「スザクの悩み」相談室 遅れまくっていたバレンタイン話です。 今更ですが途中まで書いていたので仕上げてUPでふ・・・。 |
はぁあああ・・・・・・ 研究室全体に響き渡る大きな溜息にまたかとロイドは天井を仰ぐ。 傍らにいるセシルも苦笑しながらバインダーを置き、溜息の元へと声を掛けた。 「スザク君? 悩みはまだ解決しないのかしら?」 机の上に顔を突っ伏したままスザクは起き上がらない。 いつもなら礼儀正しく顔を上げ、真っ直ぐに相手を見返しながら答える彼が浮上してこない理由は研究員全員が知っている。だからこそ誰も慰めないし声を掛けない。言っても無駄な上に疲れるだけだからだ。 しかし本日の実験はラクシャータ率いる『紅蓮』開発チームとの合同演習によるもの。普段ならない突込みが入れられた。 「あのさぁ。こっちのテンション下がるからいい加減にしてくれない?」 「カレンは僕の悩みなんてどうでもいいだけだろ。」 「当然。くっだらない事で悩んでいる男のお守りなんて御免だもの。」 赤いパイロットスーツに身を包んだカレンは肩を竦め答える。 彼女の言葉は当然と言えた。 何故ならスザクの溜息の原因とは・・・・・・ 「可愛い義理の息子のルルーシュが今年はチョコを用意してないからって落ち込む方がおかしいわよ。」 「僕にとっては大問題だっ!!!」 * * * 全ての始まりは2月の初め。 日本では女性から男性へと贈る事の多いバレンタインデーだが、時代の流れとルルーシュがブリタニア人であることから枢木家の父子では子が親にチョコを贈る日となっていた。 実際はそんな心温まる行事ではなく、セシルのとんでもチョコを恐れたスザクを案じてルルーシュが始めた習慣というのが正しい。 セシルがいる限り、もしくはルルーシュがスザクから離れるまでは終わる事の無いと思われた毎年のバレンタインチョコ作り。 今年はチョコレート作りの雑誌や本を読まないルルーシュにスザクが気付いたのは直ぐだった。 「あれ・・・・・・? ルルーシュ。今年はバレンタインの準備はしないの?? いつもなら新しいレシピに挑戦するって本読んでるのに。」 「ああ。今年は本は必要ないから。」 何でもないように答えるルルーシュに動揺を悟られてはならない。 スザクは叫びだしそうになるのを必死に自制し、心を落ち着かせた。 《落ち着け、別にルルーシュは料理上手だからもう必要ないってだけで。 今年はくれないってわけじゃないし。》 「そう、なんだ。」 「何しろ今年はあげる相手が多いし、凝ったものは作れないさ。」 「あげる相手が・・・多い?」 《待て待て待て! 基本的にルルーシュは僕以外にチョコを渡すことなんて無かったはず。 生徒会の友達なら今までもあげてなきゃおかしいし、他にルルーシュがチョコにあげたくなるほど親しい人なんて・・・・・・精々桐原のじいさんと父さんくらいじゃないか? それだって有り得ない。有り得ないよっ!!!》 「あの・・・・・・ルルーシュ。今年は僕、ルルーシュ特製の生チョコが食べたいんだけど・・・。」 敢えてリクエストしたのは無意識だ。 ルルーシュが笑顔で応えてくれれば気にする必要はない。けれど・・・ 「悪いが今年はリクエストに答えられそうにない。 ゴメン、父さん。」 止めを刺されたスザクはよろよろとした足取りで自室に戻ったのだった。 * * * そのうちにエクトプラズムを口から吐き出している姿が目撃されそうなほど落ち込んでいるスザクに誰もが溜息を吐く。 その中で唯一の例外。普段ならいない金髪の青年・・・ブリタニア本国から特別出張で日本に来たナイト・オブ・ラウンズの一人ジノ・ヴァインベルグが頬を指で掻きながら唸った。 彼が戸惑うのも当然と言える。 ランスロットの仕上がり具合を確認する為に皇帝の護衛騎士であるラウンズを駆り出すくらいだからさぞかし重要な機体なのだろうと期待してくれば肝心のパイロットにやる気が見られない。本日は紅蓮弐式との合同演習もあると聞いていたのにやはりパイロットの態度に変化は無いとくれば拍子抜けだ。 日本に来たついでにとこちらの学校に短期留学していなければ退屈な日々を期限が来るまで過ごすだけになっていただろう。 ところがセシル達はいつもはこんな事はないという。 その原因がチョコレートと言われれば首を捻らざるを得ないだろう。 「そんなに欲しいものですかねぇ。チョコレートって。」 「というよりも・・・ルル君からというのがポイントのようです。 実際、ご相伴に預った事がありますがパティシエ目指せそうな味でしたから。」 「だったら私の家専属のパティシエに依頼しておくぞ?」 「ヴァインベルグ家のパティシエなら腕は見事でしょうねぇ。 でもざーんねんでした! そういう問題でもないってことですよぉ。」 「ロイド伯爵にはスザクがあそこまで落ち込む理由がわかるんですか?」 「僕というより・・・ヴァインベルグ卿以外は全員分かってますよ。」 「まぁ・・・・・・。」 「分からない方が不思議だもんね。」 セシルが困ったように首を傾げ、応じるようにカレンも肩を竦め答えた。 「「「親馬鹿って言うより嫉妬塗れの恋人だから。」」」 「何言ってるんです! 僕はルルーシュのお父さんですよ!!?」 スザク復活。 と言うにはちと弱いか。 それでも反応が返ってきただけマシとカレンが更にスザクを怒らせようと半眼で手を振り否定する。 「説得力無いから。」 「カレンは僕とルルーシュの仲の良さを見ていないから変な事言うんだよ。」 「あんた達のラブラブ恋人もどきなランチタイム一回見ればまる分かりだっての。」 カレンの言葉にロイドとセシルだけでなく、紅蓮弐式の製作者であるラクシャータまでもがキセルを片手に頷いているのがまたスザクをむきにさせる。しかし否定の言葉が上がる前に会話はどんどん別の方向へ転がっていく。 「ルルーシュって?」 「ああ、ジノは知らなかったっけ。スザクの義理の息子。アンタの一つ上。」 「そういえばヴァインベルグ卿は今、アッシュフォード学園に短期留学扱いで在籍していましたよね?」 「やっぱり! それじゃスザクが・・・っ。」 「何を騒いでいるんだ?」 何かに気づいたようにジノが叫んだ瞬間、話題の中心人物ルルーシュが現れた。 黒い髪は相変わらずさらさらと風になびき、麗しいアメジスト色の瞳は強い光を帯びている。 腕に抱えた紙袋が気になるが中身を問う前にスザクとジノが叫んだ。 「ルルーシュ!」 「先輩!」 「ジノ? 何故お前が此処にいる。」 「それは勿論先輩の愛を受け取りにv」 「ふざけた事言っている暇があるなら手伝え。」 「それは私が刻んだチョコレート?」 「流石にこの量では手が痛くなるのがわかっていたからな。お前がやってくれて助かった。」 重そうに置かれた紙袋の中身を見ようとスザクが覗き込むと確かにチョコレートを刻んだものと思われる細かいこげ茶色が見える。 匂いもチョコレートの甘い香り。これほどの量を刻むのはルルーシュには重労働だ。ナイトメアのパイロットとして体力のあるジノにルルーシュが頼む事は不思議ではない。知り合いという点が特に気になるがそれ以上にスザクには気になる事があった。 「ルルーシュ、今年はチョコレートなしじゃなかったの?」 「何の事だ?」 「だって今年は作らないって・・・。」 「今年はあげる相手が多いからリクエストには応えられないと言った筈だ。やらないとは言っていない。」 「どういうこと?」 「こういう事よん☆」 これまた突然に降って湧いた声に振り返るとアッシュフォードの制服に身を包んだミレイが機密書類をテーブルの角に纏めながら立っている。 慌てたセシルがミレイから書類を受け取る姿を見つめながらスザクは呆然とした。 研究施設であるこの場所はアッシュフォードの大学部でありながら治外法権的な場所であり、出入りは厳重に制限されている。 ルルーシュの様に職員やバイトは身元確認をした上で雇い入れられており、尚且つIDカードと網膜パターンのチェックにより入室できる厳重さだ。 逆を言えば不審者でなくても事前に許可されていない人間は通れない。 例えアッシュフォードの血縁者であってもだ。 にも関わらず部外者のミレイが何故? そんなスザクの疑問に答えるようにルルーシュがミレイのいるテーブルにチョコレートの袋を置き、話した。 「部外者不可との事でしたが会長ならばと身分の関係もありギリギリO.K.が出た。 機密と言ってもこの場所じゃ外観しかわからないしな。」 「さーてルルちゃん? 機材は全部揃ったわよんv」 「それでは溶かし始めましょうか。」 「溶かす?」 疑問符をつけながらもカレンは並べられた食材に何と無く察しがついているらしい。 カレンの期待を込めた眼差しにミレイは魅力的な笑顔と共にウィンクで答えた。 「これが今年の、私とルルちゃんから皆へのバレンタインチョコレートよ!」 * * * 甘い匂いが充満する研究室に甘いものが苦手な一部の研究員は突如与えられた休憩時間に苦笑いしながら退室して行った。 残ったのは甘いものが大好きな者達ばかり。 プリンの大好きな伯爵閣下は「たまにはチョコレートもいいですねぇ。」と言いながらラクシャータとクラッカーの取り合いをしている。 一番人気はやはりイチゴ。フレッシュな果物とチョコレートの相性の良さで代表的なバナナも並んでいるが甘酸っぱい香りが女性の心を擽るらしく多めに用意していたにも関わらず既に半分が無い。 次々に投入されて溶かされていくチョコレートも半分ほど無くなり研究員達の顔を見れば評判も上々、一安心だとほっと息をついたルルーシュにスザクがコーヒーを差し出しながら問いかけた。 「ルルーシュ、何でチョコフォンデュになったの?」 「此処には恐ろしい料理の腕前の持ち主がいるだろう。」 ルルーシュの言葉に自然とスザクの視線がセシルに向けられた。 言葉にするまでもない。ルルーシュの言いたい事は良く分かった。 すると視線に気付いてセシルが首を傾げる。 「? 何かしらスザク君。」 「いえ! 何も・・・何でもありません!」 「そう? それにしてもこのパイサクサクしてて美味しいわね。 こっちの苺と一緒に食べると甘酸っぱさが絶妙になるわ。」 「酸味の強い苺を選びましたから。チョコレートの甘さの事もあるので糖度とのバランスを考え選んだ品種です。」 「折角だから山葵とも合わせてみようかしら♪ 溶かしたチョコレートに山葵を混ぜて・・・。」 一体何処に持っていたと言うのか。取り出されたのは黄緑色のチューブ。 蓋を開けようとするセシルにその場の全員が表情を一変させる。 けれど彼女の行動を読んでいたかのようにルルーシュがそっと手を押さえて首を振った。 「すみませんがフォンデュ用の鍋は管理の問題上、一つしか用意していません。 山葵が苦手な方もいるでしょうし、単一的な味になるのはセシルさんにとっては悲しい事かもしれませんが今回はアレンジなしのチョコフォンデュで我慢して下さい。」 「でも・・・。」 尚も食い下がろうとするセシルをラクシャータがそっと抑えて首を振る。 その瞬間、ラクシャータに後光がさした。 研究員達は涙を流しインドの女神に感謝を捧げ、天敵であるはずのプリン伯爵すら感動に肩を震わせている。 ラクシャータだけでなくカレンにまでチューブを取り上げられてはそれ以上言えなくなったのか寂しそうに「わかりました。」と答えたセシルに奇跡を見たのか、研究員達が更に跪く。異様な光景に漸く事態を理解したのかジノが不思議そうにルルーシュに問いかけた。 「先輩、山葵って?」 「刺身や寿司なんかについているのを昼に食べただろう。 黄緑色のアレだ。」 「あの鼻にツーンって来るヤツ?」 「お前涙目になってただろ。オヤツにまで山葵を食べるのか? 折角の短期留学だ。思う存分他の料理を味わう為にも止めておけ。」 「じゃあ、湯豆腐っての食べてみたい。日本人は豆の腐ったの食べるんでしょう? 糸引いてるヤツ!!!」 「腐ってないし恐らくお前が言っているのは豆腐ではなく納豆の事だ。どちらにしろ店に行け。 納豆はスーパーのパックでも買え。」 「先輩作って下さいよ。」 「俺は納豆は嫌いだ。」 「それ以前に・・・・。」 和やかな?会話をスザクが制し、ぐわしとジノの襟を掴みあげる。 眉間に皺を寄せているスザクに息苦しさも感じているジノはタジタジになりながら見つめ返す。 不穏な雰囲気に周囲も気づいたのか、気づけばスザクとジノを中心に人の輪が出来上がっていた。 だがスザクは周囲の注目を集めていても険しい表情を変えず問いかける。 「どうしてルルーシュに引っ付いているのかなジノ。」 「学校の先輩で生徒会仲間だから・・・だけど。」 「だったらルルーシュじゃなくて会長である彼女に懐くのが普通じゃないかな。 君、女の子好きだろう。」 「ミレイ会長に引っ付いたらセクハラになっちゃうって。 俺の実家、彼女の家より格上だし身分社会の貴族の家だと色々とあるし何より先輩学校一美人で私好みだし。」 「最後が余計だ!」 「え、どの辺が?」と問い返す勇気はジノにも無かったのか言葉を詰まらせる。 傍に居るルルーシュがスザクを引き剥がす前に天真爛漫な笑顔のスザクが出現する。 笑顔の先には施設の責任者である研究者達。 その笑顔に不穏なものを感じているのかロイド達は思わず一歩後ずさった。 「ロイドさん。世にも珍しい金色の昆虫の標本いりませんか?」 「スザクくーん。パーツは魅力的だけど大きなナマモノは僕いらないから。」 「セシルさん・・・食材に如何でしょうか?」 「スザク君・・・珍味以前に残虐な味になるから私もちょっと・・・。」 「ってソーユー問題!?」 カレンが最もな突っ込みを入れるがボケは明後日の方向から返ってくる。 「昆虫の標本なんて父さん持ってたか?」 「アンタ気付きなさいよ。」 「何が?」 天然ボケを続けるルルーシュにカレンが脱力している間にもスザクの暴走は続いていく。 凄みの増した笑顔でジノに語りかけるスザクは一見優しそうに見える。 但し、背後にオドロオドロシイ空気が漂っていなければ・・・・・・。 「ジノ・・・僕の悩みを聞いてくれるかな。」 「何? スザクに悩みなんてあったのか?」 「あるよ。取りあえずは目の前に一つね。」 「おお! 俺で良ければいくらでも☆」 開放される喜びに笑顔全開のジノ。 対するスザクは空いている右手の指をぱきぽき鳴らし始め彼らを囲む輪が一層大きくなった。 「それじゃあ早速・・・。」 ぐわっしゃぁあああん!!! * * * スザクがジノをあの世へご案内する前にカレンが紅蓮弐式に飛び乗り悲劇は回避された。 え? 何故紅蓮に乗ったのかって?? それではカレンさん、どうぞ! 「ルルーシュ絡みのスザクと素手で組み合えるかっての!」 お粗末さまでした。 END うん・・・もう何も言わないで下さい。(滝涙) 2009.3.9 SOSOGU |