冬の風物詩

 遅くなりましたら久々更新です。
 家庭の事情で現実逃避してました。
 そんなわけでUPしたのも食卓(家庭)です!
 冬に食べたくなるのはなんでしょう?

 石焼芋〜 や〜きいも〜〜♪

 日本の冬の風物詩とも言えるトラックからの流れる歌。
 その歌に惹かれながらも少年、枢木スザクは歌とは逆の方向へ足を向ける。
 寄り道なんてしたらおやつを食いっぱぐれてしまう。時間に厳しいルルーシュは夕食まで一時間を切ると絶対に間食を許さない。
 魅力的な匂いに誘われながらも涙を呑んでスザクは家へ向かって走り出した。



 * * *



「ルルーシュ、焼き芋食いたい。」

 唐突なスザクの言葉にルルーシュは一瞬だけ目を見張る。
 けれどスザクの言動に脈絡がないのに慣れている為、直ぐに冷めた目をして答えた。

「芋なら一昨日スイートポテトを食べただろう。」

 同じような物が続けばナナリーが飽きてしまう。
 少しでもオヤツや料理にバリエーションをと考えているルルーシュとしては同じものを続けざまに出さないように心掛けているのだ。
 そうそう同じ食材、似たようなオヤツを出すわけにはいかない。
 ルルーシュの答えはそっけなく、話は終わりと言わんばかりに台所へ食事の支度を始めるために向かおうとする。
 だがスザクも引き下がれない。いつもと違う拘りを主張しようとルルーシュを引き止めるようにしがみ付き離れない。

「違う! 蒸かし芋とかオーブンで焼いたのじゃなくて落ち葉でゆっくり焼いたやつか石焼き芋が食いたいんだ!!!」
「・・・・・・どう違うんだ?」
「落ち葉で焼いた奴はじっくりゆっくり焼いて、アルミで巻いた芋の皮がちょっと焦げたりしたのが香ばしくて甘いんだ。じっくりゆっくりが基本な。
 石焼き芋は熱した石で芋をじっくりと焼くんだよ。熱した石で焼かれた芋はすっごく甘くて美味いんだ。石焼きに適した品種としては「紅あずま」、「鳴門金時」や「ベニオトメ」辺りだってさ。(ウィキペディア参照)」
「間接加熱調理法か。で、僕にどうしろと。」
「今日のオヤツ石焼き芋がいいなぁ〜v」
「却下。今からその辺の石を集めて焼いて暖めて? 更に芋も買ってきて焼けと言うのか。
 手間が掛かりすぎるし時間もない。諦めろ。」
「商店街の雑貨店で家庭用の石焼き芋器売ってるって。落ち葉で焼くのでもいいぞvvv」

 お気楽そうにスザクは言うが現実は甘くない。
 ある意味、そこらの日本人よりも法律を知り現実を見据えているルルーシュの答えは容赦なかった。

「落ち葉は完全に無理だぞ。日本は廃棄物処理法によって落ち葉を含めたゴミの野焼きを制限されているし子供だけで野焼きは危ない。最近は風が強いしな。
 石焼き芋器を売っていると言うが、誰がそれを買うんだ。」

 ルルーシュの言葉にスザクは沈黙する・・・・・・・訳がなかった。

「買って買って買ってぇええっ!!!」

 殆ど駄々っ子状態でルルーシュの首にしがみ付き背中に圧し掛かる様にして喚くが、ルルーシュは少ない体力を浪費しながら再び台所へと足を向ける。
 ずーるずーるとスザクを引き摺り進み続ける。
 いい加減慣れもする。スザクの我が侭に一々付き合っていたら財布がもたない。
 けれどそれ以上に体力がもたない。
 いつもよりもしつこくしがみ付いてくるスザクに根負けしたのか、ルルーシュが漸く妥協する気配を見せた。

「大体いくらするんだ。どうにか捻出できる金額なら考えなくはないが。」
「ちっちゃいのなら三千円くらいかな。
 大きいのだと五千円って言ってたけど。」

 スザクの食べる量とルルーシュとナナリーの二人分をプラスするとビッグサイズは決定。
 それにプラスして石を温めるのに掛かる光熱費。
 何よりもスザクが拘るであろう芋の品種と大きさと量。

《大雑把に計算して1万円くらいの出費は覚悟しなくてはいけない。》

 ち―――ん

 この間僅か0.5秒。
 瞬時に試算と未来予測を終えたルルーシュの言葉は氷点下。

「却下。全部でどれくらいすると思っているんだ。」
「ルルーシュ〜☆」
「猫撫で声で強請っても無駄だ。」
「鬼! 悪魔! ブリ鬼!」
「いくらでも言えばいいさ。」

 泣いて甘えて強請ってもルルーシュの心は溶かせない。
 理解したスザクの瞳に涙が溢れたが、ルルーシュをウルウル目のスザクを一瞥するとすいっと視線を逸らして改めて食事の支度を始めたのだった。

 うわぁああ〜ん!!!

「耳元で泣くな! 鬱陶しいっ!!!」



 * * *



「へぇ、そんな事があったのに枢木のぼっちゃんに内緒でわざわざ石焼き芋器を見に来たのか?」

 呆れ半分にニヤニヤしながら問うのは八百屋の主人。
 店先に並べている野菜を選らび分けながら買い物籠を抱えたルルーシュ皇子殿下は答えた。

「平日の昼間なら邪魔してくる子供はいませんからね。」
「まぁ確かに石焼芋は美味いっちゃ美味いけどやっぱり専門店のようにはいかないな。」
「家庭用は焼きムラが出来ると?」
「そうじゃなくて、一回に焼ける芋の量だよ。コンパクトサイズの家庭用の限界ってヤツだな。
 ぼっちゃんの食べる量を考えたら家庭用で焼いても焼いても足りないんじゃないか?」
「間食なので食べる量は抑えさせるつもりです。」
「焼けるまでの時間、ぼっちゃんが待っていられるかも疑問だけどな。
 まず石を温めて・・・それから芋を置いて焼いて。」
「その石は庭にある石ころでは駄目ですか。」
「一応出来るよ。だが洗浄と熱湯消毒は必須。それにうちで売ってる焼き物の壷タイプの方が、壷からも・・・?
 えーと。」

 突然言葉を詰まらせて主人は首を捻り出す。別のお客を相手にしていた奥さんが呆れたように溜息を吐くと、後ろを向いて何かを取り出し読み始めた。
 それはカンペ。見えなくてもルルーシュには分かってしまった。
 見た目からしてあまり勉強が得意そうではないと思っていた人物が見た目通りの人間だったと悟りルルーシュも呆れたように溜息を吐いて彼が言いたかったであろう言葉を紡ぐ。

「遠赤外線効果ですね。」
「そうそう! その赤外線によりホクホク感が増すのが売りなんだ!!!」
「いい加減商品知識を空で言えるようにした方が良いですよ。」
「皇子に負けた後では言い訳も出来ないな。」

 アッハッハと笑う主人の愛嬌ゆえか、来ていた客の何人かが芋と石焼き芋器を買っていく。
 買っていないのはルルーシュだけ。しかし予算がきつい。
 ルルーシュとしてはそれほど長く悩んでいたつもりはない。
 しかし思っていた以上に時間が経っていたらしく、ふと気づくと商店街に子供が溢れていた。
 子供の騒がしい声に気づき振り返るとボードを持ったスザクが笑顔で立っている。

 校外学習

 ずっと家庭教師から勉強を教えられていたルルーシュには馴染みのない学習カリキュラムに思い至り油断していたと歯噛みするが既に時遅し。ルルーシュの目的を察したスザクがにんまりと口角を上げてルルーシュに擦り寄ってきた。

「なーんだ。ルルーシュやっぱり焼き芋作ってくれるんじゃないか。」
「馬鹿を言うな。買い物ついでに話を聞いていただけだ。」
「・・・・・・買ってくれないの?」
「オーブンで焼いてやる。それにこの石焼き芋器は家のIHクッキングヒーターでは効率が悪い。」
「でもラジなんとかって奴なら出来るって。」
「ラジエントヒーターだ。一応出来るが時間が掛かる。面倒臭い。
 ガスや石油ストーブがあっても僕は買わない。」
「やだぁあ! 買ってルルーシュ。買って買って!!!」
「君は校外学習中だろう!?」
「商店街のお店の調査だから此処を取材すればいいだけだ。
 それにガスや石油ストーブは無いけど・・・俺は知ってるんだぞ!」

 切り札があると言わんばかりに余裕綽々の顔で宣言するスザクにルルーシュの眉がぴくりと動く。

「何をだ。」
「うちの土蔵には火鉢があるってことを!」
「火鉢?」
「炭火で石を暖めて焼けばいいじゃん。
 ついでに夕食用の餅を焼いたり、それかお茶用のお湯を鉄瓶で沸かすんだ。
 鉄瓶も確か埃と蜘蛛の巣塗れになって転がってたはずだぞ。」
「その火鉢とやらを僕は知らない。
 それに燃料が炭火? 火の管理は誰がするんだ。しかも埃塗れと言うことは一度洗う必要があると言う事だろう?
 探し出した上に洗えと言うのか、それに炭は何処にある。
 何よりも・・・慣れた物ならともかく、慣れない器具で火を使うのは危ない。
 誰か管理する大人が欲しい。火をつけている間、僕がずっと傍にいられる保証は無いんだからな。」
「探すのも洗うのも俺がやる! 前に秋刀魚焼く為に買った炭もどっかにおきっぱなしのはずだし!!!」
「確かに炭火なら焚き火よりは大丈夫だと思うが・・・一酸化炭素中毒には気をつけた方がいいぞ。
 寒くても換気はしっかりとしないと翌朝冷たくなっているのを発見されました・・・なんて話があるからな。でも皇子の言う通り大人がいる時の方が良いと俺も思うぞ。」

 スザクの援護をしているのか、逆にルルーシュの援護をしているのか。
 多分どちらでもない八百屋の主人の言葉がルルーシュの神経に障る。

《下手にスザクを煽るな!》

「だったら山中さんに頼めばいいじゃん!」

 簡単な事だと胸を張るスザクだが、ルルーシュはこれまた深い溜息を吐いて答えた。

「今日は彼女の定休日だ。」
「あら。臨時給料頂けるなら構いませんよ。」
「え。」

 振り返れば馴染みの顔。
 本日お休みのはずの家政婦が背後に立っている。
 手にはお財布。それ意外は何も持っていない。
 突っ掛けで慌てて家を飛び出してきましたと言っているような身軽な姿にルルーシュが何故と問う前に山中は笑顔で答えた。

「石焼き芋買いに来たんですけどトラックが気付かないまま行っちゃったんですよね。」
「あの・・・つまり・・・?」
「臨時のお給料は現物支給で頂けます? ちなみに私は鳴門金時が好みですv」
「俺! 俺は紅あずまがいい!!!
 たーっくさん焼こうぜ☆ 師匠と桐原のじいちゃんも呼んで、それから神楽耶も呼ぼう。」
「いいですねv 焼き芋パーティーと言う事で本日は大勢呼びましょうv」
「話が分かるね★ それじゃ小父さん。さつま芋二箱と石焼き芋用の石よろしくね。」
「石焼き芋用の石と鳴門金時一箱、紅あずま一箱ね。
 重いから配達するな。毎度ありぃ〜♪」
「ちょっと待てっ! 僕の了承は!!?」

 思わず叫ぶルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 しかし日本人である彼らとブリタニア人であるルルーシュの間には大きな認識の違いがあった。

 即ち

「ルルーシュ、ここは日本。民主主義と言う名の多数決の国だぜ?」
「こういう時だけ知識のひけらかしか!!!」

 叫んでも決議は引っ繰り返らない。
 ルルーシュの頭の中を巡るのはこの先の食費のやりくりと、補えない部分の最終手段。
 悲壮そうな表情のルルーシュの肩を叩く八百屋の顔はそれはそれは嬉しそうだった。



 * * *



 校外学習の為、一時学校に戻らねばならないスザクと、やはり身支度を整える為に一時帰宅する山中、そして本日の買い物を終えて先に枢木家へ戻るルルーシュ。
 彼らの表情は非常に見事なコントラストを演出している。
 お腹一杯焼き芋を食べられると嬉しそうな日本人二人と、口元をひくつかせながらがま口財布の中身を数えるブリタニア人。
 喜色の赤と悲壮の青。
 さて、彼らの会話は・・・

「それじゃあ帰ったら頑張って焼きましょうね。ぼっちゃんv」
「お餅もお正月の残りがまだあるし☆ 今日の夕飯はお雑煮で食べような。ルルーシュ!」
「火の管理は本当に気をつけて下さいね。特に一酸化炭素中毒なんて事にならないように換気には十分気を配って下さい。山中さん。
 僕はお雑煮の支度の後にやるべき事がありますから。」
「「何を?」」
「家計簿と今月の食費の調整。」

 怒りながら笑顔を浮かべる者ほど恐ろしいと言ったのは誰だろうか?
 背筋に悪寒を感じて手を取り合うスザクと山中を置いてさっさと家路に着くルルーシュの背中は哀愁と重圧を感じさせる。
 流石にヤバイと思ったのだろう。
 後日、家政婦より連絡を受けたゲンブがこっそりとルルーシュの財布に生活費の追加を入れていたそうな。


 END



 おまけ


「あれ? ルルーシュ、今日は随分機嫌が良いな。」

 朝食を終えて学校へ行く身支度をしていると何やらルルーシュが卓袱台の上にノートと財布を出して鼻歌を歌っている。
 先日まで歯軋りしていたルルーシュを見ているだけに不気味に思いスザクが問うと、ルルーシュはにんまりと笑って答えた。

「季節はずれのサンタが来たんだ。
 財布の中に『芋代』と書かれた封筒がな。」
「へぇ〜良かったなぁ。」
「相場を知らないサンタで良かったよ。」

 答えながら日本最高額の紙幣を扇状に開いて数えるルルーシュに、スザクは自分の父が世間知らずなのだと思い知ったそうな。


 おまけ END


 久々の更新です。
 家庭の事情で現実逃避してました。
 本当にすみません。
 詳しくは語れませんがもう一作上げられるように今頑張ってます。
 UPしたらサーチサイトにお知らせ書きに行きますね。


 (初出 2009.2.16)
 2009.3.8 ネタblogより転載