弟できました 後編 |
「お兄様、お米が全部零れちゃいました!」 「兄さん、火が大きくならないよ!」 《ああ・・・空が青いな。》 清々しい光を放つ太陽がグラウンドを照らしている。心地良い光を仰ぎながらルルーシュは現実逃避したくなった。 自分の身体・・・(主に足)に痛々しいくらいに傷を負いながらも何とかグラウンドに出て飯盒を手に入れた。 しかし早々に躓くのは本日のルルーシュの運命なのか。空の青さに意識を飛ばしながらも現実へと戻らなければならない。 ユーフェミアは米を洗おうとして洗剤を持ち出し、それを慌てて止めたものの配給された米を全部流しにあけてしまった。 ロロはロロで無理やりマッチの火を大きな薪に移そうとしては失敗し、箱の中のマッチはもう数本しか残っていない。 いや、マッチを擦ることが出来るだけでも上等というべきかも知れない。 現実に戻ったルルーシュは怒りに震えた。 「見事なまでに家事能力ゼロなのか。お前達は・・・。」 「だってご飯もオヤツ作りもコックの仕事ですもの。」 「パンも焼いた事ないもの。教えてもらったのはナイフの使い方くらいだよ。」 「間違っている・・・間違っているぞお前達! いいかユーフェミア。人に頼れば良い生活を送ってきたかもしれないがこれからは自分で出来る事も増やしていけ。 まずは米の洗い方だ。勢い良く飯盒を傾ければ水の流れに乗って米が流れ出るのは当然のことだ。 しかし米は少し重い。水に沈む米を刺激しないようにゆっくりと傾けて水だけ流せ。炊く為の水は別の器に入れて少しずつ飯盒に移せ。そうして調整するんだ。 ロロもいきなり大きな薪に火を移そうとしても無理だ。まずは燃え易い小さな小枝とその中心に直ぐに燃える新聞紙などの紙を組んでその上に軽く掛かるように2・3本だけ大き目の薪を組み込め。 薪を組む時に空気の流れ道が出来るように気をつけろ。」 「何で?」 「火は酸素が無いと消えてしまうだろう? 薪の中心部にも酸素が供給出来るようにしないと直ぐに火が小さくなって消えてしまう。 それを防ぐ為だ。火が大きくなれば大きな薪にも火が移る。それを見極めてから大きな薪を足していくんだ。 とにかく最初からやり直しだ。もう一度米と薪を貰いに行くぞ。」 どたっ! 答えてルルーシュが歩き出した瞬間、ルルーシュ達は転倒した。 足首が結ばれているユフィとロロも一蓮托生で倒れているが受身を取っている二人に怪我は見当たらない。 「うーわー思いっきり頭からいったよ。兄さん大丈夫?」 「もう・・・三人四脚のままだって忘れて歩くからよ。ルルーシュ起こしたら一度火の始末をしてそれから移動しましょう。」 「先に保健室行った方がいいかな?」 「生徒会長から最初の転倒の時に薬を貰ったから大丈夫よ。移動前に手当て出来るわ。」 最初のいがみ合いは何処へ行ったと言いたくなる位に意気投合している二人の姿は仲の良い姉弟の姿そのものだ。 それは喜ぶべきだろう。確かにイベントの効果はあったのだ。 何度も転んでは起き上がり転んでは起き上がりを繰り返していくうちに順調に前に進む為に協力し合い友情を深めたらしい。 だが彼らはとても大事な事を忘れていた。 「お前達・・・・・・先に俺を助け起こすとかしろ。」 弱々しいルルーシュの言葉に先にお米の炊けたグループがそっと涙を拭いていた。 * * * がきぃん! ナイトメア同士が組み合った瞬間、響いた音に皆が顔を顰める。 普通の組合ならいい。だが何故この状態で固まるのか。 「あのさぁ・・・ジェレミア卿? 目潰しかけてもセンサーは他にあるからあんまり意味無いんですけどねぇ? それ人間相手の急所でしょ。」 「スザク君も・・・股蹴り上げてもそこに男の人の証明はないからあんまりダメージ与えられないわよ。」 《《《いやいやそーじゃないでしょ。》》》 ロイドとセシルの突っ込みはまともに思えるが実際はまともではない。 確かにスザクのランスロットはジェレミアのサザーランドの股の部分を蹴り上げ、ジェレミアのサザーランドのマニピュレータは見事なほどにランスロットの、人間で言う目の部分に突き刺さっている。 そこから察せられるのは互いに憎しみ合っているという事。 何故かはわからないが二人は互いに敵意を抱いている。それも尋常じゃない殺意。 ナイトメアの破壊に至らないのはこれが演習であり破損を避けろと厳命されているからなのだ。 最後の理性が破壊されれば演習を忘れて二人は互いに潰し合いを始まる。 それは避けねばならないとロイドもわかっているのか拡声器を手にのんびりとした声で呼びかけた。 「あのね〜二人とも。これ演習、お仕事、プライベートは持ち込んじゃダメだってば。」 「この男は今まで我が君を視界に収めてきた。私が傍にいられない間もずっと! 今のは演習後の奴の末路を披露しただけのこと。口出ししないで貰おう!」 「僕としては大事な人に近寄る男は全員不能にしてやりたいんですよ。この後で実際に止めさしますので放っておいて下さい。」 《《《え、ちょっと待って。それどーゆう意味かなスザク(くん)。》》》 まだジェレミアの言い分はロイド達にはわかる。 元々彼との演習はクロヴィスの後押しがあって行われる事になったのだ。背後に彼が関わっているということはそれは即ちルルーシュが絡んでいるということを意味している。 未だ日本とブリタニアとの戦争の火が燻っている状態でロイドと、事情を知らない者達が言えることは唯一つ。 「「「放っておけるかぁああっ!!!」」」 物騒な二人の宣言にその場にいた全員が声を揃えて絶叫した。 だが、その後もまるで夫婦喧嘩の様な戦い方を繰り広げるナイトメアの姿にロイドが涙を浮かべることになったのだった。 「僕のランスロットが〜。」 これは最早ナイトメア同士の演習ではない。 ルルーシュを賭けた男の戦い・・・・・・と言うには、あまりにも情けないナイトメア戦となった。 * * * 焦げ焦げながらも何とか炊き上げたご飯。 疲れた。実に疲れたが嬉しそうにカレーを食べる二人にルルーシュは久々にアリエスの離宮での生活を思い出した。 母マリアンヌが作ったサンドイッチをバスケットに詰めてピクニックに出かけたあの日。 ルルーシュは何とかその日の父シャルルのパパ呼びおねだりを回避し仲の良い兄弟達と花園を歩いた。 お腹が空いて開いたバスケットにはルルーシュが好きな海老マヨサンド。クロヴィスと取り合いユフィやナナリーは二人のやり取りに笑い、シュナイゼルやコーネリアも微笑みながらマリアンヌと談笑していた。 《懐かしい。》 現在、父であるスザクとも食卓を囲んでいるがいつも二人きりだ。 寂しい訳ではないがブリタニアに住んでいた時の賑やかさを思うと静かだと思う。 「また、こんな時間が持てるとは思わなかったな。 もう少しだけこの時間が続くと良いのに。」 不意に零れた言葉。 本当にポロリと出た本音には違いないが現状としてそれは適わない。 しかしその言葉をルルーシュの弟妹(兄弟の日限定)二人は聞き逃さなかった。 「ロロ、聞きましたね。」 「ユフィも聞いたね。」 兄弟の日のクライマックス。組んだ兄弟を褒め称えるグループが何組かおり、かなり恥ずかしい告白も交え盛り上がっている。 当たり前の様に嫌がるルルーシュを無理やり引っ張りエントリーした二人はルルーシュに兄としての言葉を考える様にと言って、今は距離を置いて二人だけで話している。 一見すると仲の良い弟妹。 最初の二人の様子から色々と気にかけていた生徒会メンバーも微笑ましそうに二人の邪魔をしないようにと他の生徒達に伝えステージの周りを駆けずり回っていた。 つまり、今二人の会話を聞く者はいない。 「私は、ここまで来た以上ルルーシュを置いて本国に帰る気ありません。短期留学はお姉様に納得して頂くには仕方の無いラインでしたが出国後にマリアンヌ様が説得して下さることになっているのでこのまま日本に残る予定です。」 「やっぱり僕の事、マリアンヌ后妃から聞いてたんだ。」 「当然です。貴方が私とルルーシュの護衛を兼ねている事も。 見事な演技でしたわ。ルルーシュは私の事を全く疑っていないようですし、貴方の事も同じく疑っていないようですし・・・。」 「マリアンヌ様は僕にこのまま学園に留まる様にとおっしゃられていました。 万が一の時に学園で対応出来る人員が欲しいと。」 「それは建前ですね。マリアンヌ様がロロには学生生活を楽しむように伝えて欲しいと、お言葉を頂いていますから。」 「え? でも僕は此処へは任務で行くようにと。」 「そうでも言わないと貴方が頷かないと思ったからでしょう。 『いきなりで戸惑うかもしれないけれど、好きな様に生きるように。』って。それから『V.V.は私がきっちりお仕置きしておくし貴方の弟妹分も大丈夫よ。』とおっしゃられていたのだけれど・・・誰? V.V.なんて変わった名前ね。」 「お仕置きって・・・・・・マリアンヌ様って何者?」 「ルルーシュとナナリーのお母様で私にとってもお母様に当たる方よ。」 「いやそうじゃなくて・・・・・・っ! 失礼しました皇女殿下。」 「敬語は止めてロロ。私は今はユフィ・ランペルージ。貴方の親戚。 いきなり距離を作られると悲しいわ。貴方は今は私の弟。違う?」 「僕が弟なの? 学年同じなのに。」 「ええ! 私がお姉様☆ ルルーシュがお兄様だもの。 間に私がいる方がバランスが取れていいじゃない?」 「あ、そろそろ僕達の出番だ。兄さんが呼んでる。」 「いけない。私達の台詞考えるの忘れてたわ。何が良いかしら?」 「決まってるよ。兄さんの番が終わった後にね・・・。」 ロロがユフィの耳元に口を寄せ囁く。 彼のアイデアにユフィが大喜びで抱きつく姿に遠目で見ていたルルーシュが微笑ましそうに見つめていた。 * * * 祭りでの経緯はしっかりと聞いた。 しかしだからと言って納得できるかというとそうではない。 枢木スザクの眉間に皺が寄る。世にも珍しい光景にルルーシュは怯えていた。 《これは本気で怒ってる・・・。》 「それで?」 声が硬い。 今までルルーシュが聞いたことの無い・・・いや、久しぶり過ぎて忘れていた。 以前、ルルーシュがまだスザクに引き取られたばかりの頃にこの声を聞いている。 戦争回避が確定した日本はまだ世情が不安定で治安低下を免れなかったのだ。 公立小学校へ通う事が決まったもののルルーシュは影からSPに守られ登下校していたのだが、ある日のこと。友人のリヴァルと別れた瞬間を狙ったかのように突っ込んで来た車の男達に攫われてしまったのだ。 初めはブリタニア関係者かと思われたのだが、ルルーシュが枢木家に引き取られた事を知った日本の過激派が営利目的も兼ねて当時首相だったゲンブに揺さぶりをかける為に起こした事件だった。 あの時、助けに来たのはゲンブが手配した警察でも桐原のSPでもなかった。 ルルーシュを助ける為、単身で誘拐犯のアジトに突っ込んで来たスザクは犯人達を一人で行動不能にした挙句、ルルーシュを盾に逃げようとした首謀者を締め上げ言った。 『俺のルルーシュに手を出すな。』 あの時、底冷えしそうな冷たい声を聞いたルルーシュはぞっとした。 抑えきれない怒りの炎を瞳に宿し誘拐犯を殺しそうな勢いで締め上げていたスザクの姿は恐ろしかった。 けれど最後の一人を行動不能にした次の瞬間、恐怖で動けなかったルルーシュはスザクに抱き締められていたのだ。 先程まで違う暖かな涙がルルーシュの首元を濡らした。抱き締められた身体が震えているのは自分が怯えているからではなくスザクの身体の震えが伝わっているのだとわかり、急に力が抜けていくのを感じた。 温かな身体の温もりがルルーシュの心に生まれた恐怖を追い払っていく。 この時、何故かはわからないがルルーシュは答えた。 『心配かけてごめんなさい。』 ルルーシュの言葉にスザクはどう思ったのかはよくわからなかったが、瞠目したスザクがひたすら『無事で良かった。』『遅くなってゴメン。』『もう大丈夫だから。僕が絶対守るから。』と警察が現場に踏み込むまで繰り返しルルーシュに言い続けた。 もしかしたらルルーシュにと言うよりも、自分自身に言い聞かせる為の言葉でもあったのかもしれない。 言葉通りスザクは何時だってルルーシュを助けてくれた。 事件前にも心を許せる相手だと理解しつつあったが、誘拐事件を切っ掛けにルルーシュは完全にスザクを信頼するようになった。 思い返せばあの時以来だ。 スザクの本気で怒っている声を聞くのは。 だが、それでもルルーシュは改めて告げねばならない。 ごくりと生唾を飲み込み、ルルーシュは再度言った。 「だから・・・ユフィとロロをこの家に住まわせたいのだが・・・・・・。」 「ルルーシュ、自分だけで責任持って対応出来ないなら元の場所に返してきなさい。」 「僕らは犬猫じゃないんですが。」 「私はユーフェミア・リ・ブリタニアですよ!?」 ロロとユフィが兄弟の日で言い出したのは『ルルーシュと一緒に住みたい☆』というかなり無茶な希望だった。 その前にルルーシュが社交辞令を兼ねて『今後も兄弟の様に付き合っていきたい。』と言ったのが更に二人を調子づかせていた。 いざ断ろうとすればユフィは本名を明かし、学園では皇女として入るつもりはないと断言し、大使館に頼らずに住むのにセキュリティ面で強固なルルーシュとスザクの住まいが非常に最適だとロロが指摘したのだ。 ユフィのボティーガード役でもあるロロとユフィのごり押しに断り切れず、ルルーシュが困り果てながらもスザクに二人の希望を告げたのは異母妹であるとか、イベントでの即席兄弟の間柄故でもない。 単純に情に絆されただけ。 情けないとは思うがルルーシュは基本情に弱い。これが同母妹のナナリーのおねだりだったら即答してスザクの説得に乗り出していたところだ。 しかしスザクの言葉も無視できない。ルルーシュにとってスザクは実の家族と同等、もしくはそれ以上の存在になりつつあった。 「君らは黙ってなさい。これは親子間の問題なんだ。 特に皇女殿下は国際問題に発展しかねないので大使館に戻って下さい。 ルルーシュ。今日、僕は君の親権を賭けて戦ってきたんだ。」 「親権? だが俺は・・・・・・。」 「向こうがどういうつもりかはよくわからないけれど確かに家庭崩壊の危機があったんだ。」 「あら、やっぱりクロヴィスお兄様が動かれましたのね。お姉様にきつく釘を刺しておいて頂かないと。」 「やっぱりってユフィどういう事?」 「ロロは知りませんか。てっきり伝言を受けていると思っていたのですが・・・。」 「ちょっと待て、ユフィ。俺や父さんにもわかるように説明しろ。」 「えーっとぉ。これはマリアンヌ様からのお話なのですが、そろそろ白いロールケーキが気づきそうだと。」 「僕も本当はその関係で送り込まれる予定だったみたいなんですけど・・・マリアンヌ様が僕の上司を止めて要人警護の役を勤める様にと。」 「と、言うのは建前で単に弟分のロロに人並みの学園生活を楽しませてあげたかったらしいです。 多少の仕事はお願いするけど基本的に高校生らしく生きなさいって♪ 私が学園に入りたがっていたのも都合が良いからお姉様の説得役を買って出て下さったの。本当はナナリーも連れて来たかったけどお父様が絶対ダメって言うから諦めたわ。」 「つまり君達はそのマリアンヌ様の命令もあって此処にいると、そう言いたいのかな。」 「「はい☆」」 見事なタイミングで同時に答える二人から目を逸らし、スザクはルルーシュに向き直った。 わずかな沈黙がルルーシュに重く圧し掛かる。 「ルルーシュ、君はそのマリアンヌ様という方を知っているみたいだけど。 話してもらえるかな。」 言えない。下手を言えば自分の身分がばれてしまう。 もしかしたら既に感づいているのかもしれない。それでもルルーシュから自分の出自を言う事は出来なかった。 今まで自分の出自を関係ないと共に暮らしてくれたスザクとの時間が、思い出が崩れ去ってしまうような不安が胸を支配する。 「・・・僕には知る権利があると思うけど?」 それも事実だ。 散々名前を出されてスザクが聞かないわけがない。 話さなくては今後の事も決められない。 ルルーシュは観念して重い口を開いた。 「俺の・・・母だ。」 「C.C.さんは?」 「母の友人だとわかっているが、それ以上の事は俺も知らない。 今どうしているかもわからない。」 「C.C.なら出国前に会いましたよ。枢木首相に伝言頼まれてます。」 「何だって!? それじゃあ同盟問題は完全に解決したのか!!?」 ロロの言葉にルルーシュは思わず叫ぶ。 ならば対応も変わってくる。屈辱的だがロールケーキにおねだりして日本にいられるように策を弄しなくてはいけない。 マリアンヌや心配してくれている兄弟姉妹には申し訳ないがルルーシュとしてもスザクと離れて暮らす事はもう考えられなかった。 期待の言葉をロロの口から零れるのを待つルルーシュの顔は喜色に満ちている。 その事にちょっぴり複雑そうにユフィとスザクが睨む中、ロロは答えた。 「えーと確か・・・『桜ピザの開発よろしく☆』って。」 ・・・・・・・・・・・・。 再び沈黙が降りた。 意味を反芻する為に黙り込むルルーシュに代わりスザクが問い返す。 「ロロ、それだけかい?」 「はい、これだけです。」 「何考えてるんだあのピザ女ぁあああっ!」 「ルルーシュ落ち着いてv」 「落ち着けるか! ユフィ、君はわかっているのか!? 問題は全く解決していない。俺はこれからも狙われ続けるって言うのか!?」 「やっぱりルルーシュがマリアンヌ様に似て生まれたのが一番の理由みたいね。 ナナリーも似てないわけじゃないけど一目でマリアンヌ様の子って断言できるのルルーシュだもの。それプラスツンデレ萌えがどうのとマリアンヌ様が笑いながらおっしゃられてたわ。ルルーシュ凄く綺麗になったし今会ったら益々暴走が酷くなると思うの。 だから敵の目を欺く為にも良いとのではないかしら。 私がいるところという事は一度はブリタニアが調べた後という事になります。 少しの間だけかも知れないけれど時間稼ぎ出来るわ。協力者もいますしね。」 「けどユフィ、父さんの言い分を聞かないと。」 ユフィの言葉は全く説得力がないわけではない。 暗にシュナイゼルやコーネリアの協力もあるとルルーシュに伝えてきている。 その意味を理解しているのはルルーシュとロロだけだ。スザクにはわからない。 どうやって説得したものかとルルーシュが思い悩んでいると先に話し出したのはスザクだった。 「ルルーシュ、さっきも言ったが僕は今日は親権を賭けて戦ってきた。 C.C.さんの契約にあった日本とブリタニアの同盟成立はまだ時間がかかりそうだと父さん・・・現日本国首相からも話が来ている。 今後、揺さぶりをかけて来る奴らがいるだろう。」 「父さん・・・・・・。」 顔が見られない。 急に父が他人になったような気がしてルルーシュは俯いた。 自分は見ていないがスザクの視線が自分に突き刺さる。 「でもね。僕は誰にも君を渡すつもりはないよ。」 ! これまでの様な生活は望めないのか。そう思い唇を噛み締めるルルーシュの耳を打ったのは、いつものスザクの声だった。 言われた内容にも驚き思わず顔を上げるとそこには何時もの優しげな微笑を浮かべたスザクがいた。 「ルルーシュはまだ僕と家族でいてくれる?」 「当たり前じゃないか! 俺にとっての父さんは父さんだけだ!!!」 「ルルーシュ!」 ひしっ☆ 再度の親子の絆確認。 抱き締め合う二人を引き剥がしたいが此処で話を抉らせれば自分達は追い出されてしまう。 ロロとユフィはぐっとルルーシュと取り返したい衝動を押さえ込み呟く。 「ロールケーキが泣きますね。」 「泣いちゃうわね。」 その言葉は聞いていたのかいないのか。 スザクは再び厳しい顔で二人に告げる。 「良いだろう。君達の提案を受け入れる。 だが一人一部屋にするには部屋の数が足りない。よって部屋割りは・・・。」 「あ! 私ルルーシュと同じ部屋!」 「僕が兄さんと同じ部屋だよ!」 ぴきっ♪ 二人の主張にスザクこめかみから音が鳴る。 「ルルーシュは渡さないって言っただろう・・・。」 「父さん落ち着いて!」 やっと降りた許可が取り消されない様にルルーシュは必死にスザクに縋りつくのだった。 * * * 神聖ブリタニア帝国には皇族専用のプライベート回線なるものが存在している。 帝国の支配者である彼らは時には政策のプロパガンダになったり連携を取って交渉を有利に運ぶ為にも密に連絡を取る必要があった。 それは今も昔も変わらない。時代が変わって通信手段が変わった以外、変更は無いのだ。 そしてクロヴィス・ラ・ブリタニアは大使館の通信機前に座っていた。 背中はちょっぴり丸まりいつもの華々しさと尊大さは見られない。 彼はモニターに映る黒髪の女性を不安げに見上げていた。 『どういう事かしらクロヴィス。何故勝手にジェレミア卿を嗾けたの?』 「いえあの・・・・・・彼が本当にルルーシュを守るのに相応しいとは思えなくて・・・。 結果的に負けてしまったようですが際どい勝負だったそうです。私としては臣として皇族への忠誠心が厚いジェレミアの方が良いと思うのです。どうかマリアンヌ様、私達にルルーシュを預けて下さいませんか?」 必死の弁明をするクロヴィスに何を思ったのか。 モニターの中の女性、神聖ブリタニア帝国第五后妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは悲しそうに目を細めて答える。 『私の見立てに不満があったのかしら。』 「枢木スザクはマリアンヌ様が選んだ人物だったのですか!?」 『いいえ、私の友人よ。けど彼女に一任したのは私だから私自身の責任になるの。』 「一体どういう基準で・・・。」 『ルルを愛して守ってくれそうな頑丈そうな人。 時間も無かったし、ちょっと突き抜けてルルがぱくっと食べられそうだけど。』 「それ滅茶苦茶危ないじゃないですか!!!」 『良いじゃない。大人への階段の上り方も人それぞれって事で。』 「良くないです! 早速私はルルーシュを助けに行ってきます。」 『それはダメだよ。クロヴィス。』 新たな声に引き止められクロヴィスはモニターに映る男性の姿に瞠目した。 神聖ブリタニア帝国第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア。 宰相を務める彼に暇な時間は無いと言われるほどに忙しい兄の姿を前にクロヴィスは動けなくなる。 「兄上!? 何故この通信に・・・いえ、貴方まで何を・・・・・・。」 『君が余計な事するからフォローしている間に同盟成立反対派が動いてしまったんだよ。 一手遅れてしまった分、ルルーシュが本国に帰って来られる日も遠のいてしまった。』 「そんな・・・。」 『と、言うわけでクロヴィス。貴方は直ぐに本国に帰って来なさい。』 マリアンヌが追い討ちをかける様に命じるがクロヴィスとしては頷けない。 《ルルーシュに危機が近付いていると知った以上、引き下がるわけにはいかない。》 「私には大使としての仕事があります。」 『それ、大半はルルーシュにやらせていたのだろう?』 ぎっくん シュナイゼルの言葉にクロヴィスは心臓が一際大きく脈打つのを感じた。 書類の最後のサインはいつも自分がしていたし、それ以外の部分もルルーシュがそれなりにクロヴィスのものに似せて書いていた。 完璧ではないにしろ一見して直ぐにばれるようなものではない。 ここは誤魔化すべしとクロヴィスは笑いながら答えた。 「や・・・やだなぁ兄上。7歳も年下の、しかもまだ高校生のルルーシュにそんな仕事させられるわけないじゃないですか。」 『残念ながら証拠は挙がっているんだ。君の書類があまりにも完璧すぎるので最後のサイン以外で直筆部分の筆跡鑑定をさせてもらったよ。完璧なものは全て別人のものだ。念の為にルルーシュの書いた書類を部下に入手させて鑑定した結果、ルルーシュのものだと判明したよ。』 用意周到な兄が証拠を押さえていないわけが無い。 わかっていたはずなのに悪足掻きをしてしまうのは何故だろう。 悲しくなりながらクロヴィスは項垂れて椅子に沈み込む。そこに更に追い討ちをかけたのがマリアンヌだった。 『シュナイゼルと話していたらコーネリアに聞かれて・・・激怒してしまったのよ。 年離れた弟の、しかも学生であるルルーシュに自分の仕事を押し付けるなんてって。』 《それ、本当は聞こえるように話してたんじゃ・・・。》 悪戯好きのマリアンヌのことだから面白がってコーネリアを焚き付けた可能性が高い。 それでも慕ってしまうのは何故だろう。困ったように微笑みながら話すマリアンヌの肖像が描きたいと画家としての衝動を抱きながらもクロヴィスはまだ諦めたくはなかった。 《ルルーシュの為にも、兄として守りたい。》 『出来てしまうルルーシュが凄すぎるのはわかるよ。だけど直ぐに戻っておいで今なら私が弁明してあげよう。 後任の大使はコーネリアが就く事が決定している。明日正式辞令が降りるから荷物を纏めておきなさい。』 「そんな・・・・・・。」 『大丈夫よ。対策はしてあるもの☆ 今頃ユフィが頑張っているわ。』 《それが一番不安なんです。》 ウィンクしながら言うマリアンヌにクロヴィスは言葉を返す気力も失った。 * * * 「日本の寝具って本当に床に寝るタイプのものなのね。」 「ユフィ、本当に良いの? 皇女殿下が男性と同室で寝るなんて本国に知れたら・・・。」 「大丈夫よ。いつもの事だと皆笑って許してくれるわ。」 「皆笑って諦めているの間違いだろう。一応女性なんだから衝立は譲らないぞ。」 さて、あれから部屋割りで紛糾した四人は最終案で妥協した。 一番広いスザクのトレーニングルームを兼ねた部屋を寝室として開放し四人で布団を並べて寝る。 これにはルルーシュとスザクが一番に反対した。 ルルーシュは年頃の女性が同年代の男と同じ部屋に寝るなんてと猛反発した。 ユフィの名誉の為にも彼女は別の部屋にと叫ぶルルーシュに加勢したのはスザク。 単純にルルーシュに近づけさせないという思惑が働いていただけなのだが、ルルーシュはソレに気づいていなかった。 ユフィを離れさせれば護衛であるロロは自動的に彼女の傍の部屋に入らなくてはいけなくなる。 隣り合う部屋ともう一つの空き部屋は離れているし、あまり広い部屋ではない。だが離れている部屋はスザクのトレーニングルームで広く二人で使っても広さに問題は無い。 つまりはスザクとルルーシュの相部屋が自動的に決定するのだ。 その事に気づいたロロは数で負けてはいけないとユフィを指示したのだ。 二対二では決着が着かない。 妥協案を出し合う中、どこをどうしたらこうなってしまったのかわからないが、衝立付きでの寝室共同利用となったのだ。 スザクとしては不本意だがユフィとロロに泣き落とされたルルーシュを困らせたくないと言うのも事実。 仕方なく布団の準備を始めたのだが・・・・・・。 「私だけ別にされるなんてやっぱり寂しいわ。」 「同じ部屋じゃなきゃ駄目だとお前達がわがまま言うからこうなったんだ。これ以上は譲歩しない。」 「兄さんの隣は僕ね。」 「ずるいわロロ。ルルーシュ、衝立側に寝てね。」 《ちょっとキれてもいいかなぁ。》 「君達、何を勝手な事を言っているんだ。ルルーシュは壁際ね。僕の隣に寝る様に。 ロロ、君は護衛だから衝立側に寝るんだ。」 「ずるい! 兄さんを独り占めする気ですか!?」 「私達もルルーシュの隣で寝たいです!」 《ああそうだよ。君達のおかげで手が出せないよ。 最後の理性を強固にしてくれて有難う。だけどルルーシュを譲る気は全く無い!》 以前よりも更に独占欲がパワーアップしている。 わかっているが止められない。 《けど今夜から毎日ルルーシュの香りに包まれた夜が始まる。》 スザクの理性が焼き切れるのが先か、それともルルーシュが恋人を作るのが先か。 葛藤を抱えるスザクの隣でルルーシュは彼らの攻防戦の本当の理由に全く気づいていない様子で微笑みながら二人を宥める。 「ロロ、ユフィも我侭言うな。君達の立場を思えばこれが最大限の譲歩なんだ。 ユフィの隣にロロが寝てても護衛の為と説き伏せる事が出来るだろうが、俺と父さんはそうは行かないだろう。」 「だけど・・・それなら僕の隣に兄さんがきてくれても。」 「駄目。絶対駄目。」 空かさず断言するスザクにロロが睨み返すが蚊ほどにも痛くない。 《同性異性なんて関係あるか。ルルーシュと同じ部屋ってだけでも本当は許せないのに。》 「本当のところ僕はまだ君達を信用したわけじゃない。 確信が持てるまでルルーシュは壁際で僕の隣ね。」 「父さん心配し過ぎだよ。」 「朝起きたらルルーシュがいなくなってて僕一人なんて落ちはご免だよ。 それじゃあ明かりを消すから皆布団被って。」 「おやすみなさいルルーシュ。」 「おやすみなさい兄さん。」 「おやすみ。ユフィ、ロロ。」 二人に声を掛けるルルーシュの優しさは理解しているが、理性と感情は別であり二人に嫉妬する心は否定できない。 自分にはないのかと暗闇の中、布団に入ると頬に触れる湿り気を帯びた温もりを感じた。 「おやすみ、父さん。」 普段なら絶対に恥ずかしがってやってはくれない。 暗闇の中だからこそ行われたお休みのキスにスザクは嬉しくなってルルーシュを抱え込むようにしながら眠った振りをした。 鼻腔を擽るシャンプーの香りがまた興奮を促す。 《ああ、やっぱり理性が焼ききれる方が先かも。》 それ以前に寝不足で倒れるかもしれないと思いながらスザクは至福の時を味わった。 * * * ひっく・・・うっく・・・・・・ 暗い地下の中、幼い子供の泣き声が響く。 地下とは言うが狭くはない。幾つもの建物が立ち並びちょっとした町がすっぽり入っているかのような広々とした空間。 この地下の施設は世界から知られぬように慎重に隠されていた。 ギアス嚮団 遥か昔からギアスの存在を知った者達がその正体を探る為に作った研究機関である。 その嚮主として崇められているのはコードを持つ者。 他人にギアスを与える事の出来る不老不死の肉体を持つ者。 現在確認されているのは二人だけ。一人はC.C.という名の少女。 もう一人が、今泣いているただの子供にしか見えないV.V.という少年だ。 実際は老年と言っていいくらいに年を重ねているV.V.だ。しかも一度、この世の地獄とも思える帝位争いを生き抜いた彼が涙を流すのは稀だ。 少なくともC.C.がV.V.の泣き顔を見たのはこれが二度目だった。 「もう泣くな。シャルルには知られていないのだろう?」 「だって・・・マリアンヌが凄く怒ってて。シャルルに言いつけるって・・・・。」 「次に勝手な真似をしたら、と前置きしていただろう。大丈夫だ。 マリアンヌは約束は守る女だ。お前達の望みの為にも協力を惜しまないだろう。」 「でも・・・・・・。」 「どうして枢木スザクをロロに暗殺させようとしたんだ。」 「アイツがいるから・・・ルルーシュは帰ってこなくてシャルルが悲しんでいるんだ。 僕はお兄ちゃんだからシャルルの為に、シャルルの幸せの為に頑張らないと。」 「それが契約でもあるから、か?」 「帝位争いの地獄の中で僕らは誓ったんだ。」 仲の良い幸せな大家族を作ろうって。 《いや・・・だからと言って后妃108人は多すぎだろう。》 大家族になり過ぎて再び争いが起きている現実が彼らには見えているのだろうか? とてもそうは思えないC.C.は突っ込みを入れたくなるが、下手に癇癪を起こされては新たなギアス能力者を日本に送り込みかねないV.V.を宥め、根気良く話を続けさせる。 「それにロロにもそろそろ仕事してもらおうと思ってて。 本当なら七年前に暗殺者デビューしているはずだったのにルルーシュ行方不明の騒ぎで機会を失って、ルルーシュの情報収集の為にロロの体感時間停止能力が必要だからって言われて。 そのままズルズルは良くないからロロを呼んで枢木スザクを抹殺してって言ったら丁度マリアンヌが乗り込んできてロロを勝手に連れて行っちゃって、後でそんなやり方でルルーシュを無理やり連れて帰ったら益々シャルルがルルーシュに嫌われて落ち込んじゃうから駄目だって。実行したらこの先シャルルに許してもらえないし計画段階でも今回の事を知られたら嫌われるかもって。・・・ヤダよ。たった二人の兄弟なのに、僕にはシャルルしかいないのにマリアンヌはシャルルを連れて行っちゃう上に僕が嫌われるなんて意地悪言って、ヒドイよ。」 「意地悪じゃない。実行していたら事実そうなっただろうと私も思う。」 「そんな!」 「だが実行していない。マリアンヌも言わない。 だから大丈夫だ。シャルルはいないが私は傍にいてやるから。」 「コード持った者の好で?」 「文句言うな。時の流れに取り残された者同士仲良くやろうじゃないか。」 V.V.を抱え込むように抱き締め、軽く背中を叩いてやると落ち着いてきたのかV.V.は目を細めて言った。 「C.C.君は・・・。」 「何だ?」 「・・・・・・ピザ臭いね。」 ごん! 思わず殴ってV.V.を気絶させてしまったC.C.は傍に控えていた研究員にV.V.を預け言った。 「私は悪くないぞ。」 そうだ。悪いのは自分ではない。 折角慰めてやっていたのにピザ臭いなどと言ってC.C.の心を傷つけたV.V.が悪いのだ。 「ああムシャクシャする! 枢木め、桜のピザをとっとと作って持って来いっ!!!」 ズンズンと地を踏みしめ怒り心頭で嚮団を出て行くC.C.を止める研究員はいなかった。 * * * 母さんへ 俺は今日も元気です。毎日楽しく、そして最近は賑やかになりました。 万が一他人の目が触れる事があってはいけないので詳しくは語れませんが、一つだけ報告したいと思います。 先日、学園で行われたイベントで弟が出来ました。 いつか父さんも連れて皆に俺の家族を紹介したいです。 皇暦2017年×月○日 ルルーシュより END 多分、短編扱いになる中では最長記録。(既に中編と呼ぶべきかもしれませんが。) 好き勝手書き過ぎて収拾つかなくなりました。(汗) まとまり悪くてすみません。 2008.10.29 SOSOGU |