〜はじまり〜 C.E.71 6/15 地球軍、オーブ侵攻開始 当時のオーブ代表は地球連合からの恫喝に近い連合加入要請を拒否、それを受けた大西洋連邦は『オーブ開放作戦』と名付けた実質オーブの侵略作戦を開始した。 大西洋連邦を中心とした地球連合軍による侵攻を防ぐべく守りに徹するオーブ軍だったが圧倒的な物量の差は埋めることは敵わず、敗戦は誰の目にも明らかであった。 既に覚悟を決めている首脳陣、せめて一般国民の非難時間を稼ごうとオーブ全軍、海岸沿いではM1アストレイ隊も必死に戦う。そんな彼らの努力を嘲笑うかのように、司令室にいるカガリの耳に届くのは確実にオーブの地を踏み入って来る敵の情報ばかり。 「くっそぉおおおっ!」 悔しさに拳を震わせるカガリは己の無力さにさえ憤りを感じる。 ぽたり 彼女の手から流れる一滴の血がその心を物語っていた。 同じ頃、必死に戦う白いMSが空を舞っていた。 天使を思わせる10枚の青い翼を広げ、連合の新型MS3機を相手に互角に渡り合うその機体に乗るのは栗色の髪に紫水晶の瞳の少女。 《守る・・・守ってみせる!》 戦う彼女の脳裏に浮かぶのは幼い子供の姿だった。 オーブ全土に伝えられた連合軍によるオーブ侵攻。 特に狙われるのはオーブ軍の要であるオノゴロ島であることは誰もが知っている事だった。 緊急の避難命令が出された地域に住んでいた人々は一斉に避難を始めた。 オーブ政府が出したのが勧告では無い事が全てを物語る。 軍の施設があると言っても当然一般人も住んでいた。その中の一家も最低限の荷物を持ち、避難の為に港に向う。 はぁっ はぁっ はぁっ 空を駆るMSの姿に怯えながら走るのは2家族。 オノゴロで夫婦共に働いていたアスカ家の4人と連合を迎え撃つ為に出撃しようとしていた娘に会いに来たヤマト家の3人。 攻撃によって起こる地響きでバランスを崩しそうになる度に足を止める彼らは不安そうに空を見上げた。 明らかに他のMSと違う連合の機体を相手にこれまた見慣れない蒼の翼のMSが戦っている。 「ばーちゃ・・・。」 7人の中で一番年の若い、2・3歳の子供が自分を抱える紺紫の髪の女性に縋りつく。 響き渡る爆音と時折接近してくるMSが巻き起こす風に状況がわからずとも雰囲気から感じるものがあるらしく、怯えて途切れる事のない涙が痛々しく映る。 「大丈夫、大丈夫よ。マユ・・・。」 「マユ!?」 偶々、港に向う途中に一緒になっただけのヤマト家。 互いに名前を紹介する時間など無かったため、妹と同じ名に驚いてシンは思わず聞き返したが、問われたカリダは孫娘のマユ・ヤマトを抱き上げたまま不思議そうに首を傾げる。 状況をフォローする為だろうか? カリダがシンが驚いた理由に気付いていないと察したシンの妹、マユ・アスカが少し嬉しそうに答えた。 「私もマユって言うの。怖くないよマユちゃん。 後ちょっとで港に着くから。」 「一緒に避難する事になったは何かの縁だろうと思いましたが・・・こんな縁だったとは。」 苦笑しながら言い募るシンの父親の表情に一瞬だけ場が和む。しかしそうのんびりとしていられない。 「さあ、急ぎましょう。」 休憩は終わりだとでも言うように荷物を抱え直したハルマが皆に言った。 それもそうだとアスカ家のマユが肩にかけたカバンを整えた時、カバンからピンク色の小さな塊が零れ落ちる。 カラコロと転がって行くソレを取りに行こうとした彼女だが、母親が左手を掴んで離さない。 「マユの携帯!」 「そんなのいいから!!」 「いやぁ―――っ!!!」 どうしても取りに行くと母親の手を振りほどこうとするが、振り解けない。 欲しくて欲しくてやっと買ってもらった携帯を妹がどれだけ大事にしていたかを知っているシンは無言で荷物を置いて携帯が落ちて行ったガケを滑り降りた。 コーディネイター故の運動神経を発揮するシンの後を追うようにカリダが崖の縁に駆け寄り叫ぶ。 「危ないわ! 戻りなさいっ!!!」 「大丈夫です!」 心配するカリダに笑顔で応えてシンは木の根元に引っかかっている携帯に手を伸ばした。 その瞬間、ハルマが妻を呼ぶ声がしたとシンが認識したと同時にシンの身体は土砂と共にがけ下に吹き飛ばされた。 「う・・・。」 身体の節々が痛む。痛みは認識しても意識は混濁状態。 聞こえてくるのは「避難者を早く!」と怒鳴る声と大勢の人の悲鳴、そしてドタドタと人々が走る音。 地を通して振動まで伝わってくる。 まだ意識がはっきりとしないシンに近くに居たオーブの将校が駆け寄った。 「大丈夫か!? さっ、早く!!」 とにかく避難させようと将校が肩を貸してシンを立ち上がらせると漸くシンは意識を取り戻した。 将校の手を振り払い辺りを見回すシンの目に映るのは焼けた木々と崩れ落ちた崖の土。 「父さん・・・母さん・・・・・・マユはっ!?」 必死に家族を探すシンの視界に見慣れたリボンが引っかかる。 クリーム色のソレは妹の衣服に付いていたものだった。 「マユ!」 駆け寄るシンはリボンの先が見える場所まで来て立ち止まる。 リボンの先・・・袖口に付いていたソノ先にはあるべき姿は無い。 ・・・・・・・・・・・妹の血に染まった右手だけ。 「あ・・・・・・・。」 知りたくない、認めることなど出来ない現実。 絶望の予感を感じながら、それでもシンは更に先に広がる光景から目を逸らせなかった。 右手を失い、血まみれで転がる妹。 ありえない方向に身体が捩れた母。 土砂と共に倒れた木に圧し潰された父。 既に3人の命が無いことは明白だった。 「あ・・・・・ああ・・・・・・・・。」 声が声にならない。 溢れ出る涙を拭う事も出来ず、右手の携帯を握り締めシンは立ち尽くす。 「おいっ! 子供の声がするぞっ!?」 先ほどの将校の声にシンは驚きながらも耳を澄ます。 あーん イタイよー くぐもって聞こえる声にシンは痛む身体に鞭打って走り出す。 声の先には半ば土に埋もれ重なり合う男女の姿。 いや・・・正確には男女の遺体があった。 共に避難していたヤマト夫婦の姿も認め、シンや唇を噛み締める。 『ママ〜〜ママ〜〜〜』 !? 今度ははっきりと聞こえる声。 声は夫妻から響いていた。 「手を貸して下さい!」 シンの後を追って来た将校は頷いてカリダの上に覆い被さっているハルマの身体を土ごと抱え上げた。 声の元・・・息絶えた2人に挟まれるようにして泣いている幼子がソコには居た。 マユ・ヤマト 祖父母に守られたのだろう。 2人の身体が上手くクッションの役割を果たし、殆ど外傷は無い。 自分と同じく1人残された幼子を前にシンは優しく語りかける。 「マユ。」 「ママ〜〜ばーちゃ〜〜じーちゃ〜〜ママ〜〜。」 状況もわからず目覚める事の無い祖母の服を掴んで泣き続ける幼いマユをシンは抱き締めた。 「大丈夫・・・・・・大丈夫だから。俺が、守るから。」 ごぉおおっ 泣き止まないマユを抱き締めたシンを襲う強風。 憎しみと涙に染まった深紅の瞳の先には青い翼のMSがいた。 続く 超シリアス物です。 ちゃんと書き上げられるかどうか非常に危ういお話です。 予定では途中までは本編に合わせて行く予定のこのお話。 急に浮かんだネタをDESTINY設定でと思いまして書きました。 超SS書くつもりだったのにねぇ・・・。 序章なので短くなりましたが、一応三話の途中までプロットは書き出してます。 後は全て頭の中v うわぁ相変わらずアバウトvv シリーズ名は直訳すると「心臓を取り出す」(←物騒)、和訳は「心を癒す」です。 で、何で苦しむのわかっているのにこんなの始めたかって? 10/10申し込みたいからさっ☆ 2005.5.5 SOSOGU |
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