おでん屋ルルやん 〜ホワイトデーの恐怖〜 体調を崩したが為にUPが遅れ、補足話を断念したSSです。 ホワイトデー仕様なのに三日も遅くなってすみません。 題名からわかると思いますがR2 SE5「おでん屋 ナナちゃん」設定のスザルル話です。 |
時は平成。現代社会の片隅に今日も愉快な仲間が集まるお店がありました。 そのお店の名は・・・・・・ ガララとドアを開く音共に小さな店に入ってくるのは赤髪の女性。 「ナナリー、まだやってる?」 この近くのバニーちゃんパブのNo.2の紅月カレンの姿に応じたのはいつも通りの店主優しい声・・・・・・ではなかった。 「当然営業中だ。ドアに札を貼っておいたはずだが見なかったのか? もう老眼か。眼鏡を作りに行くのが先じゃないのかカレン。」 「こんな時間に眼科も眼鏡屋も開いてないっての。 っつーか。何でアンタが店番してるのよルルーシュ!」 カレンの声に応えたのはナナリーではなく、妹との勝負に負けて戻ってきた兄のルルーシュ。 二号店を出すと言っていたはずなのに何故本店であるこの店に彼がいるのか。 カレンが文句言いながらも席に座ればカレンの好きな厚揚げと卵が載せられた皿が差し出される。 注文する前に注文するはずだったおでんを出されたカレンはそれ以上文句を言う気が失せたのか、無言で備え付けられていた割り箸に手を伸ばそうとして気づいた。 「あれ? 割り箸じゃなくてプラスチックのお箸に変わってる。」 「ああ。今までは衛生面優先だったがこれからはエコ優先路線だ。 とはいえ経費削減と衛生維持は飲食店の宿命。如何に水の量を少なく、尚且つ箸を清潔に洗えるか。 現在試行錯誤しているが洗浄法はほぼ確立しつつある。故にプラスチック箸に切り替えた。」 「いや・・・そんな詳しい説明まで求めてないから。 それより何でナナリーが店に居ないのよ。それに客層・・・なんか変わってない?」 カレンが隣の席を見ると小さなおでん屋に似合わない着飾った女性達がカウンターに並んでいる。 逆にカレンの方が場違いなのではと思うほどに上流階級のオーラを漂わせる女性で犇めき合っていた。 だからと言って自分が店を出るのは癪に障る。 頂きますと手を合わせ厚揚げに被りつくと鋭い視線がカレンを突き刺した。 《な・・・何?》 振り返ればカウンターに座る女性全員がカレンを睨んでいる。 一体なんだと言うのか。あまりの迫力に青くなるカレンにルルーシュが黄金色のボトルを差し出した。 「え? ルルーシュ何コレ。」 「ウ○ンの力だ。顔色が悪い。仕事とはいえ呑み過ぎたんじゃないか? 明日に差し支えるから飲んでおけ。」 「ありがと・・・って、これ幾ら? 市場価格の10倍とかって言うんでしょ。」 アンタの事だからと返すと不敵な笑みでルルーシュが返す。 「常連へのサービスだ。幼馴染という点もプラスしてあるがな。」 「あっそ。それじゃ有り難く・・・。」 ボトルに手を掛けた途端、殺気がカレンを襲った。 《一体何なの!?》 再びカレンが振り返ればカウンターに座る女性全員の形相が般若と化していた。 明らかにカレンを敵と見做している。 一体何故なのか。その疑問は直ぐに解消された。 「ところでお客様。女性がこんな時間まで起きているのは美容に良ろしくないですよ。 この時間の睡眠が美肌の条件です。そろそろお帰りになられた方がよろしいのではないでしょうか。」 「大丈夫ですわ!」 「ルル様のお顔を見られるだけで肌が蘇ります☆」 「貴方のおでんを食べる事が何よりの美容効果なのですから♪」 「有難うございます。次は何をお取り致しましょう。」 アンタ誰? 思わず突っ込まなかった自分を誉めたい。 褒め称えるべきだとカレンは思う。 この様子を見れば彼女達がカレンを敵視した理由がわかるのは当然と言えた。 何も言わずとも注文の品をルルーシュが差し出し、カレンの体調を気遣いサービス品を出し、止めが幼馴染の間柄。 客層が変わっている理由も理解できる。 このカウンターにいる女性全員がルルーシュ目当てで来ているのだ。 同時にナナリーが店に居ない理由も分かる。ルルーシュ目当ての女性客がいる上にルルーシュは妹を溺愛している。 先程の美肌云々の話もナナリーに照らし合わせたものだろう。あのルルーシュが夜遅くまで妹が起きている状況を許容するわけがない。 理解すると同時にカレンは溜息を吐いた。 確かにルルーシュはおでん屋の家に生まれたが立ち振る舞いに気品があると言うか、生まれる場所を間違えたんじゃないかと言いたくなるくらい下町では浮いた存在だった。 だからと言って弱虫と言うわけでもなく、喧嘩は弱くても下町の悪ガキ達に負けない根性を持っていた。 特に頭脳プレーの得意なルルーシュは体力馬鹿のスザクと組んで悪戯をする事が多く、大人顔負けの作戦を成功させては子供達の憧れの対象になっていたくらいだ。 問題は・・・・・・勤労と言う言葉を丸無視した職業選択と癖のある性格だろう。 完全に下町では浮いた存在に成長したルルーシュはギャンブラーとなり姿を消し、何やら大きな事をする為に資金回収で実家に戻ったらナナリーとの勝負に敗北して家業を手伝う事になったのだ。 《昔と違って当たり前か。》 卵に被りつきながら姦しい女性達を見やりカレンは思う。 やはりルルーシュは生まれた場所を間違えたのだと。 恐らく彼女達はルルーシュが家を出ている間に知り合った上流階級の女性たちなのだろう。 「見た目で騙される女って多いのね・・・。」 「何だ?」 「べっつにー。」 カレンの態度に僅かに首を捻る姿すら美しい。 これでおでん屋のエプロンをつけていなければもうちょっとその美貌に見ほれていられただろうが、場所が場所。 何よりもカレンにとってルルーシュは見慣れた存在。美人が三日で飽きると言われているようにルルーシュも見慣れれば普通の青年だ。 尤も・・・そう言い切れるのは特に親しいカレンやスザクと言った限られた者だけだと周囲は思っているのだが、カレンは全く気づいていなかった。 「それよりカレン。そろそろ今の仕事を辞める気はないのか? 確か店のトップに返り咲いたら辞めると言っていただろう。」 「そぉよ。でもC.C.にまだ指名No.1を取られたまんまだから辞められないわ。」 「まだアイツがトップなのか?」 「勢いは前ほどじゃないけどね。何か売り上げの殆どを占めていた上客が来なくなったって話。 だけど何でか私だけその客に会ったことないのよね。」 「シフトは事前調査していたからな・・・。」 「何か言った?」 「いや別に。なんでもない。」 「それにしても何でよ。私の仕事の事なんて今まで興味なかったでしょう?」 「お前の仕事に興味はないが、お前には興味がある。」 「え・・・・・・。」 真っ直ぐな瞳が自分に向けられている。 そうカレンが気づいた瞬間、頬が赤くなるのを感じた。 慣れていて何とも思っていなかった紫電の光が胸を締め付ける。 女性達の怨念がカレンを取り囲むがそれすらも気にならない。 ドクドクと胸の音が体中に響く。胸が張り裂けそうだと思うカレンの耳を遠慮の無くドアを開ける音が打つ。 ガララララ〜 《ちょっとは雰囲気読んでよ。》 見事な空気ぶち壊しにカレンが入り口を睨むとこれまた常連客である鳶色の髪が暖簾を潜って店に入ってきた。 「るるぅーしゅぅーvvv」 「・・・・・・いらっしゃい。」 眉間に皺を寄せながらも店員としてのプライドが打ち勝ったのだろう。 歓迎の意を示す言葉がルルーシュの口に乗せられる。 しかし本意は全く逆だろうと表情が物語っていた。 招かれざる客であるはずがない。カレンはそう思っていただけにルルーシュの反応に怪訝な表情を浮かべる。 「スザク・・・よね?」 疑問符がつくのは仕方が無いだろう。 自分が知る限りこの二人は親友だ。 悪友と言っても良いかもしれないが、ルルーシュが彼を邪険にする理由が思い当たらない。 空いている席が其処しかなかったからだろう。首を傾げるカレンの隣にスザクが腰掛けるとルルーシュは挑むような目でスザクを睨み問いかけた。 「ご注文は?」 「僕の注文するものはわかってるだろ?」 「ご注文は?」 「ねぇルルーシュ。今日は何の日か知ってるよね?」 「・・・ご注文は?」 「僕はねぇ。先月から指折りしながら待ち望んでいたんだよ。」 「・・・・・・ご注文。」 「でも今日はお客さん多いんだね☆ どうしようかなぁ。」 空気読め。 いつもの事ながらスザクは空気を読まない。 分かっていても突っ込みたくなるのは当然だろう。 何よりスザクのこの態度にはカレンも引きたくなる。 まるで恋する乙女の様に頬を赤らめ、鼻の下を伸ばす姿は不気味の一言に尽きる。 「ちょっとルルーシュ。スザクはどうしたって言うのよ。」 「俺が聞きたい。先月の土曜日に此処で食事してからずっとこの調子だ。」 声を顰めてカレンが問うがルルーシュの言葉はカレンが望むものではない。 ならばとカレンが問う前にスザクがポケットから小さな箱を取り出す。 ビロードの布が張られたそれにカレンは見覚えがあった。 昔、母が大切にしていた父から贈られたソレが納められていたあの箱。 何故それをスザクが此処で取り出すのか。 嫌な予感にカレンが喉が干からびるのを感じた。 鈍いルルーシュも感じるところがあったのだろう。だが逃げ出すタイミングが遅かった。 ルルーシュが身を引くより先にスザクの左手がルルーシュの左手を取る。 そしてスザクの右手には・・・・・・ 「お客さんが多いからって逃げてちゃ駄目だよね。 だから僕は逃げない。」 寧ろ逃げて下さいとカレンは思った。 見たくない。見たくない。絶対に見たくない。 これから起こるだろう光景が容易に想像できてしまう自分の頭が憎い。 必死に左手を引き戻そうとしているルルーシュを哀れに思う。だが、今のカレンにはスザクの行動を止める明確な理由が無かった。 見ている間に掴まれた左手の薬指に銀色の光が宿る。 《ああ・・・。》 諦めにも似た溜息が店全体に響く。 しかしルルーシュは抵抗を続けていた。 「助けろカレン! 体力馬鹿に対抗できるのはお前しかいない!!!」 「もしかしてアタシに興味あるって言ったのはソレが理由。」 「他に何がある!!!」 「何だ・・・ドキドキして損した。」 「とにかく助けろ! スザクはバレンタインに此処で食事してからおかしくなっているんだ!!! おでんを食べながらチョコの代わりかい?とかほざいて、その日以来ずーっとこの状態なんだぞ!!?」 「ただ働き〜?」 「ウ○ンの力やっただろ!」 「やっすい報酬ね。幼馴染のサービスって言ってたくせに。」 しかしどうしたものか。 友人としてスザクを止めるべきだろうかと逡巡するカレンにスザクが笑顔で言った。 「カレンは祝福してくれるよねv」 《あ、コレ無理。》 昔から知っているからこそのカレンの自己防衛本能が叫ぶ。 今のスザクに逆らってはいけない。 ルルーシュにも防衛本能はあるだろうが、己の身に降りかかる災厄に黙っていられないプライドの方が勝っているのだろう。 けれどカレンは違う。 「お幸せに〜☆」 「裏切り者ぉ!」 「別に裏切ってないわよ。見守っているだけで。 ところで何で『ホワイトデーの今日』がプロポーズ決行の日になったわけ?」 振り仰いで尋ねるとスザクは左手の薬指に填められた指輪にキスをしている。 幸せ一杯と語る笑顔に呆れながらもカレンが言葉を待っているとスザクの瞳に剣呑な光が宿った。 「先手必勝って言うだろう? カレンが聞きたいならルルーシュの弱いところ此処で全部話そうか?」 《食われたのか・・・。多分、先月。》 その言葉の破壊力を理解したのはカレンだけではない。 カウンターにいた女性客が一斉に席を立った。 御代にしては多過ぎる紙幣が皿の横に添えられている。 ルルーシュが出て行こうとする彼女達を呼び止めようとしたが、返ってきたのは穏やかな微笑み。 「お祝いです。是非お納め下さい。」 「私達はルル様の幸せを願っております。」 「心の整理がついたらまた通っても良いですよね。」 いや、だからスザクを止めて。 そんなルルーシュの想いを誰も理解してはくれなかった。 カレンは分かっているが止めてはくれない。 彼女達が最後の砦だったのにと縋るような目で追っても誰も振り返ってはくれなかった。 ガララと音を立てて締められたドア。 残されたのは馴染みの客であるカレンと、天敵と化したスザクのみ。 「いや待て。ナナリーがこんな事を承知するはずが!」 「ナナリーの許可は取ってあるよ。」 既に先手は打たれていた。 最早自分には何も出来ない。悟ったカレンは貰ったウ○ンの力を手にドアに手を掛ける。 「ま、待てカレン!」 「お邪魔みたいだから私帰るわ。お代はツケといてね。」 《大丈夫。笑えてる。》 会心の笑みを浮かべドアを閉めカレンは歩き出す。 何やらお店の中から悲鳴が聞こえるが気にしてはいけない。 大丈夫だと応える様に明かりを消した店を背にカレンは家へと向かう。 「寂しいなぁ。ホワイトデーなのに。」 今頃は愛情(恐怖)を一心に受けているだろう幼馴染に想いを馳せるカレンはまた一歩、自分が成長するのを感じた。 ひゅるりら〜〜 春の夜風がまだ寒い日。 身体は温かくとも心は寒いルルーシュ・ランペルージ。 だが彼の恐怖はまだ終わっていない。 「ルルーシュv 結婚式は神前でいいかな?」 「逃げても良いか。」 「逃げられると思ってる?」 END おでん屋ルルやんを書いてみたかっただけです。スザルルテイストにしたのはその方が纏めやすかったので・・・。 本当はC.C.を交えたギャグにしたかったけれど収拾がつかなくなるので諦めました。 彼女が指名トップになれたのは絶対ルルーシュが絡んでるな〜と思っていたのですがそこまで話を広げると・・・嫉妬に駆られたスザクが魔王になるのが分かっていたので。(苦笑) このお話の後、更に客層が変わって腐女子が集まるおでん屋に・・・というネタも考えていたのですがこれまた却下。 久々に欲望を抑えてコンパクトに纏められたと思います☆ そんなこんなで勢いで書いたSS。楽しんで頂けたら幸いです。 2009.3.9 SOSOGU (←書き上げた日。(滝涙)) (初出 2009.3.17) 2009.4.19 ネタblogより転載 |