サンジですよ! プリンネタの健全ギャグです。 20話のラクシャータさんの言葉がきっかけですがネタバレではありません。 |
特派のメンバーは基本的に技術屋が集まっているせいか、仕事さえ出来れば特に人種に拘らない人間が多い。 その最たる人物は責任者であるロイド・アスプルンドと彼の補佐をしているセシル・クルーミーの二人。 最初のうちはナンバーズをテストパイロット(ロイド曰くデヴァイサー)にするとの話があった時は難色を示した者も少なくは無かった。 だが礼儀正しく真面目で気さくな性格のスザクを知り、今は仲間と受け入れている。 他の部署ではありえない一体感はこの7年間、スザクには縁のなかったものであり今では手放したくない心地良いものである。 だからこそ、この場所を守る為にも彼は戦う。 戦場でも・・・・・・研究所でも。 「三時ですし区切りも良いから休憩にしましょう。」 笑顔と共に紅茶を運んで来るのは特派の花、セシルである。 普通ならば和む場面。だがロイドとスザクは一瞬緊張した様子で彼女を見やる。 「お盆の上には・・・紅茶だけですね。」 「いやいや油断は禁物。 単に持ち運べなくて置いてきたかもしれないじゃないか。」 小声で話す二人だがセシルは全く気にしておらず手馴れた様子で茶の用意をする。 カチャカチャと音を立てて並べられるティーカップ。 だが見慣れたシュガーポットが無い事に気付き、スザクは不思議そうに訊いた。 「砂糖は・・・どうしたんですか?」 「うん、今日はデザートがあるから置いてきたの。 甘いものと甘いものが重なると折角の味が分からなくなっちゃうし。」 《《デザート!》》 スザクとロイドは互いに手を取り合い恐怖した。 このパターンは間違いなくセシルの手作り料理が出てくる前兆。 これまで二人が犠牲になった料理はどれもこれもセシルの創作料理なのだ。 また二人だけでなく他のメンバーも犠牲になった事もあるので周りのメンバーも顔色が悪い。 《《《一体何が出てくるんだ!?》》》 紅茶を一通り置いて「他の皆は手が空いたら自分で入れてね。」とすまなそうに微笑むその姿は天使のようだがその背中についている羽は真っ黒だ。 セシルが齎す恐怖に怯えるメンバー達は「あ、整備もうちょっと頑張らないと。」「休憩なしで頑張りますっ!」と散って行く。 毎回逃げられずに犠牲になるのは必ずロイドとスザクと決まっており・・・二人は覚悟を決めて席に着いた。 「今日はプリンを用意したの。ロイドさん好きでしょう。 ただのプリンじゃつまらないしスザク君に懐かしんでもらう為にカラメルソースじゃなくてゲットーで仕入れて来た和物のソースを色々用意してみました〜☆」 《《普通で良いです!》》 「他の皆にも沢山用意しておいたから食べてねv」 《《《俺達も犠牲者決定ですか!》》》 「さあどうぞ。召し上がれ☆」 出されたプリンに掛かっているのはカラメルソースに似た色合い。 だがその正体は何なのかとスザクはスプーンを持つ手を震わせる。 出来るなら食べたくない。けれど食べなければセシルが悲しむ。 《この幸せな空間を守る為には僕の犠牲が必要なんだ!》 意を決してスザクは目を瞑って掬い取ったプリンを口に放り込んだ。 もぐ・・・もぐ・・・・・・ごっくん 呑み込んで暫し沈黙するスザクを引き攣った顔で見守るロイド。 その向かいの席でセシルは微笑を絶やさずに尋ねる。 「どうかしら?」 「これ・・・・・黒蜜ですか?」 「ええ、いつもは和物にブリタニアテイストを加えるアレンジをしてたでしょう? だから今回はその逆。和物テイストを加えるアレンジにしてみたの。」 「美味しいです!」 《《《何ぃいいいっ!!!》》》 スザクの言葉にドックにいた全員が振り返った。 中には「遂に枢木少佐の味覚が破壊されたのか!?」「いやいや奇跡が起きたのかもしれない」とかなり失礼な事を囁く者がいたがスザクは全く聞こえておらず今度は躊躇い無くプリンを口に運び始める。 ロイドは無理するなと耳打ちするがスザクは首を振って笑顔で答える。 「本当に美味しいですよ。そう言えば昔、抹茶のプリンとか色んな味のプリンが売られてました。 でも黒蜜は初めてです。有難うセシルさん。」 「喜んでもらえて良かったわ。はいロイドさんの分。」 コトリと陶器の皿が置かれる音と共にロイドの前にもプリンが出される。 こわごわとプリンを観察するがスザクが食べているものと同じ色合いのソースである事とスザクが本気で喜んでいる様子に安堵したのか、いつもの余裕綽々の笑顔でスプーンを手に取る。 「それじゃ僕も頂きます☆」 はくりっ! 勢いよく掬い取ったプリンを頬張ったロイドだが・・・笑顔が凍りつき顔色も悪くなり段々とこめかみに汗が浮き出てきた。 「ロイドさん?」 ごくり スザクの言葉をきっかけにロイドは口の中のものを呑み込む。 次の瞬間、紅茶を一気飲み。ロイドはカップ一杯飲み干しゆっくりとティーカップをソーサーに戻し、やはりいつもの読めない笑顔でスザクに向き直った。 「スザク君? 黒蜜って蜜って言うくせにしょっぱいんだね。」 「しょっぱい? いえ、ちゃんと甘いですよ。風味が独特ですけど。」 「じゃあ何で!?」 「・・・ロイドさんちょっと失礼します。」 ロイドからプリンの乗った皿を引き寄せながらスザクは考えた。 先程セシルは和物のソースを色々用意したと言った。 そしてロイドに出した物がスザクと同じとは言っていない。 ギギィっとぎこちなく首をセシルに向けると悪戯が成功したような無邪気な笑顔を浮かべて座る彼女にスザクは確信した。 《ま・さ・か。》 スザクはロイドのプリンに掛けられたソースの匂いを嗅ぎ、スプーンで皿に溜まったソースのみを掬い取り味を確かめた。 ゆっくりと味を噛み締めロイドのプリンをテーブルに戻し、今度はしっかりとセシルに向き直り問いかける。 「セシルさん・・・これは醤油ですね。 しかも色と匂いと塩分の濃さからして『たまり醤油』と思われますが。」 「大正解! 流石はスザク君ねv 最近行きつけのゲットーのお店でおじさんが教えてくれたの。 『プリンに醤油を掛けるとウニの味』がするって。」 「それ大嘘です。代用品にしてもおかしいでしょう。 少なくとも僕が食べ慣れていたウニの味とは違いますから。」 「あらそうなの?」 「その前にセシルさん・・・味見はしましたか?」 「ソースが沢山ありすぎて・・・それに全部味見したら太るでしょう?」 《《《まだあるんですか!?》》》 「・・・・・・他には何が?」 「教えてあげない。面白くないでしょう? 全種類のプリンを用意してあげるから当ててみて☆」 《背後から・・・強い視線を感じる。》 ぎぎぃっと錆びたロボットの様にぎこちなく振り返ればそこにはドック内にいた技術者が全員集まっている。 期待に満ちたその瞳は語っていた。 《《《安全なソースを教えて下さい枢木少佐っ!!!》》》 この時スザクは悟った。 やっぱり今の幸せを守る為には自分の犠牲は必要なのだと。 キンコン 突如鳴ったインターフォンの音にルルーシュは首を傾げた。 夜も更けたアッシュフォード学園のクラブハウス。 セキュリティ万全の学園ではあるが身内には基本的に寛容である為に生徒であれば夜でも警備部の許可が下りれば敷地に入る事は可能。 それでも夜の遅い時間にルルーシュ達が住むクラブハウスを訪れる者はまずいない。 「一体誰だ?」 正体が知られたとは考えたくは無いが恐る恐るインターフォンに向かうとそこには見慣れた鳶色のくせっ毛がモニターに映っている。 慌てて入り口まで走りドアを開けるとそこには項垂れたスザクが立っていた。 よくよく部屋からの光に照らされた顔を見ると血の気が失せている。 「どうしたんだスザク! 一体何があった!?」 「ルルーシュ・・・・・・。」 「軍で何かあったのか? 良いから答えろスザク!!」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 「何だ? 今なんて言ったんだ!?」 「・・・和食・・・・・・食べたい。」 「・・・・・・え?」 「普通の和食が食べたいよ。ルルーシュぅ〜〜〜っ!!!」 捨てられた子犬だってこんなに情けない顔はしないだろうと言いたくなる位に哀れな顔で目を潤ませ抱きついてくる親友に、ルルーシュは優秀な頭を回転させて宥めながら「冷蔵庫に何が残っていただろう」と必死に記憶を辿り始めた。 その頃の特派では・・・・・・。 「スザク君、明日は休みにしたからね。」 キィっと回転椅子に深く座りボソっと呟くのはロイド・アスプルンド。 その周りには涙ぐみながら数々のプリン用のソースの器を手にした技術者達が立っていた。 彼らの中にセシルの姿は無い。今頃は給湯室で皿の片付けに追われている事だろう。 《《《枢木少佐・・・貴方の犠牲は忘れません!》》》 皆の為にとプリンを全種制覇したスザクがヨロヨロと出て行く姿は涙を誘われずにはいられなかった。 珍しくスザクを労わるロイドの言葉に反対する者は当然おらず、その日以降、特派ではスザクを倒したセシルのティータイムを『惨事の時間』と呼ぶ様になったとか。 END 何で題名がカタカナなのかお分かり頂けましたでしょうか。 「三時」と「惨事」の二つの意味があるからなんですね〜。 下らない理由だと言われそうですが。(大笑) 最初は幾つかのソースを味見しては一喜一憂するスザクを書こうかと思いましたがグダグダになるので端折りました。 代わりと言っては何ですが後書きまで読んで下さった方におまけです。 後書き文章の中の「スザク」をダブルクリックして下さい。 |