投資という名の気持ち

 何年ぶりでしょうか・・・本当に久々更新です。
 先月のオンリーで無料配布させて頂いたものです。
 予告せずに配布したので一月待たずにUPします。


 枢木スザクは2月14日を過ぎてから非常に不機嫌だった。
 理由は簡単。

「なんでチョコレートくれなかったんだよ。」

 その一言でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは眉間に皺を寄せた。
 美麗な顔に曇りを見せながら彼はいつも通りご飯をよそった。
 本日の夕食のメニューは湯豆腐と大根をメインにした根野菜の煮物、それにカレイの煮付けだった。
 純和風で統一した夕食にチョコレートの要素は一切ない。
 デザートを強請られても出てくるのは頂き物の塩大福くらいだろう。
 そんな状況でスザクが納得するはずもない。メニューを振り返りルルーシュは深い溜息と共に答えた。

「そもそもバレンタインとは好きな相手に花を贈るものだ。告白の助けという点ではブリタニアでも変わらないが女性がチョコレートを男性に贈る習慣はお菓子メーカーの戦略で広まったものであり日本独特のものだ。」
「知っているならくれたって良いだろ!?」
「今僕が言った日本のヴァレンタインの前提を知りながら何故僕に強請る? 女性に強請れ。実際、学校でもかなりの数を貰ってきただろう。」
「それはソレ、これはコレ。俺はルルーシュの手作りチョコレートが欲しいんだよ! ルルーシュなら絶対美味しいチョコが作れるに決まってる!!!」

 食卓に並ぶ食材を前に手を合わせスザクは喚いた。だが喚こうが何を仕様がデザートは変わらないしルルーシュもチョコレート菓子は作っていない。何より彼には理解出来なかった。スザクがここまでチョコレートに情熱を注ぐ理由が。
 そして男である自分が同性の友人である愛情の証であるチョコレートを贈らねばならない理由も。

「理解出来ない。」
「そうですか?」

 嘆息するルルーシュに疑問の声をあげたのはスザクではなく家政婦の山中だった。
 食事の支度は基本ルルーシュが行うが母屋の家事は本来彼女の業務である為、食事を並べるくらいは手伝うし家の都合と時間が合えば一緒に食べてから帰宅する事もある。
 本日は食事をしてから帰宅の日。本日旦那は出張、娘は合宿。手間と食費が浮いたと微笑みながら代わりにと先ほどまでナナリーの入浴介助をしていたのだが・・・傍らには髪を拭いているナナリーがいる。妹の笑顔を見る限り何も問題は無かったらしいと心内で安堵の溜息を吐きながらルルーシュは山中を見上げて言った。

「相変わらずお仕事が早いですね。ところで・・・・・・先程のお言葉ですがどういうことでしょうか。」
「まぁ・・・・・・日本ではもはや年内行事の一つでしかなくヴァレンタインを告白の切っ掛けにする人の割合が減っているということと、友チョコ自分用チョコの購入で単なる経済活動になりつつある点からぼっちゃんがチョコレートを強請る理由は単に美味しいものが食べたいだけと理解できるからですよ。」

 山中の言葉に漸くルルーシュは理解した。
 つまりはチョコレートによる愛の告白は形骸化しつつあるイベントということなのだ。
 国が違う上に身分の関係から世間一般常識から疎いルルーシュには予想も出来なかったが、経済活動の一環となれば理解も出来る。

「更に言うなら、お歳暮やお中元と違ってホワイトデーでの見返りが見込めるという点で様々な人間関係に駆け引きが生まれる面白い日でもありますね☆」
「駆け引き・・・・・・。」
「ちなみに私なら最低でも3倍返しはしないと来年からあげません。」
「3倍!?」

 山中の言葉にルルーシュの目が輝く。
 経済活動と言いながら通常ではありえない利率だ。単純計算で原価を差し引いても200%という計算になる。

「株式投資やFXよりも高配当で安全性が望めるとは・・・・・・。」
「え? あのちょっと、皇子?? そーゆー投資とはちょっと違ってかなり御遊び含んでるし3倍返しは単なるジョウダ・・・。」
「よぉっし! スザク、遅くなってしまうが明日の夜までに用意してやろう!」

 ルルーシュの呟きに驚いて慌てて訂正を入れようとするが既にルルーシュ・ヴィ・ブリタニアには聞こえない。
 山中の説明は空に消え、ルルーシュの宣言にスザクの大歓声が部屋に響き渡る。
 嬉しそうに手を繋いでどのチョコレートが良いか相談しあうその姿は仲の良い友人だ。
 そう、少なくとも今はそう見える。
 だから大丈夫。まぁ良いかと自身に言い聞かせる山中に不穏な一言が耳を打つ。

「ブリタニアでは同性同士の結婚も認められるんですよね・・・・・。」

 フフッ

 少し寂しげに、けれどどこか嬉しそうに微笑むナナリー・ヴィ・ブリタニアの姿に山中は不安になった。
 ルルーシュは投資と言った。だからこれに好意も愛情も関係ない。ホワイトデーの見返りを見込んでの出費でしかないはずだ。少なくとも今は。

《今は?》

 自身の考えにすぅっと肝が冷えるのを感じた。
 これから先、何年も同じことを繰り返していくであろうあの二人が今と同じ気持ちでいるだろうか?

「投資っていう名前の気持ちもあるのかもしれませんね。」

 言葉にして山中はちょっぴり後悔した。
 これ以上は声には出さない。言葉に出来るはずがない。

《成長した二人が頬を赤らめて手を取り合う姿が目に浮かぶようだなんて絶対に言えないもの!》 

 2月も最終日が近くなったある日の枢木家の食卓。
 その日の男女の表情は、男は明るく女は暗いビミョーな空気が漂っていたそうな。


 END


 以下はペーパーに載せた後書きです。
 ええ・・・わかってますとも、本当に本当にごめんなさい!

 大変お久しぶりでございます。「こんなところで何をしている。さっさとサイトをやらんか!」と叱られても仕方のないSOSOGUでございます。
 たまたま手にとって驚かれた方もいるかもしれませんが、本日『青赤遺伝子』様のスペースを預かることになったので私も無配ペーパーを用意させて頂きました。突貫で書き上げた作品なので物足りないかと思いますが少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。
 ではまた機会がございましたらお会いしましょう。

 2012.2.26 SOSOGU


 (初出 2012.2.26)
 2012.3.18 サイトUP