナイト・オブ・セブン!」
「もうナンバー決定してる・・・。」

 これからの労力を思いスザクは重い腰をあげて皇帝に続いた。
 不意にスザクに問いかける声が頭の中に響いた。

『24時間戦えますか?』

 なにやら懐かしいフレーズにも似た問いは誰の声でもない。
 不思議だと首を傾げるスザクだが、その問いに対する答えを考えてみた。

「・・・・・・・・自信ないな。」



 そして十数時間後



 眠い目を擦りスザクは葛藤を抱えつつ働いていた。
 既に生徒会の仲間の記憶操作は済んでいる。
 彼らの心を傷つける行為に胸が痛まないわけが無い。
 自分達のやっている事に気づいているのかアーサーはずっとスザクの背中に爪を立てて齧り付いている。
 もう引き剥がす気力も時間も無い。

「やっと半分済んだ。調査も大雑把ながら進んで思ったよりも人数少なくて済みそうだし、流石に黒の騎士団にまで記憶操作は必要ないから少しは助かったけど・・・。
 最後のリストチェックも終了。それにしても休憩20分ってその度に寝てたら起きるまでの時間とかタイムラグ出来て余計に遅くなるって言うのにあのロールケーキ頭・・・。」

 視線を移せば綺麗にセットされていたロール髪を潰しながら眠る皇帝の姿。
 その身体は肌触りの良いシルクのシーツに包まれた沈みそうなくらい柔らかなマットに沈められている。
 上掛けの毛布は申し訳程度に掛かっているだけで雑魚寝状態だが問題はそんな事ではない。
 注目すべきは彼の頭の先の人物だ。
 既に拘束服から寝巻きに着替えさせられているルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 記憶操作が他の者達よりも深く広い範囲で行われた為か彼は未だに気を失ったままである。
 そのルルーシュの膝を枕に眠るいい年こいた皇帝の姿に殺意が湧く。
 そろそろ起こさなくてはいけない時間だ。
 のそりと立ち上がるスザクの耳に何やら甘えた声が聞こえる。

「マリアンヌ、耳掃除してくれぃ・・・・・・。」

 びきぃっ!

 血管が浮き出る音がする。
 睡眠不足が手伝って堪忍袋はぶち切れる寸前。
 最後の理性が皇帝の頭を蹴り飛ばすのを・・・・・・止めなかった。

「起きろロール皇帝!」

 どこっ!

 突如幸せな感触から追い出され一気に目が覚める。
 周囲を見回せばオタオタする侍従達と仁王立ちする新人騎士。
 ならば犯人は後者だと判じ皇帝シャルルは叫んだ。

「何をするか枢木! 折角マリアンヌに優しく膝枕してもらっている夢を見ていたと言うのに!!」
「思いっきり后妃見捨ててその子ども達も見捨てて挙句の果てに記憶操作した息子が意識無い事をいい事に無理やり膝枕させて何を言ってる!!!」
「ルルーシュがマリアンヌ似だからだ!
 昔よりもマリアンヌ似に育ったからだっ!」
「やかましい。とっとと仕事しろ。
 ルールは守られなければいけない。
 当然約束も守られなければならない。
 有給休暇は残り半日だってこと忘れるな!」
「くそっ! 何でこんなに対象人数が多いのだ。」
「アンタがルルーシュに「只人になれ」って言ったからだろーがっ!
 そんなに面倒臭がるならもうちょっと考えて記憶操作しろ。」
「魔女のおとりにするには市井に溶け込ませた方が確実だからだ!」
「ブラックリベリオンに巻き込まれて記憶喪失になった為に軍に保護されて死んだはずの皇子とわかったけれど記憶回復の為に環境を変えない方が良いと判断、特別護衛兼医療メンバーを装って監視チームを編成&学園全体に緘口令。ナナリーは皇室復帰の為に帰国ルルーシュは記憶回復するまで一般人として生活って事にした方が絶対的に対象者は少なくて済むはずですが?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 二人の間に沈黙が流れる。
 即座に返してなんだがスザクも思わず考えた。
 下手に学園全体に記憶操作するよりも衆人が納得する理由を突きつけて元皇子様として学園に残した方がC.C.をおびき寄せる体勢も整えられて問題ないのでは・・・と。
 嫌な空気が流れた。
 周囲にいる侍従達もスザクの言葉に自分達がしてきた苦労を振り返る。
 重々しい空気に耐えかねたのか。真っ先に叫んだのは皇帝陛下だった。

「何故それを先に言わん!」
「さっさと自分だけで判断してギアス掛けたのアンタだろっ!!?」

 敬意も何もかもかなぐり捨てて俺様スザクへと立ち戻り叫ぶ新ナイト・オブ・ラウンズに注意する者は誰一人いない。
 心は一つ。

《《《何でもっと簡単な対応で済む記憶操作にしてくれなかったんだ。》》》

 だけど此処まできた以上今更仕事を投げ出せない。
 ルルーシュの記憶は訂正出来ないし既に学園の半分は記憶操作が済んでいる。

「皇帝陛下、残り時間10時間を切りました。」

 侍従の一人の言葉が冷ややかに響く。
 これからはノンストップ休みなしでギアスをかけ続けなくては間に合わないという意味だ。

「これ以上予定を遅らせますと明日の朝の謁見までに髪をセットする時間が確保できません。」

《ってコラちょっと待て。》

 続けられた言葉に再びぴきりとこめかみから音が鳴る。
 スザクがグググと首を回らし振り返ると其処にはいつもはぴっしりと決まったロール髪が潰れて乱れた皇帝陛下。

「まさか髪のセット時間のせいで余計にスケジュールがきつくなってるなんて事は・・・。」

 冷ややかな突っ込みに侍従達は一斉に目を逸らす。
 ふと簡易ベッドに眠るルルーシュを見やるとすやすやと眠り続ける親友・・・否、元親友の健やかな寝顔。
 その膝を名残惜しそうに撫でる皇帝が実父でなかったらセクハラと判じこの場で締め上げていただろう。
 やがて離れて再びギアスを使い始める姿に疲労感がどっと押し寄せる。

《ああ、僕もルルーシュの膝枕で仮眠を・・・・・・。》

 一歩足を踏み出すと同時に声が掛かる。

「わしの息子を売り飛ばしておいて馴れ馴れしく触れるなナイト・オブ・セブン。」
「自分の息子を日本に売り渡しておいて今更惜しまないで下さいね唯一皇帝陛下。」

 一見にこやかな笑みを浮かべて振り返るナイト・オブ・セブン枢木スザク。
 対する唯一皇帝シャルル・ジ・ブリタニアも余裕の笑みで答える。
 さて、彼らの前には一つの問題。
 ルルーシュ・ランペルージの新たなる箱庭作りのタイムリミットが近いということ。

「残り時間9時間45分です。」

 その一声で二人は再び動き出す。
 互いの片手にいつの間にやら小さな小瓶。
 そう、これから彼らは時間と戦わなくてはならない。
 現在活動開始から約20時間が経過。
 1日の構成時間は24時間である。

《完全徹夜だな。》

 今ならスザクはこの質問に答えられるだろう。

『24時間戦えますか?』



 ―――ルルーシュ(膝枕付き)の為なら!



 END


 最後の最後で意味不明になり落ちが弱くなりました。
 スザクの突っ込み入れた辺りからおかしくなった気がします。
 もっと精進したいですね。
 ちなみに今回のお話は

 皇帝のギアスにより学園中が記憶操作されている→随分面倒臭い対応をしている→記憶操作は皇帝にしかできない?→皇帝のギアスの能力詳細はわからない→もし一人一人にやってたら笑える→対象人数と時間計算してみた→半日はかかりそうだ→休憩が必要設定あったらなお笑える→スザクのラウンズ最初のお仕事になりそう→絡めてギャグ書けないだろうか?

 長い連想ゲームですね。
 でも大抵SOSOGUが書くネタはこんな連想から始まってます。
 くだらないお話ではありますがお楽しみ頂けましたら幸いです。


 (初出 2008.4.25)
 2008.9.7 ネタblogより転載