余計な一言 後編 |
アッシュフォード学園クラブハウス内の台所ではてんやわんやの大騒ぎ。 皆テーブルの周囲でどたばたと走りまわっている。 「ルルちゃーん。お茶の準備できたわよんv」 「フルーツ全部切り終わったぜ! スザクは・・・すげーな高速切り。 うーわーチョコが見事に・・・。」 「これなら直ぐに溶けると思うの。一部は既にセットしてあるからもう溶かし始める? 生クリームを温める時間も必要だし。」 「招待客がまだじゃない。」 「急な仕事が入って遅れるって言ってました。 時間になっても来なかったら先に始めてて欲しいそうです。」 スザクの言葉にリヴァルが立ち止まる。 その口元が微妙に引き攣っているが皆気にしない。 「客って・・・会長の?」 「ミレイちゃんの婚約者。」 「の゙〜お゙〜! それをはっきり言うなぁっ! 大体何で呼ぶんだよスザク!!」 「職場の同僚全員の命と僕の今日のお休みが掛かってたから。」 「でもロイドさんってこういうお祭りに顔出しているより研究している方が好きってタイプだと思ったけど。」 「その通りです。研究対象には猫なで声を出すけれどそれ以外にはぞんざいな人です。」 「お前、仮にも上司だろ?」 「それだけ言えてパーティーに誘えるなら人間関係が良好という証だ。 少し安心したよ。」 準備を進めながらルルーシュが微笑む。 少し淋しそうにも見えるが安堵している様子にスザクが嬉しそうに微笑みながら訊ねた。 「心配してくれたの?」 「当たり前じゃないですかスザクさん。」 背後で声が響く。振り返れば車椅子で飲み物を運んできたナナリーがいた。 膝に載せたお盆を差し出しながらナナリーは言った。 「悲しいことですけど日本人というだけで見下す方が多いですし・・・一度あんな事があったのにスザクさんはまた軍に戻られたので不安だったんですよ? お兄様だってずっと気に掛けてらして・・・。」 「ナナリー!」 「本当のことでしょう。お兄様。」 めっと嗜めるナナリーにルルーシュは言葉を詰まらせる。 恥ずかしそうに少しだけ頬を染めてそっぽを向くルルーシュが可愛らしくスザクは更に笑みを深めた。 「でも、良かったです。 もしかして以前スザクさんを迎えに来られた女の人も来るんですか?」 「セシルさんって言うんだ。 ロイドさんの補佐をしてるんだけど彼女がいないとロイドさんの暴走止められないんだ。」 「暴走?」 「研究に夢中になって色々とね・・・。」 「要は変人か。」 「あはは否定出来ないな〜。」 「ちょーっとルルちゃん、スザク。 一応私の婚約者なんだけど不安になるような事言わないでくれる?」 「はいはい。 ところで会長、今朝各クラスにチョコレートのヤマが置いてありましたがアレは何ですか?」 「それ、私も気になってた。」 ルルーシュの言葉にシャーリーが賛同する様に手を挙げる。 今朝教室に入ると大袋が教壇に置かれていたのだ。 袋にはメッセージカードが貼られており、中にはサイコロ大のチョコレートがビニールの包み紙に包まれてぎっしり詰まっていた。 皆メッセージカードに書かれていた通り、チョコレートを一つだけ取って行ったが意味がわからないらしく今朝の噂の大部分はチョコレートの話題だった。 「うむ! 自腹でのパーティーとはいえ学園の生徒を置き去りっていうのは私の信条が許さないのよね。 チープだけど私から皆へのバレンタインのプレゼントよ。」 「だから一人一個ですか。でも16時まで食べちゃダメっていうのは・・・。」 「授業中に食べる愚か者への注意よ。 生徒会長命令で言っても聞かなかった奴の末路までは私が関知するべきことではない!」 「一応先生達にも気を遣ってるんですね・・・。」 「だったら私達も15時30分じゃなくて16時に始めた方がいいんじゃ。」 「いつも皆の為に骨を折っている生徒会役員だからトクベツ☆ さ、始めるわよ〜。」 「先に始めてて下さい。咲世子さんが餅を揚げててくれてるんで取りに行ってきます。」 「ルルーシュ僕も手伝うよ。」 ルルーシュ一人では大変だろうとスザクも後をついて行く。台所に行くと香ばしい匂いが漂っていた。 ぱちぱちと油が爆ぜる音とカウンターに載せられた黄金色にスザクは目を見開く。 「ルルーシュこれ・・・。」 「おかきだ。餅を適当な大きさに切って天日干しにすること5日から7日程。カラカラに乾いた餅を揚げるとこうなる。 通常ならこれに塩をふって食べるんだろうがチョコでもいけるはずだ。 それに塩や柚子胡椒を用意して行けばチョコに飽きた時の口直しにもなるだろう?」 「抜け目ないね。でも嬉しいよ。 租界では中々和菓子って食べられないし。どちらかというとブリタニアの食べ物の方が多いからね。」 皿の上に山積みになったおかきの香りが懐かしい。 スザクが皿を持ったのでルルーシュは用意された塩と柚子胡椒の小皿を持ち咲世子に声をかけた。 「咲世子さん、そろそろパーティーが始まりますが終わりそうですか?」 「これで最後です。油の後始末があるので先に始めて下さい。 直ぐに参ります。」 いつもの笑顔で応じる咲世子だが彼女も心なしか嬉しそうに見える。 《もしかして、咲世子さんにも気遣って?》 和食が食べれないわけではないが機会は格段に減った。 ゲットーの様に物資が不足してはいないが租界はブリタニア人の生活様式に合わせた場所だ。 その租界に住む名誉ブリタニア人ならば猶更懐かしく思うだろう。 咲世子にも早く食べさせてあげたいと、スザクは手伝いを申し出る。 「良ければ手伝いますよ。」 「出来立てのほうが美味しいですから早く皆さんに食べさせてあげて下さい。 私は大丈夫ですから。」 「わかりました。ではお言葉に甘えて。 行くぞスザク。」 「あ、待ってよルルーシュ。」 咲世子の言う通り出来たてが一番おいしい。 彼女も自分に気を遣ってくれたのかもしれないと思うと心がぽかぽかする。 少し早い春の暖かさを胸に感じ、スザクはルルーシュを追った。 生徒会室に入ると始めてて良いと言っていたのに皆待っている。 溶けたチョコレートの鍋を囲み笑顔で二人を出迎えた。 「お、来た来た!」 「それじゃ全員そろって時間になった事だし始めましょうか!」 「皆の衆、グラスを持てぃ!」 ミレイの号令に全員がグラスを掴む。 それを確認するとアイスティーの入ったグラスを高々と掲げミレイは宣言した。 「それではアッシュフォード学園高等部生徒会メンバーによるチョコ祭りを開催します!」 「「「かんぱーい!」」」 掲げられたグラスは束の間の平和を祝う様に打ち鳴らされ、直ぐに歓談が始まった。 話題の中心はやはり見慣れないおかき。 元が餅だと聞いて皆物珍しそうにチョコを絡める。 「これお米? ミルク粥とかは聞いたことあるけど・・・。」 「結構合うもんだな。ルルーシュこっちの塩は甘さ引き立て用?」 「口直し用だ。おかきはしょっぱい味付けが基本だからな。 好みで掛けて食べれば良い。」 「確かにお茶だけじゃこの甘さはきついわよね。」 「ってカレン! チョコ食べるより先に塩味おかきばっか食べないでよ!」 シャーリーの声にばつが悪そうな顔でカレンが手を止める。 皆知らないがカレンは日本とブリタニアのハーフ。しかも7年前まで日本人として過ごしてきた彼女にとっては懐かしい味。無意識のうちに手が伸びおかきの山を大分崩してしまった。 確かにチョコ祭りなのだから別の味ばかり求めた事は悪いと思う。 それでも未練があるのか目はやはりおかきに向かう。 シュタットフェルトの令嬢ならば手に入らない訳ではないが、ブリタニアの力に縋るようで自分で自分にムカついてしまうしメイド達も日本食が食べたいと言うと侮蔑の視線を向けて来る。 そんな彼らに対抗しようと意地を張っていたことが今更ながら悔やまれた。 「そんなに気に入って貰えたのなら作った甲斐があったというものじゃないか。 おかきはこれしかないが餅はまだある。 数日時間が必要だが良ければまた作るぞ。」 「お餅まだあるの!?」 「セシルさんが本当に大量に持ってきてくれたからね。」 「じゃ、じゃあ! 磯辺巻きとかお雑煮とかおしることか・・・。」 「カーレーンー。祭りの趣旨忘れてない?」 あうぅ・・・・・・。 今度はミレイからも釘を刺されてしまいカレンは悲しそうに呻いた。 仕方ないが今は諦めてもらうしかない。後でこっそり差し入れるかとルルーシュが考えているとニーナが何かに気づいた様に視線を上にあげた。 不思議に思い視線を追うと時計がある。 開始から既に20分経過。だが祭りはまだ始まったばかりと言うべき時間だ。 ニーナが慌てている理由がわからない。 「ミレイちゃん! 時間!!」 「いっけない忘れてたっ! ちょっと用事があるから少し抜けるね。 直ぐに戻るから続けててね!!!」 二人が大慌てで飛び出していく姿にルルーシュはリヴァルに問いかけた。 「何があるんだ?」 「知らね。俺も今日用事あるなんて聞いてない。」 「いつも会長に張り付いているお前がか?」 「会長にいつもついてるのはニーナだろ。」 「ニーナは知ってたようだけどね。」 「どうせまた書類提出忘れてたとか理事長からの呼び出しとかその辺りじゃないの?」 シャーリーの言葉に全員が納得する。 ミレイはまるで狙っていたかのように大事な用事をギリギリに思い出す事が多い。 今回は巻き込まれなかったので良しとしようと皆頷くと外で人がざわめく声が聞こえてきた。 「何だ? 外が騒がしくねぇ?」 「誰かが来たと言っている様に聞こえるな。 招待客が来たんじゃないか?」 「ロイドさんとセシルさんならそんな騒がれる事無いと思うんだけど・・・。」 ロイドは伯爵という爵位を持っているが別に有名なわけではない。変人として名を馳せているのも軍内にだけだ。 補佐をしているセシルも同じでロイドと付き合える数少ない常識人(料理の事は皆思い出したくないと口を噤んでいるので知られていない。)と注目されているが、アッシュフォード学園の生徒達が知る筈の無い事である。 けれど身を隠している皇族二人が外の騒ぎに巻き込まれてはいけないと、スザクが様子を確認する為に立ち上がると同時にキィンと耳を突き刺す電子音が聞こえた。 【アッシュフォード学園生徒会長、ミレイ・アッシュフォードですv】 スピーカーから響く声に全員が身を強張らせる。 全員が末尾についたハートマークに嫌な予感を感じた。 今日はチョコ祭り。予算の関係上、内輪だけのパーティーだけでと納得させたがミレイが本当の意味で納得したとは思っていない。 しかし現実問題無理なのだからと考え油断していた。 「会長・・・。」 「ま・・・まさか・・・・・・。」 【まずは、皆さん。今朝配布したチョコレートを確認して下さい。 これより始まる祭りは約束通り食べていない生徒のみに参加権が与えられます。 うっかり食べちゃったイケナイ子は残念! 開始前から脱落です☆】 「お・・・おい・・・今朝のチョコレートって・・・・・・。」 「私は貰ってない! だってチョコパーティーがあるのわかってたし。」 「あたしもよ!」 「俺も貰わなかった。」 リヴァルの言葉にカレン、シャーリー、ルルーシュが次々と蒼白の顔で答える。 訊ねたリヴァルも持っていないのだろう。 けれどスザクだけは胸ポケットに入れたチョコの感触を確認した。 確かにある。この中で参加権を持つのは自分だけと知り、唾を飲み込む。 ゲームの内容によってはこの中で救えるのは一人だけ。 祈るような気持ちで続く言葉を待つ。 【では祭りの詳細を説明します! 一回しか言わないから聞き逃しちゃダメよ〜v 本日2月14日はバレンタインデー。そしてここはエリア11。 よって日本の風習に倣って今回の祭りはチョコ祭りvv 愛する人への告白に使われたというチョコレートを好きな人にあげるのもよし、自分で食べちゃうのもよし、自由にお使い下さい。 しかしそれだけでは面白くない!!!】 「「「「「面白くしなくていいです!」」」」」 思わずスピーカーに向かって叫ぶがそれでミレイを止められるわけがない。 シャーリーが部屋から飛び出して止めに行こうとするが間に合わないとルルーシュが引き止める。 下手に動けばゲームが始まって逃げる時間が無くなってしまう。 全員が警戒する中、放送は続けられた。 【なのでおまけゲームを考えました。 今回のお祭りがしょぼくなった原因。 財布の口をかた〜く絞ってくれた優秀な生徒会副会長には責任を取って貰います☆】 「元々は会長の責任でしょう!」 思わず叫び返すがルルーシュの声はむなしく空気に溶けてゆく。 副会長の怒りの声はとっくに予想済みなのか、余裕たっぷりのミレイの声が更なる絶望を齎す。 【文句は聞かなくってよ〜。 開始は16時丁度から! アッシュフォード学園生徒会長ルルーシュ・ランペルージ君に最初にチョコを食べさせた人に贈られるのはルルーシュ絶対命令権☆ 普通にしてても綺麗だけどドレスを着ると傾国の美貌。好きに飾り立てても良いし一日デートしても良し♪ 流石に人権無視は出来ないからデートはしてもキスまでで勘弁してねv】 「とっくに無視しているでしょうが! 人を勝手に賞品にするなっ!!!」 「落ち着いてルルーシュ! 僕がチョコ持ってる!!」 スザクの言葉に全員が手を打ち合わせた。 とにかくルルーシュに無茶な命令を出さない人間から貰えば全てが解決する。 希望の光を見出しルルーシュがスザクに抱きついて喜んだ・・・が、アッシュフォード家の総領姫は甘くは無かった。 【一番有利なのは同じ生徒会室にいる役員達ですが、チョコを持っていても貴方達に参加権は与えられません。 準役員のナナリーも今回は参加できないのでルルーシュファンの人にはビッグな大チャンス! しかも誰かがチョコを食べさせるまで終らないときたvvv】 「「「逃げ道塞がれたっ!」」」 【それでは定刻になりました。はりきって行ってみましょう☆ ゲームスタート!!!】 ちーん 「ど、どーする!?」 「どうすると言っても逃げるしかないだろう!?」 「そうだセシルさん! 僕がセシルさんにチョコを渡すからルルーシュは彼女から受け取れば良い!!」 「お前の上官? 軍人に命令されろと言うのかお前は!」 「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ!? 大丈夫。事情を話せばわかってくれる人だから。僕を信じて!」 「とは言え、今は一体どこにいるんだ?」 「こっちに向かっているはずだから迎えに行こう。」 「ね、ねぇ・・・・・・さっきより声が騒がしくなってるわよ。」 「ヤバイぜルルーシュ! 皆向かって来てるんだ!!」 「でも、いつもの皆の声と違うような気がしない?」 カレンの言葉に耳を澄ますと確かにいつものお祭りによる歓声とは違い戸惑いの声が聞こえる。 窓から外を見ると人影は無い。 こちらに向かってくる生徒の一人や二人はとっくに見えてもおかしくないというのに・・・。 「静かじゃないのに嵐の前の静けさを感じる。」 「同感だな。しかし一体何なんだ?」 こんこん☆ ノックされた扉に全員の視線が集まる。 ドアを開けるべきか否か。 生徒達がなだれ込む危険性を思えば開けられない。 ルルーシュ達が迷っていると再びドアがノックされ声が響いた。 「スザク君? 私よ。」 「セシルさん!」 スザクの言葉に皆、肩の力を抜く。 先程の話に出てきた女性で招待客。 これで自分の身は安全だとルルーシュが安堵の溜息を吐いてドアを開ける様に促すとスザクも嬉しそうにドアに手をかけ全開にした。 びきびきびきぃいいっ!!! ドアの向こうにいる人物の姿を見止め誰もが硬直する。 白で統一された細かい意匠の服。ドレスよりは動きやすそうだが運動には向かない煌びやかな服に包まれ立っていたのは・・・・・・。 「・・・シュナイゼル殿下。何故こちらに。」 呆然とした顔で間抜けに尋ねるスザクに対し、金色の髪を少し揺らして愉快そうに笑う第二皇子は優しく答えた。 「ロイドが君の学校で行われるバーティーに招待されていると聞いてね。」 「面白そうだからってついて来るって言って聞かなかったんだよね〜。」 あははとロイドが笑いながら補足説明し、その後ろではセシルがこめかみを押さえて溜息を吐いている。 全くの予想外。先程からのざわめきの正体もシュナイゼルが来ていたが為のものなのだろう。 そして生徒達がやって来ないのも理解できる。シュナイゼルの護衛が周囲を固めている上に不敬罪を恐れて近寄れないのだ。 《マ・ズ・イ。》 ルルーシュは焦っていた。 8年経っているとは言え、シュナイゼルとは面識がある。 尚且つこの場にはナナリーがいるのだ。 《バレる可能性が高い!》 とにかくこの場から逃げ出そうとナナリーの元へ駆け寄ろうとルルーシュが動こうとすると右腕を掴む手がある。 動きを阻まれてルルーシュが原因の手を辿ると真っ白な服と金色の髪が視界に飛び込んできた。 瞬間的に上がる筈だった悲鳴を必死に飲み込み愛想笑いを浮かべ、ルルーシュは何のご用でしょうと首を傾げた。 が。 「やぁルルーシュ。8年ぶりだね。」 「な、どなたと間違われていらっしゃるのでしょうか? 私は殿下とは・・・。」 「8年ぶりじゃなかったね。考えてみれば神根島でも会っていたんだから。」 ぐっさり シュナイゼルの言わんとしている事がわかってしまう自分が呪わしく思える。 しかもスザクとカレンの視線がちくちくと突き刺さり「まさかと思うが。」と問いかけているのがわかってしまった。 《どうやってこの場を切り抜ける!?》 「おや顔色が悪いねルルーシュ。 先ほど道すがらチョコレートをもらってね。 面白いゲームがあるそうだけど・・・・・・君にチョコレートを食べさせたら何でも命令出来るんだって?」 きらきらと皇族オーラを背負った第二皇子が覆いかぶさって来る。 非力な第十一皇子はしばしの沈黙の後、気絶した。 * * * 学園内は平和である。 実に平和である。 しかし同時に騒動が起こっていた。 ブリタニア皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアの生存の報は一気にエリア11に駆け巡った。 青い空を見上げ騎士枢木スザクは深く溜息を吐いた。 二人の皇族復帰の切っ掛けが何であったかを知っているのはその場にいた生徒会メンバーと特派の二人くらいである。 下手に口にすれば不敬罪だと釘を刺されていたので口の軽いリヴァルでも誰かに話す事は無いだろう。 唯一気になるのが騎士団のカレンだが、ルルーシュに涙ながらに縋りつかれて戸惑いながらも頷いていた様子からして多分同情したのだろう。彼女の方からも情報が漏れるとは考え難い。 だがしかし・・・・・・。 「ルルーシュ。ブリタニア皇族ってスキンシップ激しいんだね。 チョコレートを口うつしで食べさせる兄弟って初めて見たよ。」 「誤解するな! アイツが変態なだけであって俺はまともだ!! 大体俺がナナリーに口うつしで食べさせたことなんか無かっただろうが!!!」 呟くスザクの傍らで新しく作られた皇族服を身にまとったルルーシュが喚く。 その顔には思い出させるなとも書いてあり、スザクは親友に生温い視線を送り再び空を見上げた。 実力行使でルルーシュにチョコを食べさせた後、ゲームの絶対命令権を手に入れたシュナイゼルが下した命令はただ一つ。 『私の仕事を手伝いなさい。』 すなわち、皇族復帰しろと言う訳だ。 問答無用で学園から政庁に引きずられていったルルーシュだが、ナナリーについては今まで通り生活できるようにとのシュナイゼルの意向でその場に残された。 更にゼロが食中毒で死亡したと何とも間抜けな情報が流れて黒の騎士団は地下に潜ったのでコーネリアは拍子抜けしており、ユーフェミアは「予定がちょっと狂っちゃいましたね。」と言いながらも特区日本の設立の為に頑張っているのだからスザクとしては嬉しい限りである。 「カレンめ・・・もう少しマシな死因は考えられなかったのか。」 「どうかした? ルルーシュ。」 「いや何でも。」 「それにしてもどうしてこんな事になったのかな。」 人間誰しも後悔はある。 何故あんな話を始めてしまったのか。 何故あの時に言ってしまったのか。 一度出た言葉は取り消せない。 その事実を今、スザクは噛み締めていた。 《本当ならば彼らには静かな生活をと願っていたのに・・・・・・。》 流れに乗ったら中々その流れからは抜け出せない。 これからルルーシュは大嫌いな皇帝に会わなくてはならない。 その切っ掛けを作ったのは・・・・・・。 「余計な一言とは言うがな、何でここまで話がでかくなったんだ。」 「やっぱ僕なんだ。」 口は災いの元 その意味を二人が深く深く噛み締めるきっかけになったある年のバレンタインデー。 END・・・・・・・・・・・・・? 「って・・・・・・私との契約はどうするつもりだルルーシュ!」 魔女の叫びも空に溶けた。 今度こそEND! 後書き と言う訳で遅れまくっておりましたバレンタインデー話です。 話の構想の関係上ダラダラになってしまいました。 次からはもっと短くコンパクトでテンポよくを目指したいと思います。(涙) 2008.2.25 SOSOGU |