コトダマ

  24・25話の感想書くか迷ってネタバレSSを一気に書き上げました。
 以下はネタバレを含んだ事前説明なので知りたい方のみ反転して下さい。
 読みたくない方はブラウザを閉じて下さいね。

 25話ラストのスザクとルルーシュの対決後。
 ルルーシュが死んだ前提でのお話で流体サクラダイトはスルーしております。
 ナナリーがかなり毒吐いてますので苦手な方は読まない方が良いです。
 後、スザクとユフィが好きな方にも向いてませんのでその点をご承知頂けましたらスクロールしてみて下さい。

 言葉は人を動かし、導き、そしてその命を終わらせる。
 出会いと別れ、優しさと悲しみ、喜びと怒り。
 感情を呼び覚まし思いを鎮め、そして心を奮い立たせる。

 ―――だから

 波打つ髪を揺らしながら少女は言った。



 * * *



 スザクは歩いていた。
 反響する靴音だけが唯一の音。
 攫われたナナリーが此処にいるとかつての友は言った。
 あの混乱状況で何故彼女の安否と行方が分かったのか。
 その点は非常に気になるところだが『ゼロ』としての立場を放り出してまで『奴』が動く理由をスザクは他に知らなかった。
 光は無いがその先に彼女がいると確信し歩き続ける。
 その後ろをカレンが追っていた。
 親衛隊長として主の仇を討つべきか、それとも。
 迷いながら銃を持ち直しけれど彼女は進み続けた。
 やがて光が見えスザクは足を速める。
 カツカツと速いテンポで響く靴音と共に光は大きくなった。

「ここは・・・?」

 ただの洞窟ではないとスザクは感じていた。
 何かの遺跡なのだろうと思っていたがそれにしてもこの場所は異常だった。
 場を照らす光は夕闇を思わせる温色。
 だが今は夜明け、日も大分昇っているはずでありこんな色はありえない。
 後ろからついて来たカレンも不思議そうに見回している。
 古い石造りの神殿を思わせる石柱が立ち並ぶソレがこの場の異常さを自然に見せていた。
 だが洞窟に入る前の光の色を思い出しスザクは辺りを見回した。
 黒い小さな人影が二つ。
 一人は車椅子に乗った少女ナナリー、そしてもう一人は・・・。

「何故君が此処にいる。V.V.。」

 ガシャ!

 手にした銃はナナリーの傍らに立つ地に着くほどに長いブロンドの髪を垂らしている少年に向けられる。
 スザクにギアスの存在を教えた彼はアヴァロンに乗っていた。
 少年が何者なのかはどうでも良かった。あの状況ではブリタニア側の人間と考えるのが自然だったからだ。
 だが、そうであるならば少年がこの場所にいる説明が出来ない。
 『ゼロ』に対しナナリーが『人質』として最高の存在であるならば政庁に連れて行くのが一番有効だ。
 けれど少年は此処に彼女を連れてきた。
 何よりも『人質』はスザクが最も嫌うところ。
 少年がどんな目的を持っていたとしても誘拐は許しがたい行為だった。

「ナナリーから離れろ。」

 少年から目を離さずにスザクは命令する。
 しかしV.V.は慌てるどころか何でもない様子でナナリーへ振り向いた。

「・・・だって。どうするナナリー?」

 訊ねるV.V.にナナリーは応えない。
 閉じられた目は昔のまま何も映していないはず。
 けれど強い視線を感じスザクは身動ぎする。
 ナナリーは的確にスザクのいる方向を向いていた。
 やがて眉を寄せて目じりを悲しげに下げ、言った。

「お兄様を殺しましたか。」

 !

「ナナリー、まさか君、知って・・・?」

 ルルーシュは、ナナリーを騙したというスザクの言葉を肯定した。
 何よりも心優しい妹を悲しませない為にも『奴』が告げるわけがないという絶対的な確信がある。
 だが言葉を聞く限りナナリーは何かしら知っているはず。

《けど、何処から何処まで?
 いや・・・最初から!?》

 声を詰まらせるスザクにナナリーは小さく息を吐いて話し始めた。

「スザクさんも察していたのです。私がゼロの正体に気付かないわけがないでしょう?
 それに、先ほどの入り口の会話はV.V.のおかげで聞こえていました。」

 ナナリーの言葉にスザクは目を剥いてV.V.を睨みつける。
 けれど少年は無表情のまま視線を返し何も語らない。
 その間にもナナリーは言葉を続ける。

「言霊。教えてくれたのはスザクさんでしたね。
 本当にあるのだと今日、初めて確信しました。
 人は、その生を否定されると生きられない。
 存在を否定されると立っていられない。
 その言葉が大切な人から発せられたのであれば尚更。」
「ナナ・・・リー?」
「スザクさんは私達が何故日本に来たのか知っていましたね。
 そしてお兄様が必死に抗い私を守る為に立ち続けていた事も。
 黒の騎士団やクロヴィス兄様とユフィ姉様の死すら私の為だった事も。」
「ユフィは何も悪くない!」
「いいえ、ユフィ姉様は悪でした。
 少なくとも私にとっては。」

 !?

 ナナリーの言葉にスザクは反論しようとするが制するようにナナリーは語気を強めて話し続けた。
 静かに、厳かに。
 彼女は皇女だったとスザクは不意に思い出した。

「視点や立場が変われば同じ存在同じ行動であるにも関わらず評価は180度変わることは良くある事。
 私はユフィ姉様言いました。
 『私達をそっとしておいて欲しい』『お兄様がいればいいのです』と。
 けれどユフィ姉様はその直後に行政特区日本の設立を宣言した。」
「それは君や日本人の為に。」
「自己満足ですね。ブリタニアから逃げる私達は絶対に特区に入る事が出来ない。
 少し考えれば分かる事です。特区に入るには身元確認をしなくてはならない。
 ブリタニア人が入るとなれば目立ちますし身元を探られれば直ぐにバレてしまう。
 調査そのものをかわせても人々の注目からは逃げられない。
 ユフィ姉様は過去の幸せを取り戻そうとした。大好きだったお兄様と私とお母様と過ごしたアリエス宮での生活を。
 けれど過去に立ち戻る事は不可能です。人は常に未来に向かい進んでいる。
 時の流れと共に状況は変わっていく。
 ブリタニアの皇女と言えど時に打ち勝つ術はありません。」
「だからって彼女に汚名を着せて!」
「なら私からお兄様を奪っていいと?
 私にはもうお兄様しかいないのに沢山のものを持っているユフィ姉様は私に残されたたった一つすら取り上げようとした。
 ユフィ姉様が一人で特区を維持、発展させて行く力量があるのでしたら宣言する資格はあるでしょう。
 けれど設立までが限界。それは誰の目にも明らかでした。
 ブリタニアの根底まで染み付いた選民意識と日本人の尊厳と希望。
 難しい人々の心のバランスを取れる人間などそうはいない。
 それだけの力量のある人間をブリタニア本国がたかが一エリアの為に送り出すわけがない。
 ならばエリア11に初めからいて協力してくれそうな人間の中で力を持った者を探すしかありません。
 思い当たるのはお兄様一人。
 黒の騎士団の存在意義を失わせ窮地に追いやりながらも尚もお兄様の手を強請った。
 私から引き離し自分の傍に置こうとした。
 そんな我侭な人を悪と呼ばずに私は彼女を何と呼べば良いのです?」
「我侭なんかじゃない!
 純粋な願いを叶え様としたユフィはそんな風に呼ばれていい人じゃない!!」
「それはスザクさんから見たユフィ姉様でしょう。
 私にとってユフィ姉様は忌むべき存在なのです。
 立場や視点が変われば評価は変わる。私が最初に言った事です。
 ソレを言ったらお兄様だって純粋でささやかな願いを持った人でした。
 私と静かに優しい生をと願ったお兄様は多くを望んでいなかった。
 私が笑っていれば良いと、穏やかに過ごせれば良いと。
 皇子に生まれながら権力を望まなかった。お母様と私を守れれば良いと、穏やかに生を終えられれば良いと。
 けれどブリタニア皇帝はそんなささやかな願いを踏み躙った。
 父親でありながら妻を守らず子どもを捨てた。力を持ちながらそれを成そうをしなかった。
 優しくて純粋な願いを持つ人間が許されるなら何故お兄様を殺したのです!」
「『奴』は自分の望みの為に多くの人を犠牲にした!
 人の思いを踏み躙り穢し貶めた!!!」
「ならばユフィ姉様も同罪です。彼女の足元には私達のお母様の血が、私達兄弟の血が流れており彼女はその上に立ち生きてきた。
 日本を占領する事でブリタニアはより力を得、生活を潤わせた。
 そうして民意を向上させ皇族としての立場を確立させた。
 ブリタニアの皇女を名乗っている時点で多くの人の犠牲の上に立っていると公言したも同然です。
 知らなかったなどとは言わせません。
 お兄様は僅か9歳でブリタニアの政策を理解し自分達の足下に何があるのかを知っていました。
 16歳にもなって皇女が無知である事など許されることではありません。」
「だからって!」
「お兄様は否定しましたか?」
「え・・・。」
「ゼロは否定してもルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは?」

 ナナリーの指摘にスザクはルルーシュとの会話を振り返った。
 彼はギアスの事を知られた時から自分のした事を否定しなかった。

「ルルーシュとして、ユフィ姉様を殺した事を言い訳しなかったでしょう。
 お兄様は逃げなかった。立ち止まる事など出来なかった。
 過去を振り返る事など出来ずそうして生きて行くしかなかった。
 貴方はお兄様を信じたかったからゼロではないと自身に言い聞かせていたそうですね。
 けれどそれは逃げ、臆病者の言い訳です。
 ブリタニアに、父親に存在を否定され絶望の中で私を守ろうと必死だったお兄様を支えていたのは貴方だった。
 けれど貴方はお兄様の手を振り払うだけでなく存在そのものを否定した。」

 言葉を詰まらせるスザクにナナリーは一息吐いてまた語り始める。

「ならばその妹の存在も認められないでしょう。
 お兄様の行動の根源には私がいる。
 お兄様を否定すると言う事は私を否定する事。
 私は構いませんよ?
 だって私はスザクさんの事、大嫌いですから。」
「・・・・・・ナ・・・。」
「だから私は貴方を否定する。」


 枢木スザク
 貴方などいなければ良かった

 貴方がいなければお兄様が傷つく事は無かった
 貴方が邪魔しなければお兄様は望みを叶えられた
 貴方がお兄様を殺さなければ私は幸せだった

 貴方は存在してはいけない人だった


 滔々と謳うようにナナリーはその可愛らしい口で残酷な言葉を告げる。
 告げる間も彼女は微笑みを絶やさず優しい笑顔をスザクに向けておりそのギャップが彼の心を傷つけた。
 スザクの傷ついた様子をその場の空気で察したナナリーは満足そうに一息吐く。

「・・・・・・では、失礼します。」

 言って車椅子を進めるナナリーをV.V.は止めることなく見送る。
 そのままスザクも見送りそうになり慌てて振り返り出口へと向かうナナリーに手を伸ばし叫んだ。

「な・・・っ! ナナリー何処へ行く!?」
「決まっているでしょう。黒の騎士団です。
 ゼロがいなくなった以上、今現場は混乱しています。
 今からでは遅いかもしれませんが騎士団を立て直さなくてはいけません。
 ゼロの妹である私が彼の望みを引き継ぎます。
 ブリタニアを壊す。それが私の望みです。
 カレンさん、通信機器は持ってますね。急いで連絡を。
 そしてトウキョウ租界へ急ぎましょう。」

 突然話を振られ戸惑ったカレンは漸く自分の立場を思い出し慌てて「はい!」と応えるとナナリーは微笑みまた出口へと進もうとした。

「待てナナリー!」

 再度呼び止めるスザクの声にナナリーは一度車椅子を止める。
 その事に安堵したスザクの耳にナナリーの声が響いた。

「貴方はブリタニア皇女ユーフェミアの騎士。つまりは私達の敵です。
 さようなら枢木スザク。
 次に会った時は・・・。」

 陽だまりの様な少女から聞いた事の無い冷たい声。
 凍りついた様に動けなくなったスザクにナナリーは『ルルーシュによく似た笑顔』で言い放った。


 殺しあいましょう?



 コトダマ END


 後書きは・・・・・・・後日追加します。

 2007.8.3 SOSOGU


 おそーくなりました。後書き追加です。
 勢いで書いたのでちょびっとだけ加筆修正もさせて頂きました。
 題名の「コトダマ」は色んな意味を含めていますが、この題名になった一番の決め手は「ナナリーの自己暗示」を示す為に必要な言葉があったからです。
 大好きだった人を嫌わないといけない立場になったナナリーは自分の心が壊れないように「嫌い」と口にする事で自身に思い込ませる意味を含めました。
 ルルーシュの事も含めて色々言いたい気持ちはあるけれどスザク怒りに駆られて色々見えなくなっている部分が際立っているような気がしたので感想代わりにこちらの作品を書いてみました。
 皆様も色々感じる部分があると思います。
 特に、「此処で終わりかよ!」とか「次作っていつ発表なの!?」とか「いーやーっ!!!」と叫びたくなった方多いと思います。
 SOSOGUもそうですから。とりあえず頑張って待ちましょう。
 涙呑んで待ちましょう。
 さて、真面目な話。スザクの「生きろ」ギアスはどう生きてくるのか。
 そして新キャラは何者なのか。
 目一杯謎だらけのまま終わったコードギアス。
 「監督は間違いなくSだ」と言い切って後書きを締め括らせて頂きます。

 2007.8.6 SOSOGU


 あってもなくても良い蛇足を読みたい方はレッツスクロール☆

 ↓

 再び同じ道を外へ向かって進む中、ずっと黙っていたカレンが初めて言葉を発した。

「何故、あんな事言ったの?」
「あんな事・・・とは?」
「スザクの事を嫌いだって。
 存在を否定するって。」
「そうすればスザクさんは私を憎むでしょう。」
「ナナリー、貴方は何を考えて・・・。」

 カレンの言葉をきっかけに一筋の涙が彼女の頬を伝う。
 ナナリーはカレンに応えず沈黙した。
 闇の中見えない涙はナナリーなりのスザクとの別離の儀式。

《V.V.は言いました。
 お兄様がスザクさんにかけたギアスが何なのか。

 『生きろ』

 否定されて思わず銃を向け合ってもお兄様は心の何処かでわかってたんじゃないですか?
 銃で撃とうとしてもスザクさんの身体能力なら避けられる。
 ギアスをかけている以上、スザクさんは生きようとする。
 だけどその心がついていくかは別問題。
 いつか擦り切れた心はスザクさんを蝕むでしょう。
 憎い敵を討ち取った後に残るのは空虚な心。
 生きる気力を無くしながら死ねない彼は生ける屍になる。
 けれど憎悪すべき存在が新たに生まれればどうでしょう。
 あれだけユフィ姉様を貶めた私を彼は許さないでしょう。
 私を殺すまで生きようとするでしょう。
 貴方の言うルールは所詮は貴方自身が選んだ物差し。
 それで全てを計れるわけでは無いのに貴方はソレに固執している。
 そのルールからはみ出す私は許してはいけない存在なのでしょうね。》

「大丈夫、私は生きてお兄様の望みを叶えます。」
「ナナリー?」

《スザクさん、大嫌いです。
 お兄様は貴方の存在を一度だって否定しなかった。
 分かり難いけれどいつだって貴方を受け入れた。
 危険を冒してまでずっと貴方を助け続けていたのに・・・分かり易いものだけを受け入れた。
 ユフィ姉様は分かりやすかったでしょう。
 貴方を受け入れると言葉ではっきりと告げる人だったでしょう。
 自分の全てを受け入れてくれた初めての人だと思ったのでしょう?
 けれどそれは違う。
 最初に受け入れたのはお兄様。人間関係には不器用で、一番良い言葉が思いつかなくて、けれど態度を変えない事だけがお兄様なりの意志の表れ。
 私だってそうとは悟らせずに貴方を受け入れた。
 目が見えない分、耳と鼻が利く私はあの日スザクさんが何をしたのか察していた。
 父親を殺してまで貴方は何を守ろうとしたのです。
 お兄様が差し出した手は当たり前でしたか?
 お兄様の心は貴方を守っていたのに、守られていると気付かなかった貴方はユフィ姉様の言葉しか認めなかった。
 お兄様の心を否定した。

 お兄様を傷つける人を私は許せません。
 けれどお兄様は貴方が生きる事を望んだ。》



 ―――だから



 END