狩る色は赤か黄色か紫か

 久々の食卓ネタです。
 ノリが悪いです。ラストは勢いで書き上げました。
 最後はすこーしBLっぽいかな?
 苦手な方は避けて下さい。

 紅葉狩り

 と言うと小学校の遠足にしては実に風流な場所を選んだものだと大人達は微笑むが、子供にとって紅葉はそれなりに綺麗ではあるが正直二の次三の次。
 特に枢木スザクにとって遠足のメインはお昼にあった。

「ってーわけで、ルルーシュ明日の遠足のお弁当とデザートよろしく!
 それとは別に遠足の定番、皆と交換できるオヤツもな。」

 現在時刻19時過ぎの爆弾発言。(ルルーシュにとって)
 かちこちと秒針が発する音がルルーシュの心情を表している。
 ギギギとぎこちなく首を巡らし壁に取り付けられた時計を見るが夕食直前に見た時間より少し進んでいて戻る気配はない。

《ああ、前にもこんな事あった。》

 思い出すのはハロウィンイベントの菓子作り依頼。
 真夜中まで掛かって作った疲労は忘れない。
 今回は一人分のみと言ってもバリエーションが求められる上に材料を買いに行く時間もない。
 条件の厳しさから怒りが湧き上がってくる。

「だからどうして君はいつも前日の夜になってから言うんだ!」
「学校から帰ったらまずルルーシュのオヤツ食べる方が優先だし買い物もあるだろ?
 買い物から帰ったらまず宿題しないとルルーシュ怒るし。
 それが終わったら今度は夕食の手伝いになるから言う暇ないじゃん。」
「買い物の道すがら話すという選択肢はないのか。」
「夕飯の内容決める方が大事だ!」

 えっへんと胸を張って言い切るスザクにルルーシュはこめかみに血管が浮き出るのを感じた。
 振り返ってみると本日の買い物の時にやたらとスザクはお菓子の材料を強請ってきた。
 いつもの事だと思っていたが欲しがる量が多い事に気づかなかった事が悔やまれる。
 何よりも駄菓子屋の辺りに子供が鈴なり状態になっていた事もおかしいと考えるべきだっただろう。
 普段は見かけない顔ぶれもあったのだからルルーシュは商店街の誰かに尋ねるべきだった。
 『今日は子供の買い物客が多いですね。』とでも訊いていれば絶対に誰かが教えてくれたはず。お弁当のオカズやデザートにといつも以上の営業トークを披露してくれただろう。
 頭を抱えながらルルーシュは冷蔵庫の中身とダンボールに詰まった根野菜のリストを脳内で作り上げていた。優秀な頭脳は同時にそれらから作る事が出来るレシピを弾き出す。
 明日の自分達の昼を午前中に買出しに行く前提ならば弁当を作る事は出来る。問題はデザートとお菓子。残り時間を考えると非常に際どいと言わざるを得ない。

《いっそ駄菓子を買ってくれれば余裕が出来たものを・・・・・・。》

 餌付けの結果生まれたデメリット。
 そもそもスザクが学校から提示された予算内のお菓子で満足するはずがない。
 だが値段設定のない手作りおやつならば予算無制限。スザクからすれば予算無制限で持ち込める。
 無論、その分ルルーシュの負担は増大するのだが、そんなことにスザクが気づく訳がない。
 誰か助けて欲しいと頭を抱えるルルーシュの耳を打つのは本日未だ勤務時間中の家政婦山中の声だった。

「ぼっちゃん、いつもならお弁当を注文しておくでしょう?
 今からでもいつものお店に連絡して頼んでみましょうか。」

 家政婦と言えど遠足のお弁当は通常の仕事とは別とされている。
 と言うよりも、遠足なのだから豪華弁当三段重ねを注文して良いと家長であるゲンブからの言葉を貰っており昔からスザクの遠足のお弁当と言えば特注の一流料理店のものだったのだ。
 いつもと違うご飯が食べられると遠足のお知らせプリントが配られれば即刻注文する店のピックアップに走るスザクが何故今回に限ってそれをしなかったのか。

「ヤダ! もう飽きたし。」

 スザクの言葉にルルーシュは脱力した。
 一方山中は「ああ、そうかもしれませんね。」と呑気に同意する。
 ルルーシュとしては彼女の同意は恨めしい。しかし彼女にはスザクが飽きる理由も良くわかった。
 凝った料理なら飽きがこないと思われるかもしれないが実際は逆である。
 日常的に食べている家庭料理の方が繰り返し味わっても飽きる事のない料理の代表と言うべきなのだ。遠足のみならず祝い事の度に食べていたスザクが飽きるのも当然だろう。
 わかりやすく言うならば・・・三日続く料理があった場合、おせち料理とラーメンどっちがマシかと問われたらスザクはラーメンを取るタイプだと彼女は知っているのである。
 恨みがましそうなルルーシュの視線に山中は時計を見る。
 本日は来客予定なし。SPがいるので定時になれば帰れるのだが、この時間からスザクが望むような弁当の用意するのは子供一人では重労働だろう。

「仕方がないですね。下拵え出来る分とメニュー作成を手伝いますよ。
 明日はお休みですから私は来ません。朝は一人で出来ますね?」
「メニュー作成は非常に助かります。」

 いかにルルーシュの頭脳が優秀と言えど経験値は圧倒的に足りない。
 そして主婦歴ウン十年の彼女は主婦の手抜きレシピを豊富に持っていた。
 ・・・・・・・・・教えてくれるのが極稀であるのは恐らくルルーシュが完璧主義だからなのだろう。
 夕食を時々共にする彼女は基本的に料理を手伝わない。
 理由はルルーシュが最初に枢木家が用意した家政婦を拒否した事にある。
 お役御免を言い渡されたのは山中ではないが、ルルーシュの意向を理解している以上口出ししないのが彼女なりのルルーシュとの付き合い方である。・・・今回は流石に口出しすべきと思ったが。

「えっとね。俺としては明日のお弁当はハンバーグと唐揚げと牛肉そぼろと豚肉のステーキとスウィートポテトと抹茶のクッキーとアップルパイをワンホールが希望!」
「「却下。」」
「えー! 何でだよ!!!」
「唐揚げに使える鶏肉がない。」
「合い挽き肉と鳥の挽肉はあっても牛の挽肉は無いですよね。」
「豚はこま切れ肉のみだし。」
「お魚はちりめんじゃこくらいしかないです。」
「サツマイモはあるけれど。」
「お弁当の事を考えると作る時間が殆どないですし。」
「抹茶のクッキーは抹茶がない。」
「アップルパイのパイ生地は作らないとないですし。ぼっちゃんも皇子も冷凍のパイシートは嫌いだから買ってませんし。」
「殆どのものが作る時間がないので無理だ無謀だ諦めろ。
 ・・・というか、君はアップルパイをワンホール一人で食べ切る気か!?」
「最低でもお友達5人と分けて下さいよ。
 いえ、初めからワンピースのみ渡した方が無難ですね。
 ぼっちゃんは絶対人に分けたりしないから。」
「どちらにせよ作りませんよ。作れても運んでいる間にぐしゃぐしゃになります。
 労作をそんな目に合わすくらいなら自分で食べた方がずっといい。」

 スザクが文句言おうが暴れようが関係ない。
 この時、ルルーシュと山中はこれ以上ないくらいのコンビーネーションでスザクを畳み掛けた。
 口を挟む隙のない二人の勢いに流石のスザクもタジタジになり、助けを求めるようにナナリーを見やる。
 スザクの視線を肌で感じ取ったのか、ナナリーは少し顔を曇らせた。
 友達であるスザクの気持ちはわかる。その一方で愛する兄の負担を思うと簡単に作ってあげて欲しいとは言えない。
 さて問題。
 此処は日本、民主主義の国である。

「スザクさん。山中さんも無理だとおっしゃっているのですし、メニューはお兄様達にお任せしましょう。
 大丈夫ですよ。スザクさんの事はお二人とも理解されているのですし、希望通りには出来なくても美味しいもの作って下さいますよ。」

 一対二でルルーシュ達の意見優先。
 最愛の兄の事を思うとナナリーとしては、ここはスザクに我慢して欲しいと思う。
 特に今回は賛同者がいる事も彼女の言葉に力を与えていた。

「そ・・・んな・・・・・・折角の遠足なのにぃいいっ!」

《《《そう思うならもっと早く言いなさい。》》》
 
 枢木スザク。
 日本国現首相の嫡子にして俺様なお子様は、この度初めて遠足のお弁当に期待が出来ない悲劇に見舞われた。



 * * *



 翌朝、スザクは憂鬱だった。
 昨晩はルルーシュと山中に台所から追い出されメニューがどうなっているのかさっぱりわからないのだ。
 追い出し&ナナリーの世話の為に部屋に籠るしかなかったスザクの不安は育ち盛りのお子様としては当然と言える。
 毎回遠足の度に豪華仕出し弁当を食べていたスザクだが、周囲が羨ましがるのとは裏腹にあまり嬉しいものではなかったのだ。
 確かに味は良い。材料も良質のものを使っている上に料理のプロが弁当用に考えたメニューだ。冷めても美味しいものがたくさん詰まっており、手を抜いたおかずは何一つ入っていない。
 だがそれは・・・プロがお金を代償として作成したものなのだ。
 本当にスザクの事を考えて作ってくれたわけではない。
 だから飽きが来るのも早く、ルルーシュが来る前には今年の遠足はコンビニのおにぎりだけでも良いと思っていたくらいだった。勿論、気分的なものであり本当におにぎりだけで済ませる気はないのだが。
 そこにルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがスザクの前に現れた。
 初恋のお姉さんを思わせる味・・・いや、それ以上に美味しいと言える料理を作り掃除洗濯をこなすお母さんの様なルルーシュにスザクは仲良くなって本当に良かったと思ったものだ。
 一緒に遊ぶ友達は皆無と言って良いほど思い当たらない一匹狼のスザクと対等に話し、弱いのに妹の為なら実力行使も辞さない根性。一緒にいると楽しいと断言出来る同世代の子供は今までいなかったスザクにとってルルーシュは運命と言ってよいのだろう。
 これでルルーシュが異性であったならば父ゲンブの言う政略結婚に自分とルルーシュを推薦すること間違いなしの『枢木スザクの嫁に最適な人間』だったのだから。
 しかしながら現実は厳しくルルーシュは同性。大人であったならば『一線』を超える方法があると知っていたが幸いにもスザクはお子様過ぎて知らなかった。その事がルルーシュにとって幸いな事だったが、未だ二人はその事実に気づいていない。
 ・・・・・・話が逸れた。
 とにかくスザクはルルーシュに期待していた。
 スザクの好みを覚えているルルーシュならば自分好みのお弁当とオヤツを沢山作ってくれるだろうと。
 だがルルーシュは首を縦に振らない。
 無論、スザクも伝え忘れていたのだから自業自得なのだが、何もあんな風に畳みかけてへこませなくても良いではないかと思ってしまう。

「下手したらオヤツ・・・・・・無いかもな。」

 リュックを片手に食卓へ向かう足取りは重い。
 ナナリーは先に居間に連れて行った。
 まだ食事の支度は出来ていなかったが妹が席に着いているのにルルーシュが直ぐに用意しないわけがない。
 行けばもう食事の支度は出来ているだろう。

「あー、休みたい。」

 いつも仕出し弁当だからクラスメイトが何かと理由をつけてスザクの弁当のお零れを狙ってくるのは恒例行事に近い。
 今回もあてにしている奴らがまとわりついて来るはず。だが中身の貧弱さを知ればスザクをからかう為に全力を出すに違いない。
 ムカつく奴らはとりあえずぶっ飛ばすが、カロリーを消費すれば腹は減る。
 お弁当の中身が淋しければぶっ飛ばす元気が湧いてくるかどうか・・・。

「そうだ体温計。」

 思いっきり擦れば摩擦熱で表示温度は誤魔化せる。
 流石に熱が出れば遠足を休みたいと言ってもルルーシュは怒らないし学校も問題ない。

「よーしよーし、それじゃあ体温計を・・・。」
「何をしているんだ。スザク。」

 ぴしっ

 悪巧みしようとするとどうしてタイミング悪くお目付け役が現れるのか。
 ふりふりエプロン姿のルルーシュが現れて不審げな目でスザクを見つめる。
 たった今、ズル休みする為の小細工しようとしてました☆
 などと言えたらそもそも体温計を探そうなどとしていない。

「ちょっと熱っぽい気がするから遠足休もうかな〜と。」
「ほぉ?」

 誤魔化し笑いを浮かべるスザクに対しルルーシュの視線が鋭くなる。
 細めた目をそのままにスザクの肩を掴むとそのまま自身のおでことスザクのおでこを合わせると、再び離してそのまま頭突き攻撃をかました。
 がちっといい音が鳴りスザクは涙目になる。

「いって〜☆」
「熱なんてないじゃないか。
 人が早起きして頑張って作ったお弁当を無駄にするつもりか?
 さっさと食卓に着け。ナナリーが待っているだろう。」
「だってお弁当にオヤツが・・・・・・。」
「もう用意してある。希望通りにならなかったからといってズル休みしようなんて絶対に許さない。
 もしどうしても休むならお弁当とオヤツは没収の上、夕食抜きだ!」
「そんな殺生なっ!」
「酷いのは君の方だ。いきなり言われて大慌てて昨夜から下ごしらえやらお菓子作り、今朝も最後の仕上げとばかりにお重に詰めたというのに僕と山中さんの努力を無に返すつもりか!?
 良いからさっさと朝御飯食べて出かけろ!
 僕は眠いんだ。これ以上イライラさせるな!!!」

 
 ちょっぴり未来を垣間見た気がするスザク少年。
 彼は知らない。本当にヒステリーを起こした人間はもっともっと恐いという事を。
 ルルーシュの怒りは正当性を持っている分とても優しいのだと。
 幼い彼はまだ知らない。



 * * *



「全くスザクは・・・・・・。」

 お昼御飯も済んでナナリーはお昼寝中。
 掃除は済んでおり洗濯物もあと少しだけ干しておいた方が良い。
 突然遠足用のオヤツを作らなければならなくなった為に、こっそりと下拵えしておいたデザート用のリンゴのメープルシロップ煮やアイスボックスクッキーも作り直し今夜の食事用の食材は先程秋の味覚の差し入れにと桐原から届いた宅配の箱のものを使えば良い。
 今日は買い物に出る必要はないしパイ生地も今冷蔵庫の中で休ませている。
 この状況でルルーシュが一息吐くために緑茶を啜っていても誰も文句は言うまい。

「それにしても眠いな。」

 正直ルルーシュの瞼は重い。
 ナナリーの為に布団は敷いてあるが自分用の布団は仕舞ったまま。
 秋が深まり冬の気配を感じさせる風が吹く今日この頃の気温を考えると夏の時のようにごろ寝をすればかなりの確率で風邪をひくこと間違いなし。
 何よりもお茶をするのがやっとの時間で睡眠を無理に取ろうとすれば寝過してしまう可能性が高い。
 お昼寝から覚めたナナリーと一緒に遊んであげたり勉強を見てあげる必要もある。

「やはり少しくらい手を抜くべきだったか・・・。」

 溜息と共にルルーシュは零す。
 お弁当の下拵えを山中に手伝って貰えた分、スザクの遠足用のお菓子作りに時間を割けるとわかったルルーシュは正直迷った。
 抹茶のクッキーは作れないが既にアイスボックスクッキー(アーモンド)の生地が冷凍庫にあるから焼けば友人との交換用菓子にできる。
 リンゴのメープルシロップ煮があるのでそれとチョコチップ、プレーンと三種類のパンケーキならアップルパイワンホールの代わりとしての量に十分と言える。これはお弁当後のデザートとしてお重の三段目に詰めれば良い。
 ラストにカボチャとサツマイモのカップケーキ。クッキーを焼いている間に生地を作れば何とか真夜中には焼き上げられるはず。
 翌朝は早くからまた弁当作りと合わせて朝食も作らねばならないが、今回は目玉焼きをメインとした簡単なものにすれば弁当作りへの支障はないと考えられる。

《仕方ない。》

 そう思ってしまったのが運の尽き。
 主婦歴の長い山中は無理をする事はないと止めようとしてくれたが、何だかんだ言っても初めての友人にして一番の友達スザクの願いは出来ることなら叶えてやりたいのがルルーシュの本音だった。
 無理をしたツケがここに来ている。
 急に目の前が真っ暗になったと思ったルルーシュの耳に時計の音が響く。

 ぽーん ぽーん ぽーん ぽーん ぽーん 

《え?》

 何故五回鳴っているのか?
 ルルーシュが目を開けた瞬間、映る景色は天井の板。
 がばりと起き上がるルルーシュの傍らで既に目を覚ましていたナナリーが微笑み言った。

「お兄様お疲れ様です。
 眠いならちゃんとおっしゃって下さらないと困りますよ?
 山中さんが出勤されてきたから良かったものの私だけでは毛布をかけるだけで精一杯で・・・。」

 ナナリーの言葉通りいつの間にかルルーシュは毛布に包まれていた。
 体が冷えずに済んだのはナナリーが頑張ってルルーシュに毛布をかけてくれたおかげらしい。
 それは有難い。有り難いが・・・。

「あ、ああ・・・有難うナナリー・・・・・・ってそうじゃない!
 洗濯物に夕飯の支度がっ!」
「洗濯物は山中さんが取り込んで下さったので今私が畳んでいます。
 いつもは全部お兄様がなさってますけど、今度から私にも手伝わせて下さいね★」

 歪ながらも畳まれているシャツを見る限りこれらは全てナナリーが畳んでくれたのだろう。
 それも有難い。有り難いがルルーシュはそれどころでもなかった。

「有難うナナリー・・・ってそれどころでもない!
 もうすぐスザクが戻ってくるのに夕飯の支度何も出来ていないんだ!!
 まずい。非常にまずい!!!」

 スザクの事だから夕飯が遅れればまたギャンギャン騒ぐに決まっている。
 特に今日は遠足のおかずやオヤツが思い通りにならなかった分、ご機嫌斜めの可能性は高い。
 慌てて立ち上がりキッチンに駆け込もうとするルルーシュの耳に玄関を開ける音が鳴り響いた。

 遅かった

 煩く喚くスザクを想像し、そういえば帰った早々に食べられるようにと用意していたアップルパイもまだパイ生地は冷蔵庫の中、中のリンゴはまだ煮ていない事を思い出し暗澹たる思いで玄関に向かうルルーシュを衝撃が襲った。

 ばったーん!

 思いっきり背中から倒れて息が詰まる。
 息苦しさと痛みに暴れるルルーシュを衝撃の元である影が抱きしめた。
 その正体は暗殺者でも変質者でもない。この家の嫡子である枢木スザク。
 突然のスザクの奇行にルルーシュは咳き込みながら叫んだ。

「帰宅の挨拶もなしにいきなりなんだスザク!」
「ルルーシュ・・・今日のお弁当とオヤツ・・・・・・。」
「文句なら聞かないぞ!」
「文句じゃなくて・・・。」
「だったらなんだ!?」
「大人になったら俺、総理大臣になる。」
「弁当とどんな繋がりがある。話をすっ飛ばすな。」
「そしたら男同士でも結婚できる国にする。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 話の飛び具合が凄まじく、ルルーシュは思考を停止させた。
 つまり、

 ナニイッテイルンダコイツ

 状態だ。
 弁当との繋がりが尚更見えない。
 話の展開についていけず呆けるルルーシュにスザクは満面の笑みで話し始めた。

「急だなんて言っておきながら弁当豪華じゃん!
 インゲンとゴボウの豚肉巻きに鳥の照り焼き、ピーマンの肉詰めに大根と蕪と長いもの煮物。
 入り豆腐にブロッコリーとポテトのサラダ。ウィンナーもたこさんになってておにぎりも梅とおかかと昆布の三種。
 お菓子も三種類用意してあるしクッキーは争奪戦になって自分の分守り切るの大変だったんだぞ。」
「ああそう・・・それは良かったな。
 で、それがどうしてこんな事になっているんだ。」

 こんな事とはどんな事?
 と聞けたら勇者である。
 先ほどの言動とこの状況は嫌な想像をルルーシュに齎した。

「だから、俺はルルーシュを嫁にする!」
「前にも言ったが同性婚は日本では認められていない!」
「だから総理大臣になるんだよ。それまでは婚約者な。」
「勝手に決めるな!」
「そしたらナナリーは本当に俺の妹になるし。」

 そこでどうしてナナリーと結婚してルルーシュを義理の兄にしようと思わないのか。
 通常、真っ当な大人ならばそう突っ込んでくれる。
 だがしかし、ここにルルーシュを思って真面目に対応してくれる大人はいなかった。

「お兄様とスザクさんが結婚・・・?
 いえ、婚約・・・ですか。随分早いんですね。
 でもオデュッセウス兄様も婚約だけならもう私くらいの時に決まっていたそうですし・・・。」
「ナナリー違う! そんな話じゃないんだ。これは!!!」

 何時の間に此処まで移動してきたというのか。
 ナナリーが傍に座り込んでさみしそうに呟く。

「良いですね。ある意味相思相愛の政略的にも理想的な結婚ですね。
 ぼっちゃん。私が応援しますよv」
「そこっ! 面白がってスザクを煽らないで下さい!」

 家政婦の山中も気づいて当然の騒ぎ。
 いつからいたのか。にまにま笑いながらスザクに抱き付かれたまま動けないルルーシュを観賞・・・否、見守っている。

「それじゃ誓いの証としてキスの一つもしとこうか!」
「ひっ!?」

 うちゅうと擬音が付きそうなくらい突き出た唇がルルーシュに迫る。
 逃げ出したくてもスザクに拘束されたままのルルーシュは逃げることが出来ない。

「だっ! 誰か助けてぇえええ―――っ!!!」



 * * *



 ルルーシュの唇が奪われそうになったあの日。
 ルルーシュが悲鳴を上げた直後、送った宅配で出来上がっているだろう夕飯目当てにやってきた桐原のおかげでルルーシュの唇は守られたそうな。

「桐原翁、感謝します!」
「いや、それよりも夕飯はまだか?」



 END



 このお話、途中からのれなくなって凄く難産になりました。
 ラスト辺りは当初の落ちと違っちゃいましたしね。(苦笑)
 ちなみに題名の赤と黄色は紅葉とイチョウですが、最後の紫はルルーシュです。
 狩られる前に助けてもらえて良かったね☆
 ってか、ちょっとボイーズラブ風味かな・・・これ。完全ギャグだけど。
 このシリーズのスザク、食欲優先で結婚の意味を間違えているのでするーっと流して下さると助かります。


 (初出 2008.11.25)
 2009.3.8 ネタblogより転載