枢木スザク准尉の溜息

 ドラマCD コードギアスSound Episode 1より判明した設定を少々持ち出して書きました。
 頭の悪いお話ですがお楽しみ頂けたら幸いです。

 注意:スザルルです。

 はーあ。

 アッシュフォード学園で一番空に近い場所。
 誰もいない屋上でスザクは大きく溜息を吐いた。
 見上げれば青い空。ピクニックに出たらさぞかし気持ちいいだろう天気であるにも関わらず、スザクの心はどんよりと暗雲が立ち込めていた。
 彼の悩みは目下のところ上司であるセシル・クルーミーの手料理である。
 日本料理とは名ばかりのゲテモノ創作料理は確実にスザクの胃を荒らしていた。
 料理を冒涜していると言っていいかもしれない程の味にあのロイドまでが逃げようと必死に画策している。
 けれどスザクは昨夜セシルに言われていた。
 
『スザク君、いつも実験で夜遅いのにそれから自炊なんて大変でしょう?
 今度から私がお夕飯用意してあげるv たくさん作るからたくさん食べてねvvv』

 満面の笑顔がまぶしく、とても断り難い純然たる好意を前に・・・・・・スザクに断りの言葉は無かった。

《今夜は逃げられない。明日も逃げられない。その先もずーっと逃げられない。》

 この事実にスザクが溜息を吐きたくなるのは当然の事であった。
 だがロイドもスザクがこのままセシルの料理を食べ続ければ倒れると察している。
 彼が何かしらの対策を打ち出すまで、スザクは耐え続けるしかないのだ。

「でも辛い・・・・・・。」
「何が?」
「え?」

 突如かかった声に驚き振り向くとそこには紺色の髪をした女生徒が一人、スザクを見上げていた。
 見覚えは・・・ない。
 だが彼女はスザクを知っているらしく人懐っこい笑顔で言った。

「あ、そっか。スザク君は知らないよね。
 私ソフィ、シャーリーのルームメイトなの。」
「シャーリーの? え、でも僕らどこかで会った事あったっけ?」
「スザク君は有名だから私が一方的に知ってるだけ。でも見かけた事はあるんんじゃない?」
「そう・・・初めまして枢木スザクです。」
「よろしく。で、何か悩みでもあるの?」

 きらりん☆

 ソフィの目が一瞬、不穏な光を帯びるがスザクは気付かず人の良い笑顔を浮かべて「ちょっと・・・。」と言葉を濁した。
 が。

「やっぱ恋の悩み? 相手は誰?? やっぱルルーシュそれとも大穴でリヴァル???」
「へ?」
「もしかしたら私の知らない仕事先の上司? やーんそれも良いかも年の差、大人の魅力ぅ!」
「あの・・・ソフィ?」
「でも私としてはやっぱ本命はルルーシュだと思うのよね。
 ほら幼馴染って設定が萌えるし、ルルーシュってばスザク君が来てから可愛い笑顔浮かべるようになったし! ところでベッドではどっちが上?
 あ、上って言っても攻めとは限らないか。どっちが攻めでどっちが受け?
 私としては喘いでるルルーシュが良いなv 絶対色っぽいしvvv」

《何この子。》

 暴走するソフィにスザクはたじたじとなる。
 その間にも延々と続く言葉の数々。その内容の異様さにスザクは理解した。
 目の前にいるのが自分の理解を超えた生き物だと。

《・・・そうだ、リヴァルが言っていたアレだ。》

「いけないついつい我を見失って・・・最初に話さないといけない事あったよね。」
「腐女子。」
「やっだぁ、スザク君知ってたんだ。私はオリジナルが主なんだけどね♪
 なら話は早いわ。取材させて!」

 照れ隠しなのか。ばしばしとスザクの背中を叩いてエキサイトするソフィ。
 あまりの勢いにスザクはソフィと距離を取ろうと段々と柵へと逃げ始めた。

「取材って何?」
「次のイベントの新刊、スザルルで行こうと思ってるの。」

 一歩スザクへと近寄るソフィにスザクは一歩後ずさる。
 ゆっくりと一歩ずつ着実に距離が縮まる中、スザクは生きた心地がしない。

「スザルルって何!?」
「カップリングの事よ。スザク君が攻めでルルーシュが受け。
 今度十八禁のエログロ系で書こうと思ってるの〜v
 ちょっと設定弄ってルルーシュが何処かの国の皇子様って設定にして、スザク君は彼の騎士。
 身分と性別、あらゆる障害を乗り越えて結ばれる二人の愛! す・て・き・で・しょvvv」
「だからどうしてそうなるんだ。僕ら男同士だよ。」
「男同士でもエッチできるわよ。もしかしていつもルルーシュに痛い思いさせてるの?
 それはいけないわ。参考資料たーっぷりあるから持ってきてあげる。
 とりあえず携帯しているこのBL小説貸してあげるね☆」
「大きなお世話・・・っじゃなくて、必要は全くありません!」
「わかったわかった、攻め役の沽券に関わるものね。
 でもちゃんと調べたほうが良いわよ〜。ネットでも情報は集められるからガンバレ。」

《駄目だ。言葉が通じない。》

 自分の言語力とかそういう以前に、スザクはソフィの中で既に自分とルルーシュが恋人と認識されている事を知った。
 その間にも笑顔で延々と捲くし立て続けるソフィにスザクの脳内はパンク寸前。
 耳元では様々な情報が齎され、無視しようにも立て続けに飛び込んでくる声は強烈な力を持ちスザクの脳内に刷り込まれていく。
 そんな状況下において情報処理が追いつかないスザクは冷静さを取り戻す為、事の経緯を思い返す事にした。

《そもそもなんでこんな話になったんだっけ。
 最初はセシルさんの作る夕食が憂鬱でどうしようと溜息吐いててそしたらソフィがやってきて溜息の原因が恋患いだと思い込んでしかも相手がルルーシュだと思っててどっちが攻めか受けかと問われてでも僕は男だし女の人相手に経験してるし男同士で出来ると言われてもリヴァルは友達ルルーシュは綺麗だけど親友でそりゃアレだけ綺麗だと男にももてそうだし軍にはソーユー人多いっていうか名誉ブリタニア人で軍人だと余計に縁が遠くなる人が多いみたいで誘われた事あるし実際に襲ってきた奴らは皆返り討ちにしたけど危なかった事あったし多分あんなところにルルーシュみたいな綺麗な人間がいたら真っ先に食べられちゃうから絶対僕はルルーシュから離れられなくなって大変で面倒臭いから恋人って事にして追い払うんだろうな。ルルーシュ日本に来た時から料理してたから日本料理も完璧で前にお弁当作ってナナリー連れてピクニックに行った時は料理があんまり美味しくて殆ど僕が食べちゃってナナリーの分が無くなるってルルーシュすっごく怒って・・・・・・そうだルルーシュに夕食のお弁当作ってもらえばセシルさんの料理食べなくても済む。恋人が作ってくれたと言えばセシルさんも無理に薦めたりはしないだろうし僕も美味しいご飯が毎日食べられるし同棲生活そのままルルーシュと一緒にお風呂入って歯を磨いて一緒のベッドに寝て最近ご無沙汰だったから休みの前の日に・・・・・・・・・・。》

「ソフィ。」
「どうしたのスザク君。」

 突如声を上げたスザクだがソフィは全く気にした様子は無く、言葉を止めてスザクを見上げた。
 ぱっちりと目が合うと同時にスザクは虫をも殺さぬほんわか笑顔を浮かべて答える。

「僕これからルルーシュにお弁当作ってもらってくる。
 【恋人】のお弁当を職場で見せびらかして食べたいから。」

 ・・・・・・・・・ここで、どうしてそんな結論に至ったと突っ込んでくれるまともな神経の持ち主はいなかった。突込みがあればスザクも直ぐに正気に戻っただろうが目の前にいるのはソフィ。彼女は自分が望む展開に頬を高潮させて更にエキサイトするばかり。

「そうか純愛路線! ほのぼのシーンを入れてこそギャップが激しくなって後々のシーンがより萌えるものになるわよね!! 流石スザク君、イメージがしっかり固まったわ有難う!!!」

 がしぃ!

 友情を確かめ合うように手を握り合う二人。
 シャーリーがいたら嘆くだろうその会話を終了させ、その5分後には屋上からは誰もいなくなった。



 * * *



 C.C.は非常に不機嫌だった。
 理由は多々あるが彼女が文句を言う相手は一人である。

「この借りは高いぞルルーシュ。」
「分かっている・・・・・・。」

 C.C.の言葉に返事をするルルーシュは只今ベッドの中。
 ウンウンと唸りながら動かない身体を一生懸命動かそうと頑張って諦めたのは3分前。

「昨夜は随分楽しかったようだが黒の騎士団の総司令官として計画を変更せざるを得ないような行動は避けてもらわなければ周りに迷惑だ。しかも私にメッセンジャーをさせるとはいい度胸だな。」
「・・・・・・あれが楽しんでいたように見えるか。」
「ああ、アレだけ喘いでいればな。」

 かすれた声でそれでも精一杯の反論をするルルーシュに対しC.C.の言葉は冷たい。
 だが彼女の言葉はその怒りが示すものであり当然の事だった。
 全ての始まりは昨日の夕方。授業が終わり生徒会の業務もないので真っ直ぐクラブハウスの自室に戻ろうとしたルルーシュを掴む手があった。

『スザク?』
『ルルーシュ頼みがあるんだ。』

 真剣な眼差しで言うスザクに対し内容も聞かずに思わずコクリと頷いてしまった。
 それこそが全ての間違い。
 弁当を作って欲しいという言葉に慌てて簡単なおにぎりとつまみ程度のおかずを作って持たせたのだがそれだけでは終わらなかったのだ。

『ルルーシュ、今夜は部屋の鍵開けておいてね。』
『は? 何で。』
『僕達もう17歳なんだからわかってるでしょ。ソーユー事。』

 謎めいた言葉を残し大学部へ向かうスザクを何故追求しなかったのか。
 それはルルーシュにもよくわからない。
 ただ一言で言うならば・・・・・・。

 訳の分からない勢いに負けた

 それしかルルーシュに思い当たるものはなかった。
 とりあえず黒の騎士団の予定は明日だからとその日は簡単な情報収集のみを終えてスザクが携帯メールに連絡をよこしてきたのを合図に部屋の鍵を開けて招き入れた。
 そして・・・・・・・・・。

「随分あっさりと抵抗を止めた様だったな。お前も十分乗り気だったと考えて良いと思うが?
 何しろお前達のお陰で私は隣のベッドの無い部屋で、しかも床で寝かされる羽目になったのだからな。」

 私の存在など忘れて楽しんでいたのだろうがと嫌みったらしく言うC.C.に対しぐうの音も出ないルルーシュはずきずきと痛む腰と人には絶対見せないであろう場所を思う。
 最初はびっくりして抵抗したものの目の据わっているスザクとその馬鹿力を思い、下手に抵抗して体力そがれるよりも体力温存の為にと自身に言い訳して抵抗を止めたのは事実。結果として体力は欠片も残らなかったのでこれはルルーシュの見通しの甘さ故である。思い出したくないが後処理をした時に流れ出たのはスザクのものだけでなくルルーシュのものと思われる血もあった。痛みの度合いを考えると薬を塗った方がいいと思われるが買いに行く事も出来ない。
 動けないルルーシュ、不機嫌なC.C.。
 魔女の協力は得られないと痛みに耐えようと決意したルルーシュに意外な言葉がかけられる。

「だが私は心が広い。今お前に必要な薬を買ってきてやろう。
 適当に選ぶから文句はなしだ。それから・・・・・・・・・・。」
「それから?」

 首だけ上げて見上げたルルーシュに対し灰色の魔女はこの上なく優しい笑顔を浮かべて言った。

「ピザを一ダース。」



 * * *



 さてルルーシュが寝込んでいる頃、アッシュフォード学園の屋上ではスザクが空を眺めていた。

 はぁあ☆

 仕事も無く学校も無いが何故か来たくなってしまったのはルルーシュとよく会っていたからだろうかと自分を納得させながら深く感嘆の溜息を吐いた。
 今度は憂鬱なものではない。

「幸せ、だなぁ・・・。
 セシルさんも恋人が作ってくれるならって料理勧めて来なかったし実際ルルーシュのお弁当美味しかったし久しぶりに楽しんで心も身体もリフレッシュ出来たしやっぱルルーシュどんな表情浮かべても綺麗で泣いてる時なんか潤んだ眼が凄く色っぽくって誘ってるとしか思えなくて思わず僕もガンバっちゃったから明け方まで寝かせられなかったなぁ・・・今頃はまだ眠っているかな。世話しようとしたら何故か追い出されちゃったけどやっぱり心配だな血も出てたし泣いてたのは痛かったのもあったの・・・・・・・か・・・・・・・・え?」

《何で僕、親友泣かすようなことしたんだっけ?》



 正気に戻ったスザクがその後クラブハウスに直行しルルーシュに土下座した。
 が、別の意味でも怒られたのは余分な話である。


 END


 腐女子ソフィの毒電波で洗脳されてルルーシュ食べちゃったスザクです。
 正気に戻るまで約24時間。
 が、正気に戻った後もまんざらでないルルーシュと自身も「ルルーシュなら」とあっさりそのままお付き合い開始。その事実を知ったシャーリーが失恋に涙流しながらソフィを追いかけ追い詰め書き上げたスザルル原稿をびりびりにしてしまうというエピソードを入れようと思ったのですが・・・だらだらになるので止めました☆

 2007.5.22 SOSOGU


(2007.8.9 サイトにリンク)