1/13大阪インテックスで配布したギアスSSです。
 SOSOGUには珍しくスザルルらしいスザルルになりました。
 苦手な人はこのまま読むのをお止め下さい。

 現実感がない。
 スザクは目の前で光る銃口を見て思った。
 優美なデザインの銃はアクセサリーとしての意味合いが強く、シングルショットタイプである事は一目見てわかる。
 向けられている銃は明らかに実務的ではないが、彼女は絶対に外さないだろう。
 至近距離も至近距離、額にピタリと照準を定めた銃口はスザクから僅か十数センチほどしか離れていない。
 この状態で外す事の方が難しいだろう。

「弁明は聞かん。」

 気高き皇女の声が響き、スザクは漸く自分が置かれた状況を把握した。
 傍には突然の出来事に驚き動けないルルーシュが、皇女・・・コーネリア・リ・ブリタニアの騎士達に腕を引かれて部屋の退出を促されている。
 けれど此処で出て行けば自分の大切な人がいなくなるとわかっているのだろう。
 強くひかれる手を引き戻しルルーシュは叫んだ。

「な・・・何か誤解があるようですが皇女殿下!」
「お前は黙っていろルルーシュ! 例え8年と言う歳月が流れていようとも、私が可愛い異母弟の顔を見間違えると思うのか?
 枢木、先程も言ったが弁明は聞かん。
 貴様がルルーシュにした不埒な行いはまだ広く知られてはいない。傷は浅いのだ。
 よって、ここで己が命でその罪を購え。それで全てが解決する。」
「僕とルルーシュの幸せは?」
「どうやら祈りの時間はいらないようだな。」

 更に銃を突きつけられ、距離はさらに短くなり数センチ。

《何でこんな事になったんだっけ・・・・・・。》

 スザクは現実味を帯び始めて来た銃と、コーネリアを見つめこれまでの出来事を思い返していた。



 * * *



 ずっと秘めていた想いはいつしか溢れだしそうになる程にスザクの胸の中で膨らみ続けていた。

 彼の今後を思えば自分との繋がりを絶っておかなくてはならない。
 そう思って突き放した筈の手が再び自分へと差し出された。
 ルルーシュが隠したがっていた何かを持った猫が学園内を逃亡し巻き起こした騒ぎで、自分と彼が親しい仲だと周囲に悟られてしまった。
 まだ間に合うと誤魔化そうとするスザクを制しルルーシュが「友達だ。」と名乗り出たあの時、スザクは自身の迷いに叱咤しながらも喜びを隠せなかった。
 再び友として隣に立つ日が来るとは思っていなかったのに、巡ってきたチャンスをスザクが拒否する事はなかった。
 生徒会で次々に催される祭りの数々に振り回されながらも、スザクは隣にいる少年の存在こそが自分をこの場に繋ぎ止めているのだと思った。
 艶やかな黒髪は光を反射し、物憂げな眼差しの奥には世に稀な紫電の光が宿る。桜色の唇はリップさえつけていないと言うのに常に潤っており、触りたくなるくらいに柔らかそうに見える。白い肌はそれらを全て包み込み、彼の美貌を引き立てていた。
 また、ルルーシュは全体的に細い。彼なりに体力をつけようと努力しているようだが、筋肉がつき難い体質らしく鍛えている割には非力だった。それでも、短いながら一定時間ナナリーを横抱き出来るようになったのは大きな進歩と言える。
 最近はスザクが手伝う事が多くなったので、更に線が細くなったように思え、時々儚く倒れそうな雰囲気を醸し出すルルーシュにスザクが胸が高鳴るのを感じた。
 最初は何かのゲームにハマっているルルーシュが寝不足がちで健康が心配だからだと思っていた。
 けれど、その胸の高鳴りの原因をある祭りの時に知る事になった。

『男女逆転祭リターンズ! 今回は新メンバーを含めた生徒会メンバーで仕切り直しよv』

 そう言いだしたのはお祭り好きの生徒会長、ミレイ・アッシュフォード。
 彼女の一声で用意された衣装を見た時にスザクは苦笑した。
 軍に所属していると数少ない娯楽は貴重で、場を盛り上げろと色んな催しに強制参加させられる。
 女装もその一つ。童顔ではあるが筋肉質のスザクには女性物はその体格を強調するばかりだった。
 しかし似合わなければいけないと言うものでもなく、服装に合わせた演技を強制され、ノリで盛り上げた事がある。
 まあ・・・とち狂った上官に襲われかけた事を考えるとあまり楽しい思い出とは言えないが。(勿論問答無用で返り討ちにしておいた。)
 その事を思えば少々身の危険も伴った軍での催しよりも、安全に配慮した学園の祭りは純粋に楽しむ事の出来るものだった。
 ルルーシュは不満そうだったがスザクとナナリーが喜んでいた為だろう。素直にドレスに着替え皆の前に姿を現した。

 その姿を見た瞬間、後悔した。

 学園の祭りだと分かっていた。楽しいはずなのに、急に胸を突き刺す痛みを感じスザクは驚いた。
 そして湧き出た暗い想いに胸がムカムカするのを感じた。

《見るな。》

 誰を?

《ルルーシュを、誰も見ないで。》

 何故?

《嫌がっているから・・・ルルーシュは。》

 ただの祭りなのに?

《だって皆、ルルーシュばかり見てる。》

 綺麗だもの。誰だって惹かれる。

《駄目だ。ルルーシュを連れて行かないで。》

 惹かれれば独占欲が生まれることもある。

《僕から離れないで。》

 強制する権利はないだろう?

《駄目だ! ルルーシュは俺の・・・っ!?》

 彼は今、誰のものでもない。
 でも・・・いつかは?

 自問自答を繰り返し最後に行き着いたのは、現在ルルーシュに特定の相手がいない事と・・・いつか彼の隣に立つ異性が現れる可能性だった。
 着替えが終わり、学園内を練り歩こうと皆が生徒会室を出て行こうとした時にスザクは動いた。

「スザク?」

 突然掴まれ引かれた腕を視線で辿り、スザクに行きついたルルーシュは不思議そうに首を傾げた。
 泣きそうな情けない親友の顔を見て何かを感じたのだろう。
 一度は出て行こうとしていた身体を翻し正面からスザクへと向き合う。

「どうしたスザク。やっぱり会長のお遊びはキツかったか?
 どうしても嫌なら会長も強制しない。言い難ければ俺から言うから大丈夫だ。」
「違う・・・。」

 女装が嫌なのだろうと気遣うルルーシュにスザクは首を振った。
 ドアの向こうから出てこないルルーシュとスザクを呼ぶ声が聞こえる。
 急かす生徒会メンバー達が気になるのかルルーシュがドアへと顔を向けるとスザクはまた動いた。

「スザ・・・ク・・・・・・?」

 突然抱き締められてルルーシュは驚いてスザクの顔を見ようとするが、頬の隣にある彼の顔は見る事が出来ない。
 筋肉質の腕がしっかりと背中と腰を固定し身動きすらままならず、ルルーシュは戸惑うばかり。
 しかしスザクは抱き締めた瞬間に完全に自覚した。
 自分を同じ性を持つ彼の人に抱いているのは友情から恋情へと変化していたことを。
 ふとした瞬間に向けられる笑顔を、時々拗ねて逸らす表情も、馬鹿がと叫ぶ声すらも自分だけのものとして独り占めにしたくなっていたことを。

「行かないで・・・。」
「スザク、本当にどうしたんだ。」
「僕は――」

 顔を見ないのは卑怯だと思った。
 それでも自身の気持ちの異常性を感じていたスザクには恐ろしかった。
 親友だと思っていた彼がどんな反応を見せるのか。
 言えば今ある心地良い空間すら失うかもしれない。
 けれど言わなければ誰かに連れて行かれるルルーシュを見送る瞬間がやって来る。
 その時に正気を保てる自信が、スザクにはもう無くなっていた。

「――君が、好きなんだ。」



 その後どうしたかスザクは覚えていない。
 けれど、後日ミレイがご機嫌だったことを思えばちゃんと二人とも祭に参加したのだろう。
 スザクの言葉に対しルルーシュの返答は無かった。
 数日経ってもルルーシュは何も言って来ない。それどころか時々スザクを避ける様に視線を逸らしたり、休み時間には席を立ったりする。

《友達の座すら失った。》

 そう思っていたスザクに、久し振りにルルーシュからの呼び出しがあった。
 今日の夕食を共にしたいと、連絡はリヴァルを通してではあったがスザクは嬉しかった。
 また同時に恐ろしくもあった。
 ルルーシュとの繋がりが完全に断たれる可能性を考えると足が竦む。
 けれどこのままというわけにもいかないと、スザクはクラブハウスのルルーシュ達の住居スペースへと向かった。
 シンと静まり返ったクラブハウスに人の気配はない。
 いつもならばこの時間は咲世子もいるはずなのにと、通路を進みリビングに足を踏み入れた。
 そこにはナナリーの姿は勿論、ルルーシュもいない。
 戸惑うスザクが立ち尽くしていると背後に気配が生まれた。
 殺気は感じられない。緊張は感じるが敵意が無い事を確信し振り返ると其処にはルルーシュが立っていた。
 私服に着替えた彼に普段浮かべている皮肉気な笑みは無く、戸惑いと緊張を綯い交ぜにした表情でスザクを見つめている。

「ルルーシュ。・・・・・・その、今夜はありがとう。食事、まだ何だね。
 咲世子さんは買物が遅くなっているのかな? もしかしてナナリーも一緒に??
 二人を待ってる間、少しお茶しようか。」
「スザク。」
「お茶菓子持ってくれば良かったね。ゴメン、気が利かなくて。
 でも食事の前だから食べない方が良いかな。」
「スザク!」

 必死に場の雰囲気を和らげようとするスザクとは対照的にルルーシュは先ほどよりも緊張気味の声を張り上げた。
 視線に悲しみが宿る。
 その目が自分に向けられているのが辛くてスザクは目を逸らした。
 再び静まり返ったリビングには重苦しい空気が漂う。
 息が苦しくなりそうなほどの緊張にスザクが再び言葉を発する前に、ルルーシュが話し始めた。

「ナナリーは、いない。
 今日は病院の検査で、少し特殊な検査もするから泊りがけで出ているんだ。
 咲世子さんには付き添いを頼んだ。今夜、このクラブハウスにいるのは俺と・・・・・・お前だけだ。」
「・・・・・・そ、う。」
「今日は・・・・・・お前にどうしても話さなくてはいけない事があった。
 ずっと二人きりになれる時間が欲しかったが、学園内では何時何処で誰が見ているかわからない。
 お前も、軍の仕事があるからそう時間は取れないし。」
「だから、夕食だって誘ったんだ。少なくとも2時間は時間を取れるし今日はナナリー達がいないから誰にも聞かれない。」
「そうだ。」
「話は・・・この間の続き、かな。」

 スザクの問いにこくりと頷くルルーシュを見た時、スザクは手に汗がジワリと浮かぶのを感じ恐ろしくなった。
 遂に来た瞬間に恐怖が蘇る。
 心地良かった時間が終わりを告げる声を聞きたくなくてスザクは逃げ出そうとしたが、先程通ったドアはルルーシュの後ろにある。もう一つの続き部屋へのドアを開けようとしたがガチャガチャとドアノブが引っかかる音がして動かなかった。

「今、鍵の掛かっていないのは俺の後ろにあるドアだけだ。」

 冷やかに告げられる事実にスザクは振り返る。
 開いていたドアは既に閉じられており、ルルーシュが寄り掛かっている。
 無理をすればドアの鍵を壊して出ることも可能だ。だが命がかかっている場面ならばともかく、心理的トラブルのみでドアを壊してまで出る事は出来なかった。

「・・・逃がす気はないって事?」
「違うな。俺が逃げ出せない様にする為だ。」
「僕は聞きたくないよ。」
「逃げたいのはお前の方なのか?
 ずっと俺を避けていたのは後悔していたからか。」
「そうだね。僕は・・・・・・後悔していたんだ。」
「っ・・・・・・お前は!」

 スザクが言い切った瞬間、ルルーシュが眦を上げて怒鳴った。
 窓がビリビリと揺れるのを感じスザクが顔を伏せた瞬間、飛び込んで来たのは意外な言葉だった。

「俺が真面目に悩んだ時間すら否定するのか!?
 今更っ・・・自覚した想いを捨てろというのか!!!」

《え?》

 何の事だと視線を上げると頬を紅潮させて睨んで来るルルーシュがいた。
 美しいアメジストの瞳を揺らし肩を震わせ怒る姿すら美しいと見とれるスザクに、ルルーシュは更に叫んだ。

「始める前に終わらせるのか!
 何も出来ないまま切り捨てられるのか、俺はっ!」

《切り捨てる? 誰をだ。
 捨てられるのは僕の方だろう。》

「もう、いい・・・。」

 弾けた様にルルーシュはドアを開けて飛び出した。
 先程の言葉の意味はまだ理解できない。けれどこのままルルーシュと話せなくなれば全てが失われると直感し、スザクは無意識のうちに走り出した。
 暗い通路を走る足音を追い二階へと駆け上がる。
 自室のドアを開け飛び込んだルルーシュを追い、ドアを閉め切られる前に追いついたのはスザクの飛び抜けた身体能力があってこそのもの。
 ドアを閉められず左腕を掴まれたルルーシュは暗い自室の中で、必死に自分の顔を見せまいと掴まれていない右腕を翳してスザクとの距離を取ろうとした。
 雲の切れ間から零れる月明かりが窓を通って部屋を照らす。
 腕の隙間から月明かりを反射する光を見つけスザクは後悔した。

《ルルーシュを泣かせた。》

 幼い頃からルルーシュは涙を見せまいと気を張っていた。
 どれ程傷つけられても、障害を負った妹を守る為に彼は周囲に気を配り弱さを見せまいとしていた。
 僅か九歳で母の葬儀を取り締まり、父に捨てられ人質として日本に送り込まれた。
 その境遇を思えば泣き暮らして当たり前であったのに、ルルーシュはいつも怒りを胸に真っ直ぐ立って生きていた。
 幼い頃は気丈に振る舞うルルーシュに憧れを感じた。力は弱くとも心は強いのだと感じていた。
 それは今も変わらないようだと思っていたのに、ルルーシュは今、泣いていた。
 それも、スザクの事で。

「何で・・・・・・。」
「お前には関係ない!」
「関係なくないだろ! 君が今泣いているのは僕のせいなんだろう!?」
「誰が泣くものか! 失恋くらいで泣いてたまるか!!!」

 言った瞬間、ルルーシュも自身の失言に気づいたらしく顔を隠すのも忘れて驚愕した。
 月明かりに照らされた唇はわなわなと震え、視線はゆっくりと彷徨い床へと落ちる。
 逃げる事も忘れて動かなくなったルルーシュとは対照的にスザクの心は少しずつ歓喜に満たされていった。
 拒否されると思っていた想いをルルーシュは真正面から受け止めていた。
 避けられていると思っていた時間は、彼なりに自分の気持ちを考え、整理する為に費やされていたのだ。
 無駄な事を嫌うルルーシュが自分の想いに応える為に時間を使っていた事実だけでも驚きなのに・・・・・・。

「僕に・・・・・・振られたと思ったの?」
「・・・自分で言い出しておいて自分でさっさと終わらせて。
 勝手な奴だな。振り回された俺はいい迷惑だ。
 無駄に時間を取らされて、俺が馬鹿みたいだろう。」
「僕はまだ、何も言ってない。」
「言っただろう! 後悔していると!!」
「僕が後悔したのは、君からの友情すら失くしたと思ったからだ。
 君が、僕に応えてくれる事は無いと・・・・・・思ったから。」

 掴んだままの左手を引くとルルーシュの身体はポスンとスザクの腕の中に収まった。
 震える肩が彼が怯えているのだと告げている。
 顔が見たいと思い少し身体を放し、覗き込むと怯えに濡れた瞳はスザクから視線を逸らす様に伏せられている。
 頬を伝う涙が月明かりで浮かび上がっている。
 自然と唇は頬を滑る涙を吸い取った。
 顎から頬へ、そして目元まで。カサカサとした唇から覗く舌が頬に何とも言えない感触を伝える。
 驚いて上げられた視線を受け止め、スザクは微笑んだ。

「逃げたりして、ゴメン。」
「・・・逃げたのは俺の方だろう。」
「でも、最初に逃げようとしたのは僕だから。」

 言いながらもう片方の頬を唇で拭う。
 今度はルルーシュも感触を味わう様に目を閉じた。

《この状況で目を閉じるって事の意味・・・・・・わかってるよね?》

 確認はしない。きっと間違ってはいないから。
 そう確信してスザクはルルーシュの顎に手を添えた。



 うっふっふっふっふ・・・・・・

 自然と笑いがこぼれるのは無理もない。
 昨夜想いを通じさせた愛しい人。
 晴れてルルーシュの恋人となった枢木スザクは絶好調だった。
 ランスロットとのシンクロ率は自己最高記録を叩き出し、調子に乗ったロイドの実験追加の声にも笑顔で応える始末。
 悲鳴を上げているのは実験に付き合わされる他のメンバー達だ。
 あまりのスザクのご機嫌ぶりにセシルも気になったのかスザクに問いかけた。

「スザク君、随分とご機嫌ね。何か良い事でもあったの?」

 次の実験までの息抜きにと用意された紅茶を手に「僕も聞きた〜い。」とロイドも身を乗り出してくる。
 幸せ一杯のスザクは周囲に言いふらしたい衝動に駆られていた。けれど学校では言いたくても言えない。
 だが軍部の・・・しかもかなり特殊な部署におり機密の中で過ごす二人ならば簡単に話が外に漏れる事は無い。
 故に、スザクの口が滑ったのは仕方がない事だろう。
 スザクは紅茶のカップを大事そうに両手で支えながら答えた。

「ずっと好きだった人と恋人になれました。」
「へぇ〜、シンクロ率はパイロットのモチベーション次第で上がったり下がったりするからねぇ。
 上がる分には一向に構わないけど喧嘩したりして下げたりしないでね。」
「ロイドさん、人に対する気遣いと言うものを勉強し直しましょうか?」
「結構です。」

 へらへら笑いながらもランスロット命のロイドの興味はやはりスザクではなくデヴァイサーの精神状態。
 しかしながらあまりにデリカシーの無い言葉に、拳を作りながら尋ねるセシルの無言の制止を受け、それ以上は言うつもりはないと不機嫌そうに紅茶を啜り始めた。
 ロイドが黙ったのを確認し、セシルが我が事の様に喜びながら答える。

「良かったわねスザク君。」
「はい、ありがとうございます。」
「あ! 幸せなのも良いけどヤり過ぎない様に気をつけてよ?
 疲れててもシンクロ率落ちるか・・・いっつぅ〜!」

 思い出した様に叫ぶロイドが突如言葉を詰まらせ涙を浮かべる。
 セシルの笑みが先程よりも深まっている事とロイドがテーブル下の足を抱え込み始めた事から、机下の攻防がどのようなものか想像がつくが、自身の幸せの方が優先だとスザクはスルーして話を再開した。

「付き合い始めたのは昨日からなんですけど・・・告白事態はずっと前で、返事を貰うのが遅くなっちゃって。
 ずっと悩んでくれてたんです。直ぐに僕の言葉を切り捨てないで、ずっと一人で考えてくれてて・・・。」
「それだけスザク君の事を想ってくれてたのね。良かったわ。
 差し支えなければどんな子か教えて? 写真とかあるかしら。」
「写真・・・・・・ですか? えっと・・・今はあるのは先日行われた学園のイベントの写真くらいで・・・。
 単独で映っているのは・・・ああ、あった。」

 スザクが差し出した写真に二人は興味津々で覗き込む。
 そこには艶やかな黒髪を背中に流し振り返るドレス姿の少女がいた。
 瞳の色に合わせた藤色のドレスは妖艶さを醸し出し、けれど少女自身が持つ清廉さが中和しているらしく精神的な幼さも感じられる。鋭さを感じされる眼差しにグロスに濡れた唇。白い肌が際立つ美貌は、街角ですれ違ったら十人全員が一度振り返るだろうと思う程に魅力的だった。
 確かに言える事は文句なしの美少女だと言う事。スザクが喜ぶのも無理はないと納得しているとハイになっているのか、尋ねられていないのにスザクは語り始めた。

「美人でしょう? すごくモテるから絶対無理だと思ってたんです。
 それに障害のある妹をとても大切にしているから、恋愛なんてしてる暇ないって感じだったし。
 でもそのまま放っておいたら誰かに掻っ攫われる可能性が高いでしょう。
 そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、思わず彼を抱きしめて告白してたんです。」
「「え。」」
「暫くは僕を避けてるみたいだったから、もう親友として傍にいる事も出来ないと絶望してたんです。
 昨夜呼び出されて、拒絶の言葉を告げられるのが嫌で告白した事を後悔したんですけど・・・・・・逃げ出したくて後悔してるって言ってしまって、泣かせちゃったんですよ。
 泣いてる彼を宥めて、キスして想いを確認し合えたのは奇跡でした。他に誰もいない事を知っていたからそのままベッドへとも思ったんですけど用意何もしてなかったし、彼も驚くだろうし、僕も少し勉強してからと思って踏み止まりましたけどねv」

 幸せ過ぎて周りが見えてませんオーラを放つスザクとは対照的にロイドとセシルは少々固まっていた。
 今確かにスザクは言ったのだ。『彼』・・・つまり、写真に写る絶世の美少女の正体が男だと。
 彼の恋人が同性なのだと。
 しかし、スザクは終ぞ己の失態に気づく事は無かった。


 それから更に数日が流れた後、特派の様子を見に来たユーフェミアがスザクに恋人ができたと知り、少し淋しげに微笑みながら政庁に帰って行った。
 更に数日が流れた後に視察を銘打ってコーネリアが特派へとやってきた。
 抜き打ちで行われた視察に当然特派は大慌て。ロイドはへらへら笑いながらコーネリアを迎え、セシルは緊張しながら紅茶を出した。この時、スザクは直前まで行われていた実験の為に汗だくになっており、このままの姿で出るなと周りに言われてシャワー室にいた。しかしその状況はコーネリアにとって都合が良かった。
 元々視察の目的は特派ではなく、コーネリアにとって扱い辛い名誉ブリタニア人枢木スザクの素行を確認するものだったからだ。
 彼女からすればスザクは【ナンバーズのくせに可愛い妹を誑かす忌々しい男】だった。
 もしこのまま付き合いが深まればユーフェミアはスザクを恋愛対象として見るかもしれない。そんな事は考えるだけでも恐ろしかったが、もしも妹が本気で言い出せばコーネリアは反対し切れないかもしれない。
 しかし先日ユーフェミアは淋しそうにコーネリアに語った。

 枢木スザクに恋人が出来た

 コーネリアからすれば妹が名誉ブリタニア人に掻っ攫われる危険が無くなったと喜ぶべき出来事。
 しかし付き合いが浅ければ直ぐに別れてフリーになる可能性がある上に、実はその恋人というのがカモフラージュでコーネリアを油断させる為ではないかと考えられた。
 無論、スザクに他意などあるはずもなかったがコーネリアはそれほどスザクを知っているわけではなく、僅かでも可能性がある以上、彼女は妹の為に確認する必要があった。
 スザクとその恋人の関係が何処まで進んでおり、スザクの思い入れがどれほどのものかを。
 そして、その恋人がこの先スザクの心を惹きつけておける人間であるかを。
 直接学園を調査させる事も考えたがユーフェミアから聞いた話だけでは情報が少な過ぎた。

「直接の上官であるお前達ならが何かしら知っているのではないか?」

 スザクの恋人に関する詳細な情報をと問い詰めてくるコーネリアに黙秘は出来ない。
 相手は皇族である上に自分達がいるエリアの総督を務める程の権力者。
 況してや、スザク自身に危害を加える質問ではない。
 彼が恋人との幸せを満喫している姿を知っているからこそ大丈夫だと確信しセシルは語った。
 スザクが恋人を深く愛している事を。昨日も恋人らしいキスが出来たと嬉しそうに報告してきた事も話した。
 論より証拠とばかりに以前スザクが見せた写真も提出し、相手の美しさを誉め称え性別すら超えて愛し合っている二人を疑ってはならないと情感を込めて語るセシルは気づかなかった。
 話が進む度にこめかみに血管が浮き、写真を睨み続けるコーネリアの様子のおかしさに。
 気づいたのは紅茶を啜りコーネリアの形相が変わっていく様を観察していたロイドのみ。
 シャワーを終えて特派の制服に着替えたスザクがやって来るのを見止め、ロイドは相変わらず間延びした声で問いかけた。

「スザクく〜ん。君の彼氏ってコーネリア殿下のお知り合いだったりする?」



 * * *



《そうだ。話を切り上げたコーネリア総督に首を締めあげられながら生徒会室に連れて来られた。》

 特派でのコーネリアの様子は此処に来るまでに彼女の騎士に手短に教えられた。
 一体何があったのかが分かれば彼女が怒る理由はわかる。
 改めて見てわかってしまう。コーネリアの怒りはとてつもなく深い。
 それもそうだろう。
 死んだと思っていた異母弟が生きていたのは嬉しいが、よりにもよってナンバーズの、しかも同性である男と恋仲になっていると聞かされて平静でいられるわけがない。
 幸か不幸か。生徒会室にはルルーシュ一人。
 他のメンバーは私用で出ており彼一人が書類決裁を行っていた。
 構えた銃に迷いは見られない。彼女の邪魔をする者はいない。
 絶体絶命の危機にスザクは立たされている。
 コーネリアは突き刺すような視線をスザクに向けて再び話し始めた。

「マリアンヌ様そっくりのあの写真があったのは不幸中の幸いだ。
 一目見てルルーシュだと確信出来、こうして再会できたのは確かにお前のおかげと言えるかもしれないが・・・それでお前の罪が消えるわけではない。
 よくも私の弟を穢してくれたな!」
「最後の一線は越えてません。」
「当り前だ! 超えていたら話を聞いたあの場で撃ち殺していたわっ!
 しかしお前はルルーシュの唇を奪ったそうだな。しかも・・・・でぃ・・・深い口づけを交わしたと。」
「はい、しっかりディープで舌入れました。とても気持ち良かったです。ルルーシュも腰砕けになるくらいに感じてくれたので決して無理強いでは無いと思っております。」
「貴様の感想など聞いておらん! 弁明も受け入れん!!
 歯を食い縛れっ!!!」

《歯を食い縛る意味がありません。》

 既にコーネリアに言葉は届かない。
 わかっているだけにスザクは何も言えない。
 このまま人生は終わるのかと思いスザクは目を閉じた。

《やっぱりあの日に押し倒しておけば良かった。》

 走馬灯の様にあの日が思い出される。
 月明かりに照らされて、キスを終え頬を染めたルルーシュが見上げて来た時に感じた衝動。
 本能の赴くままに彼の身体に印を付け、何もかも染め上げたいという欲望を必死に抑えた自分の精神力が少し憎い。

 ドン!

 銃声と同時に床に叩きつけられた身体が痛む。
 胸にのしかかる重みにスザクは呻き目を開けた。

「スザ・・・生きて・・・・・・?」

 ルルーシュの涙を見るのは二度目。
 辺りに漂う硝煙の匂いと、泣きながら自分に縋りつくルルーシュに戸惑いながら額に手をやるが、予測していた濡れた感触はない。
 身体を起こし振り返れば壁に銃痕が見える。
 ルルーシュが騎士達の手を振り切ってスザクを横から押し倒した瞬間、弾が発射されたらしい。
 本当に間一髪だった事は銃口との距離を思えばわかる。
 単発式の銃は直ぐには第二射を発射できない。ほっと一息吐いてルルーシュを抱き返すとキチリと金音が耳元でした。
 横目で見ると鋭いレイピアが見える。
 剣先から辿って行くとその先には剣を構えたコーネリアが髪を揺らしながら睨んでいる。

《さっきより怖ひ。》

「ルルーシュの気持ちを考え、やはり祈りの時間だけはやろう。
 三つ数える間にこの世との別れを済ませろ。」

 結論は変わらんと数を数えるコーネリア。
 戦女神の異名を取る彼女は今度こそ外さないだろう。
 絶体絶命の危機再び。

 3

 2

「1!」



 ―――祈りの時間は後1秒


 END



 珍しくスザルルらしいお話「祈りの時間は後1秒」を書きました〜。(大笑)
 しかも皇族バレネタでもあります。
 その後の結果を書くと締まりがないのでお話としては此処で切りました。
 何だかんだと言ってギャグ交じりなのはSOSOGUテイストと言う事でお許し下さいませ。

 因みに、事態を知ったユフィとナナリーが駆けつけ、泣きつかれたコーネリアが剣を納めてスザクは命拾いという展開になります。
 その後の展開があるとすれば、結局連れ戻されたルルーシュはコーネリアの妨害でスザクと会いたくても中々会えなくなり、スザクもランスロットとのシンクロ率を下げてしまいてんやわんやの大騒ぎ。そのうちにラスボスのシュナイゼルお兄様が出てきて更に事態を引っ掻き回し、C.C.に「ギアスを使え。馬鹿者。」と言われるが、認めてもらう為には使えないとごねてゲットーへ駆け落ちして・・・という話になるでしょう。
 書く気ありませんけどねv
 無料配布SSのくせにめっちゃ長くなってしまいました。
 印刷がめっさ面倒です。再び自身の首を絞めたとわかっておりますが、こうして読んで頂けたと言う事は無事に印刷出来たという証。
 お手に取って頂きありがとうございました。
 普段はネットで活動しておりますのでよろしければ最後のURLへとお越し下さい。

 2008.1.7 SOSOGU

(2008.1.27 GEASSコンテンツにUP)