泣いても許してあげません おまけSS

 食卓シリーズの箸の持ち方特訓編おまけSSです。
 読みたい方のアイコンを選んでクリックして下さい。



泣いても許してあげません 〜意地っ張りな妖精〜
泣いても許してあげません 〜イマドキの子供〜
 
泣いても許してあげません 〜意地っ張りな妖精〜


 ぐるっぐー ぐるっぐー

 まるで鳩の鳴き声の様な音が響き渡る。
 音源は枢木スザクの腹。
 布団を被っていても部屋中に響き渡る音がスザクの空腹具合を示していた。
 普段の食事量を思えばご飯一杯は明らかに足りず飢えがスザクを支配する。
 勿論お仕置きの一環であるとわかっているし明日の朝はいつも通り出してくれると解っている。
 けれど・・・。

「腹が減って眠れないっ!」

 ぐるっぐー ぐるっぐー ぐるっぐー


 叫んだところでお腹が満たされるわけでもない。
 冷蔵庫やオヤツを管理しているのはルルーシュで手を出せば直ぐにバレる。
 バレればお仕置き延長は目に見えており摘まみ食いも出来ない現状にスザクは涙する。

「水でも飲んで誤魔化すか・・・。」

 ふらふらとした足取りは普段のスザクならありえない。
 腹を空かせて鳴いて・・・いや、泣いている鳩を宥める為にスザクは台所へと向かった。
 時刻は十時半。普段のスザクなら翌朝の鍛錬の事もあり既に眠っている時間。
 当然ルルーシュも明日の朝食の下準備を終えて既に土蔵に戻っている。
 綺麗好きのルルーシュはいつも卓袱台や作業台に何も残さない。
 使ったコップをちゃんと洗って戻さないと明日煩く言われるだろう。

《面倒臭い・・・。》

 そう思いながら台所に入ると何時もなら何も無い作業台の上に影を見つける。
 布巾が乗ったこんもりと小さな塊にスザクは首を捻った。

「あれ? 珍しいなルルーシュが片付け忘れるなんて。」

 呟きなら物が何なのか見ようと濡れ布巾を持ち上げる。
 現れた白い三角形にスザクは驚いた。
 日本の代表的な料理の一つ。
 その名も

「おにぎり・・・何で!?」

 皿に乗っているおにぎりは二つ。丁度スザクが食べるご飯二杯分。
 見れば皿に小さなメモ用紙が添えてある。
 綺麗な字。けれど全て平仮名で書かれたメッセージは。

「【よくかんでたべたら、はをみがいてねろ。】
 ・・・でもルルーシュ簡単な漢字なら書けたはずなのに何でだ?」

 ぐるっぐー ぐるっぐー ぐるっぐー ぐるっぐー ぐるっぐー

 盛大に鳴き出す腹の虫・・・もとい鳩にスザクは手を洗いおにぎりをひとつ手に取る。
 海苔の巻かれたそれを一口食べた。

「あー塩加減が絶妙。中身は明太子焼いた奴か。
 うまーい。」

 空腹の為、いつも以上に胃と腹に染み渡る。
 直ぐに飲み込もうとしてメッセージを思い出す。

【よくかんで】

 噛み締め噛み締め飲み下した米は甘く感じられスザクはいつもよりも時間を掛けておにぎりを平らげる。
 量を考えれば全然物足りなく感じるはずなのにいつもよりも腹が落ち着いている様に思えた。

『最低二十回以上噛め。咀嚼は消化を助ける為だが、噛んでいる間に脳に刺激がいく。
 その刺激で人間は満腹感を得られるんだ。
 君は刺激がいく前に大量に食べているから物足りなく感じるんだよ。』

 急に食事時のルルーシュの薀蓄を思い出しスザクは呟いた。

「こういうことか・・・・・・。」

 口煩く言う言葉の本当の意味もそうだがルルーシュは意地っ張りだと思う。

「素直に出せばいいのにな。」

 呟きスザクはメッセージ通りよく噛んで歯を磨いてその夜は満足して眠った。



「お兄様はね。あの後、わざわざご飯を炊いておにぎり作ってたんですよ。」

 翌朝ナナリーがこっそりスザクに耳打ちして教えてくれたがルルーシュは認めない。
 問われても「僕が片付け忘れるとでも?」と否定し最後には苛立った様子で答えた。

「妖精の仕業だ。名前もなく全部ひらがなで書いてあったんだろ。」

《ああ、それで全部ひらがなで書いたのか。》

 言われても言い訳出来る様に。
 言い訳にもならない言い訳をする為に。
 耳を真っ赤にして背を向けるルルーシュにスザクはにんまりと笑う。

「そうだな。とっても意地っ張りな妖精だけど。」

 答えるスザクに黒髪の妖精はツンと顔を逸らして応えた。

「一言余計だ!!!」


 END


 可愛い妖精さん落ち。
 何だかんだ言って甘いルルーシュを考えました。


 2007.6.26 SOSOGU


(2007.8.29 GEASSコンテンツへ移動)

 △上に戻る

 
泣いても許してあげません 〜イマドキの子供〜


 藤堂鏡志朗は軍の中でもその素質から注目を集めていた。
 彼の人柄と能力から優秀な軍人が自然と集まり彼を中心とした四人は四聖剣と呼ばれ一つの小隊となっていた。
 当然そんな彼に寄せられる縁談は多いが彼は「勿体無いお話ですが」と言いつつ断り気楽な一人身を通していた。
 故に職業と環境から自然と食事も偏りがち。
 弟子のスザクから誘われた夕食会は正直ありがたいものではあったが憂鬱な面もあった。
 スザクの食事態度を思うと溜息が出るのはいつもの事。

 はぁ・・・

 深く溜息を吐く藤堂に四聖剣の一人、千葉凪沙が気遣い声を掛ける。

「大丈夫ですか中佐。お身体の具合でも?」
「いやそれは大丈夫だ。」
「でも藤堂さんが溜息を吐くなんて・・・またウザイ草壁中佐から嫌味でも言われましたか。」

 注目を集めれば自然とやっかみも買うもの。
 藤堂と対立する直ぐに思い当たる人物の名を朝比奈が挙げるが藤堂は首を振って否定した。

「いや草壁中佐とは暫く会っていない。
 それに何でも草壁中佐に結びつけるな。失礼だぞ。」
「では何があったのですか?」

 訊ねる千葉に藤堂は小さく息を吐いて語り始めた。

「昨夜、スザク君に誘われて枢木邸で食事をしてね。」
「ああ、あの首相の息子ってだけで藤堂さんを独占してるクソガキですか。」
「朝比奈! それで何かあったのですか?」
「いや・・・楽しいものだったよ。
 用意された水炊きは美味しかったし同席したブリタニアの皇子は物腰穏やかで皇女も拙いながらも箸を使って食べている様子が見ているこっちを和ませてくれた。
 水炊きが皇子お手製と言うのは驚いたが。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」
「どうした?」

 急に黙り込む二人に藤堂は不思議そうに問う。
 対する千葉と朝比奈は互いに顔を見合わせて頷くと、朝比奈が恐る恐る確認した。

「あの・・・藤堂さん。今何て言いました?」
「皇子が料理を作ったと聞こえた気がしたのですが。」
「その通りだ。ルルーシュ皇子が作ってくれた。」
「ちょっ・・・それブリタニア側にばれたら国際問題になりませんか!?」
「それに皇子の作った料理って・・・藤堂さんまさか毒盛られたんじゃ!!」
「失礼な事を言うな朝比奈。
 それに国際問題の方は・・・皇子が家政婦を拒否した結果だから何とも言えないな。
 大丈夫だと思うが。」
「はぁ・・・まあそれは置いておくとして、そうすると先程の溜息の理由はなんですか?」
「子供の成長は目覚しいなという事と・・・・・・今時の子供のネーミングセンスが解らなくてな。」

 千葉の問いに首を振って頭を悩ませる藤堂は再び思考の海へと旅立とうとする。
 それを押し止めようと今度は朝比奈が問いかけた。

「成長? 藤堂さんがそう言うって事はクソガキの方でしょ。」
「ちゃんと名前で呼べ朝比奈。
 スザク君の箸の持ち方さ。先々週まで握り箸で食べてたのに昨夜見たら正しい持ち方になっていたんだよ。
 以前あれだけ注意しても直らなかったのに・・・そう思うと感慨深くてな。」
「子供の成長を喜ぶ父親の心境ですか。」
「そんなところだな。」

 微笑み言い添える千葉だが藤堂は独身である。
 けれど藤堂もスザクに対する想いに似たものを感じていたのか否定せず頷いた。
 その事に不機嫌そうに顔を顰めるのは朝比奈。大好きな人を取られた様な子供っぽい独占欲を刺激され話題を変えようと話しかける。

「で、ネーミングセンスって?」
「庭先に何かの生き物の墓らしきものが出来ていてな。
 その・・・名前が・・・・・・。」
「名前?」

 首を傾げる千葉に藤堂は顔を伏せ、一息をおいて再び顔を上げ問いかけた。

「朝比奈、千葉。『おハシ』と名付けられる生き物はどんなものが思い浮かぶ?」



 日本の優秀な軍人が頭を悩ませている同じ空の下。
 枢木邸の庭先に墓がある。
 そこに埋められているのはまだ新しいながらも食事用としては心理的に使えなくなった箸一膳。
 しかし藤堂は自分が昔スザクに渡した土産の箸が埋まっているとは夢にも思わなかった。


 END


 藤堂オチ。
 四聖剣が悩む姿が浮かんだので書いてみました!
 けれど話の構成上、卜部氏と仙波氏はお仕事中でいないことにしました。
 流石に五人で悩んでいる姿はウザく思えたので・・・。

 2007.6.26 SOSOGU


(2007.8.29 GEASSコンテンツへ移動)

 △上に戻る