正しい猫の好かれ方
 


 元ネタはただの猫語りでしたので健全で書く予定でしたがスザルル風味でまとめてみました。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 Let's スクロール↓

 調べ物を頼むならニーナに。
 情報処理を得意とする彼女を頼みとするのは生徒会メンバーでは極当たり前の事だった。
 例に漏れずルルーシュもニーナに一つの調べ物を頼んでいた。
 珍しく他のメンバーは用事で席を外しており生徒会室にはニーナとルルーシュの二人だけ。
 その時を狙っていたかのようにニーナは鞄から書類を取り出しルルーシュに手渡す。

「はいこれ。頼まれてた資料。」
「助かった。最近あまり時間を割けなくなってたからな。」
「別に構わないけど。私も気になってたし。」

 ルルーシュが書類を読み始めるとニーナはすいと視線を移してキャットタワーの上で寝る伝説の王の名を持つ黒猫を見た。
 野良猫からアッシュフォード学園高等部生徒会メンバーとなったある意味幸運の黒猫アーサー。
 彼は視線を感じたのかちらりと薄目を開けてニーナを見やると直ぐに興味を失ったようにあくびをして再び眠りの海へと身を浸し始める。

「見事にスザクの行動は裏目に出ているな。」

 ルルーシュの言葉にニーナは深く頷く。
 彼女が頼まれたのは猫との付き合い方。
 猫に好かれるにはどうしたら良いのかだった。
 総合的に見てスザクの様に猫に好かれていない人間がアーサーのような元野良猫の信頼を勝ち取るのに一番無難と思われる方法はただ一つ。
 相手が慣れるまで構わない事。長期戦だがアーサーが警戒を解くまで待ち続けるしかない。
 けれど・・・。

「構うなと言っても聞かないだろう。アイツは。」

 この言葉にも大きく頷かざるを得ない。
 片想いを成就させようとスザクはねこじゃらしを片手に必死に必死に気を惹こうとしているが・・・・・・。

「猫は夜行性だと言うのに寝ている昼間に睡眠邪魔すれば嫌われもするだろう。」

 会えば挨拶、撫で様とするが・・・。

「自分のテリトリーに入ってきた気を許してはいない相手だぞ。
 向こうが気を許して近寄ってくるまでは構うなと何度も言っているのに。
 しかも、だ。餌をやったら直ぐに離れなければ咬まれるに決まっている。」
「アーサーは野良猫上がりだって言っているのにね。」
「何の話?」

 噂をすれば影。
 ドアに目を向ければそこにはたった今登校してきたと思われるスザクがいた。
 今日は仕事と聞いていたにも関わらず現れたスザクにルルーシュは問う。

「・・・スザク、お前軍の方は?」
「責任者が緊急会議で夕方はオフになった。」
「なら時間があるな。ここに座れ。」
「どうしたのさいきなり。」

 相変わらずの傍若無人ぶり。
 命令口調の相手に対しスザクは反感を抱くことなく素直にルルーシュの示した椅子に座る。
 但し、寝ていたアーサーを抱いて。

「お前はどうして寝ていたアーサーを抱いているんだ。」
「可愛いし少しでも僕に馴れてもらおうと思って。」
「あの・・・血、出てきてるけど。痛くないの?」
「うん、痛い。」

 寝ているところを起こされたアーサーはスザクの手に遠慮なく噛み付いている。
 かなり力が強いらしくうっすら血がにじみ出ているがそれでもスザクは笑顔を浮かべたまま放さない。
 マゾかと言いたくなる行動にルルーシュは溜息を吐いて言った。

「やせ我慢せずにアーサーを放せ。」
「大丈夫、怖くない怖くない。」
「日本の某有名アニメ映画の主人公を真似してもアーサーに好かれる事は無いと断言してやる。
 直ぐに放せ。」
「後ちょっと頑張ればアーサーだって!」
「その行動がどうみてもアーサーには迷惑以外の何ものでもないんだ。
 良いか、ニーナにも調べてもらった。お前の行動は全てアーサーの警戒心を煽るだけだ。」
「でも餌をやっている人には馴れるって言うし。僕だって頑張ればきっとアーサーも心を。」
「開くと思ったら大間違いだ。
 その餌のやり方からして間違えているのに好かれると思っているお前のその頭は飾りか?
 それとも味噌の代わりにキャットフードでも詰まっているのか!?」
「餌のやり方なんて同じだろ!?」
「餌をやったら直ぐに離れろ! 野良猫上がりのアーサーにとって餌を食べている時は無防備な時間なんだ。
 敵とみなしている人間が居れば警戒するし餌の近くにある手を獲物を横取りする敵だと思い込む。」
「僕はキャットフードを食べない!」
「アーサーに言ってわかるか。それともお前は猫語でも話せると言うのか!?」
「僕は話せないけど話せる子がいるから教わってくる!!」
「何処の電波系だソイツは! とにかくアーサーを放してやれ。」

 これ以上問答をする気はないと威圧するルルーシュにスザクは漸くアーサーを放した。
 解放されたアーサーはスタタっと小走りでニーナの足元まで来るとスザクを警戒するように尻を高く上げていつでも逃げ出せる体勢を取りながら威嚇する様に毛を逆立てる。
 誰がどう見ても嫌われているとわかるアーサーの様子にスザクはがっくりと肩を落とした。

「だから言っただろう。とにかく手の傷を消毒しないと。」
「これくらい平気だよ。」
「猫の噛み傷を甘く見るな。雑菌が入ると化膿するだろう。
 身体が資本の軍人なんだから絶対に放っておくな。今、薬箱を持って来る。」
「はいはい。」

 ルルーシュが出て行くとスザクは机に突っ伏してぼやき始めた。

「何でかなぁ。前例あるし抱き締めていれば上手くいくと思ったのに。」
「・・・嫌がるのに無理に抱っこすれば余計に嫌われると思うけど・・・・・・。」

 答えるニーナの腕にはすっぽりと収まるようにアーサーが大人しくしている。

「後は抱き方の問題かな? 重心を支えるのがポイント。
 尻尾の付け根の部分が下に来るように手で押さえて腕全体で身体を支えてあげれば、ほら大人しくなるよ。」
「講釈ありがとう。今度練習してみるよ。」
「アーサー相手は止めておいた方が良いんじゃ。」
「うんだから別の黒猫相手に。」
「?」

 笑顔で答えるスザクにニーナは首を傾げる。
 軍人で不規則な生活をしているスザクが猫を飼っているという話は聞いていないし、そもそも飼う余裕があるとは思えない。
 アーサー以外に黒猫が傍にいると言うのなら彼がアーサーに拘る理由もわからない。
 何処の黒猫かと訊こうとした時、ルルーシュが戻ってきた。
 片手に持っていた薬箱を机に置き、手馴れた様子で消毒液とティッシュを取り出しスザクに向き直る。

「スザク、手を出せ。」
「自分で出来るよ。」
「片手じゃやり辛いだろ。」

 ニーナが知る限りルルーシュが甲斐甲斐しく世話するのは妹のナナリーだけだったはず。
 一番の友人と思われていたリヴァル相手だったら「自分でやれ。」の一言で終わっていた軽傷なのだ。
 スザクが来てからルルーシュは変わったと改めて思いながらその横顔を見上げた。

 ぴしんっ!

 見たものの正体に何故か思い当たりニーナは硬直した。
 動かないニーナに気付きルルーシュは不思議そうに問いかける。

「どうかしたか?」
「ううん! ちょっと思い出し事しただけ!!」

 慌てたように答えるニーナに不審そうな顔を隠さないままルルーシュは手当てを続ける。
 その間にもニーナは俯いて一生懸命に自分に暗示を掛けた。

《虫刺されよ虫刺されよ絶対に虫刺されに決まってる。
 どれだけ下から見上げた時に垣間見えるギリギリの位置にあったからってあんな首筋の際どい部分に赤いものが見えたからってまさかそんな事があるわけないしきっと私が欲求不満で邪推しているだけに決まっているんだからアレは絶対に虫に刺された痕に決まって・・・?》

 強い視線を感じニーナは思考を止めて再び顔を上げた。
 視線の元はルルーシュに手当てしてもらっているスザク。
 無邪気に笑う名誉ブリタニア人にニーナは自分が見たものが想像通りだと確信した。

《確かに『黒』猫・・・・・・。》

 前例の『猫』が『誰』なのか。
 その方法が何だったのかわかってしまいニーナは深く同情した。
 態々『雌猫』が気付きやすい位置に印をつける強かさ。
 無害に見えてとんでもない相手に捕まった事に『黒猫』は気付いていない。

「どうしたニーナ。」
「・・・ちょっと、アーサーと散歩して来る。」

 そう答えてニーナは生徒会室を出た。
 他のメンバーも用事が終わっていないだろうから暫く中は二人きり。

《私がこの棟から出て行けば何が起こるのかしら。》

 腕の中の小さな黒猫は不思議そうにニーナを見上げる。
 垂らしたみつあみが気になるのか前足をひょいひょいと上げてじゃれ始めた。
 人懐っこいその様子にニーナは苦笑しながら問う。

「もしかしてアーサー、彼の本質見抜いてた?」

 うなぁ〜〜お

 肯定するかの様な猫の鳴き声に重なり、生徒会室から何かが啼く声が聞こえた気がした。


 END


 ・・・・・・えーと、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

 2007.2.9 SOSOGU

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