ギリギリと踏みしめ踏みしめ 遅れ捲くっていたルルーシュの誕生日SS。 時期外れですがどうぞ! 食卓シリーズ「ルルーシュ殿下の誕生日編」編。 |
クリスマスに年末年始とイベント満載の日本は師走の名に相応しく12月になると一気に忙しく賑やかになる。 勿論ブリタニアの皇子、ルルーシュが通う商店街も規模こそ小さいが賑わいを見せていた。 しかし、その片隅で今にも潰れそうな洋菓子店があった。 12月ともなればクリスマスケーキ商戦真っ只中。早いところは11月初めからケーキの予約を開始してこの時期には早々に締め切る程に活気づくはず。 けれどもこの洋菓子店に限り閑古鳥が鳴いている。 この状況に危機感を募らせるのはこの店の店長兼パティシエ。 今日も配ったちらしを持った予約客が来ないだろうかと待っていたが昼を過ぎ夕方に近い時間になっても客は来ない。 精々急な来客で焼き菓子が欲しいと言うご老人やどうしても甘いものが食べたいと子供に駄々をこねられた主婦ぐらいである。 「くそっ! ブリタニアの皇子が来てからめっきり客足が落ちたじゃないか。 うちのケーキが売れないのは皆ヤツのせいだぁっ!!!」 いきり立ち店の中で地団駄踏んで喚く夫に妻はショーケースを磨きながら心の中で突っ込みを入れる。 《それ絶対関係ないから。》 実際問題、この店の売り上げが減っている理由にルルーシュが関係しているのであれば商店街全体が影響を受けるはずだ。 しかし現実として他の店は以前と変わらない。それどころか一部・・・特に青果店の店長は売り上げが上がったとご満悦だと言う。 井戸端会議で仕入れた情報によると桐原産業の会長が上物の果物を前以て注文して寄る事が多くなったのが最大の理由と言われており、他の店でも一部似た様な理由で売り上げが伸びたところがある上に、野次馬根性でスーパー派だった客が時々商店街に来るようになったので寧ろ客は増えているのだ。 だがしかし、この店だけがその恩恵は受けていなかった。 それも当然かもしれない。店はいつも暗くショーウィンドウも微妙に埃で汚れて中が見え難い。 勇気を出して店に入ればショーケースにはありきたりなケーキしかない上にデコレーションのセンスが悪いのか不恰好に見える。 ご近所のよしみでもなければ進んでこの店のケーキをクリスマスに買おうとは思わないだろう。 「店番任せたぞ。俺は奥で帳簿付けでもしてるからな。」 少し叫んですっきりしたのか自宅に当たる奥の部屋へ入りぴしゃりと扉を閉めた夫の姿に妻は深く溜息を吐く。 《寒いけど外のウィンドウもしっかり磨きこまないとダメね。》 ケーキを作れるのは夫だけ。 それを自覚しているだけに妻である彼女に出来る事は店の衛生環境の改善だけだった。 今までなあなあで済ませていたツケが来ているのだとすれば自分達が変わらなければ店は遠からず潰れる。 夫にも新作ケーキの試作やデコレーションの改善をと伝えても「俺のやり方に文句があるのか!?」と怒鳴るばかりで何もしない。 《明らかに結果が出ていても自分の実力を勘違いしているから・・・・・・。》 一度しつこくしつこく話し、少なくとも大勢の人に認めて貰わなければ店が遠からず潰れるときっぱりはっきり言ってみたが夫の言葉は脱力するものだった。 『俺のケーキはわかる奴にしかわからないんだ!』 《今までにわかってくれた人なんているの・・・?》 少なくとも見合い結婚の自分は認めた事はないし結婚後も彼の腕前を褒めそやした者はいない。 周囲の反応を見る限りでは結婚以前も同じだろう。 一体この自信はどこから生まれてくるのかと溜息を吐く洋菓子店の店員兼店長夫人はまずはドアのガラス磨きに取り掛かろうと雑巾を手にし入口に立った時、久し振りと称したくなる影を見つけた。 ご近所の老人でもこんなに小さくないしそもそも彼らは腰が曲がっているので影でわかる。ドアの前に立っているのは子供だった。しかも客層として上得意と言える小学生の男の子。 思わずドアを開けて迎え入れようとすると自動ドアでないドアが突然開いた事に驚いたのか子供が一歩下がってこちらを見る。 「あなた達・・・。」 「あ、やっぱりお店やってたの? 暗いから休みかと思ったよ。」 にこにこと笑いながら答えるのはこの辺りでは一番の名家の枢木家の少年、枢木スザク。その傍らでは明らかにブリタニア人の顔立ちをしていながらアジア系の民族よりも艶やかで深みのある黒い髪をした少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 本来の身分は皇子であるにも関わらず着ている物は自分達と大差ない。 それでも彼が着ていると値段が一桁は違って見えるのはどうしてだろうと思いながら妻が愛想笑いするとルルーシュはドアの隙間から中を見渡しながら呆れた様に言った。 「OPENの札を下げてても開いている様に見えないとは・・・ここは本当に洋菓子店なのかスザク。」 「うん。ブリタニアのケーキ屋と違うの? どの辺が??」 「僕は直接ケーキを買いに行く事はなかったからな・・・。専属のパティシエが全て用意していたからブリタニアの店がどんなものかはわからない。 だが商店街の他の店はこんなに暗くなかっただろう。」 「ルルーシュってやっぱ世間ズレしてるよな。」 「仕方ないだろう。本国では皇宮から出た事が無かったんだ。 僕が知っている世間はとはテレビに映っているもの以外では日本が初めてであり全ての基準だ。 更に言うならばこの地域のスーパーと商店街という狭い範囲である為に――」 「結局わかんないんじゃないか。言い訳してないでさっさとケーキを選ぼうよ。 流石に自分の誕生日くらいは自分が作ったものじゃないケーキの方が良いだろ?」 流れるように説明していたルルーシュの声を遮りスザクは問う。 話を遮られ少々不機嫌そうにルルーシュはショーケースを見た。が、彼の中に培われた皇族としての美意識の問題か一瞥しただけで更に眉間に皺を寄せて答える。 「他に店は無いのか? こう言ってはナンだが・・・その・・・・・・。」 「良いのよ。はっきり言って頂戴。」 スザクの代わりに答えたのは店員である女性。 少し淋しげながらもはっきりとした答えを待っているのだと察しルルーシュは一拍間を置いて頷いた。 「・・・では。」 こほん 「まずウィンドウが汚くて中が暗い、中に入ってもやはり照明がついていない上に店の隅には埃が溜まっていて不衛生。ショーケース内のケーキが見え難い上に中に入っているケーキの種類が少ない。またデコレーションもセンスの無さが際立っておりショートケーキに至ってはイチゴに艶が無く如何にも不味くて酸っぱそうに見える。これでは他のケーキも高が知れており購買意欲は低下する。この店がブリタニアで出展したら一ヶ月以内に閉店間違いない。 競争を奨励するホワイトコロネ皇帝の治世下において弱者は淘汰されるからな。 僕が思うにこの店が未だに営業を続けられているのは奇跡と寛大なご近所の人の助力あっての事。 このままでは年を越した辺りで閉店。今年のクリスマスで挽回出来れば或いはと言うところだ・・・です。」 最後の最後で相手が自分より年上、尚且つ自分がいる場所が日本であり相手の方が上位になると気付き丁寧語に変えたものの一度出た言葉は戻らない。 《叩かれる・・・!》 子供相手ならばある程度は慣れているし怪我の度合いも予測出来るが大人の力ではどうなるのか。 相手の様子を伺う為に恐る恐る見上げるが女性に怒った様子は見られない。暴力は振るわれなくとも出て行けと言われると思っていたルルーシュは驚きながらも「言い過ぎました。」と謝罪するが、妻は首を振り微笑みと共にショーケースから取り出したケーキを1ピース差出し言った。 「・・・・・・それじゃあ味の方も見て貰おうかしら。 一番人気のショートケーキ。」 「先程ショートケーキは『イチゴに艶が無く如何にも不味くて酸っぱそう』と言ったばかりですが?」 そんな相手に味見を頼んでも辛い評価しか出ないだろうと困惑するルルーシュに妻はまた首を振った。 「それでもコレが一番売れてるから・・・わかってるわ、私だって。 今来てくれているお客さんは亡くなった先代の・・・お義父さんの義理で来てるって事ぐらい。 だけどはっきりとお客さんから聞かないと夫はわかってくれないのよ。」 「んじゃ俺が!」 「あっ! スザクダメだ!!!」 ばくっ! ルルーシュが止める間も無くスザクがケーキを掴んで口に放り込む。 「す・・・すごい・・・・・・ショートケーキを一口で食べる子なんて初めて見た。大きな口ねぇ。」 「これでまた家でケーキを食べるつもりか? カロリーオーバーだから強請ってきても却下するぞ。」 こんな時にも食事指導を忘れないルルーシュの言葉に、いつもなら喚いて暴れるスザクは反論せず、うるうると涙を浮かべ始める。常にないスザクの様子にルルーシュは何か地雷でも踏んだかとうろたえた。 「スザク? ちょっと待て・・・何も泣く事無いじゃないか。」 「ルルーシュ・・・。」 スザクの翡翠色の瞳に浮かんだ涙がつつーっと頬を伝って顎の先に溜まり、重力に負けて床を濡らす。 床を一滴の涙が濡らしたのをきっかけに更に目を潤ませ鼻水を啜って泣き出すスザクにルルーシュは焦った。 自分は涙を我慢できる。悲しみを堪えられない何かがあったとしてもそれは自分の責任だと原因を考え、自分だけで解決するだけだ。 だがしかし、誰かを・・・友達を泣かせるという事態にだけは慣れず罪悪感が胸一杯に広がった。 「そうだ! 折角の誕生日だしやっぱりシチューだけじゃ味気ないよな。 サラダに付け合せるローストビーフも作ろう。帰りに精肉店に寄って。 今日はいつもより良い肉にするから。な、泣くな。」 「ルルーシュぅ・・・・・・。」 「よし、今回は特別だ。さっき青果店の主人が仕入数の間違い・・・じゃない、誕生日祝いにくれた紅玉が沢山あるから今夜のデザートにアップルパイを作ろう。それなら食べて良いから!」 「ホント? ホントにデザート食べて良いの??」 ぴたりと涙が止まり確認してくるスザクに今更否と言えるはずがない。 ルルーシュはしばし間を置いて是と答えた。 「・・・・・・二言はない。」 「やったぁ〜vvv」 ルルーシュを抱き締め喜ぶスザクだがルルーシュはちょっぴり気が重い。 結局自分の誕生日だというのに自分で誕生日の御馳走を作りケーキ代わりにパイを焼いてお茶を淹れねばならないのだ。 至れり尽くせりなのはスザクの方。 今夜自分がこなさなくてはならない仕事量を思い重い溜息を吐くルルーシュにケーキ店の妻が同情するように肩を叩く。 『あなたも大変ね・・・。』 『本当に。』 言葉に出さずとも互いの言いたい事がわかってしまう二人の耳に思わぬ言葉が飛び込んで来る。 「今のケーキ。イチゴは酸っぱいし生クリームはべたっとして重たいし風味が微妙だしスポンジケーキはザラついてて舌触り悪いし最悪。ルルーシュが前に作ってくれたホットケーキ積み重ねた奴の方がずーっとずーっと美味しかった。もう涙が出るくらい不味かったよ。どうもルルーシュのオヤツに舌が慣れきっちゃったみたいでさぁ。」 「「ちょっと待て。」」 突っ込みは同時だった。 嫌な予感を必死に頭の中で否定し続けながらルルーシュは問う。 「まさか君はオヤツが食べれないからじゃなくて・・・。」 「ケーキの不味さに泣いてたの?」 「うん☆」 あっさり肯定して頷くスザクに二人は同時に脱力した。 「何であんな事言ってしまったんだ僕は・・・誕生日だからと少しは仕事を休めると思ったのに逆に増えてしまったじゃないか。」 「皇子様の手作りホットケーキに一番人気のショートケーキが負けた・・・もうウチの店は終わりだわ。」 「それはそうとルルーシュぅ〜。アップルパイ作るしケーキ買わないって決めたし肉買いに行こうよぉ〜☆」 「その猫撫で声止めろ。それでは失礼し・・・あれ? こっちのプディング、おかしくないか?」 ルルーシュの言葉にスザクも彼の視線を追う。 見ればショーケースの片隅にちょこんと置かれている小さな器の幾つかが目に留まる。 ルルーシュが不思議そうに言うのも無理はなく器がまちまちだった。 売り物ならば器は統一されているはずなのにと顔を見合わせる二人に答える声があった。 「それは余った材料で私が作ったプリンなの。ケーキは作れないけどプリンだけは母から教わってて得意だったから。基本のカラメルソースは勿論苺ソースやオレンジソース、抹茶のプリンに紅茶プリン。その日の気分で変えて作っているわ。 でもたまにしか作らないから専用の器なんて用意してなくて、前に夫が買い込んだものの使う当ての無くなったものを使っているのよ。」 気付いてもらえたのが嬉しいのか。微笑む女性にスザクはへぇ〜と感心したように呟きながらプリンに見入る。 小さな透明の器の中、卵色のプリンの下には馴染んだダークブラウンがこずんでいた。 「今日のプリンは基本のカラメルソースなんだ。」 「これの味見は出来ますか?」 「よろしかったらどうぞ。今日はお誕生日なんでしょう? これは小母さんからのサービスよ♪」 言って差し出されたプリンとプラスチック製のスプーンをルルーシュは嬉しそうに受け取る。 手に伝わるひんやりとした感触と微かに鼻腔を擽る甘いバニラの香りに他のケーキには感じなかった食欲が湧き上がってくるのを感じた。「有難うございます。」とスプーンをプリンに差し込もうとするルルーシュをスザクがやんわりと制止する。 「止めとけルルーシュ。ケーキの味がアレじゃあプリンだって。」 「作り手が違うだろう。それに・・・昔、母さんが作ってくれたオヤツを思い出したから。」 はくりっ スザクの言葉に首を振り構わず一口分掬い上げて口に含む。 もごもごと頬が動きゆっくりと動く喉の様子から嚥下したのだとわかる。 だがそれっきりルルーシュは動かない。プリンを見つめてぼんやりしている。 「・・・・・・ル・・・ルルーシュ。水貰おうか?」 「私も味見してるしプリン目当てに来てくれる人もたまにいるんだけど・・・やっぱり皇子様の舌には合わなかったかしら。」 恐る恐る声を掛けてくる二人を振り返りルルーシュは優しく微笑みながら答えた。 「・・・おいしい・・・・・・。昔、母さんが作ってくれたカスタードプディングの味と同じだ。」 「本当!?」 「え・・・ケーキは不味いのにプリンは美味しい!? でもパティシエは旦那の方なんだろ!?」 「あの人の場合は製菓衛生師の免許を持ってるだけでそんな大層なもんじゃないんだけど・・・。」 「免許持ってるなら皆美味しいもの作れるんじゃないの?」 「だったら世の中は名店だらけよ。特にうちの旦那は味音痴だから・・・。 あの人が免許を取って店を手伝い始めた時は菓子作りの上手いお義父さんが健在だったしね。」 「何で小母さん結婚したの?」 「ここまで酷い腕だと思わなかったから。ついつい見合いの席での流れに逆らえなくて・・・。」 「明らかに人生の選択を誤りましたね。」 「やっぱそう思う?」 こっくり×2 ルルーシュの手厳しい言葉にちょっぴり苦笑しながら問うと二人は同時に首を立てに振った。 「小父さんにケーキ作らせるの止めて小母さんが作ったら?」 「その為にはやっぱり免許が必要でしょう。」 「ご存じないんですか? 飲食店に食品衛生責任者資格は必要ですが調理師資格や製菓衛生師の資格は必ずしも必要ではないんですよ。 ご主人が製菓衛生師ならば自動的に食品衛生責任者資格を取得できている事になり・・・例え作り手が資格を持っていなくても営業は可能になります。勿論営業の届出は必須ですけどね。」 「そうなの?」 「そっか。そうでなきゃファーストフードでバイトがポテト揚げたり肉焼いたり出来ないもんな。」 感心したように頷きながらスザクは思い返す。 最近は無いがルルーシュ達が来る前はこっそり学校帰りに寄り道してファーストフードでバーガーを買っていたものだった。 応対した店員は若く、奥でポテトを揚げている店員も高校生くらいに見えたから免許取得済みとは思えない。 「それではケーキの代わりにこのプリンを三つ・・・いや、四つの方が良いか。」 「俺に二個くれるのか!」 ぱこっ! 「そんなわけあるか! 山中さんの分をどうするつもりだ。」 情け容赦なく振り下ろされるちらしの束で作られた筒は大きな音を立てるが実質的な攻撃力は殆ど無い。 痛くもない頭をポーズの為に摩りながらスザクは納得した様に頷いた。 「そうか・・・そうだったよな。ならあと四つ追加しないと駄目だろ。」 「?」 「師匠も呼んであるんだ。今回は二人くらい部下を連れてくるって言ってたし、後は桐原のおじいちゃんにも声をかけておいたから。」 「君はまた僕に断り無く食事に呼んだのか!?」 「そこで怒るって事は夕飯の材料・・・。」 「足りるわけ無いだろ!!! また買い直しだっ!!!!!」 「煩いぞ何なんだ一体!」 如何にも今まで昼寝してましたというボサボサ頭で現れたのは店の主人。 騒がしさで起きてきた彼はまだ頭がぼーっとしているのか店を一通り見まわしても、まだぼんやりとした顔をしている。 「帳簿づけなんてやっぱり嘘だったのね・・・。」とぼそりと呟く妻の言葉も聞き流しショーケース前にいる子供二人に漸く気づいた。 どちらも良く知っている顔。そのうちの一人はにっくき敵。 「お・・・お前は!?」 「お客様よ。はいコレ、小母さんからのプレゼントv プリン全部サービスであげるから一つだけお願いしても良い?」 「無理の無い範囲でなら。」 「あのね・・・。」 こそこそとルルーシュとスザクだけに聞こえる様にナイショ話を囁くと二人はにっこりと笑って頷いた。 「良いですよ。事実ですから。」 「有難うv 小母さん頑張っちゃう!」 「ちょっと待て! お前には言いたい事があるんだ!!」 「何ですか。」 「俺達用事あるんだけど。」 「お前が来るせいで商店街全体の売り上げが落ちてるんだ。 ウチなんてもう店の存続すら危ういくらいなんだぞ!? どう責任取ってくれる。いや、とっととブリ鬼の国へ帰れ疫病神っ!」 カッチン ルルーシュとて自分の存在がどれほどこの街に影響を及ぼしているかは知っている。 彼らの態度を見れば日本人が持つブリタニアに対する悪感情がどれほどのものかがわかるからだ。 最初の頃からすれば彼らの中にはブリタニア皇族の『ルルーシュ』ではなく『ルルーシュ』個人としてみる者が多くなっているが、未だメディアからの情報だけを鵜呑みにし目の前にいる子供の正体を知ろうとしない者がいる事も知っていた。 しかし理解と感情は別物。彼は今、確かにルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの怒りを買った事に気づいていなかった。 「奥さん。今直ぐ家を出られてた方が良いのでは?」 「とりあえず根拠の無いこの人の自身とプライドを粉々になるくらいにしてからじゃないと。」 「なるほど。では商店街の皆様にご意見伺いましょう。」 ルルーシュの笑顔の問いに妻も微笑みで返す。 二人は顔を見合わせしばし微笑み合う。無言の会話が終わったのか、ルルーシュはケーキ屋の主人を見上げ不敵に笑う。 「では僕と奥さんとアナタの三人で勝負しませんか?」 「勝負だぁ?」 「丁度此処に僕が作ったクッキーがあります。」 「それ俺の22時のオヤツ!」 ルルーシュの手の中に出現したクッキーの入った袋にスザクが慌てて体中を叩くが手応えはない。 間違いなく自分のポケットから取り出されたものだと確信してルルーシュから取り戻そうとするがルルーシュはすかさず妻にクッキーを手渡しスザクを抑え込む。 「夜に食べるなと言っているだろう。最近瓶のクッキーの減りが早い事には気付いていたんだ。 君がこっそり持ち歩いている事も調べてある。よってこれは没収する。」 「ヒドい!」 こほん! 涙ぐむスザクにちょっぴり心は揺れるがここで泣き落されては今後に差し支える。 何よりも上から見下ろしてくるケーキ店の主人の視線が気になりルルーシュは咳払いして話を続けた。 「作り置きのこのクッキーと奥さんのプリン、そしてアナタの一番の自信作であるケーキを食べ比べてもらうのです。 もしもアナタのケーキが一番美味しいと評価されたら僕はこの国から出て行きましょう。 僕のクッキーが一番美味しいと評価されたらケーキ作るの止めて下さい。 そして奥さんのプディングが一番美味しいと評価されたら・・・お店をプティング専門店にして下さいねv」 「何を勝手な事を!」 「アナタの方こそ勝手ですよ。僕にはもう帰れる国なんてないんですよ? 人質としてこの国に送り込まれた僕に母国に帰ることなど出来はしません。 それをわかっていながら追い出そうとするのですからそれ位は聞いて頂かないと対等とは言えないでしょう。 それとも・・・勝つ自信がないのですか?」 「あるに決まってる!」 勢いに乗って答えた事を確認しルルーシュと妻は二人してほくそ笑んだ。 「決まり、ですね。」 「ありがと皇子様☆」 「おいルルーシュ。それはいくらなんでも。」 「スザク・・・僕は。」 不安げにルルーシュを見つめるスザクだがルルーシュの表情は余裕に満ちている。 背は低く店長を見上げているはずの彼が何故か大きく、逆に相手を見下ろしている様に見える。 「ロールパン頭そっくりな奴を見ると泣きを見せたくなるんだよ。」 微笑むルルーシュはテレビで見るブリタニア皇帝そっくりだった。 * * * 「で、どうなったんだ?」 ルルーシュ特製のビーフシチューを一口含み柔らかく噛み締めながら問うは桐原泰三。 ちょっぴり弱り気味の歯に優しいルルーシュの料理が気に入り何かと理由をつけてはやって来る桐原だが、どう見ても好々爺以外の何者でもないと評するは隣でローストビーフをつついている藤堂である。 スザクはルルーシュにお代りを頼み彼を遠ざけると一息吐いて二人に答えた。 「ルルーシュの料理の腕は知ってるでしょう?」 「確かにな。」 藤堂が頷くと同時にシチューを注いだ皿と共にデザートのプリンをお盆に載せてルルーシュが入って来る。 少々鼻歌交じりのルルーシュはいつになく機嫌が良い。 皆にプリンを配り終えナナリーの隣に座ると食事を終えたナナリーにプリンを差し出しスプーンを握らせる。 「お兄様ご機嫌ですね。誕生日に皆さんが来てくれたからですか?」 「そうかい? コロネそっくりな奴のプライドを粉砕してきたからかな。 ああスッキリした☆」 コロネ?と不思議そうにナナリーが首を傾げるがルルーシュは答えず自分の分のプリンを引きよせ一口食べる。 はくりっ☆ 「うん。美味しいっ♪」 翌日、商店街の片隅にあるケーキ店・・・もとい、元ケーキ店が看板を塗り替えていた。 いつも通り暗い店内では夫が忙しそうに店を掃除し、妻は嬉しそうに店の内装を変えていく。 店のガラス戸には一枚の紙切れが張り付けられ、ひらひらと風に揺らされている。 その紙にはこう書かれていた。 長い事ご愛顧頂き有難うございました。突然ではありますが一時閉店させて頂きます。 12/24からはプディング専門店として営業を再開しますので今しばらくお待ち下さい。 24日は開店記念セールとして某国皇子殿下お墨付きプディングを半額提供しますv どうぞお楽しみに☆ END 遅れまくっていたルルーシュの誕生日SSでございます。 たまには自分が作ったものじゃないものを食べるルルーシュを書きたかっただけですがどんどん話の方向が変わってしまいおかしくなりました・・・。(滝汗) 次はいつも通りのお話を書きたいな☆ 2007.12.24 SOSOGU |