涙の後で

 ニーナ批判を多く含んだTURN9のネタバレSS(シリアス)です。
 心臓の強いお心の広い方のみお読み下さい。

 ・・・石、投げないで下さいね。(怯)

 友人と思っていたのは自分だけだったのか



 パーティー会場から戻りカレンは軽く溜息を吐いた。

《今更だ。》

 そう自分に言い聞かせるが心が挫けそうになる。
 先程のニーナの叫びが脳裏に蘇る。
 思い知らされる友と思っていた少女の想いに涙が溢れだす。
 けれど泣いている姿を見せる訳にはいかない。
 一人になれる場所へと移動を始めるカレンの背にくぐもった声が掛かる。

【誇りに思って良い。】
「・・・・・・今の貴方はゼロ? それとも・・・・・・。」
「ルルーシュだ。」

 カレンの問いに応えた声は今度ははっきりと耳に響いた。
 振り返らずともわかる。誰が来るともわからぬ通路でゼロの仮面を脱いだルルーシュが立っていた。
 正体が他の団員達に知られる危険を冒してまで彼が何を言いたいのか。カレンは興味があった。

「移動しましょう。」

 言って歩きだすカレンにルルーシュは黙ってついて来た。
 部屋に辿りつくまで二人は無言だった。
 暗い通路の中、コツコツと響く靴音が心を冴え渡らせる。
 少しずつ引いてゆく涙にカレンは自嘲した。
 今この瞬間に自分がニーナと決別したのだと。

 部屋に入り鍵を閉める。
 窓からはカーテン越しに月明かりが零れる部屋に他に光源は無い。
 明かりをつければ外から部屋が丸見えだ。
 仮面をつけていないルルーシュの姿を見られるわけにはいかないと明かりを点けずカレンは椅子に座りルルーシュと向き合った。
 暗い部屋の中、相手の顔は月明かりに照らされて見える。
 白く浮き上がった美しい顔は少し淋しげに微笑んでいる様に思えた。

「で、どういう風の吹きまわし?」
「少し君が誤解している様に見えたからな。」
「誤解・・・ね。別に今更でしょ。
 ブリタニア人は誰もがナンバーズを見下している。
 ニーナもブリタニア人だったってだけで。」
「だから君は誤解していると言ったんだ。」

 先程よりもルルーシュの声が硬い。
 感情を伴う声にカレンは口を噤んだ。
 聞かなくてはならない。何故かそんな気がした。

「確かにニーナはブリタニア人だ。ある意味模範的とも言える程にな。
 だが彼女のユーフェミアに関する認識は大きな間違いを含んでいる。」

 間違いという言葉にカレンは考えた。
 ニーナがあれ程にユーフェミアに入れ込む切っ掛けとなった事件がある。
 河口湖のホテルジャック事件だ。
 あの時の事はミレイとシャーリーからも教えられた。
 ニーナの言葉を切っ掛けに激高した日本解放戦線がニーナ達を連れ出そうとした時にユーフェミアが名乗りを上げて助けたと彼女達は語った。
 実際、その頃からニーナはユーフェミアに関する情報を集め始め慕っていた様に見えた。
 けれどニーナの間違いとは何なのか?

「ユーフェミアはニーナを救った。
 それは事実だが、名乗りを上げた瞬間に同時に人質全員を危険にさらした。」
「どういう意味?」
「あの時解放戦線が人質の一人をどうしたか覚えているか?」
「!?」

 ルルーシュに言われてカレンは思い出す。
 脅しが嘘ではないと、自分達が本気である事を示す為に彼らは人質の一人をホテルの屋上から突き落とした。
 結果、突き落とされた人質がどうなったかなど言うまでもない。

「そういう・・・ことか。」
「漸く気づいたか。人質を多く取ったのは外にいるコーネリアに対する脅しでもあったがまだ弱い。
 だがユーフェミアという最高の切り札を手にした瞬間に人質の価値は半減した。
 最早コーネリアに対する脅しに他の人質は殆ど意味をなさなくなった。コーネリアはテロに屈する事を良しとしない軍人だ。人質を無視して突入する事だって十分予想できた。
 そこに最愛の妹が自分達の手札にいるとわかったんだ。
 ユーフェミアに自分達に都合の良い条件を呑ませる様に交渉させた方がずっと効率が良い。
 なら人質はどうしたら有効に使えるか?
 慈愛の皇女とも呼ばれ実際に人質の少女の為に名乗りを上げたんだ。ならば人質はユーフェミアに対する脅しに使うのが一番効果的だ。
 特に彼女が救おうとした人質の高校生グループは真っ先に利用されただろうな。」
「その前に私達が行動を起こしたから最悪のケースには至らなかっただけ・・・。」
「恩義を感じる事は悪い事ではない。だがニーナは大切な事を見落とし過ぎている。」
「他にも何かあるの?」
「ニーナを助ける為に行動したのはユーフェミアだけだったか?」

 ルルーシュの問いにカレンは考える。

《この場合、彼が言及しているのは自分達ではないわね。
 そしてスザクでもない。私達は正体を隠して行動していたからニーナは勿論会長達にも知られる訳には・・・!?》

 考えの途中でカレンはひっかかりを感じた。
 あの場にいて、ニーナの為に真っ先に行動を起こすだろう人物。

「・・・ああ、そっか。」
「君も気づくのが遅いな。」
「会長とシャーリーが一緒だったのよね。
 しかもニーナを庇ってたから一緒に連れて行かれそうになったって聞いてたのに。」
「ユーフェミアがニーナ達を連れて行こうとする解放戦線を制止出来たのは皇女としての身分があったからだ。
 実行力を持っていたのがユーフェミアだっただけ。
 真っ先に身を危険に晒しながらも助けようとしたのは傍にいた二人だった。
 だがニーナには二人の行動など意味をなさないものだったわけだ。」
「酷い・・・・・・。」

 思わず言葉が零れた。
 ニーナの言葉にミレイはどれほど傷ついただろう。
 同じ行動をしたというのにニーナはユーフェミアだけを評価し二人の想いを踏み躙ったも同然だ。
 誰も気づかなかった。
 ニーナの歪んだ価値観に誰も。
 彼女自身が表に出さなかったせいもあるかもしれない。
 けれど・・・・・・。

「けど、私も同罪か。彼女がどう思っているのかわかっていなかったんだから。
 お互いに友達ごっこしていただけなのね。」
「そうかもしれないな。俺達が思っていた以上にニーナの価値観は歪んでしまっていた様だから。
 俺はニーナがあそこまで日本人に怯え、嫌う理由を知らない。
 会長は知っていた様だが、彼女なりにニーナの為に気を遣っていた事が逆に彼女のコンプレックスを刺激していたのかもしれない。
 何よりも彼女自身が俺達を見下していたようだから友情の築きようがなかったとも言える。」
「・・・見下す? ニーナが??
 それどういう意味よ。」

 逆ならわかる。
 ニーナが周囲の人たちに見下されていると思い込んでいたという話なら。
 だがその逆だと言うルルーシュにカレンは疑問を感じ問うとルルーシュはさみしげに語った。

「俺の見解だ。極論と言われることはわかっているが・・・何通りかの答えの一つさ。
 ニーナ自身が俺達を見下していたんじゃないかと俺は考えている。
 友達の危機を知らぬ振りをして見捨てる人間だと、人の不幸を心の中では笑っているような人間だと、ニーナは思っていたんじゃないのか?
 だから会長達が必死にかばってくれた事も無かった事に出来た。
 それは即ち、俺達が最低の人間だと見下していたと言う事だ。」
「本当にそう思っていたわけじゃ・・・。」
「ないと俺も思いたい。だが突き詰めて考えるとそういう結論も出てくるって話だ。
 友達だと思っていたのは俺達の方で、彼女はそう思っていなかった。一人きりだと思い込んでいた。
 だから分かり易く示してくれるユフィに縋った。スザクも・・・似ている。」

 カレンはあの日神根島での二人を見ている。
 彼らの憎しみは色んな何かを綯い交ぜにした自分が立ち入れない領域があった。
 ゼロとしてではなくルルーシュとして示した大切な何かをスザクには気づいてもらえなかった。
 今淋しそうに語るルルーシュはその一端を教えてくれているのではないか?
 そう思ったがカレンは何も言えなかった。
 もう道が決定的に分たれ、自分達はスザクと対立しているのだから。
 ニーナとも道を分たれた。
 彼女は友人として過ごしたカレンとの時間を否定した。
 イレブンだと自分を蔑んだ。

 涙が零れる。

 いつの間にか溢れた涙が頬を伝っていた。
 今頃ミレイも泣いているだろうか?

「会長の事だからシャーリー達には言わないさ。」
「そうね。」

 知ればシャーリーが泣く。
 リヴァルもショックを受けるだろう。
 友達だと思っていたのは私達だけだったと。
 だからカレンも言う気は無い。

「一つだけ良い事を教えてやろう。」
「何?」

 ルルーシュの前で泣いていることを思い出しカレンは指先で涙を拭いながら訊ねる。
 指についた塩辛い雫が口元を掠め涙の味が口に広がった。

「会長達はカレンを友達だと思っている。
 だから君は彼らとの友情を誇りに思っていい。」
「!?」
「スザクに皆で、カレンを助けられないかと言って困らせて。」

 一度は引きかけた涙が再び溢れだす。

「リヴァルは何処で調べたのか、司法取引出来ないかって言いだして。」

 次々と流れる涙は床に落ち黒い染みを作る。

「シャーリーも、会長も。君の事をずっと心配していた。」

 カレンは泣いた。
 こみ上げる嗚咽を抑えることも、溢れる涙を拭うのも忘れ、泣いていた。
 一頻り泣いて袖口で涙を拭きながら顔を上げると月明かりに照らされたルルーシュの頬に僅かに光る筋が見えた。

《貴方も泣いたの?》

 だけどカレンは尋ねない。
 プライドの高い彼は指摘されたら絶対に否定するとわかっているから。

「帰りたいわね。」

 ぽつりと呟くカレンの声にルルーシュは答えない。
 だけど答えは既に聞かされている。

 全てが終わったら

 ルルーシュは言った。
 ゼロとしてでなく、ルルーシュ・ランペルージとしてカレンに。

「だけどそれは涙の後でね。」
「ああ。」

 いつか来るかわからない未来に向かってカレンはまた立ち上がった。

《いつか私は帰る。アッシュフォード学園に。
 その日までにニーナをひっぱたいて叱って、お互いに間違いを正して。》

 カレンが復活したのを察したのか、ルルーシュから先程までの淋しそうな笑みは消えた。
 ゼロのマントを振り払い再び仮面をつける。
 戦いの再開。

【さて、これからは作戦会議だ。
 頼りにしているぞ零番隊隊長。】
「了解。」


 END


 まぁ・・・極論だってわかっているけど突き詰めて考えていくとこういう考え方もできるよねって思っちゃったのが運の尽きです。
 ニーナがいっぱいいっぱいだってわかってはいるのですが、彼女の行動を改めて考えると今まで彼女を支えてくれていた人たち全員を否定している様に思えました。
 友達が必死になって助けようとしてくれた事は彼女には意味が無かったのでしょうか?
 ニーナがゼロへの復讐心で一杯の時、格納庫に籠っている彼女を案じてミレイは校舎の外に出て呼びかけていた事もどうでもよかったのでしょうか?
 生徒会長である以上、他の生徒達への配慮もしなくてはならないミレイに出来る精一杯にニーナは気づいてはくれなかったように思えます。

 本当はこの話、チェスで屈辱を味わったルルーシュがニーナがシュナイゼルの顔に泥を塗った事で溜飲が下がったと語る場面を入れようと思ったのですが止めました。
 (ニーナはあの瞬間、今支えてくれている人たちの事も丸無視しましたよね。シュナイゼルの立場とかおめでたい席を穢すところだった事実にも気づいていないですよ。後でしっかりお叱りは頂くでしょうが、普通だったら即刻強制送還食らう行動です。)
 スザクにもモノ言いたい部分はありますしルルーシュにもモノ言いたい部分はあります。
 だけど今回のニーナの言動は修学旅行を蹴ってまで友情を優先した生徒会の三人の想いを考えると見過ごせないものだったので睡眠時間削って書いてしまいました。
 何か皆様も感じるところはあったと思います。
 それら全てがギアスの魅力だと思いますのでどうか・・・どうか!

 石を投げないで下さい〜〜〜っ!!!

 (初出 2008.6.10)
 2008.11.22 ネタblogより転載