ブラッディ・バースデイ

 ナイト・オブ・ゼロの「その名はゼロ」設定でスザクの誕生日ネタを書いてみました。
 ただのギャグです。
 ルルーシュはブラコンです。
 ロロは兄命です。
 本来主役であるはずのスザクはとっても可哀想です。

 こんな話しか書けない奴(スザルル好き)でごめんなさい。

 ルルーシュの中で枢木スザクは非常に厄介な人物だった。
 時々殺気にも似た眼差しを向けるくせに、ルルーシュが視線に応えてスザクを見ると少しだけ嬉しそうな複雑そうな笑みを受かべる。逆に視線を逸らすと今度は安堵したような溜息を吐き寂しそうに背を向ける。

 まるでルルーシュが虐めたかのように。

 はっきり言ってウザイ。
 だがそれを言えばスザクは更に捨てられた子犬の様に地面にのの字を書いて拗ねるだろう。

《悪循環だ。》

 ジノとアーニャ、そしてスザクの三人を実働部隊としてルルーシュとチームを組むことの多いスザクだ。友好的な関係を築けないとこの先の作戦に響く可能性がある。
 ルルーシュの言うことを聞かずに暴走し既に作戦に影響しまくっているスザクだけに関係修復・・・もとい、再建は急務だ。

「やはり今が最良のタイミングか。」

 季節は夏。
 海のイラストが書かれたカレンダーにルルーシュは溜息を吐きながら席を立った。



 * * *



 こんな時、ロロは兄が帰ってきたことを素直に喜ぶことが出来ない。
 連絡も無く帰ってくることは今までもよくあった。
 しかしまずはロロを抱きしめて体調の確認、近況報告をし合って夕食を一緒に作り会話を楽しみながら食べて、帰ってきた当日はロロの我侭で一緒に寝るのが通例であるというのに・・・。

《何で僕がセブンイレブンなラウンズの為にジャガイモの皮を剥かなくちゃならないんだ。》

 これがルルーシュの為であるならば自然と微笑を浮かべながら皮むきに精を出していただろう。
 だが、この料理がルルーシュやロロの為でなく兄を皇帝に売り払いラウンズにしてしまったスザクの為であるという事が許せなかった。
 当然の様に目の前のジャガイモに重なってスザクの顔が見えてくる。敵を目の前にしたロロはナイフの持ち方を瞬間的に変え逆手に持ったナイフをジャガイモに突き刺そうとした。

「危ないじゃないかロロ。こんな持ち方したら怪我するぞ。
 ほら、こうやって・・・。」

 手にしたジャガイモにナイフを突き刺す前にルルーシュがロロの右手を押さえる。
 純粋に弟の手を心配しての行動ゆえにロロはルルーシュの手を振り払えない。
 優しくナイフを順手に持ち替えさせ、ルルーシュは残っているロロのノルマのジャガイモを半分、自分のノルマ分に上乗せていく。
 これもまた兄として弟の負担を軽減させるための気遣い。ロロは益々ルルーシュから注がれる愛情に心を震わせる。

《僕は・・・ナナリーじゃない。
 だけど兄さんはナナリーの身代わりの僕を大切にしてくれている。
 いつか、記憶が戻ったら僕は捨てられるのかな・・・。》

 確かめて見たいと思う。
 例え偽の記憶を植えつけられたままでも、ルルーシュの愛情を試すことは出来るのではないか。
 今までも散々ルルーシュに負担をかけてまで自分の下に来るように病弱を装っていたロロはそう考えた。
 出てくる結論は一つ。

《ここはやっぱりこれだろう。》



 * * *



 形が崩れて屑肉が浮かんでいるようにしか見えない野菜も溶けて消えたチキンカレー
 きちんと潰されていないマッシュポテトのサラダ
 殆ど生肉、血の滴る様なというより実際滲み出ているソースなしのローストビーフもどき

「誕生日祝いのご馳走だ。さぁ、食べろ☆」

 笑顔でルルーシュに問われてスザクは乾いた笑いしか出なかった。
 7/10はスザクの誕生日。
 日本がエリア11になってからまともに祝ってもらうことなど皆無に近かったスザクにとってルルーシュの気遣いは感動に値するものだ。
 だけど料理の上手いルルーシュならばこんな料理になるはずが無い。
 ツツーっと視線をルルーシュの肩越しに見えるロロに移せば口元がいやらしく上がり企み笑いを浮かべている。

《またお前か!》

 どれだけ自分の事が気に入らないのかとことん話して聞いてみたいが今この場で出来ることではない。
 下手なことを言えば自分が悪者になる。
 食べられなくは無い。ルーだけのカレーとレアステーキだと思えば良いのだ。
 セシルの料理よりは遥かにマシと自分に言い聞かせスザクはありがとうと二人に答える。

《珍しくルルーシュが誕生祝だしと言ってご馳走してくれるというからルルーシュの手作り料理を楽しみにしていたのに明らかにルルーシュの料理ではありえない完成品が出てくるなんて・・・くそっ! またあの偽弟か。この程度の嫌がらせなら問題ない。セシルさんの料理で鍛えられた僕の舌と胃袋を舐めていたな。この程度の料理を平らげるくらいでルルーシュと昔の関係に戻れるのであればナイト・オブ・ラウンズとして食べ尽くして見せるさ。》

「ジノ達ももう直ぐに来るが先に食べてて構わないそうだ。」
「あ、兄さん。部屋にプレゼント置きっぱなしだったよね。」
「そうだったな。取りに行って来るから皿を並べておいてくれ。」

 思い出したかのように問うロロの言葉を受け、ルルーシュは部屋から出て行った。
 ドアが完全に閉められたのを確認するとその場の雰囲気は一変した。
 ぴりぴりと張り詰めた空気が二人の仲の悪さの象徴。先に口を開いたのはロロの方だった。

「はっぴいばーすでい、枢木スザク。」
「心にも無いことを言うな。ルルーシュの料理を台無しにしたのはお前だな。」
「始めの方は確かに兄さんがやってくれたけど後半からは仕事が忙しそうだから僕が頑張っただけですよ。
 料理に慣れていないから煮込み過ぎたり温度設定間違えたり力が無いからポテト潰せなかったりしても兄さんは笑って許してくれましたよ。」
「こんな料理をルルーシュに食べさせるつもりか? 僕への嫌がらせだけのつもりなら手段を間違えたな。」
「勿論、兄さんにはちゃんとしたものを食べてもらいますよ。貴方を追い出した後にね。」

 一瞬ロロの右目が赤く染まったと思った瞬間、次に気がついた時にはスザクは壁にロロの体を押し付け首を締め上げていた。
 そんなことをした記憶はない。足元がびちゃりと音を立てたので床を見ると、テーブルの上にあったカレー鍋やローストビーフの皿、ポテトサラダの器も引っ繰り返って転がっている。

「なっ!?」

 驚愕するスザクの背後でドアが開く音がした。

「ロロ! 今の音と悲鳴はっ!?」

 飛び込んできたルルーシュは部屋の惨状に絶句した。
 スザクも状況を理解できず固まっているとロロがスザクの腕から逃れルルーシュの元へと飛び込んでいく。

「兄さん! 怖かったよ!!」
「ロロ・・・大丈夫か? スザクこれはどういうことだ!!?」
「どういうことって僕にも・・・。」
「料理を作ったのは僕だって言ったら下手くそって言って料理をぶちまけて・・・僕は頑張ったのに嫌がらせだろうって怒って乱暴してきて・・・・・・・・・。」

 恐ろしかったのだと訴えるように目に涙を浮かべながら答えるロロにルルーシュはスザクへの怒りを増大させていく。

《マ・ズ・イ。》

 明らかにこの状況はスザクに不利だった。

「どうしたルルーシュ!?」
「これは・・・。」

《更にマ・ズ・イ。》

 ルルーシュの後ろのドアから飛び込んできたのは遅れてやってきたジノとアーニャの二人。
 止めとばかりにノネットまで入ってきて部屋の惨状を眺め剣呑な雰囲気を放つ。

「スザク、この状況の説明をしてもらおうか。」
「いや、僕も何時何がどうなったのか・・・。」

 正直に「ロロと話してて気づいたらこの状況でした。」等と言えば状況は悪化するばかりである。
 先に状況説明をしたロロに対ししどろもどろのスザクでは前者の方が信を置けると周囲は判断するだろう。

「どうもこうもあるものか。
 言い訳しない潔さだけは認めてやる。
 折角の誕生日という機会だから俺から歩み寄りをと行動すれば意趣返しに弟虐めか?
 お前が俺との関係をどうしたいのかはっきりと教えてくれてありがとう。
 ロロを虐めた返礼はしなくてはいけないな。折角の誕生日だ料理は作ってやるよ。料理は、な。」

 ずごごごごごご・・・・・・・

 やはり親子と言うべきか。
 神聖ブリタニア帝国皇帝に良く似た迫力で凄むルルーシュは怖い。
 しかも母親譲りの美貌が恐ろしさに拍車を掛けている。
 迫ってくるルルーシュの笑みを眺めスザクは現実逃避する。

《ルルーシュ、どうせお仕置きするなら君が女王様のプレイでお願いします。》



 * * *



 夏だと言うのに潮風が肌寒い。
 ウェットスーツを着ることも許されないスザクは何処かの海水浴場にでも来たのかと問われそうな普通の水着を履いて風対策のウィンドブレーカーを羽織って船の穂先に立っていた。
 既に夜の上にこの辺は漁師達も来ない海域だ。
 何の伝も無い素人であるスザクが急に船を出せた上に此処に停泊する許可が出たのも全てはラウンズという肩書きのおかげと言えた。
 その上に本国の上級貴族の四男という肩書きをおまけのようにひらつかせた三つ編み男もこの状況を作り出すのに一役買っている。

「おー、ルルーシュの言った通りだ。スザク、誘き寄せは成功したぞ。
 後はお前次第だ。」

 海面を覘きながら嬉しそうにはしゃぐジノの能天気さが憎らしい。
 これから成さなければならない事・・・スザクの身に降りかかる危険を本当に理解しているとは思えず、スザクは苦々しい顔で呟いた。

「本当に銛も何もなしなのか・・・。」
「ノルマは最低一匹だから大丈夫だって☆ 取れたらルルーシュが料理してくれるって言うしv 俺とアーニャの分も用意してくれるって言うから頼むぜっvvv」
「でも明らかに影の数が3匹以上なんだけど。」

 さっきも海面の上に出た大きな背鰭が見えてしまったスザクは自分の視力の良さを呪った。
 そして本能が警告していた。
 この状況の海に装備なしで飛び込めばまず確実に死ぬと。

「大丈夫・・・。」
「アーニャ、もしかして援護を!?」

 背後からかけられた声に少しだけ希望を見出しスザクが振り返るとそこには携帯を構えた桃色の髪の少女アーニャ・アールストレイム。

《装備なし・・・と言う事は。》

 スザクの心の声に応える様にアーニャは眠そうな目を瞬きさせながら携帯を差し出し言った。

「ちゃんとスザク最期の勇姿は記録するしルルーシュに報告する。」
「アーニャ・・・・・・・・・。」
「スザク、折角鮫を血の匂いで誘き寄せたんだから早く獲って来いよ。」
「ジノ・・・・・・・・・。」
「「早くしないと日付変わる(ぞ)。」」

 誕生日終了まで後3時間。
 時計の針を見てスザクは覚悟を決めた。

「イってきます。」

 ざっぽーん ざばざば ごがぁああああ・・・・ぼごぉお・・・ぐぼぉ! ぷっかぷっかぷっか・・・・・・・



 今生の別れとも取れる言葉を残しスザクは海の中へと飛び込んだ。
 その後響いた音がいったいどういう状況で発せられたものなのか、知る者はジノとアーニャのみ。

「アーニャ、ラウンズは人間だったはずだよな。」
「・・・人間以外の動物が騎士になった記録はない。」

 その後、船が港に戻った時には既に時計の針は12時を越えていたが、二人は未だ己の見たものが信じられないようで口を閉ざし続けた。
 後日、数日遅れの誕生日祝いとしてフカヒレ料理を食べるスザクの姿があった。
 スザクを見たロロが舌打ちした瞬間をノネットが目撃したが、隣にいたルルーシュは一切気づかなかったそうである。


 何で生きてるんだよ! (BY ロロ・ランペルージ 心の叫び)


 END


 素直にスザクの誕生日SSが書けないのはロロに心を傾け過ぎているからでしょうか・・・・・・・・・・甘いスザルルネタが上手く纏められないのでラウンズルルネタで書いてみました。

 スザク不死身説

 マシンガンでの攻撃を避け切り蹴り飛ばして破壊するスザクなので鮫相手に素手でも生きて戻ってきた上に鮫を獲って来そうな気がしたので・・・・・・。
 題名のブラッディは血の滴る様なローストビーフと鮫を誘き寄せた血(魚のもの)とスザクの心情です。
 ジノルルとかアニャルルとかスザルルとかロロルルとかスザルルとか大好きなんですけど書いているものが書いているものなので信じてもらえない気がします。

 SOSOGUは基本嫌いなキャラはいませんーっ!
 スザクも大好きですよー!!!(←無駄に主張してみる)

 (初出 2008.7.11)
 2008.11.8 ネタblogより転載