書面のない契約ほど脆いものはない

 散々泣かされた23話なのに何故かギャグが浮かびました。
 ルルシーでもシールルでもございません。
 本当に只の共犯者の二人ですのでどなたでも安心して読んで頂ける健全ギャグです。

 ユーフェミアに汚名を着せ、黒の騎士団は・・・日本人はブリタニアへ反旗を翻した。
 今までの不満の上に漸く見せたかに思えた『行政特区日本』という名の歩み寄りはギアスの暴走により虐殺命令を出したユーフェミアにより完全に破綻。
 怒りと憎悪が膨れ上がり、もう誰にも止められないところまで来てしまった。
 富士の制圧し宣言をしたゼロはC.C.の待つ一室へと足を踏み入れた。
 マスクを外す時、ゼロからルルーシュへと戻る。
 だが待っていた人影にルルーシュは目を逸らした。
 常にギアスが発動している為に迂闊な話は出来ない。
 一体何の言葉が意図せぬ命令になるか分からない恐怖に怯えルルーシュが目を逸らすと待っていた少女は答えた。

「安心しろ。私にギアスは効かない。」
「・・・そうだったな。」

 今ならマオの気持ちが分かる気がした。
 ギアスを使用していない相手と目を合わせて話すことの出来なくなった自分と使用未使用に関係なく常に相手の心の声が聞こえてしまうマオ。
 制約の関係上ルルーシュは逃げ道があるが、それも辛いものがある。
 言葉一つで大切なものを失くす恐怖。
 今更ながら手に入れた力の代償を思い知りルルーシュは疲れたようにソファに深く沈みこむ。
 白いパイロットスーツに身を包んだ魔女が事務的に力の変化を問う。
 答えながらルルーシュは必死に人ならざる力に抵抗していた異母妹を想った。

 ふわり

 温もりがルルーシュを包んだ。
 寄り添い優しく抱き締めてくる少女の体温が温かい。
 人の体温は涙に効くと教えてくれた母を思い出しルルーシュは更に俯いた。

「契約したろう。お前の傍にいると。・・・私だけは。」

 一人にはしない。
 灰色の魔女は否定も肯定もしない。
 けれど確かに感じる優しさにルルーシュは縋り付きそうになった。
 が、彼の優秀な頭脳はある事を思い出す。

「ん?」
「どうしたルルーシュ。」

 突如顔を上げてマジマジとC.C.を見つめるルルーシュに先程までの落ち込み顔はどうしたと言いたくなる。
 だがルルーシュはそんな彼女の不審そうな顔をしばし見つめると目を半眼にして答えた。

「契約か。傍にいて欲しいと言っていた契約者であるマオをあっさり捨てて一人にした上に最終的には自分で始末したお前が契約を理由に傍にいると言うのか。」
「なっ・・・・・・人がたまには慰めてやろうと思えば!」
「慰めなんぞいらん。そんな事よりもこれだ。」

 ぴろりん

 取り出された二枚の書面。
 そこにはでかでかと契約書という字が印刷されている。

《一体お前のその服の何処に物を入れるスペースがある。》

 視点が少々違うのはやはり魔女だからか。
 呆れた顔で紙を見つめるC.C.だがルルーシュはいつものポーカーフェイスを復活させて言い放つ。

「契約とは言うが実際にその契約を書面にした覚えは全くない。」
「そんな暇はなかっただろうが。」
「口約束の後でも書面を交わす事は可能だ。
 今後、黒の騎士団はトウキョウ租界に攻め込む事になる。
 ならば! 今この時に正式な契約を交わすべきだろう。印紙は無いが先に書面を作って後で割り印を押せばよかろう。」
「私は実印など持っていない。大体そんなもの普通の学生が持っている筈も無いからお前も無いだろう。」
「拇印で十分。考えてみれば印紙は公文書に使用するものだから私達の間で必要ないだろう。
 ならば後は紙とペンで十分だ。
 さあ書けC.C.! 既にサインするだけの状態だ!!!」

 示された契約書の一枚を手に取りC.C.は書面を読み目を見開く。
 驚愕に染まったその表情で彼女はルルーシュを見上げ激昂した。

「何だこの契約内容は!?
 ピザは三日に一枚のみだとっ!!?
 ふざけるな!!! 私はピザを毎日食べねば死んでしまうのだぞ!」
「嘘吐け。ならば俺に会うまで何処でピザを調達していた。
 お前は食べ過ぎだ。今までにどれだけ俺の貯蓄を減らしたと思っている!」
「ピザの一枚や二枚でガタガタ言うな!
 もっと気前良くどどんと私にピザを捧げろ!!」
「一枚や二枚どころじゃないだろう。
 一体何十枚食ったと思っている。いや、既に大台に乗っている可能性が高い。
 途中から黒の騎士団の会計につけたピザ代が幾らになっているか知っているのかお前は。」
「随分せこい真似をするなお前は。ブリタニアをぶっ壊す資金を減らしては目的から遠ざかるのではないか?」
「安心しろ。桐原翁からの好意で別枠で取った予算を当てている。」

 C.C.の指摘に対しルルーシュは余裕の笑みで答えた。

『痩せ過ぎだから何か旨い物でも食って体力をつけておくと良い。』

 再会した後にこっそりと渡された金は桐原としては身長の割りに細すぎる少年を哀れむジジ心からきたルルーシュ個人への小遣いだったのだが、しっかり黒の騎士団の予算に組み込む辺りがルルーシュらしいと言うべきだろう。
 尤も、それをC.C.が食い潰しているのでプラスマイナスゼロである。

「ならば尚更ケチるな!」
「これ以上は譲らん!」
「それにこの契約書、お前の都合ばかりじゃないか。
 私の都合を盛り込んでこそ対等の契約だ!
 という訳でピザの上限は一日十枚で・・・。」

 くきくき

 ルルーシュの綺麗な字を黒いマジックペンで塗り潰し書き直すC.C.にルルーシュは悲鳴を上げる。

「馬鹿が! 訂正は抹消線を引いた上に訂正印を押すのが常識だぞ!!」
「やかましい。私とお前しか見ない契約書なのだから細かい事言うな。
 ああ面倒な。契約書なんぞ書く必要があるのか!?」
「たった今争っている時点で必要だと気付かんか!?」


 ばちばちばちっ☆

 二人の間で火花が散る中、夕日は段々と地平線に沈んでゆく。
 結局、互いにピザの項目で折り合いが着かず契約書は交わされなかった。





「ルルーシュ、トウキョウ租界を制圧したらピザ十枚だ。」
「ふざけるな。契約内容に含まれていない。欲しければきっちりと契約書を書くことだな。
 尤も俺はそんな内容の契約書にサインはしないが。」

 コーネリアとトウキョウ租界を賭けた決戦とスザクからの電話の前。
 二人が緊張感の欠片もない会話をしていた事を誰も知らない。


 END


 仕事で書類整理しながらデータチェックしていたら何故かこんなギャグが思い浮かびました。
 何かすっごく眠かったです。
 一瞬意識失ったと思ったら上司に怒られて目が覚めました。
 意識がぶっとぶなんて・・・しかもデータファイル作成中になんて有り得ない!・・・・って、多分睡眠時間削って色々やったりSS書いてるからですよね。
 でも大丈夫。今日はドリンク剤飲んでから出勤します。(←その前に寝ろ。)

 さて豆知識。
 契約書が二枚と書いたので「はて?」と思われる学生の方々もいらっしゃると思いますので念の為に説明。
 正式な契約書ですが、同じ内容のものを必ず二部作成してそれを互いに保管するものなのです。
 そうしないと内容改竄される恐れがありますから。
 勿論そういった不正を防ぐために製本テープと書類の境目に割り印押したりと色々決め事(本当言うとC.C.の契約内容訂正も抹消線も訂正印も無しで初めから書類を書き直すはず・・・記憶に間違いが無ければ。)がありますが、そこまで書くのは面倒なので気になる方は自分で調べてください。
 印紙は馴染みないかも知れませんが三万円以上の買い物で領収証を発行してもらうと200円と印刷された切手に似たものが貼られる事があるはずです。(印紙税の別納をしているところでなければ。)
 あれは公文書だからなのです。
 当然契約書も公文書なので印紙を貼るのですがそれはあくまで社会でのお話なのでこのお話ではスルーしました。貼る印紙の金額について詳しく知りたい時は《印紙税》で検索をかければ詳しい説明が見られますので試してみて下さいませ。

 2007.4.6 SOSOGU