食べ物にも名前を書こう

 幼少時の健全ギャグです。
 食卓シリーズのおやつ編。
 最近のスザクはごきげんだった。
 友人が出来た事もあるだろうが、食生活の向上が一番の理由かもしれない。
 一日三食三時にはオヤツ。
 それら全てが友人であるルルーシュのお手作りである。
 ルルーシュからすれば迷惑な点も多いのだが、買い物がスムーズに行えるようになった事とスザクの食事でもある為に枢木家の台所を使える様になった事は大きなメリットだった。
 だからこそ黙って作っているが序でにスザクの食費も出してくれと言いたくなる。
 毎日地道につけている家計簿からエンゲル係数が跳ね上がっているのがはっきりと分かっているだけにキツイものがあった。
 実の父親から見放され頼るべき大人は傍にいない幼い皇子は逞しく庶民的になりつつある。
 そしてその庶民的な金銭感覚と妹ナナリーに出来うる限り添加物の少ない食事を用意したいという想いゆえにオヤツは手作り。
 そんなルルーシュだからこそ最初はスナック菓子を持ち込んだスザクと衝突した。



「君はこんな高カロリーで大量の添加物が使われたものをナナリーにやれと言うのか!?」

 少年特有のソプラノの美声が響き渡る。
 場所は枢木家の母屋。ナナリーは土蔵でお昼寝中。
 よって喧嘩している声をナナリーに聞かれる心配は無いとルルーシュの怒鳴り声には遠慮が無い。
 彼の右手には日本の大手製菓メーカーのスナック菓子。最近発売された期間限定梅味のそれはクセになると評判で話題に惹かれてスザクが買ってきたものだった。
 怒り心頭のルルーシュに対するスザクは首相の息子という事もあるが度胸だけは誰にも負けないガキ大将。
 負けず劣らず精一杯腹の底から怒鳴り返した。

「美味しいんだよ! 良く言うだろ身体に悪いものほど食べたくなるって!!!」
「身体に悪いと分かっているなら勧めるな!
 とにかくこれは没収。君も食べる量を考えろ。
 しかも三袋も持ってくると言う事は・・・。」
「一人頭一袋。当然だろ。」

 これまた自信満々に言い切るがルルーシュは胸を張るスザクの姿に顔を逸らして軽く溜息を吐き、再びスザクに向き直って感情を必死に抑えながら諭す。

「食べすぎだ。毎度の食事でも言っているだろう。
 大人でも食べすぎだと何度言ったら分かるんだ。」
「俺は一袋でも食べ足りない。」
「我慢しろ。その分食事で補え。」
「ご飯は三杯までしか駄目って言うのはルルーシュだろ!」
「三杯も食べれば十分だ!
 とにかく今日のオヤツはもう作ってある。
 ホットケーキ一人一枚だ。皿を並べているからナナリーを起こして連れて来てくれ。」

 それきりプイっと後ろを向いてフライパン横に置いたホットケーキに常温に戻したバターを乗せてメイプルシロップを入れた小皿にスプーンを添えて皿の端に載せる。
 それらを三セット作るルルーシュにスザクはホットケーキの皿を眺めながら言った。

「なぁルルーシュ。」
「・・・・・・何だ。」
「生クリームはあるのか?」
「自力で泡立てろ。」

 どん!

 冷蔵庫から取り出されたのは植物性生クリームの紙パック。
 その隣に置かれたボウルと泡だて器を見て、スザクは鳴き続ける腹の虫と相談し諦める事にしたのだった。



 そんなこんなである設備と道具で出来る限りではあるがルルーシュは色んなオヤツを作ってくれた。
 レモンを絞って蜂蜜と混ぜた蜂蜜レモンジュースや、100%果汁のシャーベット。
 ホットケーキやカップケーキ。トースターで出来るクッキー等。
 最初は文句たらたらだったスザクは数日もすれば上機嫌に変わっていた。
 さて、本日の夜のオヤツはルルーシュお手製のプリン。
 三時のオヤツだったのだがレシピの関係上余った為、渋るルルーシュに強請り倒して手に入れたものだった。
 ルルーシュの作るプリンは全体甘さとカラメルのバランスが絶妙なハーモニーを奏でナナリーも手放しで誉めた程の出来。
 当然の如くお代わりを要求し却下されたものの夜食という事で漸く許してもらえた事にスザクは嬉しさを隠しきれないまま冷蔵庫の前に立った。

「煩いルルーシュはもうナナリーと一緒に寝てるだろうし、父さんと桐原のおじいちゃんは客室に篭って出てこないし。プリン二つを独り占めしても誰も文句言わないvvv」

 居間の茶托ではスプーンと淹れたての紅茶が主役のプリンを待っている。
 満面の笑みを浮かべスザクは冷蔵庫の戸を開けた。

「・・・・・・あ・れ?」

 三時に確かに入れておいたプリンが見当たらない。
 器が無くて茶碗蒸し用の陶器で作ったが匂いを嗅げばその正体は直ぐにわかる。
 当然夕飯の時に間違えて食べる事はないし今日のメニューに茶碗蒸しはなかった。

「スザクぼっちゃん何をしているんですか。
 もう夜も遅いんですからつまみ食いしてないで歯を磨いて寝て下さいね。」
「山中さん・・・。」

 呆然と冷蔵庫の戸を開けたまま立ち尽くしていたスザクだが掛けられた声で漸く立ち直り振り向いた。
 そこにはぎっくり腰で暫く休んでいた家政婦の山中が立っている。
 少々困り顔でお盆を流しで洗い始めるその姿をみてふと気がつく。

《ん? お盆??》

 思い当たるのは客室にいる二人の人間。
 そして冷蔵庫に入っていた二つのプリン。
 嫌な予感に必死に抵抗しようとスザクは恐る恐る、けれどしっかりとした声で洗い物をする家政婦に問いかけた。

「山中さん。冷蔵庫にあったプリンだけど・・・・・・。」
「え? ああ、あのプリンですね。
 あれなら丁度お茶請けを切らしてたんで旦那様とお客様にお出ししましたよって・・・ぼっちゃん?」

 ああああああああああああああっ!!!!!

 スザクの叫びが枢木家に響き渡り、その後しばらくドッタンバッタンと何かが暴れる音が続いた。




 数日後、枢木家の台所は大改装され最新のシステムキッチンへと生まれ変わった。
 ピカピカのステンレスの流し台に模造大理石の作業台、最新式のオーブンレンジは勿論の事、冷蔵庫まで最新の大型タイプに替えられている。
 表には見えないが戸棚の中はきっと新しくなった鍋や調理道具が入っていることだろう。
 恐らくはこの家に合った最新の設備となっただろうキッチンに立ち一通りぐるりと見回してルルーシュは傍らに立つ老人に語りかける。

「たかがプリン、されどプリン。
 随分と高くつきましたね。」
「食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだ。」

 ルルーシュの言葉にしみじみと頷きながら答えたのは枢木政権の立役者であり恐らくは日本で一番のお金持ち桐原泰三。
 馴染みの杖を突きながら自身が手配し改装させたキッチンの出来を見ては溜息を吐いている。
 つるつるに禿げ上がった頭にはワンポイントのおしゃれのように白いガーゼが張られている。
 ちょっぴりガーゼが膨らんで見えるのは多分絶対に気のせいではない。
 スザクの父ゲンブも顔は何とか守り抜いたもののそのボディはところどころ青あざが出来ていると言う。

「ほぼ毎日メディアに出る以上顔だけは守りませんとね。」
「ゲンブもそれだけが頭を占めたそうだ。まさかおやつ取られた息子にやられました等と言える訳がない。
 それにしてもスザクは随分強くなったな。食育の成果か?」
「そういう事は親である枢木首相にやって頂きたいのですが。」
「耳に痛いな。しかしスザクが暴れるだけあって中々の味だったぞ。
 次には是非わし等の分も作ってもらいたいくらいだ。
 何か必要なものがあれば言いなさい。」
「お褒めの言葉有難うございます。では早速・・・・・・。」

 ぶわわわん☆

 皇族スマイル全開。
 隙の無い微笑みを湛えルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは何よりも欲しいものを告げた。

「スザクの食費を下さい。」

 一緒に見せられたスザクが食べに来る前の家計簿と現在の家計簿の比較表は誰が見ても唸るほど見事な資料。
 着実に庶民臭くなっていくルルーシュに桐原は思わず「すまん。」と謝る。
 と同時にその場の空気を読まずに飛び込んでくる子どもが一人。

「ルルーシュ〜〜? 今日のおやつは何?」

 噂をすれば影。
 台所リフォームの最大の原因である枢木スザクはぐーぐーと腹を鳴らしながらルルーシュに訊ねる。

「時間がないからホットケーキにするつもりだが。」
「それじゃあ今回は絶対生クリームとチョコソースつけて。
 ハンドミキサーがあるから楽だろ?」
「構わないが・・・スザク。」
「何?」
「今度から食べ物にも名前を書いておけ。」

 ルルーシュから手渡されたのは小さなチョコペンシル。
 スザクは隣に立つ桐原を見上げて深く頷き、桐原は頷くスザクに嫌な予感を感じた。

 亀の甲より年の功。
 桐原の感じた予感は正しく、その日の夜から冷蔵庫の中をチョコレートでスザクと書かれた食べ物が占拠するようになった。
 その有様に再びルルーシュとスザクが喧嘩するのだがそれはまた別の話である。


 END


 本当なら6/9あたりにUPしたかったのですが・・・酷い風邪をひいてしまい土日はずっとベッドの住民になってしまいました。(涙)
 ふふふ・・・それにしても書きやすいな、このシリーズ。
 オカン臭いルルーシュが特に。(←こらまて)

 2007.6.11 SOSOGU

(2007.6.26 GEASSコンテンツへ移動)