骨の髄まで染み付いたもの

 健全ギャグです。
 何だか楽しくて書いてしまいました。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア

 正直名前を捨てたいが自分のルーツ故に捨てきれない。
 それ故にランペルージと名乗る事を決めた時にも何処か捨てきれない何かを感じファーストネームはそのままにした。
 だが彼が捨て切れなかったものは名前だけではない。
 それは骨の髄まで染み付いた・・・・・・・・・。



 身を翻せばバサリと音を立てて漆黒のマントが綺麗に舞う。
 その先には同じく黒の仮面。
 反ブリタニア勢力として現在エリア11で最も勢力を有している黒の騎士団の総司令ゼロは慣れた仕草でマントを振り払う。

《それにしても・・・・・・。》

 と、玉城は思う。
 突如現れてレジスタンスとして活動していた自分達のグループを核に一気に一大勢力にまで組織を拡大させた正体不明の人物、ゼロ。
 元々好いてはいないが全く認めていないわけではない。
 胡散臭いのもいい加減慣れたし顔を明かせない理由も日本人では無い事を明らかにしている為、理由を察する事も出来た。
 明かせばあっという間に身元を知られてしまうのだろうと以前、他の幹部と話した。
 けれど・・・それをさておいても尚も疑問は残る。

「何であんなにマント慣れしてんだよアイツ。」
「それは誰に対しての疑問だ?」
「そんなのゼロに決まって・・・って!? お前何時の間に後ろにいたんだ。」
「私が黒の騎士団の本拠地に居てはおかしいのか。」
「そうじゃなくていきなり背後から声かけるな気色悪い!」

 何時トレーラーにやってきたと言うのか。
 突如現れたゼロに玉城は大慌てで距離を取る。
 更に後ろにはゼロの親衛隊と公式に認められたカレンの姿がある。
 これは不味いと逃げに転じようとするがゼロはそのまま玉城を逃がすつもりはないらしく尚も問い詰めてきた。

「また私について不満があるようだな。
 良いだろう。聞いてやるから今すぐに言うがいい。」

 ギロン!

 不満と言う言葉にカレンの目が光る。
 普段のカレンならば恐れる事は無いがゼロが関わっている時にカレンの怒りを買うことは避けたい。
 盲目的にゼロを崇拝する少女は尋常ならざる腕力が更にパワーアップするのだ。
 手加減という名のリミッターは無く、前の作戦でゼロに迫った敵を拳一つで壁際まで吹っ飛ばした前例を持つ。
 ちなみに壁際までの距離は優に5mはあった事を考えると頬を晴らしたその敵の口の中がどんな惨状になっていたのかは・・・・・・恐ろしくて確かめられなかった。

「どうした?」
「いやその・・・・・・。」
「不満があるなら今のうちに言っておけ。
 作戦中に引き摺られては私だけでなく他のメンバーにも迷惑だ。」

『吐け。』

 問うゼロの背後で音にせず口を動かすカレンの威圧に玉城は滝汗状態。
 聞いても聞かなくても鉄拳制裁は避けられない。
 ならば・・・と玉城は恐る恐る答えた。

「マントに随分慣れてるけどどういう育ちをしたら慣れるのかな〜とか思っただけ・・・なんだけど。」
「それは私のプライベートに関わり尚且つ忘れ去りたい過去に付随したものだ。」
「て事は?」
「ノーコメント。」

 きっぱりはっきり言い切るゼロに玉城は目を吊り上げ叫んだ。

「言えって言ったのはお前だろうが!
 結局答えられないなら初めから訊くな!」

 勢いついでにゼロの襟首を掴んだ瞬間、玉城の左腕に激痛が走る。
 メキメキと音を立てそうなくらいに骨が軋む痛みに腕を見るとそこには白く細い指が食い込んでいる。
 更に視線で指を辿っていくと細い手首に黒い制服に包まれた細い腕、最終的には親の仇でも見るような鋭い眼差しを向けるカレンの瞳に行き着く。

《うひぇえええっ!?》

 自分よりも小さな身体、細い腕に一体どれ程の力が秘められているのか。
 今まで力で負ける気が無かったが現時点で玉城の認識は覆される。

「カ・・・カレン・・・・・・。」
「玉城、アンタ今誰に手を出しているかわかってる?」

《そういやコイツ0番隊隊長だった!》

 別名ゼロの親衛隊。
 新組織編成発表時のカレンの嬉しそうな顔を見た事を思い出し玉城は更に焦りだす。
 この場にいるのは自分とカレン、そしてゼロの三人のみ。
 常識を持ち助けてくれそうな人間が通り掛かる可能性は0に近い。
 万事休すと玉城が次にくる衝撃に備えて目を瞑り歯を食いしばるが何時まで経ってもカレンから何のアクションも無い。
 恐る恐る目を開けるとカレンの腕を掴むゼロの姿があった。

「ゼロ・・・?」
「止めろ。答えられなかった私にも責はある。
 玉城、残念ながら先程の質問には答えられない・・・が、好きに想像して構わん。
 但し、情報を混乱させる事の無い様推測のみで風潮しないように。
 また作戦時には割り切って行動しろ。そう出来なければ組織全体が窮地に追いやられる事もあるからな。」
「あ、ああ。」

 そう言って身を翻したゼロは馴れた様子でマントをたなびかせ颯爽と去って行く。
 彼の後ろに付き従うように後を追うカレンがチッと舌打ちして睨んだ。

 はぁああああ・・・・・・・・

 ひとまず災難は去った。
 疑問は何一つ解決できてはいないけれど己の強運(ゼロの配慮とも言う)に感謝し再びぼやく。

「それにしても何でマント慣れしてんだよ。アイツは。」



 カツカツと足音を響かせてゼロは歩き続けた。
 辿り着いたのは総司令官の執務室。要はゼロの私室だ。
 この部屋へはC.C.以外ゼロの許しなしに入る事が出来ない。
 それはゼロの親衛隊隊長であるカレンも同じだ。
 少し寂しそうにドアの前で立ち止まるカレンにゼロは振り返って声を掛ける。

「ありがとうカレン。」
「え?」
「私のために怒ってくれただろう。」
「いえ、そんな・・・私はただ役目を全うしただけで。」
「次の作戦はまた紅蓮弐式に頼る事になる。しばらくは機体調整に集中してくれ。
 君には期待している。」
「はい!」

 期待という言葉にカレンはそれまでの寂しげな表情を一変させ笑顔全開になる。
 敬礼してドアの向こうに消える部下を見送りゼロ・・・・・・ルルーシュはソファに深く沈みこんだ。
 思い出すのは金色の柔らかな髪を後ろに流し微笑む異母兄。
 マスクを外しルルーシュは目を閉じてまだ平和だったアリエス宮に思いを馳せた。



 * * *



 数ある皇宮の中の外れにあったアリエス宮は庶民上がりの皇妃として有名なマリアンヌとその子ども達が住んでいた。
 身分社会のブリタニアにおいて貴族の中でも最下位である騎士候位のマリアンヌだがその美貌と能力の高さ故に皇位継承位の高い皇子や皇女が我も我もとやって来た。
 その事が他の皇妃達の反感を買っていたがまさか来るなと言える立場でもない。
 その日もルルーシュは笑顔でやってきたクロヴィスに捕まっていた。

「おやルルーシュ、気分でも悪いのかな?」
「別に、何でもありませんよ兄様。」

《また来たのかこの馬鹿兄が。
 何度負かしてもやってくるし母さんに纏わりつくし。》

 けれど仕方ないとルルーシュはメイドにチェスボードを持って来るように命じクロヴィスに向き直る。

「今日は黒と白どちらがお好みで?
 と言っても兄様はいつも白をお持ちになりますが。」
「ルルーシュ。今日はチェスをするために来たのではないよ。」
「それでは母と話をする為に?
 生憎と今日は父上の呼び出しで出掛けておりますが。」
「わかっているさ。知っていて来たのだから。
 今日はお前に大事な事を教えようと思ってきたのだよ。」
「その芝居がかったポーズ止めて下さい。
 というか貴方、皇子よりも役者が向いてるんじゃないですか。」
「ルルーシュ・・・皇族は帝国の象徴であり国の看板でもある。
 役者に遅れを取っては皇族とは言えないのだよ。」
「・・・・・・だからと言って帝王学や政治学の授業サボって遊びに来るのは止めて下さい。
 貴方の母君に怒られるのは僕なんですから。」
「母の言う事など気にしなく良い。」

《いや気にするって。》

 クロヴィスの母親にいやみを言われた事は・・・・数えるのも馬鹿らしい位に覚えがある。
 だが本来そんな母親の行動を諌めるべき人物がコレなのでルルーシュはいつも気疲れするばかりだ。

「さて本題に戻ろう。」
「戻らなくて良いですよ。どうせくだらない事でしょう。」
「くだらなくなど無いぞ! この先可愛い異母弟が公式の場で恥ずかしい思いをしなくて良い様にと忙しいスケジュールを調整して来たと言うのに冷たいなお前は。」
「忙しいなら来るな。」
「前振りが長くなったな。では特別授業を始めよう。」
「無視して始めるな。」
「それではルルーシュ質問だ。皇族の公式服に必ずと言って良いほど付いてくるものがあるがそれが何かわかるかな?」
「勝手に話を進めないで下さい。だから用事は何なんです!?」
「マントの格好良い着こなし方を教えてあげよう。」

 ・・・・・・・・・。

 瞬間、二人の間に沈黙が下りた。
 正確に言うならばクロヴィスはそれを沈黙と認識していない。
 弟が喜んでくれるだろうと嬉しそうに微笑むばかり。ルルーシュはと言うと思考がついて行かず真っ白になった頭の中で情報を整理し直していた。
 しかし出てきた言葉は聞き返しとも取れる一音のみ。

「は?」
「ルルーシュ、我々皇族は公式の場においてマントを着用する事が多い。
 そして先程も言った様に皇族は国の看板でもある。
 無様な姿を世界に晒すわけには行かないのだ。
 敬愛するマリアンヌ皇妃の長子であり私にとっても可愛い弟でもあるお前が馬鹿にされるような事があっては私は枕を涙の海に沈める事になる。
 というわけでお前の為にマリアンヌ様の為に何よりも私の為にお前にはマントの着こなし方をマスターしてもらう!」

 ずばぁっ!

 両手を広げ芝居がかった仕草で自分に陶酔するクロヴィス・ラ・ブリタニア。
 どこぞの舞台役者の様に見えるが彼は神聖ブリタニア帝国の第三皇子である。
 そして・・・認めたくは無いが彼は間違いなく第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの兄なのだ。
 そこまで認識した彼に言えるのは唯一つ。

「・・・っ余計なお世話だ馬鹿兄―――っ!!!」



 * * *



 そこまで思い出しルルーシュは気が遠くなるような気がした。

《ああそうだ。それからしつこくしつこくマントの着こなし方を教え込まれたんだった。》

 あの頃は他の皇妃達の視線は痛かったもののまだ情勢は落ち着いていた。
 クロヴィスやユーフェミア達が遊びに来ても眉を顰めるのみで表立って非難する者はいなかった。
 マリアンヌも母親が異なると言っても兄弟には違いないのだと微笑みと共に彼らを歓迎した。
 結果ルルーシュは母の立場もありクロヴィスの授業を甘んじて受けるしかなかったのだ。
 そして現在、呪いの様に身体が覚えているマントの扱い方。
 自分でも自覚はしているが無理に矯正しようとすると動きがぎこちなくなり尚且つ正義の味方を演じるゼロが無様な姿を晒す。
 悲しいかな、クロヴィスの授業は間違いなくゼロを形作るのに非常に役に立っていた。

《ああ忘れたい。》

 だけど忘れられない。
 ルルーシュはどっと疲れたように深い深い溜息を吐くのだった。



 情報を手に入れ式根島にて枢木スザクを捕獲する作戦を立てたルルーシュ・・・ゼロは黒の騎士団幹部を全員集め作戦内容の説明の為にミーティングルームへと急いでいた。
 カツカツといつもより早歩きなのは心が逸る為か。傍についているカレンも競歩に近いスピードで彼を追う。
 だがそれは某幹部・・・もとい玉城真一郎も同じらしく彼は先を歩くゼロを全速力で追って来た。
 そのままミーティングルームへ入っていくと思われた玉城だが入り口前で仁王立ちになりゼロの進路を阻む。
 なにやら勝ち誇った様に笑い仁王立ちになる玉城にゼロは怪訝そうな声で問いかけた。

「何だ? 話なら後にして欲しいのだが。」
「ゼロ! 俺は漸くわかったぜ、お前の正体が!!!」
「なっ!?」

 いつかはばれる事ではある。
 だが玉城の様な奴に先に知られる事は組織の混乱を招く。
 こういうものは時期を見計らって行うものなのだ。
 幸い多くの幹部はミーティングルームの中、扉の向こうは防音完備されているのでこちらの声は聞こえない。
 ならば此処で話を済ませる方が良い。
 落ち着きを取り戻しゼロは後ろで構えるカレンを右手で制し玉城の言葉を促す。

「良いだろう。言ってみろ。」
「ふっふっふ・・・・・・俺って冴えてるぜ。
 お前の正体に気づけばなんて事はない。そしてお前がブリタニアを憎む理由もそこから察する事が出来る。」

 核心を突いてくる言葉にゼロは目を細める。

「お前、ブリタニアの特撮専門の役者だろ!
 しかも売れないが前に付く!!!」


 これ以上ないくらい無礼だろうと思われる事は何だろう。
 とりあえず人を真正面から指差す事は無礼に当たる。
 ゼロは自分を目一杯指差して叫ぶ玉城をしばし眺め・・・漸く声を搾り出す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「お前が異様にマント慣れしているっていうのがポイント何だよな〜。
 マントに慣れてる上にお前って身振り手振りが大きくていかにも役者って感じじゃん。
 だけど役者としては売れなくて特撮専門でどどんと役者として成り上がろうとしたもののウけなくて大失敗。
 結果お前は自分を認めなかったブリタニアを憎んでゼロとして戦う様になった。
 う〜ん、俺って天才☆」

 一人で勝手に納得して頷くのは黒の騎士団の一応幹部玉城真一郎氏。
 だがその上官は目の前のゼロである。

《使えない奴。》

 はっきりと判断した総司令官の命令は簡潔だった。

「カレン。このアホをたたんでしまっておけ。」
「了解。」

 理由も聞かずにあっさり承知して進み出るカレンに玉城は焦り始めるが既にカレンの左手は玉城の肩を掴んでいる。

「おい待てよ! 正体知られたからってカレンに仕返しさせるなんて卑怯だぞ!!」
「誰が売れない役者だ。マントを着るのは特撮系の役者だけか超ど級の阿呆が。
 ブリタニアの貴族や軍人だって着てるだろう。」

《あ、最大のヒント言ってしまった気がする。》

 そんな事を思うが言ってしまったものは仕方がない。
 視線を逸らして玉城の存在を忘れ去ろうとするゼロとはまた対照的に玉城の存在を抹消する勢いで怒りの炎を瞳に宿すカレンは玉城を視界に収める。

「玉城・・・・・・何が天才よ。誰が聞いてもこじつけじゃない!
 ゼロを、そしてゼロの名を貶める者は誰だろうと許さない〜〜〜っ!!!」

 うぎゃぁああああ!

 悲鳴を最後に、その日一日玉城の姿を見た者はいない。



「では作戦内容を説明する。」

 ばさぁ!

 ミーティング開始の言葉と同時にたなびくマント、伸ばされた右腕。
 芝居がかっているとゼロ・・・ルルーシュも自覚している。

《だが・・・仕方ないじゃないか。》

 皇族として骨の髄まで染み付いてるのだから。


 END


 マントネタ。
 というか・・・何故だ? ギャグばかり浮かぶのは。
 好みのカップリングはスザルルのはずなのに!
 その内パラレル系書いてみようか・・・。でも皇族ほのぼのも書きたいなv

 2007.3.4 SOSOGU

(追記)
 サイト縮小及びオフ発行に伴い以降の話は削除しました。
 けれど2話目のコーネリアお姉様編は期間限定配布していたので探せば掲載して下さっているサイトさんがいるかもしれません。(笑)

 2008.4.12 SOSOGU