気まぐれ宰相カリスマ派

 21・22話を参考に書きましたロイドとシュナイゼルのある日の会話です。
 シュナイゼル殿下は格好良くなくちゃだめ!という方には向かないギャグ系SSです。
 シュナ→ルル風味が漂っていますがルルーシュ自身は出てきませんので悪しからず。

 シュナイゼル・エル・ブリタニア

 彼の名を知らぬブリタニア国民はいないだろう。
 皇位継承位第二位にして実質皇帝に次ぐ権力を持つ、神聖ブリタニア帝国の第二皇子。
 いつも穏やかな笑みを浮かべその優しさとは相反する冷徹な政治家の側面を持つ。
 軍部にも大きな影響力を持ち、第一皇子を差し置いて次の皇帝になるのだろうと誰もが考えている。
 また本人もその自覚を持ち、『白のカリスマ』として帝国全体にその力を示していた。
 だがそんな彼にも警戒すべき者がいる。

 くくっ・・・・・・

 ワインを片手にシュナイゼルはTVモニターを眺めた。
 映っているのは可愛らしい妹姫。

 第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア

 彼女は第三世代ナイトメアフレーム『ガニメデ』の手の上に立ち、長い桃色の髪を棚引かせ高らかに宣言していた。

 『行政特区 日本』

 彼女がこの案を持ち込んできた時、シュナイゼルはその愚かしさに愛しさすら感じた。
 姉に守られ箱庭で育って来た皇女。
 皇位継承争いからは遠い美しく優しい世界しか知らなかった彼女は本国からこのエリア11へと派遣されてきた。
 子供達を争わせその資質を見出し力を磨かせる為、父である皇帝は各エリアに皇位継承位を持つ者を派遣していた。
 今までは学生であると姉であるコーネリアが突っ撥ねて来たが第三皇子クロヴィスがテロリストにより倒され薨去した事を理由に遂に争いの舞台に引っ張り出されたのだ。
 相手が今までのエリアと同じであればコーネリアが不穏分子を押し潰しユーフェミアは飾りでしかなくともエリア11を治める事が出来ただろう。
 全て姉が選び抜いた有能な部下が事を進めることで彼女は本国ほど完備されていなくともまた箱庭で過ごせたのだ。
 だが相手はコーネリアですら手を焼く程の力を持っていた。

 黒の騎士団

 最初はテロリストが騎士団を名乗るとはと誰もが鼻で笑っていたが今のエリア11を知るものは誰も彼らを軽視する事は無い。
 問題は黒の騎士団そのものよりも彼らを率いるリーダーの存在だ。

 ゼロ

 仮面を被り素性を明かさぬ謎の人物。
 一度だけ、神根島で邂逅した事を思い出しシュナイゼルは更に笑みを深くする。

「ご機嫌ですね、シュナイゼル殿下。
 ここまで貴方が楽しそうなお顔を拝見するのは久しぶりですが何がそんなに貴方を感動させたのでしょうね。」
「理由を分かっていて聞いてくるのは君くらいだよ、ロイド。」

 そっと手にしたワインをテーブルに置いてシュナイゼルはTVを消した。
 真っ黒になったモニターを見てロイドは微笑を湛えて問う。

「消しちゃうんですか? 態々全チャンネルを録画してまで楽しみにしてたんでしょう。
 ユーフェミア殿下が動くのを。
 まさか此処まで派手に宣言するとは思いませんでしたけど。」
「普通ならしないだろうな。だがユーフェミアはそういう人間だ。
 だがお陰であの子を引っ張り出す事が出来る。」

 微笑むシュナイゼルにいつもの慈愛の色はない。
 何も知らない者ならば一瞬己の目を疑う影を含んだ笑みにロイドはいっそう笑みを深くする。

「うわぁ、性格の悪さが滲み出る様な笑顔。
 お願いですから他の部下の前でソレやんないで下さいね〜。」
「マッドサイエンティストのお前に言われたくないな。」

 本来ならば不敬だと周りがロイドを止めるが、現在は二人きり。
 その分二人は飾らない言葉での応酬を始める。

「そ・れ・か・ら。うちのスザク君苛めるのも止めて下さいよ。
 あの子以上にランスロットにぴったりなパーツはいないんですから。」
「何時私が枢木君を苛めたのかな?」
「苛めでしょう。
 式根島に出迎えに行けばスザク君ごとランスロットを撃ったくせに。」

 ロイドが珍しく不機嫌そうに答えるのを見てシュナイゼルはクスクスと笑う。
 いつも半分眠いのかと言いたくなる目が静かな怒りを湛え、眉が僅かに吊り上っているロイドが珍しいのか、一頻り笑ってシュナイゼルは答えた。

「あれは黒の騎士団を掃討するための絶好のチャンスだったからだよ。」
「そのくせ命令違反で処罰されそうになった彼を助けましたよねぇ。
 アレは何なんですか。ユーフェミア殿下のお願いだったからなんて寒いこと言わないで下さいね。」
「まさかゼロがルルーシュだとは知らなかったのでね。
 結果的であれあの子を助けた功績を考慮しただけだ。

 ぴくり

 言葉を受けてロイドの眉が引き攣る。
 確かに、ロイドも直感した。
 だがそれはユーフェミアの態度とその後の聞いた彼女の言葉からロイドの中で確定となった。
 それに引き換えシュナイゼルはユーフェミアに聞く前に「後で何とかするから」と答えている。
 タイミングから彼が確信したのが何時なのかを察しロイドは薄く笑う。

「神根島で一目会っただけでよくわかりましたね。」
「アッシュフォード学園でルルーシュを見つけたと報告して来たのは君だろう。
 その後、私が何もしなかったとでも思っていたのかい?」
「あー、じゃあこの間光沢紙を執務室に大量に持ち込んでいたのは。」

 思い出されるのは執政官達が明らかに関係ないであろう荷物をえっちらほっちらと運んでいた姿。
 思わず「台車使ったらどーですぅ?」と声を掛けてしまったほど彼らの顔は疲れで真っ赤になっていた。一緒にインクも運ばれていた事も思い出したが・・・。

《そう言えば荷物を運ぶだけ運んで出てきてたから残っていたのは親衛隊だけだよね。》

 今も本来ならば扉の外で控えていなければならない親衛隊だが何時もより人数が少ない。
 ロイドが考え込む姿に気付いたのかシュナイゼルは華やかな笑みを浮かべてのたまう。

「速攻であの子を調査させて写真データを送らせた。現在親衛隊にアルバム編集をさせている。
 本当に綺麗になったね。しかもあの身体のライン、華奢な手足に折れそうなほど細い腰。
 ゼロの衣装は全てを覆い隠すがシルエットだけは隠せない。」

《アンタは何処のマニアですか。》

 恍惚とした顔で想いに更ける悪友を前にしてロイドは普段なら見せないげんなりとした顔で突っ込む。

「体格だけでよくわかりましたね。」
「勿論ユーフェミアが無警戒だった事も理由の一つだ。
 それ以上に腰から下、臀部から足先までのラインが間違いなくルルーシュだと語っていた。」

《嗚呼、この人が写真を舐める様に眺めている姿が目に浮かぶぅ〜。》

 類は友を呼ぶ。
 そんな言葉が頭に浮かぶがロイドは言いたい。

《この人と同列にしないで。》

 取りあえず想いを押し込める事に成功したロイドは上官・金蔓・悪友と己に言い聞かせ忠告する事にした。

「お願いですからそれも部下の前では止めて下さいね〜。
 ゼロもしくはルルーシュ殿下の前でも止めた方が良いですよ〜。
 全力で逃げられますから。」
「おめおめと逃がすほど私が無能だとでも?
 あの子の弱点がナナリーだと誰よりも知っている私が。」
「実の妹を人質に取るのも止めて下さい。人格疑われますから。」
「君に人格がどうのといわれる日が来るとは思わなかったな。」

《貴方に言われなくても散々教育的指導受けてますし。》

 ロイドの脳裏に浮かぶのは春の女神のごとき微笑を浮かべる部下。
 大学の研究室からの付き合い故に遠慮が無い女性は身分格差もなんのそのと拳を握って迫ってくる。
 だが彼女以上に長い付き合いのシュナイゼルだ。皮肉気に微笑みながら頬杖をついてロイドはのたまう。

「僕も人に人道を説く日が来るとは思いませんでしたよ〜?
 で、話の続きですけどキュウシュウで試金石なんて建前でスザク君を捨て駒扱いしましたよね。
 アレはまた何でですか。」
「調査はルルーシュの交友関係にまで進んでいる。
 どうやらあの子の一番の友人と言えるのが枢木君らしい。」

 シュナイゼルの僅かな表情の変化にロイドは気付いた。
 彼の人となりを知らぬ者ならば気付かない程度に口元が歪む。
 こんな風に彼が表情を変えるのを見たのは一体いつだったかとロイドは記憶を掘り返し、唯一思い当たった感情の名を口にする。

「ああ嫉妬ですか。」
「それだけで部下を捨て駒にする程、私は考えなしではないよ。
 彼は犯してはならない罪を犯した。」
「模範的な軍人とも言えるスザク君が、ですか?
 一体何を。」
「・・・・・・彼は私のルルーシュを殴ったんだ。」

 無表情の人間ほど恐ろしいものはない。
 普段の無難な微笑みは勿論の事、先ほどまでの嫉妬の色もない友人にロイドは確かな怒りを感じ僅かに身を退いた。
 けれどと考える。スザクとはそう長い付き合いでもないが浅い付き合いでもない。
 頑固なほどに真面目で他人が傷つく事を厭うスザクが親友とも呼べるルルーシュを殴るなど考えられなかった。

「・・・・・・・それって何時?」
「8年前。」

《それは二人が9歳の頃の話じゃないですか。普通時効でしょうぉ?》

 そうは思うもののきっぱりはっきり答えるシュナイゼルの顔は真剣そのもの。
 その真剣さ故にロイドは返答に窮する。

「ナナリーと二人日本に送られて来て不安でいっぱいだっただろうあの子を真正面から殴ったそうだ。」
「子供の頃の話でしょう。
 しかも今現在、友人であると言うのであればルルーシュ殿下自身はスザク君と仲直りしているって事じゃないですか。」
「それでもだ! 私の可愛いルルーシュに一生物の傷が残ったらどうしてくれる!」

《というか、何時からルルーシュ殿下が貴方の物になったんですか。》

 最早何から突っ込んで良いのやら。
 ちょっぴり震わせているシュナイゼルはロイドの迷いに気付いておらずドンドン話を進めていく。

「キュウシュウ戦の折に抹殺してくれようと思って放り出したのに・・・全くルルーシュは優しすぎる。」
「あれは普通に戦略的な判断だと思いますけど。
 それに作戦立てたのが貴方だってわかったと思いますよ。
 ルルーシュ殿下は昔から頭良いしチェスで貴方の取る策は熟知していましたから。
 多分今頃嫌われてますね。友達捨て駒にしたんですから当たり前でしょうけどぉ〜。」

 不敬罪なんかどうでもいい。
 寧ろシュナイゼルを止めるべきだろうとロイドは彼にとって最も痛いであろう部分を指摘する。
 しかしブリタニア皇帝に次ぐ実力者は只では起きない。
 滅多に見せない甘くとろけそうなロイヤルスマイルを満面に湛えたシュナイゼルは優しく穏やかな声でロイドに告げる。

「・・・ロイド。君は確かフロートシステムのエネルギー消費効率化の為に新たな予算申請をしていたよね? 開発に掛かる費用は大層なものだと思ったけれど。」
「すみませーん。ごめんなさーい。そーですねースザク君はワルイ子ですねー。」

 金蔓に予算の話を持ち出されればロイドに勝ち目は無い。
 大切な可愛いランスロットの為ならば部下の名誉は紙くず同然。
 棒読み台詞のような抑揚の無い声でシュナイゼルの意見に追従するロイドに一応は満足したのかシュナイゼルは鷹揚に頷いた。

「それで、だ。今回の行政特区の提案はあの子自身にユーフェミア・・・ひいては枢木君を遠ざけさせる為に許可した。
 黒の騎士団の存在意義を失わせる特区設立だ。今頃怒りに震えているだろう。」

 怒った顔も綺麗なんだろうな・・・と微笑むシュナイゼル。
 だがロイドは再び冷静に突っ込む。

「もしもルルーシュ殿下が賛成しちゃったらどうするんですかぁ?」
「そうしたらそうしたで万々歳だろう。
 上手く手を回して騎士団を解散させて私の許で保護する。」
「ナナリー殿下を盾に?」
「そしてゼロの方は適当な奴に仮面被せて抹殺。
 大丈夫、あの子の正体を知っていそうな主要なメンバーもしっかりと始末するよ。
 あの子の為に。」

《うわ否定しなかったよこの人ぉ。やっぱり妹を人質にするんだ。
 しかも騎士団壊滅宣言したよぉ。》

「さてと、さっさとユーフェミアをフォローしてやろうかな。
 私の名が出ないように注意しないと。」
「はーい頑張って下さいね〜。」
「分かっているとは思うけど君も手伝うんだよ。」
「面倒だなぁ。」
「ああ丁度此処に予算認可の判子が。」
「・・・・・・・・・・・・・・微力ながらお手伝いさせて頂きます。」

 長い付き合いなだけにお互いの弱みはわかっている。
 今回は自分の負けだとロイドは溜息を吐きながら立ち上がった。



 そして行政特区設立式典の日、惨劇は起きた。

《なっ!? ・・・・・・・・・・ってルルーシュは!?
 あの子は無事なのか!!? 此処まで睡眠時間削ってユフィを手伝ったのに全てがパー!!!》

 必死に叫びそうになる己を押さえ込むシュナイゼル。
 その頃、ロイドは自身も惨劇に驚きながら友を思う。

《今頃雄叫び上げそうなのを必死に我慢してるんだろうなぁ、アノ人。》



 END


 22話があまりに衝撃だったので見返す事が出来ないまま書き上げました。
 細かいところ違ったらごめんなさい。
 少しでもダメージ回復したくて書いた代物です。

 全力で読み流してください!

 2007.3.30 SOSOGU