話は最後まで聞け

 突発黒の騎士団ギャグSSです。
 特にネタバレはありませんが強いて言うならDSゲーム設定ネタが一つだけあります。
『それを全て片付けてくるまで絶対にピザの注文は認めないし支払いもしない。わかったな!』

 そう言ってルルーシュがC.C.を部屋から追い出したのはつい1時間前のことだ。
 ゲットーの黒の騎士団の拠点であるトレーラーにやってきた彼女の手の中には空になったピザの箱が一つ。
 足元に視線を向ければ何十もの数の箱が積み上げられていた。

「全く、人の心の機微というものがわからん男は最低だな。」

 一人ごちるC.C.だが、事情を知れば誰もがルルーシュ(ゼロ)が正しいと言い彼に同情するだろう。

 そもそもの切欠はルルーシュの自室で見つかったある存在だった。
 生徒会で飼っている黒猫のアーサーが何かオモチャになる何かで遊んでいるらしく元気よく走り回りルルーシュの部屋に入り込んだ。
 食事は十分に与えられているが野生の本能が疼くのだろう。獲物を前にじっとしていられる訳が無くアーサーは部屋の隅に追い詰めた獲物を鋭く尖った爪で仕留めたのだ。
 狩りの成果を誇りたいのかアーサーは嬉しそうに仕留めた獲物を口に銜え見せびらかす相手を探した。
 たまたまそこに来たのが黒の騎士団の活動から帰ったルルーシュ。
 部屋の中にいるアーサーに少々驚きはしたものの嬉しそうに歩み寄ってくる様子にしょうがないなと部屋の電気を点けた。
 次の瞬間。

 ほぅぇえああっ!!?

 ―――ルルーシュの叫び声でナナリーが起きてしまったのは仕方が無い事だろう。

 その後、部屋を点検し事の原因と思われる大量のピザの空き箱を見つけたルルーシュがC.C.を呼び出すのは極当然の事だった。
 しかし呼び出されたC.C.は不本意と言わんばかりに眉間に皺を寄せピザの景品であるチーズくんのぬいぐるみを抱き締めベッドに腰掛けながらだんまりを決め込む。
 ルルーシュは腕を組み暫くC.C.を睨みつけていたかと思うと我慢し切れなくなったように突然立て板に水を流すように早口で話し始めた。

『お前が食べたピザの箱をきちんと捨てずにベッド下に仕舞い込むからだ。
 アーサーがゴキブリを口に銜えて擦り寄ってきた時の俺の気持ちがわかるか!?
 油で艶々と体中をてからせ長い触角を持つあの黒い悪魔。見るだけで全身に鳥肌を立たせるおぞましい存在。
 アーサーはそれを銜えた口を俺達の顔に近づけ、あまつさえ奴の体液を舐めた舌で俺達の頬を舐めるんだ!
 考えるだけでも恐ろしい。とにかく家庭内害虫を駆除しなくてはいけない。
 ナナリーが何かの間違いで触れてしまったりしたら・・・嗚呼!!!
 クラブハウス中を掃除、消毒するからお前はそのピザの箱を捨てて来い。』
『嫌だ。』
『面倒臭いなどと言う言い訳は聞かん。』
『違う。』
『ならば捨てて来い。今すぐに。』
『捨てる気は無いと言っているだけだ。』
『・・・何だと?』
『お前は箱の価値をわかっていない。』
『中身が消えて食べカスで汚れた箱など捨てる以外に方法は無いだろう。』
『わかっていない。これは私がどれだけのピザを制覇してきたかの証なんだぞ?
 ポイントを貯めて手に入れたグッズはシステムを理解しているものにしかその価値を理解する事は出来ない。
 だがピザの箱ならどれほど多くのピザを食べてきたかが一目瞭然だろう。
 つまりこれは私のピザ歴の証。たかがゴキブリの一匹や二匹出たからと言って私の宝を捨てようとするなど器の小さい男のすることだ。
 そんな事よりもピザの箱を保管する部屋の確・・・。』
『捨てて来い。』
『話は最後まで。』
『それを全て片付けてくるまで絶対にピザの注文は認めないし支払いもしない。わかったな!』


 しかし、とC.C.は思う。

《ピザは食べたい。
 箱は捨てたくないが奴のあの強硬な姿勢を見る限り譲歩を期待することも出来ない。
 だがアイツの思い通りになってやるのも少々ムカつきを感じるのも確かだ。
 意趣返しに何かしてやりたいが何が一番適当か・・・。》

 部屋を見回すと目に付いたのは暇つぶし用にとルルーシュに買わせた携帯ゲーム。
 視線を彷徨わせればまた一つ目に付くものがある。

「よし。」



 * * *



 翌日、ルルーシュはゼロの服に着替えるとマントをたなびかせながらトレーラーへと入った。
 そこには沈痛そうな面持ちの扇とカレン、困惑した様子の井上・杉山・玉城といった古参メンバーが待っていた。

「ゼロ、待っていたよ。」
「遅くなってすまなかったな。少々掃除に手間ど・・・・・・いや、用事が立て込んでいて動けなかったのだ。
 それよりも至急相談したい案件とは何だ。」
「ああ・・・実は昨日トレーラーに運び込んでおいた医療キットが大量に紛失したんだ。
 特殊なものではないが少々高い携帯できる緊急医療用の・・・キョウトからやっと回してもらったやつでな。
 だから最初は犯人は身内で手癖の悪い奴がいるんじゃないかと思って換金できるところを調査させたんだ。」
「・・・誰かが金欲しさにこっそり持ち出したと考えたわけか。」
「あまり疑いたくはないが紛失したその時はそれしか思い至らなかった。
 だが、昨日の夜から今日までにいくつかの不審な物がゲットーのあちこちで見つかって・・・その、これなんだが。」

 扇が躊躇いながらも井上を見ると心得たというように井上は傍らに置いていた布の塊を差し出した。
 テーブルの上に置かれ慎重に布を解かれて現れた物体にゼロは上ずった声を上げる。

「なっ!?」

 それは昨日も見ていた物。
 C.C.に片付けさせたピザの箱の登場に驚くなという方が無理だろう。
 しかしゼロの驚愕はそこで終わらなかった。
 追い打ちをかけるように箱の中から現れた物体にそれを持つ手を戦慄かせる。

「そう・・・無くなった医療キットだ。それと変なキャラクターのストラップ。
 ストラップは入っているものと無いものがあるようだが、医療キットが入ったピザの箱がいろんなところで見つかっている。」
「犯人の目的がさっぱり読めなくてな。君の意見を聞きたいんだ。」
「・・・・・・目的はわからないが犯人はわかる。」
「え!?」
「C.C.―――っ!!!」
「そこまで大きな声を出さずとも聞こえる。」

 ゼロが叫ぶと同時に現れたのは鮮やかな黄緑色の髪をした少女。
 先ほど届いたのだろう。ほこほこと湯気を上げるピザを箱ごと持ち歩きながら1ピース口に銜えながら応えるC.C.にゼロの殺意は湧き上がる。

「これは貴様の仕業だろう!」
「何だもう回収してしまったのか? 何かあった時の為に色んなところに置いて来てやったのに。」
「どういうつもりでこんな真似をした。」
「ゲットーで戦いがあった時、帝国と闘いながらゲットーを歩く事になるだろう?
 だから闘いながら傷を癒せるようにと私なりに騎士団の為にした事だ。」

 どうだ有難いだろうとでも言うように尊大に胸を張る少女の行動に騎士団の幹部達はあんぐりと口を開けたまま呆れ返っている。
 誰もが何も言えずにいる中、真っ先に立ち直ったのは玉城だった。

「訳わかんねえこと言ってんじゃねぇ!
 あんな目立つ所にピザの箱なんて置いて・・・軍が見つけたら没収されるだろうが!!!」
「敵には使えないのだろう。」
「医療キットは万人に使えるようになってんだよ! 敵が見つけて傷を癒したらこっちの損害がでかくなるだろうがっ!!!」
「しかしアレでは敵に取られる事は一切なかった様だが。」
「お前は一体何を見てそんな事を考えたんだ。」

 玉城が喚いている間に漸く立ち直ったのだろう。
 ゼロが仮面を抑えながら疲れ切った声で尋ねる。
 対するC.C.は一言で返した。

「携帯ゲームのRPGからだ。面白い趣向だろう。」
「余分な仕事を増やすな。扇、悪いが手の空いている部隊にゲットー中に点在していると思われるピザの箱の回収を依頼してくれ。危険はないはずだ。中身を回収したら箱は捨てて構わん。」
「勿体ない事をするな!」
「お前はややこしい事をするな!」
「良いのか? 一部のピザの箱は特典付きにしてある。」
「どういう事だ。」
「医療キットだけでは味気ないだろう。だから私は貴重なチーズくんコレクションの中からいくつかグッズを選んで入れておいたんだ。目玉はチーズくんのルービックキューブ。ついでだからお前が幼馴染と子供の頃に撮った写真も・・・。」
「「「「「何ぃいいっ!!?」」」」」
「話は最後まで・・・。」
「子供の頃って事は仮面は被ってない!」
「昔のとは言えゼロの素顔が見られるって事じゃないか!」
「ゼロの子供の頃の写真。ゼロの子供の頃の写真! お守りに欲しいっ!!!」
「いかん。部下に任せたら中身が見られる。俺達だけで探しに行くぞ!」
「待てお前達!」
「そうだぞ。ゼロが顔を隠すには彼にとって譲れない訳があるからだ。だからそんな事は・・・・っておい!?」
「誰が先に見つけても恨みっこなしだ。」
「「「「行くぞっ!!!」」」」

 扇を残して飛び出していく幹部達に「止めろぉおおおっ!!!」と叫びながらマントをたなびかせて追いかける黒の騎士団総司令官。
 二人ぽつんと残された扇とC.C.は全員がトレーラーを出て行く姿を見送り呆然とする。
 しばしの沈黙の後、深く溜息を吐いた扇が沈痛そうな面持ちでC.C.に問いかけた。

「C.C.・・・ゼロの正体がばれたらどうするんだ?」
「ばれないさ。お前も最後まで話を聞かない男だな。
 私は写真を入れたとは言っていない。」
「え? でもさっき・・・。」
「写真も入れようとしたが先に箱が尽きた。面白く出来ると思ったのに残念だ。」
「それじゃ・・・。」
「話は終わりだ。全く、お前達に付き合っていたらピザが冷めてしまったじゃないか。
 奴らが帰って来ても私の邪魔をするなよ。」

 自分勝手に言い捨てて二階へ上がって行く拘束服を纏った少女を見送り扇は思った。

「戻ってきたら戻ってきたで一波乱あるんじゃないか?」



「ゼロの写真ゼロの写真。」
「しかもガキの頃のだ。大スクープだぜ!」
「幼馴染も写ってるって事は身元がわかるかも。」
「誰よりも早く見つけるぜ!」
「止めろお前達。止めろと言っているだろう―――っ!!!」


 懸命にピザの箱を探しては漁る幹部達とそんな彼らを追いかけて喚く総司令官。
 一体何箱あるか分からないピザの箱を探しつくしても写真の存在を信じる彼らが動きを止めるのは一昼夜明けて力尽きた時だったそうな。


 END


 「アイテムボックスはピザハット」というのがゲーム設定ネタです。
 それにしてもピザの箱に入るナイトメアの修理キットって一体・・・・・・。
 何よりもギアス=ピザ=C.C.の方程式が定着しつつあるという事実が凄いと思います。
 修羅場中の気分転換の一品。お楽しみ頂けたら幸いです。

 2007.11.8 SOSOGU

 (2008.1.20 GEASSコンテンツへ移動)