仮面を被る者

 TURN23派生のアーニャの独白(捏造)です。
 シリアス一辺倒なのでギャグを期待されている方は読まない方がいいです。
 またナナリー批判も含まれるのでナナリー好きの方はご遠慮下さい。

 仮面を被っている

 自覚している者ほど他者の仮面には敏感なのかもしれない。
 アーニャはナイトメアに乗り込みながら思った。
 失われた記憶を取り戻すと約束したシュナイゼルの微笑をアーニャは信用などしていない。
 嘘だと気づきながらも協力するのは彼が覇権を手に入れれば手段を探すに都合が良いと思っただけだ。

「本気で騙されていると思っているの?」

 決戦を前にルルーシュがブリタニア皇帝として演説をしている。
 その言葉に引っかかるものを感じながらもアーニャが彼らと敵対すると決めたのは自分を保つためでもあった。
 過去がない自分はこの先も記録し続ける。
 積み重なった記録はやがて今のアーニャの過去になる。

《貴方達が過去になれば私は感情を取り戻せるかもしれない。》

 過去のない恐怖はアーニャから感情を奪った。
 時々意識を失っている事に気づき、その間にも自分が動いていると周りは言う。
 それがどれほど恐ろしいか。
 皆「辛いでしょう。」と言うが本当にアーニャの恐怖をわかってくれているわけではない。
 こんな気持ち自分にしかわからない。
 今の自分が本当にアーニャ・アールストレイムという人間なのか、確証を持てずただ生きる毎日が恐ろしくてたまらない。
 そんな日々に耐えるにはどうしたらいいか。

《恐怖を感じるのは感情があるから。》

 だからアーニャは感情を凍らせる事で自身の心を防衛しているのだ。
 ここ暫くは意識消失現象は起こっていない。
 記憶のない自分が存在しない事に気づいたアーニャは漸く前に進んで良いのだと思うようになった。
 今後、二度と意識消失する事はないのか、それとも一時的なものであり再発するのかわからない。
 それでもアーニャは未来を得る為に戦うしかない。
 ペンドラゴンを撃った事でアールストレイム家に連なる者は皆死んだだろう。
 過去を、家族を覚えていたらシュナイゼルに反旗を翻しただろうがアーニャの記憶の中に彼らはいない。
 何の感情も湧いてこない。
 悲しむべきなのか怒りを覚えるべきなのか、喜ぶべきなのかすらわからない。
 ただ、わかる事があった。

《暖かな気持ちも消えてしまった。》

 以前はナナリーと一緒にいると胸が暖かくなった。
 けれど今は無い。まるで中にあった何かがすっぽりと抜け落ちたかのように感じなくなっていた。
 同時に落胆する。今のナナリーに。

「帝都ペンドラゴン、世界最大の人口を誇る都市。
 彼の地に住む者全員が短時間で避難出来る場所などない。」

 シュナイゼルの嘘は少し考えれば直ぐに見破れる嘘だ。
 だがナナリーは信じた。
 大切な兄が嘘を吐いていた現実を目の前にしながら、シュナイゼルが嘘を吐くはずがないと思っているのだろうか?
 だとすれば彼女は総督として成長した様に見えて実は何も変わっていない事になる。
 仮に帝都に住まう者全員を避難させようとすればその動きは大きなものになる。
 ルルーシュ達に気づかれずに一千万人近い人間を移動させる事は不可能。聡いルルーシュが必ず動きに気づきフレイアによる攻撃を未然に防ぐ手を取ったはずだ。
 何故、行政特区日本で百万の日本人が移動する為にゼロが屁理屈とも言える揚げ足取りをしたのか。それだけ多くの人間が移動すれば時間がかかり世界中の目から逃れられない。安全に日本人を国外へ脱出させるにはブリタニアが公的に手出し出来ない様にする必要があった。
 けれどナナリーは特区失敗の教訓からわかる事実を見過ごした。

《それとも騙されたふりをしている?》

 だとしてもアーニャは今のナナリーを認めない。
 ナナリーは罪を背負いたいと言ってシュナイゼルからフレイヤ弾頭発射スイッチを受け取っていた。
 しかしアーニャには意味の無い行為に思えた。
 ルルーシュもスザクも、自分達がしている事を理解した上で行動している。覚悟を決めている。
 その彼らの罪を負うと言うのであれば、彼らの代わりに罪を贖う覚悟と実行力が必要だ。
 アーニャから見てナナリーに贖えるほど彼らの罪は軽くは無い。
 嘗てユーフェミア・リ・ブリタニアは皇族特権と引き換えにして特区日本を設立した。ゼロの罪を彼女の特権を皇帝に返上する事で贖いとしたのだ。
 今の彼らの業はそれでも贖い切れない程大きく深いもの。
 ナナリーはどうやって贖うつもりなのか。

「それとも、罪を負う本当の意味を知らない?」

 声に出すと本当にそうだと思える。
 スザクとは一年、ルルーシュとは本当に短い学園内だけでの付き合いだが世界制覇を目指す様な人達ではなかった。
 その彼らが世界の未来を賭けた戦いにおいて明らかに悪と見做される振る舞いをする理由もわからない。
 けれど彼らは真っ直ぐな目をしていた。
 アーニャは戦場で彼らと同じ目をした者達に何度も遭遇している。

《覚悟を決めている。》

 恐らくは罪の先にある何かを目指して彼らは戦っているのだ。
 その何かをアーニャは知ろうとは思わない。

「知れば私は私の為に戦えなくなる。」

 それは確信に近い予感。
 誰もが自分の為に戦っている。
 黒の騎士団も自分達の未来の為に。大切な人を守るのは自分自身の幸せに繋がるから。
 アーニャも自分の為に戦うと決めた。
 では彼らは何の為に?

《仮面で見えない。》

 ルルーシュは皇帝の、スザクは騎士の仮面を被っている。
 アーニャはアーニャ・アールストレイムの仮面を被る。
 互いに見せない自分の気持ち。

「それでいい。」

 人は常に矛盾を抱えている。
 誰かに知ってもらいたいと願いながら心を守る為と仮面を被り距離を置く。
 時には大切な人の為に、嘘を重ねて悲しい笑顔を作るのだ。

《私は否定しない。》

 ルルーシュの仮面を。

《私は認める。》

 スザクの仮面を。

《私は決意した。》

 自分も仮面を被る事を。

「戦いましょう。」

 どちらかが命尽きるまで。

《私が勝ったら・・・・・・。》

 携帯のデータを呼び出し学園での写真を見る。
 ガーデン作りで集まった生徒会メンバーが写っている。
 皆優しい笑顔を浮かべている。
 この世から失われた笑顔も携帯は記録していた。

「二人とも記録にしてあげる。」



 ―――そうして記憶(過去)になればいい。



 戦士の仮面を被り、少女は涙を流す。


 END


 色々と考えていて取り留めなく書き散らしたものをアーニャの独白っぽくまとめてみました。
 23話でナナリーは罪を負うだのルルーシュの罪を撃つのだと言っていますが、「ではどうやって贖うつもりかな?」と思わず冷静な突込みを入れてました。
 償い(贖い)はゴールがはっきりと見えるものではありません。法律による刑罰は社会的なもので被害者の心と折り合いをつけられるかというとそれはまた別問題になりますから。
 ルルーシュ達は戦いの先にある未来でもって贖いとしようとしているのかな?
 その辺は最後まで見ないとわかりませんが、シュナイゼルの嘘を本当に見破れていないのであればナナリーにルルーシュ達の罪を負う事は勿論贖う事は出来ないでしょう。

 23話でシュナイゼルと記憶を戻してもらう約束でアーニャは戦っているようですが、本気で信じているのか疑問なので今回アーニャで書いたのはその辺が理由です。
 ギャグではないのでオチはありませんが楽しんで頂けたら幸いです。


 (初出 2008.9.18)
 2009.3.8 ネタblogより転載