ルルーシュ皇子のレシピ帳

 幼少時の健全ギャグです。
 食卓シリーズの買い物編。
 出来れば思いついたままに書いていきたいな☆


 日本人にとって通常の生活の上ではブリタニア人という何あまり意味は無い。

 ブリ鬼

 この一言で十分であり最も相応しいと皆評する。
 当然ながら当代ブリタニア皇帝は皇帝ではなく『ブリ鬼の総大将』と呼ばれるのだ。

 さて、此処は東京から程良く遠い自然溢れる小さな町。
 大型スーパーが近くにあるがご近所が一番という住民が多いこの町には商売が成り立つ程度に客が訪れる商店街がある。
 大きくは無いが大抵の食材や日用品が揃うこの商店街ではある噂が流れていた。

『枢木家にブリ鬼の総大将の子供が居る。』

 最初は何のデマかと思われていたが枢木神社の近くでブリタニア人の子供が目撃されており、商店街に店を構える青果店の店主が梨を売ったと語っていた。
 また子供達が『皇子の梨をドロまみれにしてやった。』と誇らしげに話していたとの噂も流れ、子供達の言葉に顔を顰める者もいたが面と向かって注意する者はいなかった。



「・・・フン。」

 肉屋の主人は人通りの少ない商店街を見やる。
 時間帯的に皆、買い物を済ませて昼ご飯を食べているのだろうと時計を見る。
 彼の読みが正しければそろそろあの二人が来る頃だ。
 先日は魚屋の主人が対応したと言っていた。以前はスーパーで買っていたが人目を気にしてか幾分か人の目が少なめのこちらへ来るようになったらしい。

「来たか。」

 主人が商店街の入り口へ視線を移すと黒と茶の子供の影がだんだんと大きくなってきていた。
 黒い影は噂のブリタニアの皇子。
 ブリタニア人特有の白い肌にブリタニア人には少ない漆黒の髪、ブリタニア皇族特有の菫色の瞳をした少年の名は第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 もう一人、茶色っぽい影はこの辺りの名家の嫡男。
 日本人特有の象牙色の肌に日本人にしては色素の薄い鳶色のクセっ毛、鮮やかな翡翠色の瞳をした少年。枢木スザク。
 どちらもまだ幼い少年で本来ならば親の庇護の下、育つ年齢だ。
 だが今、ルルーシュは他国の皇族でありながら誰からも守られる事はない。
 その事実に思うところがないわけではないが、当代皇帝の暴虐さを知る者はどうしてもルルーシュにあまりいい感情を持てなかった。
 勿論ルルーシュはそんな日本人の言い分を理解し、それでもこうして町に出てくる。

《いっそ閉じ篭っててくれた方がこちらも意識しなくて済むんだがな・・・。》

 肉屋の主人だけでなく恐らくこの辺りに住む大人の殆どが思う事だ。
 何かしら理由があるにしても愛想良くする必要は無いし、特に係わり合いになりたくない。
 商売だから必要なものは売るがそれ以上は介入しない。
 そんな暗黙の了解が商店街には満ちていた。

 ざっ

 商店街のゲートを潜り買い物籠を持っているのはルルーシュ・・・ではなく、スザクだった。
 荷物持ちをさせられながらも特に不機嫌になっていない。
 乱暴者で俺様な態度で有名なスザクを知る者はその光景に驚いた。
 だが隣にいるルルーシュは当たり前と言った様子でスザクに籠を持たせたままスタスタと歩き続ける。
 二人の様子を軽く目を見開いて見つめながら肉屋の主人は彼らの会話に耳を傾けた。

「おいルルーシュ、今日は何にするんだ?」
「本日のセール品を見て決める・・・と言いたい所だがまだ応用を利かせられるほどレパートリーが無い。
 やはり日本の基礎料理本が必要だな。」
「俺ん家にある料理本じゃ駄目なのか?」
「あれは上級者向けだ。」
「でも作ってたじゃん。」
「書かれた通りに作っただけだからな。だがそれでは同じ料理ばかりが食卓に並ぶ事になるし不経済だ。・・・先に書店に寄るか・・・それとも今日はキャベツが残っているから簡単な肉味噌炒めにしてしまおうか・・・。」

 お気楽そうに問うスザクに対しルルーシュの目は真剣。
 手にした現在の冷蔵庫の食材メモを見て俯きながらぶつぶつと呟くルルーシュにスザクは更に問う。

「肉味噌炒めって牛肉?」
「いや豚だ。」
「駄目だ。絶対今日は牛肉、ステーキしゃぶしゃぶすき焼きのどれか!
 昨日ジャガイモ一箱運ぶの手伝ってやっただろ。だから俺が決める!!
 最初に肉屋!!!」
「まあ昨日が魚だったから肉料理でも構わないが。」
「よし決まり。にーくにーくにーく☆」

 はぁあああ・・・・・・

 ご機嫌になったスザクがさっさと肉屋へと向かう姿を見てルルーシュはぱちんとがま口タイプの財布を空けた。
 恐らく彼だけにしか見えないだろうその中身、深く深く吐き出された溜息で何となく金額の程を察した大人たちは思う。

《お母さんみたいだな、おい。》
《ってゆーか枢木のぼっちゃんの飯作ってんのって皇子なのか?》
《おいおい枢木家にはお手伝いがいたはずだろうが、何やってんだよ。》

 けれどもそんな大人達の思いに気付くことなくスザクは肉屋のショーケース前で立ち止まり一通り眺め嬉しそうに笑いながら上段に飾られた肉を指差し言った。

「ルルーシュ、今日はこれにしよう。
 おっちゃーん、この松阪牛のステーキ肉三枚ね。一枚180gで!」
「ちょっと待てぃ!」

 ずびしぃ!

 容赦ない脳天チョップがスザクに決まった。
 けれどルルーシュにもダメージがあったらしく右手を押さえながら一時蹲る。
 先に復活したのはスザク。頭を片手で押さえルルーシュに精一杯怒鳴る。

「イッテー! 何すんだよ!!」
「何するんだはこちらの台詞だ! 勝手にステーキにするな!!」
「それじゃあ、すき焼き用の肉だな。おっちゃーんこっちの松阪牛500gね!」
「だから待て!」
「何だよケチケチするなよ。」
「人の金で勝手に買い物するな。
 というか、何だその500gって!
 僕とナナリーと君の三人でそんな量を食べ切れるか。一人頭150g以上か!?」
「ルルーシュはそんなに食べられないだろ。
 ルルーシュとナナリーが100gずつで俺が300g。」

 ずごん!

 再びスザクの脳天に衝撃が走る。
 やはり今回もダメージがあったのかルルーシュは涙目で右手を摩っていた。

《おいおい叩いた方がダメージ大きいってか。》

 呆れた顔でショーケース前で言い争いを始める二人を見守るのは肉屋の主人と通りがかりの大人達。
 だが生温い目で見つめられている事に気付かず、ルルーシュは痛む右手でこめかみを押さえ怒りに震えながらも懸命に冷静にスザクを諭すように語り掛けた。。

「スザク・・・料理をしない君に教えてあげよう。
 種類により多少の違いはあれども、野菜を伴う料理において肉の量は大人一人当たり50〜80gだ。
 多目の80gで計算しても三人分で240g、子供ならばもっと少なくなる。
 大人計算で倍以上の肉を注文した挙句に大人の4倍近い量を食べる気か。」
「俺は食えるぞ。」
「肉だけ食べたらの話だろう。それにさっきのステーキ肉のグラム数も異常だ。
 こんな若い内から乱れた食生活を送っていたら将来どうなると思ってる!」

《なんだこの皇子・・・。》

 店の前で繰り広げられたやり取りに肉屋の主人はただただ見つめるのみ。

《本当に何処のお母さんだ。》

 二人のやり取りのやかましさに店の奥から肉屋の奥さんまで出てくるしまつ。
 それでも二人は気づかない。

「それに予算オーバーだ。
 ここはセール品に肉の種類を見て決める!」
「じゃあ焼肉焼肉焼肉!!!」
「君はナナリーの夕飯でもある事を理解しているのか?
 あの子は身体が弱いから食事には更に気をつけなくてはいけないんだ。
 最低でも肉1に対し野菜は3の割合。30品目の食事は無理でもそのバランスだけは崩せない。」
「あのさー、ルルーシュそこまで神経質にならなくても大丈夫だって。」
「君は自分の発言の異常さを知れ!」
「・・・口、挟んでもいいか?」
「「はい?」」
「買うの? 買わないの?」

 遂に痺れを切らした肉屋の主人の言葉に二人は沈黙する。
 再び視線を絡ませ、瞬間飛び散る火花。内容を知らなければライバル同士の睨みあいにしか見えない。
 そう、内容を知らなければ。

「メニュー決めてから肉選んだらどうだい。」
「と、言われても何を作って良いのか。」
「そのメモは家にある食材か?」
「・・・ええ。」
「ちょい見せてみ。」

 差し出された手にルルーシュは素直にメモを差し出す。
 警戒はしない。財布を出せと言われたわけでなく傍でスザクが目を光らせている事もあるが、皇宮で感じていた悪意が全く感じられなかったこともあるだろう。
 何よりも最初に感じていたルルーシュの様子を伺う嫌な感じが消えていた。
 純然たる好意を信じ切ることは出来ないながらもルルーシュはメモを見て唸る主人を見上げた。

「これなら今日のセールの牛の切り落としで肉じゃがが出来るな。」
「作り方を知りません。」
「どうせ捨てる奴だからこの雑誌あげるわ。此処に載ってるわよ。
 日本語は読める?」
「そこそこには。」

 奥さんと思しき女性に差し出された料理本を受け取りルルーシュは示されたページを食い入るように見つめる。
 材料を呟いて確認するルルーシュを見て更に十冊近い本をショーケースに積み「一年分溜めちゃってたから全部あげる。」と言うとルルーシュが初めて戸惑いの表情を浮かべた。
 一冊の値段を確かめ財布の中身と見比べ、唇を咬むルルーシュに主人と奥さんは漸く思い出した。

《そう言えば皇子様だっけ。》
《施しはプライドを傷つけるってか。》

 さてどうフォローしたものか。
 二人が声を掛けようとするがルルーシュの決断の方が早かった。

「スザク・・・半分運んで。」
「えー! 重いだろ!!」
「修行の一環になるだろう。その代わり今日は四杯目までおかわりして良いから。」
「次は絶対ステーキ!」
「魚の後でな。」



 必要最低限の肉を買って商店街の出口を目指す二人を見送り、二人の影が殆ど点にしか見えなくなってから奥さんがぽつりと旦那に問うように呟いた。

「日本語って世界でも難解な言語の一つじゃなかったっけ?」
「料理本読んであっさりそれを作って見せるとはな。」
「枢木家のぼっちゃん、いいお嫁さん捕まえたわね。」
「・・・・・・・・・・・・・皇子だから男だろ?」
「あら残念。家に同じ年頃の娘がいたら婿に貰っても良かったかも。」

 ほっほっほ

 何処まで本気なのかと言いたくなる笑顔を浮かべて買い物籠を持ち店を出て「新じゃがの安売りやってたわね〜v」と呟きながら歩いていく妻を見送り肉屋の主人は呟いた。

「・・・うちも今夜は肉じゃがか・・・。」

《また来るんだろうな・・・次は何の料理作るんだろうな・・・・・・。》

 何故か心弾むものを感じながら肉屋の主人は次に来た時はもっと優しくしてやろうと心に誓った。


 その後、ルルーシュは商店街で《おかあちゃん皇子》と影で呼ばれるようになる。


 END


 と、まぁ・・・こんな感じでお夕飯を巡るスザクとルルーシュのやり取りが書きたいと思っただけです。これが日記に書いたシリーズ化を目論んでいる健全ネタ。
 オチは殆どありません。正に自己満足。
 但し設定を書くためのお話でもあるので次にこの続きを書く時はもっと短く可愛い二人のやり取りを書きたいです。

 2007.5.22 SOSOGU

 実際UPは2007.6.3になりました。
 すみません・・・。
 ちなみに肉の分量はSOSOGU宅を基準にしており日本全国の平均ではありません。
 もっと言うと80gは無理です。SOSOGUはね。ステーキ肉の重さですよソレ。

 2007.6.3 SOSOGU