ねだったもの勝ち 〜BIRTHDAY0710〜

   食卓シリーズよりスザクの誕生日編です!

《不気味だ。》

 口に出すと失礼極まりないので敢えて言葉にはしないがルルーシュは思う。

《どう見ても不気味以外の何者でもない。》

 視線の先には枢木スザク少年が朝からご機嫌顔で鼻歌まで歌っている。

《と言うか・・・気持ち悪い。》

 別に機嫌が良いのは構わないのだが時々零れる笑い声が居間に響き渡る度にぞっとするのである。
 くすくすと可愛らしく笑ってくれれば良いのだが・・・・・・。

 ぐっふぐっふぐっふふふ☆

 この蛙を連想させる笑い声はルルーシュに鳥肌を立たせた。
 あまりにご機嫌なスザクだが何も思い当たる事は無い。
 ナナリーにも訊いてみたが彼女も不思議そうに顔を傾げるだけで「お兄様もご存じないのですか?」と逆に問いかけてくる始末。
 滅多な事では会話しない家政婦の山中さんに聞いても「さあ?」と答えるだけで何の情報も得られなかった。
 けれどご機嫌だったのは夕方までだった。
 突如態度を急変させたスザクはこれ以上ないくらいに不機嫌な顔になり、眉間に皺を寄せていた。
 彼の目の前にはいつも通りの夕飯が並んでいる。
 炊き立ての白いご飯と温かそうな湯気を立ち上らせる葱と豆腐の味噌汁、オカズは肉の日なのでチンジャオロースーをメインにサイドメニューに胡瓜の酢漬けとルルーシュ特製しそドレッシングをかけたトマトとレタスのサラダがあった。
 ちなみにデザートは食事が終わるまで出る事は無い。

「どうしたスザク? さっさと座れ。お待ちかねの食事だぞ。」
「どうしたって・・・・・・・・それはこっちのセリフだぁあああっ!!!

《まずい!》

 叫ぶスザクに対しルルーシュが取った行動は早かった。
 卓袱台に手を掛けようとするスザクに全体重をかけたタックルをかまし押し倒す。
 勢い余って二人とも畳に倒れこんだが、ルルーシュは痛む身体を起こし食卓が無事である事を確認すると畳に倒れたままのスザクに怒鳴りつける。

「いきなり何をするんだ君は!」
「する前にルルーシュが邪魔しただろっ!?
 まだ何もしてないっ!!」
「揚げ足とるな。とにかく人が作った食事を粗末に扱うな!
 一体何が不満なんだ。ちゃんと言わなきゃわからないだろう。」
「だって・・・だって・・・・・・・俺、ずっと楽しみにしてたのに・・・。」

 うるうるとスザクの目が潤みだすのを見てルルーシュは動揺した。
 涙もろいスザクだが、その涙は他人の為のもの。
 自分の事で泣く事は滅多にない。
 その滅多に出ない涙をぽろぽろと溢れさせスザクは叫ぶ。

「今日は・・・絶対・・・絶対ご馳走だと思ってたのに!」
「何を根拠にそう思ったんだ。ちゃんと説明しろ。」
「今日は、7月10日は俺の誕生日だからに決まってるだろっ!!!」

 し―――――ん

 沈黙が枢木家の居間を支配した。
 スザクの言葉が沁み込むのに時間がかかったのか暫しの沈黙の後、ルルーシュが沈痛そうな面持ちで答える。

「そんな事は今初めて聞いたが?
 大体聞いたことが無いのに何故誕生日を祝ってもらえると思ったんだ。」
「俺をびっくりさせる為に黙っていると思ってた。」
「あのなあ・・・・・・それで癇癪起こして食事ひっくり返されてはこちらとしてはたまらないんだが。」
「牛豚鳥の三種カレーに大トロいくらウニの手巻き寿司、鶉の卵入りハンバーグと上カルビ焼肉5皿と苺とチョコと生クリームの21cm以上のホールケーキ楽しみにしてたのに。」
「どれだけ食べる気だ君は・・・。」
「出ただけ全部。」

 最早いつもの説教をする気も失せたルルーシュが身体を起こしスザクの上から退くと、スザクも起き上がり膝を抱えてすねて呟き続ける。

「毎年この日だけは父さんちゃんと家に帰ってくるのにずっと東京へ行きっぱなしだし。」
「ブリタニアと険悪な状態だから忙しいんじゃないか?」
「藤堂師匠も今月は絶対に行くよって暑中見舞いに書いてたし。」
「別に深い意味無かったんじゃないか?」
「昨日だって桐原のおじいちゃんがお土産持って来るって電話くれたんだ!
 期待するに決まってるだろっ!?」


 最後には叫ぶスザクだがルルーシュは答える気力も失せたらしく溜息を吐くのみ。
 そんな二人に上から声がかかる。

「何を騒いでいるんだ?」

 噂をすれば影。
 何時の間に来たのか桐原が立っていた。
 右手に籠盛りの果物があるのを見てスザクが目を輝かせる。

「おじいちゃん。それは!」
「ああ、これは・・・。」
「桐原翁言ってはダメです!」

 ルルーシュが皇宮で培った勘の強さで咄嗟に制止するが間に合わない。

「貰い物の果物だが?」
「え・・・・・・・・・・?」

 あっさりと答えた桐原。
 遅かったとルルーシュが天を仰ぐ間にも話は続けられる。

「ナナリー皇女が果物好きだと聞いた事があってな。
 とても食べきれないしルルーシュ皇子なら腐らせる前に上手く菓子に変えるだろうと思ったから土産に持って・・・・・スザク?」

 肩を震わせ俯くスザクに漸く異変に気付いたのか不思議そうに訊ねるが時既に遅し。
 桐原が自分の為に来たのではないと知ったスザクのハートは粉々だった。

「桐原翁・・・止め刺しましたね。」
「え?」
「今日はスザクの誕生日だそうですね。僕らはついさっき聞いたばかりですが。」

 !

 ルルーシュの言葉に桐原は思い出したが先程の言葉はもう戻らない。

「ス・・・スザク、その・・・・・・。」
「みんな・・・みーんな俺の誕生日忘れてたんだ・・・・・・誰も覚えてなかったんだな・・・。」

 ふふっふふふふふふ・・・・・・・・・・

 昼間とは違う不気味な笑みにルルーシュは髪が逆立つのを感じた。
 桐原もヤバイと感じたらしく慌てだす。

「わ・・・忘れてたなんて・・・・・・。」
「だってケーキ一つないよね?」

 ぴしゃぁああん!

 一瞬稲光が見えたような気がする。
 その内雲行きが怪しくなり雷の音が聞こえてくるかもしれない。
 スザクの不気味な落ち込み具合にまだ状況が良くわかっていないナナリーが可愛らしい声で言った。

「スザクさん、お誕生日にケーキが食べたいのでしたら今から作りましょう?」
「・・・・・・ナナリー?」
「本格的なものは無理ですけどホットケーキを三枚くらい積み上げて。」
「そうだな・・・ホットケーキならすぐに作れるし生クリームや苺ジャムも冷蔵庫にある。
 丁度果物も貰ったところだし簡単なものにはなるがデコレーションすれば格好はつくと思うが。」
「蝋燭立つ?」
「・・・旗なら立てられる。」

 ルルーシュの言葉に少し機嫌が戻ってきたのだろう。
 スザクの表情に明るさが戻りつつある中、部屋中に鳩の鳴き声に似た音が響き渡った。

 ぐるっぐーぐっぐっぐっ

 スザクの癇癪をきっかけに夕食はまだ手をつけていない。
 いつもならばとっくに食べ終えている時間になっておりスザクの腹時計の正確さにルルーシュとナナリーは苦笑していた。

「お腹は正直だな。とにかく先に夕食にしよう。」
「うん! ひっくり返さなくて良かった☆」
「二度とやらないでくれ。」

 本当に危なかったとほっと一息吐いたルルーシュは客である桐原分の茶碗と味噌汁を取りに台所へと向かう。
 その間に更にご機嫌を取ろうと桐原は猫なで声でスザクに言った。

「すまなかったなスザク。お詫びに好きなものを何でも買ってやろう。」
「ホントに? いっぱい頼んでもいい?」
「うむ、男に二言は無い。何が良いんだ?」

 何と言っても日本で一、二を争うお金持ちの言葉だ。
 スザクは大喜びで指を折々考え始めた。

「えーっと神戸牛の霜降りステーキ五人前と松阪牛のすき焼き五人前とタラバ蟹のすき鍋とステーキと蒸し焼きと蟹味噌と蟹酢と生刺身は欠かせないだろ。それから京都で豆腐会席最低三種類くらいは食べたいし大阪にあるお好み焼き屋全店制覇したいし九州でとんこつ系ラーメンとモツ鍋が美味しいところがあるって藤堂師匠が言ってたし明太子使った料理全種類食べたいし山梨のほうとう鍋が美味しいって朝比奈さん言ってたしわさび漬けやわさび茶漬け、たこわさに・・・・・・・・あああああ北から順にもう一度!
 えーと北海道は石狩鍋とイカそうめんと海鮮親子とそれから・・・・。」


 まるで胃袋に限界は無いとでも言うように各地の名産品と名物料理の羅列を続けるスザク。
 たらーりとこめかみから垂れる汗を拭おうともせず桐原は己の言葉を呪う。
 口は災いの元という言葉の意味を噛み締める老人の傍らに立つ者が一人。
 目を向ければ其処にはほかほかのご飯が盛られた茶碗を持つブリタニア人の少年がいた。
 少年はぽつりと呟く。

「男に二言はないんですよね?」



 延々と各地の美味しい食べ物を語り続けるスザクに桐原が畳に頭との境目のわからない額を擦り付けて「せめて十個にして下さい」と許しを請うのはそれから30秒後の事である。



 Happy Birthday SUZAKU☆



 原稿中なので短めに仕上げました。
 食卓シリーズより胃袋無限大スザク君♪
 書いてて楽しかったです☆

 2007.7.10 SOSOGU