その名はゼロ

 ルルーシュがラウンズメンバーという設定大好物です。
 そんな欲望を元に書き始めたものの変な方向に・・・。
 妄想の元である設定を書きまくったせいですね。
 そのうち気が向いたらこの話を元に短編を書きたいでふ。

 麗らかな日差しの中、ベッドの上で身を起こしたロロはおっとりとした微笑を浮かべていた。
 目の前にはプリンの入った器を片手にほっとした表情で見つめてくるルルーシュ。
 『兄』からの惜しみない愛情を感じロロは笑みを深くした。

「兄さん、もう一口貰ってもいい?」
「いくらでも。食欲が出てきたのなら良かった。
 あまり無理はするんじゃないぞ。熱が39℃もあると聞いた時には生きた心地がしなかったんだからな。
 体調が少しでも悪い時は遠慮せず俺に言うんだ。」
「でも、学校以外にも兄さんには・・・。」
「お前の方が大事だ。たった一人の弟を守れないなんて・・・俺をそんな情けない兄にしないでくれ。」

 答えながらもルルーシュはまたスプーンを手に取りロロの口元へ運ぶ。
 自分で食べられるよと笑いながらも口を開けるその様子は仲が良いにも限度があるだろうと突っ込みを入れたくなるほどのラブラブ兄弟のじゃれ合いである。
 更に言うならプリンはルルーシュのお手製。ロロの好みは紅茶風味だからと更に一手間掛けたソレはお店に出しても恥ずかしくない外見と味。
 おこぼれを預りベッドの傍らでプリンを口に運ぶはラウンズの一人アーニャ・アールストレイム。ふわふわのピンク色の髪を微かに揺らしながらじっくりプリンを味わい頬を染める。

「おいしい・・・・・・でも、記録忘れた。」

 出来立てのプリンの香りの誘惑は強く、習慣であるブログへのUPも忘れて食べてしまった事にちょっぴり悲しむアーニャにルルーシュは手付かずのプリンを差し出す。

「写真ならこっちを撮ると良い。」
「撮ると食べたくなる。」
「良いよ。また作るから。」
「次は蜂蜜プリンが良い。」
「ロロ、今度は蜂蜜でもいいか?」
「兄さんが作ってくれるものなら何でも好きだよ☆」

 希望を述べたのはアーニャだろうと突っ込みたくなるタイミングで微笑みロロに問うルルーシュは真面目である。真面目であるが故にただ三人のやり取りを眺めるスザクは何も言えないのだ。

《どこから間違った・・・。》

 無表情のまま青少年は悩む。
 枢木スザクの悩みは目の前の光景だった。
 友の幸せを願う意味では間違ってはいないのかもしれないが、真実を知るスザクには複雑怪奇でしかない。
 機密情報局所属のロロの本来の役目はナナリーの代わりに弟してルルーシュの傍にあり監視する事。
 ラウンズとして活動を始めるルルーシュの傍にある為に軍属として活動を続けるはずだったのだが、ルルーシュは弟は学校に行かせると譲らなかったのだ。
 通常であればロロとルルーシュの年齢の子供は高等教育を受けるべきである。
 実際、C.C.を誘き寄せるためにはアッシュフォード学園は舞台として最高と言えた。元々ルルーシュは自室に彼女を匿っていたのだから彼女も学園を熟知していて当然。
 住み慣れた場所にルルーシュが戻っている事にも直ぐに気付くはず。更にルルーシュは学生とテロリストの二重生活を続けていた。それらを考慮にラウンズと学生の掛け持ちも可能だろうと学園に通う許可が下りたのだ。
 だがしかし、様々な思惑から用意されたこの学園では予定とは違う光景が繰り広げられている。
 そう、とても平和なほのぼのとした会話が。

「ルルーシュ、次の祭りは何時?」
「またブログのネタ探しかい、アーニャ。
 ダメだよ。クリスマスの時の写真だってトナカイのきぐるみ姿は撮っちゃダメって言ったのにブログに写真UPしちゃって後で対応が大変だったんだから。」
「俺は二度とあんな醜態を晒す気は無い!
 ロロのお願いじゃなければ一生着るつもりはなかったんだからな。」
「男女逆転祭りでもいい。」

 ぴしり☆

 アーニャの言葉にルルーシュは一瞬動きを止める。
 思い出したくもない祭りの名を告げられ何十通りもの情報ルートが浮かぶが最有力候補の一つは目の前にある。

「情報ルートは何処からだ?」

 目を細め、這うような低い声で問うとアーニャは無言で背後に立つスザクを親指で指し示した。

《あ、またルルーシュの手作りプリンが遠退いた。》

 無表情ながらもスザクは焦っていた。
 ふらりと立ち上がるルルーシュは幽霊のようで怖い。

「スザク・・・・俺が必死に立てた作戦を全て無視するだけでなくよりにもよって忌まわしい祭りの存在をアーニャに教えるとはいい度胸だな。」
「いや、でも態とじゃないよ。猫祭りだけのはずが何故か僕の女装写真が出てきちゃって、それをジノに見られちゃって。」
「理由もきっかけもどうでもいい。問題はお前が俺の不利益になる情報を周囲に漏らしたと言うことだ。特に今回の祭りの件は万死に値する。」
「何もそこまで・・・。」
「この間の作戦も囮にした部隊を全員助けた上に全ての作戦を台無しにしてくれたな。」
「助けないと死んでたよ。」
「ギリギリまでもたせられるように装備は整えていた。
 お前は良いかもしれないが、他の部隊長を立てる配慮もしろ。あの時恩を売っておけば次の作戦のフォローをしてもらえる段取りをつけていたのにお前のせいでオシャカになった。
 しかも嫌味つきでねちねちと愚痴られた俺はロロと約束していた映画に行けなかったんだぞ。」
「だからと言って彼らを見捨てていい道理はないよ。」
「誰が見捨てた。元々あの作戦で囮を命じられた奴等は素行に問題ありの不良兵達だ。
 灸を据える意味もあっての作戦であると同時に今後の作戦に参加する資格があるかどうかの試験を兼ねていた。全部隊長承認の下で行ったあの作戦を成功させれば奴等は処分を受ける必要はなかったんだぞ。今頃は降格処分を受けているだろうな。」
「そんな裏取引はルールに反している!」
「綺麗ごとだけで全ての人間を纏められるか!
 よってお前の罰は更に三ヶ月伸ばされる。
 俺はお前の為にお茶なんぞ淹れる気はないしおやつを作ってやる気もない。
 夕食は一人寂しくピザでも食ってろ! 勿論ポイントは全てロロに譲れ!!」

 どーゆー罰だ

 思わず呟くスザクをおいてルルーシュはくるりと体を反転させる。
 その顔に浮かぶのは蜂蜜シロップとメープルシロップを混ぜ合わせたかのような甘い甘い微笑み。
 久しくスザクに向けられない笑顔をロロに向け優しく尋ねる。

「ロロ、次のグッズは貰えそうか?」
「うん☆ 今度はチーズいぬと交換するよ。
 この間のポイントで貰ったのはペアの抱き枕でね、今度一緒に使おうか。」
「記録・・・。」

 指し示す先には帽子を被ったチーズくんとリボンをつけたチーズちゃんが並んで座っている。
 抱き枕と言うよりは可愛らしいぬいぐるみにしか見えないそれをアーニャがいつものポーカーフェイスで撮る。
 何故かぬいぐるみにむかつきを覚えるがルルーシュはぐっとそれを心の奥に押さえつけロロを抱き寄せ笑った。

「それにしても貰えるの早くないか?」
「先生達が協力してくれているから。」
「最近先生が太っているように見えるのはまさか・・・。」

 思い浮かぶのは学校の教師達の姿。
 何人かはもっちりとした印象を受け、はっきりとお腹が出ている者やてらてらと油ギッシュな肌艶で太陽の光を反射させている者が増えている。
 唯一体型や肌艶が変わらないのは担任のヴィレッタくらいだ。

「うん☆ 先生達はしょっちゅうピザ頼んでは僕にポイント譲ってくれるからチーズ君グッズ増えてくし。
 それに見て! この間、地下倉庫でこんなの見つけたんだ。」
「これは?」
「もう交換期間終了で入手困難なチーズ君の等身大ぬいぐるみ。
 見た目抱き枕とそっくりだけど材質が違うから触るとわかるんだ。」
「何でこんなものが地下倉庫にあったんだ。」
「わかんない。これを入れてた箱にかなり物騒なメッセージが書いてあったけど埃の積もり具合から最低でも半年以上放っておかれているから本国に帰った生徒の誰かが忘れたんだろうって言って会長権限でミレイさんが僕にくれたんだ。」
「拾得物と言えど公的機関に申請し半年経てば所有権は拾い主に移るが・・・。」
「学園の中にあるものだから警察に届けるのも変だしね。持ち主もわからないし。
 学園の中で起こった事はルールである私が判断するって言ってたよ。」
「相変わらずだな・・・だが良かったな、ロロ。」
「本当は・・・グッズなんかなくても、兄さんがずっと一緒だったら何よりも幸せだよ。」
「ロロ・・・・・・。」

 少し淋しげに微笑む弟の姿にルルーシュは済まなそうにロロの肩を抱く。
 だがスザクにはわかっていた。ロロの言葉に潜む本当の意味を。

《グッズ集めはあくまで兄の気を引く為であり淋しさを紛らわす為の代償行為という事で引っ張るつもりか・・・。》

 再び眉間に皺が寄る。
 おのれロロとばかりにスザクの眼光が鋭くなった。
 元々スザクはルルーシュが同じ仲間として活動する事を楽しみにしていた。
 ナナリーと引き離す事になってしまった事はスザクとしても辛い。だが、これで危ない黒の騎士団の活動から引き離し復讐に燃えるのではなく、穏やかな日常・・・と言うにはラウンズの仕事も危険であるが目の届く範囲であれば自分が守れると思っていた。
 だがそんなスザクの目論見はあっさり崩れ去った。
 機密情報局に所属するロロ・ランペルージ。
 当然偽名であるがそんな事はどうでもいい。
 ロロがルルーシュの弟になったのは監視の為であり皇帝がそのように記憶を書き換えたからだ。
 本来ならば冷静にルルーシュの変化を見極めて報告するはずのロロの様子が変わったのはルルーシュが学園に戻った頃からだ。

『ロロと一緒に住めるようになったんだ。』
『俺がいない間、ロロは食事が偏ってたみたいでな。』
『人参をポタージュにしたら美味しいって! あの子は人参が苦手だったのにお代りまでしてきたんだ。』
『今度の祭り用にロロとお揃いの衣装を作らなきゃならないから。
 データは用意したから勝手に見ててくれ。質問事項は箇条書きにして後で持って来いよ。』
『この間、熱を出してな。悪い夢を見るというから添い寝をしてやったら安心して眠ったよ。』
『ここ最近ロロの体調が崩れやすくて・・・心配だ。今度の作戦、予定より短縮したい。短期決戦の作戦を練るから協力してくれ。』

 ルルーシュとの会話でスザクにはロロの心境の変化がわかった。
 今まで家族がいなかった少年に惜しみない愛情を注いでくれる兄が現れた。
 軍人として任務を全うする事を生きる理由にしてきた子供。まだ思春期の少年にルルーシュの優しさは心にじわじわと染み透ったのだろう。
 偽物ではなく、本物の弟になりたいと望むロロとしてはルルーシュの愛情がどれほどのものなのか不安を感じ、愛情の度合を試す為に仮病を使ってまでルルーシュを呼び寄せているのだ。
 その証拠に、先ほどスザクはロロが使ったという体温計を試しに使ってみた。

 示された体温は39.5℃

 明らかに数字が狂っている。正しくは意図的に間違った数字が出るように改造されているのだろう。

《これを証拠に・・・!》

 そろそろ我慢の限界だ。
 C.C.の事を考えると頭は痛いがこれ以上ロロをルルーシュの傍においてはいけないとスザクは全てをぶちまけようとするが小さな手がスザクの腕を抑えた。
 振り返れば淡いピンクの髪の少女騎士アーニャが首を振っている。

「誰が壊したか証拠がない。」

 アーニャの言う通りだ。
 ロロが怯えて嘘じゃないと泣けばルルーシュはスザクを非難するだろう。
 下手したら自分が壊した事にされる恐れがある。むしろその可能性の方が高い。
 再び視線をロロに移すと何やら余裕の笑みを向けて来る。
 まるで「僕と兄さんを引き離せると思ってるの?」とでも言っている様に。

《ナナリーの代役のくせにぃいいっ!!!》



 ナイト・オブ・ゼロ ルルーシュ・ランペルージ

 幼馴染と弟が影で執拗な争いをしている事を。
 そしてその原因が自分である事を全く気付いていないこの少年。
 実は世界を震撼させるナイト・ラウンズを完成させた天才軍略家であるのだが、世界はまだ彼をただのブラコンとしか知らなかった。



 * * *



 暗いゲットーの中、黄緑色の髪をした少女は上に立つ租界を見上げる。
 一年ほど前までは彼女もあそこにいた。
 ブリタニア軍から逃れ共犯者となった少年に匿われ過ごしたあの頃は幸せだった。

「何しろピザが食べ放題。」
「今だって散々食べてる癖によく言うわよ。」

 瓦礫を踏みしめ現れたのは赤い髪をした一見ブリタニア人にしか見えない少女。
 実際ブリタニアの血を引くが同時に日本の血を引く彼女は自分を日本人だと言い切り、テロ活動を続け黒の騎士団の幹部となった。
 少女の名は紅月カレン。
 彼女の前に立つ黄緑色の髪の少女はC.C.。
 イニシャルしか名乗らない彼女の本当の名は誰も知らない。
 ただ一人、知る者がいたが・・・・・・今はいない。
 二人にとって大切な存在だった反逆者ゼロ。
 正体を知り今の彼がどうしているのかは殆どわからない。
 幹部の殆どがブラックリベリオンで拘束され、散り散りになった黒の騎士団は辛うじて追及を逃れた一部の幹部を中心に組織としての体裁を保っているだけで諜報活動も殆ど出来ない状況だ。
 わかっているのは彼が休みがちながらもアッシュフォード学園に所属し通っていると言う事。
 クラブハウスに住んではいるが一年の半分は何処かに出てしまっているという事だ。

 いつか必ず取り戻す。

 決意したものの今はまだ動ける状態ではない。
 ルルーシュの行動を把握しチャンスを待つ。それまでは動向を探り易いアッシュフォード学園を見張るのが先決だ。
 人数の少なくなった黒の騎士団で諜報に動ける者は限られている。
 自然とカレンとC.C.にその役どころが回って来たのだがこれがまた頭の痛い問題があった。

「冷凍ピザは美味くない。しかも味が殆ど選べないだろう。」
「贅沢言うんじゃないわよ! その冷凍ピザだって今の私達には手に入り難い貴重品だって言うのに。」
「やはりこれか・・・。」

 C.C.が取り出した一枚のカード。
 瓦礫の隙間から差し込む光に照らされキラキラと光るそれにカレンは目を見張る。

「アンタまだ捨ててなかったの!?」
「最後の砦を捨てるわけないだろう。これなら騎士団に関係なくピザが食べられる。
 まだ口座に金が残っているのはこの間確認しただろう。」
「カード使ったせいでアジトを見つかりそうになったのは三日前の事でしょうが!!!
 っつーか明らかに罠だし! 普通口座にお金が残っている事自体、誘惑に駆られてカード使うと踏んでいるのよ。
 もうそのカードは使えないのよ。理解しなさいよ。
 というかそれを私に渡しなさい!」
「嫌だ。ピザが食べられなくなる。
 三日前もピザが受け取れなかった。勿体ない・・・。」
「命あってのピザでしょうが!
 あーもう嫌だ! 何で私がピザ女のお守しなきゃならないのよ!!
 学園見張ればデリバリーピザを見かける度にふらふらと出て行こうとするし、クラブハウスからぬいぐるみ盗みだそうと無茶をするし。
 よくルルーシュはこんな女の世話出来たもんだわ!!!」
「最高の嫁だったのだが・・・くそ、V.V.め。」
「誰が嫁よ! ゼロはあたし達の指導者であってアンタのもんじゃない!!!」
「心の狭い女はルルーシュに嫌われるぞ。」
「ルルーシュはどうでもいい! ゼロを取り戻したいのよ!!!」
「どっちも同じだろうが。」
「同じじゃなーいっ!」
「面倒な女だな。」
「アンタにだけは言われたくないわっ!!!」

 不毛な会話を続ける二人。
 既にゲットー名物になっている事を少女達はしらない。



 * * *



「ねぇシャルル。」
「何ですかな、兄さん。」

 地につく程の長い金色の髪を揺らし少年は見上げる。
 特徴的なロールケーキの様な髪を揺らし見下ろすのは神聖ブリタニア帝国皇帝。
 普段の彼からは想像もつかない穏やかな笑みと声を当たり前のように受け少年、V.V.は微笑む。

「ロロがルルーシュに懐柔されてるみたいなんだよね。」
「計画に支障は出ないでしょう。」
「うん、今のところはね。だけどシャルル、今思ったんだけど。」

 再び笑みを深くしたV.V.はポリポリと頬を掻きながら朗らかに言い放った。

「今の状態でルルーシュが記憶取り戻したらラウンズも取り込まれちゃうかもね。」
「・・・・・・・兄さん、気付くのが遅いです。」

 その日、世にも奇妙な物があった。

 沈痛な面持ちで蹲りのの字を書くブリタニア皇帝

 残念ながらその貴重な姿を見たのは一人の少年だけだったそうな。



 END


 本当は他に書きたいものがあったのですが書いているうちにおかしくなりました。
 気が向いたらラウンズ達と活躍するルルーシュを書きたいです。

 (初出 2008.6.1)
 2008.11.8 ネタblogより転載