〜二人のカガリ〜 CE.73 地球、オーブ連合首長国 夕闇に染まっているはずの空には今、大気との摩擦で真っ赤に燃えるユニウス・セブンが浮かび上がっていた。 赤く不吉なその空を見上げる少女が一人。 海辺の風に桃色の髪を揺らされながら彼女は災厄を齎す『悲劇のコロニー』を悲しげに見つめていた。 少女の名はラクス・クライン。 先の大戦において当時の最高評議会議長とは道を違えたシーゲル・クラインの娘であり、プラントの誇る歌姫。 父の遺志を継ぎ、第三勢力として大戦を終戦へと導いた英雄としても知られている。 だが彼女は今プラントを離れオーブに身を寄せていた。 失くしたものの大きさに心が耐え切れなかったが故の選択。 静かに、ただ静かに。ラクスはかつて訪れた悲劇のコロニーを悼む様に見つめる。 「ラクスぅ。」 幼い声と共にスカートの裾を引っ張られるのを感じ、振り返れば其処には数人の子供達が怯えた様子で見上げていた。 「そろそろ・・・・・・シェルターに入らなければいけませんわね。」 「うん! 早く行こうよ!!」 「マルキオ様も他のみんなも待ってるよ。」 「呼びに来てくれてありがとう。急ぎましょうね。」 「ラクス。あの赤いのが僕達の上に落ちてくるの?」 ラクスのスカートに縋っていた少女が怯えた様子で空を見上げる。 先程よりも赤みを帯びたユニウス・セブンにラクスは僅かに目を細めた。 子供達を宥めようとすると周りに居た少年達が口々に少女を励ます。 「大丈夫だよ! 落ちて来る時はもっと小さくなってるし、落ちて来たって僕が受け止めてやる!!」 「そーだよ。だから大丈夫! みんな一緒なんだしさっ☆」 実際にそんなことなど出来はしない。 分かっていても『守る』という気持ちを精一杯に表す少年達にラクスは微笑みながら言った。 「そうですわ。それに今もあそこで私達の為に頑張って下さる方達がいます。 その方達を信じて今は皆でかくれんぼしましょう。」 「わーいv ね、ラクス。おうた歌って!」 「僕も聴きたーい。」 「あたしも〜♪」 「では皆で歌いましょうね。」 静かなハーモニーが海辺に流れ出す。 祈るような歌声に子供達の幼い歌声が重なる。 Fields of hope 優しい世界を願うその歌は、今の世界には悲しく響いた。 ニュースは繰り返し避難を促す情報を流す。 オーブの主だった都市からは殆どの市民は避難を完了したとの連絡が来ている。 行政府からも主だった者は姿を消し、残っているのは僅かの職員のみ。 「キラ様、そろそろシェルターへ移動を。」 残っていた一人が声を掛ける。 カガリのドレスを纏いオーブ行政府の窓からキラは星と共に赤く浮かび上がるユニウス・セブンを眺めていた。 彼女の頬に流れる一筋の涙。 それは地球とユニウス・セブンのどちらを悼んでの涙か。 キラ自身にも分からない。けれどどちらを想っても胸が痛むことに変わりはなかった。 「キラ様。」 再び促されてキラはそっと涙を指で拭い振り返る。 その視線の先には白を基調としたオーブ軍の軍服を纏う中年の男性。 キラが今最も信頼するトダカ一佐はキラに問いかける様な目で見つめる。 ずっと彼女を待っていたのだろう。マーナも傍に控えて不安そうな表情を浮かべていた。 やがて自分達の上に降り注ぐ巨大な墓標。 いっそそれに焼かれても良いと想うキラの気持ちを見透かすようにトダカは言った。 「我々はまだやらなければならない事があります。」 「・・・・・わかっていますよ。」 キラは笑わない。 彼女が微笑むのはその場に必要と思われた時だけ。 表情を浮かべることなく部屋を出て行くキラをトダカは悔やむような表情で見送った。 ごっ・・・ががが・・・・・・ 金属が軋む嫌な音を立てているのをアスランはザクの中で聞いていた。 大気圏突入時の摩擦熱に何とか耐えたもののザクの右腕はとっくの昔に失われていた。 残る左腕のシールドで必死に大気との摩擦の衝撃を受け流そうとするがコクピット内の計器は常にぐるぐると数値を変える。 如何にアスランが優れたパイロットであってもザクの能力では限界が見えていた。 「くそ・・・・・・突入角度は調整出来ても排熱システムが追いついていかない。 姿勢制御もマニュアルでないと・・・。」 がこぉっ! 頼みの綱であったシールドも衝撃に耐え切れず腕から外れ飛び散っていく。 ザクのバーニアでは地球降下のスピードを殺すことは出来ない。 このままでは単身で地表に叩きつけられると必死に計器を見つめるアスランの耳に思いがけない声が飛び込んできた。 【アスラン・・・アスランさんっ!】 ノイズ混じりの声だが間違いなくシンの声だった。 計器を改めて見直せば上方にインパルスがいた。 「シン・・・君か!?」 光学映像で捉えたインパルスの無事な姿にアスランはほっとした声を出す。 元々シンは自分の都合に巻き込んだようなもの。 ミネルバの主砲によるユニウス・セブンの破砕や用意無しでのMS単独大気圏突入。 何時死んでもおかしくない状況下で見失った彼をずっと心配していたのだ。 【今そっちに行きます。】 「駄目だ! インパルスのスラスターでMS2機分の落下エネルギーを相殺することは出来ない。」 【アンタは何でそんな事を言うんですか!】 「・・・じゃあ、どう言えば良いんだ?」 【・・・・・・・・・俺を助けろコノヤロー・・・とか。】 少し弱くなった声にアスランは苦笑する。 「その方が良いのか?」 【只の例えです!】 子供っぽく答えるシンにアスランは状況も忘れ更に笑った。 同じ頃、ミネルバはアスラン達を探していた。 二人が残っていると知っていてタンホイザーを撃ったことをタリアは後悔してはいなかったが、それでも生存を信じたいと祈るようにモニターを見つめる。 「艦長! センサーに反応あり!! これはインパルスです。それから・・・っ!?」 「方向はっ! 光学映像出せる!?」 索敵担当のバートからの声にブリッジは騒然となる。 ただ情報を待つのみだったカガリが腰を浮かしてモニターに食い入るように見つめる。 「映像出ます!」 おおおっ!!! 映し出されたインパルスとザクの姿にブリッジには喜びの声が上がる。 カガリもホッとした様子で2機の収容を急がせるタリアの声を聞いていた。 《だが・・・。》 カガリは再び表情を引き締める。 ミリアリアの情報が流されていても大西洋連邦やユーラシア連邦は黙ってはいない。 元々あの情報公開は連邦の情報操作を妨害するためであり、解決策などではないのだ。 地球の被害がどれほどのものか・・・想像を遥かに上回ることだろう。 例え彼らが被害を被る地域とは関係ないとしてもこの機会を逃すはずがない。 けれど、少しでも戦いを踏み止まらせる事が出来れば・・・・。 そんな願いもあっての提案。その願いを叶えるにはまだまだ必要な事が多い。 「大変なのはこれからだ。」 カガリは自分に言い聞かせながらタリアの着水時の衝撃用意の命令を聞いていた。 いくら探しても見つからないマユをフレイは必死に探していた。 部屋を探しても見つからず部屋の外を出たかと思い艦内を探したがやはり姿は無い。 再び部屋に戻り先程は探さなかったベッド下に洗濯籠の中まで見たがやはりマユは見つからなかった。 改めて部屋を見回せば最初の捜索時に開いたままのクローゼットはたたまずに放り込まれたクリーニング済みのシャツが山を作っており、ベッドはシーツを全て引っぺがしてマットまで剥がされた状態。シャワー室にはこれまた先程探した洗濯物籠が引っ繰り返って服が散乱している。 「これだけ探しても見つからないなんて・・・。」 二人が戻ってくればこの状態に驚くだろうとフレイは一度片付けようととりあえず始めからグシャグシャだったクローゼットのドアを閉めてベッドのマットを掴んだ。 【警報! 総員着水の衝撃に備えよ!!】 突如鳴り響く警報とアナウンスにフレイは泣きそうになりながら机にしがみ付いた。 しばらくして衝撃が襲ってきた。 どどぉおおっ!!! ぐらぐらと大きく揺れるミネルバ。 様々な物が音を立てて転がる。 ぷぎゃ! 「へ?」 揺れが収まりつつある中、聞こえたマユの声にフレイは振り向く。 そこは先程閉めたばかりのレイのクローゼット。 完全に揺れが収まるのを待ち、フレイは恐る恐るクローゼットを開いた。 先程の洗濯物の山が崩れ、顔を出すのは幼い少女。 レイの軍支給のシャツに埋もれたマユが寝ぼけ眼でおでこを押さえている。 「マ・ユ?」 ふ・・・ふえぇええええっ!!! 自分を呼ぶ声を切欠に痛みを自覚したのか、はっきりと目を覚まして泣き出すマユ。 涙を流し続ける幼子にフレイは大慌てで医務室に担ぎ込んで行った。 ミネルバの格納庫では喜びの声が上がっていた。 絶望視されていた友の帰還に一番喜んでいたのはヨウランとヴィーノ。 インパルスから降りてくるシンに抱きつき「心配させやがって!」と小突いたりとスキンシップに勤しむ。 普段なら整備を急げと叫ぶ整備主任のマッドも笑いながら三人を見つめていた。 同じくザクから降りてきたアスランも何人かの整備兵からの生還を祝う声に包まれている。 けれどその表情には暗い影が潜んでいた。 気づいたのは常に冷静に状況を見るレイだけ。 だがレイはそんなアスランに声を掛けるつもりは無いらしく真っ直ぐに同僚でルームメイトでもあるシンへと向かい歩を進めた。 やってくるレイに真っ先に気づいたシンが嬉しそうに友人に呼びかける。 「レイ!」 「無事で何よりだ、シン。怪我は無いか?」 「ああ、ちょーっとヤバかったけどまあ何とか。 怪我もヘーキ。ほらこの通り☆」 何とも無いと腕を振りアピールするシンにレイは相変わらずの無表情で頷き言葉を続ける。 「そうか、では話さなければならないな。 俺も先程聞いたのだがマユがずっと行方不明らしい。」 「え?」 「ギリギリまで破砕作業を行うために艦長がミネルバの地球降下を決定されただろう。 危険だから議長と共にマユをボルテールへ移動させようとフレイが探しに行ったそうだが姿が見当たらなかったそうだ。 シン、お前は確か部屋を出る前にマユに・・・。」 あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!! レイの言葉にシンは思い出す。 部屋を出る前にマユにいった言葉を。 『マユ、かくれんぼしようか。』 『かくれんぼ?』 『そう、お兄ちゃんが戻ってきた時にマユを探すからソレまでにしっかり部屋の何処かに隠れてるんだ。』 『おへやのそとはダメなの?』 『お兄ちゃんが戻って来て5分以内にマユを見つけたらお兄ちゃんの勝ち。 でも5分経ってもお兄ちゃんが見つけられなかったらマユの勝ち。 お兄ちゃんが「負けた」って言うまで誰にも見つかっちゃ駄目だからね。 どう? やる??』 『やるぅ〜〜〜♪』 そして嬉々としてシンを見送るマユに手を振ってドアにしっかりロックして出て行ったのだ。 これで議長にマユを取られる事はないとほくそえんで・・・。 その後のシンの行動は言うまでもない。 マユがシンの言う事を忠実に守っていたのならば簡単には見つからないのは道理。 漸くマユの事を思い出し顔面蒼白、絵画に例えるならムンクの「叫び」にそっくりなシンに例は追い討ちをかける。 「着水時の衝撃は相当なものだ。未だマユが見つかったと報告されていない。 もしかしたら何処かで怪我をして動けなくなっているかもしれんな。」 「そこまで分かっているなら何でお前も探さないんだよっ!」 「俺も探そうと思った・・・だが。」 「だが?」 「シン以外が見つけるとマユの負けになるのだろう? 下手に恨みを買ってあの子に嫌われたくはない。」 「おおぉぉおおまぁあああええぇええはぁあああっ!!!!!」 何処までもマイペース。 任務となると命令優先だが実生活は決して周りに合わそうとせず、己の判断で突き進んでいくレイ。 こんなレイの姿を孤高の麗人と噂していたアカデミーの女生徒は多かったがその実態は単なるわがままだと知っているのは特に親しかったシンとルナマリアぐらいである。 普段の判断が間違っていない分だけある拍子に垣間見える自己中なところはアカデミー時代から全く変わっていない。 それを改めて思い知らされシンはレイの胸元を掴み思いっきり揺さぶり叫ぶ。 「おっ! おいシン!!? お前何やってんだよ。」 「レイ大丈夫か!?」 傍から見ればまるでシンが言いがかりでもつけている様に見えるのだから更に性質が悪い。 内容も知らないのに何故周りがこのような反応をするのか・・・。此処に二人の普段の行いがどのようなものかを示している。 二人の様子にアスランも驚いて駆け寄ろうとした時、全艦内放送を知らせるアラームが鳴る。 【シン・アスカ! 今直ぐ、10秒以内に艦長室へ出頭しなさい!!! レイ・ザ・バレル! アンタもよっ!!!】 此処最近耳慣れた声が最大音量で流れる。 身体能力はナチュラルより優れるコーディネイターにこの攻撃は痛い。 一部の整備兵が耳を押さえて転がる姿にアスランはイザーク率いるジュール隊の日常を垣間見たような気がした。 「苦労しているな・・・・・・ディアッカ。」 イザークとフレイ。 その二人の組み合わせを思いアスランは元同僚に同情した。 フレイの艦内放送後、大慌てで艦長室へ出頭する為に通路へ飛び出すシンとレイ。 レイは軍服に着替えているがシンはそのままなのでパイロットスーツのまま。 放送で言われた10秒以内の出頭を意識したわけではなく、フレイの声にマユの事が頭を過ぎったのが理由。 マユを探していたはずのフレイが直接部屋へ行くのではなく、艦長室を指定したと言う事はマユは見つかったのだろうとシンには予想が出来た。 《マユ・・・・。》 部屋にいたはずの妹を思いシンは走り続けた。 宇宙にいた時と違い感じる重力はいつもより走る速度を遅くしているようにも思えて心だけが焦る。 漸く見えた艦長室にシンは中にいるはずのタリアに了解を取る事も忘れてドアを開けた。 「失礼します!」 「50秒遅刻。」 シンの言葉に空かさず答えたのはフレイだった。 息を切らしていなければ髪が乱れた様子も無い彼女の様子から、先程の放送は此処からされたものだと容易に想像できる。 だが全速力でここまでやって来たシンは頭に血が上り気味。 フレイの厭味に真正面から言い返そうとするが「黙りなさい。」と間髪入れずにタリアが制止した為に悔しそうに口を噤む。 傍らのレイはいつも通りの無表情で敬礼して立っているだけ。 暴走しまくりの問題児シンに一見問題なさそうに見えて実は問題児のレイ。 その二人を前にしてタリアは深く深く溜息を吐き話し始めた。 「まずは二人とも、破砕作業ご苦労様。よくやってれたわ。 特にシンはギリギリまで残っていたようだけれど簡単でいいから口頭報告をお願い。」 「はい。自分は同じく作業に参加していたアレックスと共に残っていたメテオブレイカーによる破砕を続行していました。 メテオブレイカー起動後、砲撃による破砕作業続行の通信文を受け取りましたのでミネルバの位置とユニウス・セブンの直線上には入らないよう距離を取り、それぞれMS単独地球降下を試みました。 大気圏突破後、アレックスの乗るジンと合流。 ミネルバからの信号弾を視認し、帰還。先程ドッグ内に戻りました。以上です。」 「そう、大変だったわね。 けれどシン、貴方の通信を送る前に既に帰還信号を出したはず。つまり貴方の作業続行は命令違反に当たるのよ。」 「けどっ!」 「しかし、それは『オーブの民間人の救助』の為であったこと。 そして砲撃だけでは成し得なかったユニウス・セブンの破砕を成功させた功績を考慮し不問とします。 以後、このようなことは無いように。」 「・・・・・・はい。」 シンは軍人。そしてタリアはシンの上官だ。 艦長として言われれば従うしかない。 こんな時、軍人は不自由だとシンは思う。 元々力を求めて入隊したシンにとって不自由を伴う力に時々苛立ちを感じる。 仕方がないと知りつつも心が追いつかず、ぐっと拳を作り耐えるシンにタリアは更に言葉を続ける。 「ではもう一つ。マユ・アスカに関する問題について話しましょう。」 「艦長! マユはっ!!?」 「安心なさい。先程発見されて医務室で手当てを受けているわ・・・ってシン!?」 タリアの言葉にすぐさま踵を返して退室しようとするシン。 思わぬシンの行動にタリアはただ驚くのみだったが・・・。 「甘いっ!!!」 ずっこーん☆ シンの行動を予測していたフレイの一撃。 武器;黒の金属製バインダー 特徴:角が当たるとものごっつー痛ひ(良い子は真似して投げないように) 補強と安全の為に角に丸い部品がついたバインダーは見事シンの脳天に吸い込まれるように当たった。 しかも角が当たりシンは激痛に堪えきれずその場で撃沈する。 当然の様にシンに歩み寄りバインダーを拾うフレイの目は鬼の目。 《《狙って投げた・・・絶対角が当たるように狙って投げた・・・・・・。》》 レイとタリアは確信するがフレイから放たれる怒りのオーラが怖くて言葉にはしない。 彼らの目がふとフレイが持つ一冊のファイルに寄せられる。 『シン・アスカ取扱説明書(笑)』 ファイルの題名にレイはフレイがシンの行動を先読み出来た理由を悟った。 「さて仕切り直し。話が終わるまで退室は許さないわよ。」 「人のこと縄でぐるぐる巻きにして転がしといてソーユーこと言うのか。出来るわけねーだろ。」 言葉通り、上半身を隙間なく縄を巻かれたシンがむすっとした顔で反論する。 必死に身を捩る友人にせめて座らせてやろうとシンを抱え起こすレイ。 「『蓑虫状態でも這って出て行く可能性は捨て切れません。シンの逃亡を助ける可能性のある友人のレイ・ザ・バレルに釘を刺しておきましょう。上官命令で彼にきちんと指示しておくことが肝要です。』・・・ってあるのよね、このマニュアルによると。」 「・・・・・・レイ、決してシンを部屋から出さないように。これは命令よ。」 マニュアルを開き読み上げるフレイ。 タリアはもはや彼女の行動に口を挟むどころか容認しているらしくレイに命令を下す。 漸くシンを落ち着かせて話が出来る状況が出来上がった。 フレイはまずマユが発見された事実を述べた上で状況を話した。 マユはレイのクローゼットの服の山から発見された。 一度は探したはずのクローゼットの中。 そこから発見されたマユに問うと無邪気な少女は笑顔で答えた。 「んっとね。一度探した場所はみんな見なくなるの。 だからマユ最初かくれてたのはベッド下だったけどフレイおねーちゃんがお部屋から出てった時にクローゼットの中に隠れたの〜v ちゃーんとレイの服を少しせんたくかごに入れてマユが入っても服の山が大きくならないようにしたのよv」 と、種明かしをされたフレイは僅か4歳で容積の変化を理解しているコーディネイターの少女に衝撃を受けたものだった。 「何にしてもアンタが余計な入れ知恵したせいであの子はミネルバを降りる機会を逃してしまったわ。 しかし幸いな事にこれから向かうのは中立国であるオーブ。 アスハ代表は積極的にマユのプラント帰国に御協力下さるそうよ。 よって! オーブに入国したらマユは即刻アスハ家に預ける事になります。」 「何でっ!?」 「当たり前でしょ! ミネルバは直ぐに修理が始まるのよ!? クルーの殆どは仕事に駆り出されるし機密だらけのミネルバの中に何時までも民間人を居させるわけには行かないわよ。 それに作業中は子供に気をかける余裕もないからあの子が何かに巻き込まれて怪我しないとも限らないでしょう。 一応各自休暇は設けるけど修理が終わるまでずっと休みを与えられるわけじゃないわ。 ならずっとあの子の世話を見れるのはミネルバ以外の誰か。 そんな人を手配しあの子の滞在場所まで確保出来るツテがあるんだから頼まない手は無いでしょう。」 「冗談じゃない誰があんな奴に!」 「いい加減になさい。 シン、現在ミネルバは緊急事態で発進したとは言えザフト軍としての活動を始めているのよ。 本来その活動に上層部の許可無く民間人を立ち入らせる事など許されないわ。」 シンの反論を抑えたのはタリアだった。 艦長としてこれ以上シンの我侭に付き合っては居られない。 これからがまた大変なのだ。 《この先の事を考えるだけでも頭が痛いのに・・・。》 頭痛を覚え、こめかみを押さえながら彼女は更に言い募る。 「あの子が乗艦したのも偶然と緊急性あっての事。けれどミネルバ艦長としてこれ以上は許すわけにはいきません。 レイ、貴方もシンとマユのやり取りを一部始終見ておきながらそれを止めず報告もしなかった。」 「報告が遅れた事は認めます。」 「なら貴方にも責任があると言う事になるわ。 オーブに入るまでシンとマユの面会を禁じます。 貴方はシンがマユに会いに行かないように監視するように。」 「了解しました。」 「そんな!」 「これは命令です。先程命令違反しないようにと言ったばかりなのにもう忘れたの?」 「・・・・・・・・了解しました。」 軍人としてそうとしか答えられない。 レイは相変わらずの無表情。 けれどシンは・・・悔恨の表情を滲ませていた。 ユニウス・セブン落下は地球に直接的なダメージを与えただけではなく様々な影響を与えていた。 その内の一つが電波障害。 地表にぶつかる事で粉塵を、海に落ちる事で津波や高波だけでなく濃霧を作り上げ電波通信を妨げていた。 当然オーブとの連絡はまだついてはいない。 しかし落下前にミリアリアが連絡を取っていたはず。 滞りなく伝わっているならば問題はないだろうとカガリはタリアと話し合いそのままオーブへ向かうことにした。 オーブまでの航行中は平和そのもの。 タリアはひと時の休憩をと看板への出入りを許可を出した。 すると殆どのクルーはその連絡に沸いた。 考えてみれば当たり前の事、現在プラントにいる殆どのものはプラント生まれのプラント育ち。 プラント内にあるのは生活に欠かせない淡水の湖。 擬似的に波を作り海を再現した施設もあるにはあったが本物の海の雄大さまでは再現できないのが実情だ。 生まれて初めて海を見られると皆シフト交代を待ち望んでいた。 海の風は強い。 強い潮の香りを乗せた風は遮るものが無い為に力が弱まる事無く吹き荒れる。 「風がちょっと強いかな? でも気持ちいーい☆」 生まれて初めて見る海にルナマリアが嬉しそうに両手を広げている。 全身で風を感じようとする友人の様子にシンは僅かに微笑む。 本当ならばマユと一緒に見たかったが今はシンと会ってはいけないからと部屋の中だ。 今頃はフレイが面倒をみているのだろう。 懐かしさで一杯の思いを胸にシンは水平線の向こうへと視線を彷徨わせる。 「懐かしいのか?」 「アスランさん!」 「アレックスだ。」 気分転換の為に看板へ出てきたアスランは苦笑しながら訂正する。 《《《いやだからもうその名前に意味無いから。》》》 最早意味を無くした偽名を名乗るアスランに皆突っ込みを入れそうになるが、どうにか喉元に留めることに成功したらしく誰もが呆れ顔でアスランを見やる。 それに気づいているのかいないのか、アスランはシンの隣に立ち同じく海を眺める。 強い潮風。 シンには懐かしい匂いがする。 島国であるオーブでは海に行く機会も多かった。 休みの日に家族で海に行った事もある。 その度に嗅いだ潮の香り。 だが最後の記憶は辛いものだった。 どんどん強くなる潮の香り。避難の為に家族と共に港へ向かっていた。 だが辿り着く前にあの惨劇が起こったのだ。 樹の焦げる匂いに・・・・・・濃厚な血の香り。 それが自分の家族から発せられるものだと悟った途端にシンは目の前が暗くなった。 潮の香りに混じって自分を取り巻く血の匂い。 発狂しそうなシンを救ったのはマユの声だ。 《マユがいたから俺は俺で居られた。》 シンが辛そうな表情で海を眺める傍らでアスランも感慨深げに風を受け止めていた。 思い出すのはユニウス・セブン落下の真犯人だったテロリスト達の言葉。 父親の言葉を今も支えにしている人たちが居た。 その言葉が正しいのだと主張し惨劇を起こした。 《俺はどうしたらいいんだ。》 パトリック・ザラの息子としてアスランはあの言葉と向き合おうとしていた。 けれどそんな簡単に答えが見つかるならば一時期とは言え大戦の時にキラと対立することも無かったはず。 もやもやした思いを晴らすことが出来ずただ海を見つめるアスランにシンは彼が何を思っているのかを察し、掛ける言葉が見つけられずに視線を逸らす。 そこへ、カガリがやって来た。 「ここに居たのか。」 「カ・・・代表。申し訳ありません。 警護の任にありながら貴女から離れるとは・・・弁解の仕様もありません。」 「気にするな。お前も疲れているだろうし、ここに来たのは私も風に当たりたかっただけだ。 言うのが遅くなったが、よくやってくれた。少しでも被害を抑えることが出来たしお前は精一杯やっただろう?」 「・・・・・・・・・。」 「お前またそうやって悩むとハツカネズミになるぞ。」 「ハツカネズミって・・・。」 カガリが励まそうとしているのは分かる。 それでもテロリスト達の言葉がアスランの脳裏から離れない。 苦悩するその様子にシンは黙っていられなくなり叫んだ。 「気休めを言うな! アンタだってブリッジで見てたんだろう!? あの事件を起こしたのが誰なのかわかっているはずだ。」 「知っているさ。」 「それにあいつ等は言ってたんだ。『パトリック・ザラが取った道こそが唯一正しきものだ』って!」 ざわり シンの言葉に周りに居たクルーがどよめく。 テロリストが同じコーディネイターである事は知ってはいた。 だが彼等の言葉を聞いていたのはブリッジにいた一部の者と通信を受けた一部のMSパイロットのみ。 思わぬ彼等の主張に動揺するのは無理ないこと。 だがカガリは表情を変えることなく答える。 「それも知っている。」 「だったら何でそんな能天気に「よくやった」なんて言えるんだ。」 「それはお前達がどれほど一生懸命だったかを知っているからだ。」 「そんなの当たり前だろ!」 「当たり前・・・・・・と、皆思うのだろうな。 その『当たり前な事』がどれ程大変な事であるかも考えずに。」 「!?」 昔のカガリだったらシンの様に激情をぶつけて終わっていたかもしれない。 『当たり前』という言葉がどれほど重いものなのかをこの2年で思い知ったからこそ悲しまずには居られない。 《中立国だから争いには介入しない。オーブの理念の一つであり『当たり前』の事。 それを守り通す為にお父様達がどれほど努力してきたのかをあの頃の私は知らなかった。》 反発してヘリオポリスに単身で偵察に行ったり、砂漠でレジスタンスの活動に参加したり。 じゃじゃ馬娘のカガリを愛情を持って見守っていてくれた父親の姿はカガリに取って『当たり前』だった。 あの日オーブが侵攻を受け、父親達がカガリ達に希望を託し散ったC.E.71.6.15までは。 《その激情は昔の私のようだ。 けれどその感情のベクトルは・・・。》 思い浮かぶのは赤いセミロングの髪をした少女。 尤も、現在では無く昔の姿だが。 ふっと小さく息を吐きカガリは話を続ける。 「『当たり前』だと言って全ての努力を価値の無いものにしたいのか? 常識だ。当然の事。そう言って権利を主張する者に対して義務を果たす者の数はそれよりも少ない。 たとえ義務だとしてもその想いを無かった事にするな。 世界中の殆どが知らなくてもお前達の頑張りを認めてくれる誰かがいる事を絶対に忘れてはいけない。」 「アンタは何もわかっちゃいない! そんな言葉で納得するわけないだろう!? あの人が・・・可哀想だ!」 「可哀想? お前こそアイツの何を知っている。 アイツに必要なのは同情ではない。」 カガリは知っている。シンの知らないアスランを。 付き合いが長い分だけ同情を寄せることが彼の為にならない事を。 「大戦中、ラクス・クラインはアスラン・ザラに問うた。」 『アスランが信じた戦うものは何ですか? 戴いた勲章ですか。お父様の命令ですか。』 『敵であると言うならば私を撃ちますか。【ザフトのアスラン・ザラ】!』 アイドルとしての姿ばかりが印象強いラクスの辛辣な言葉を知り、皆カガリの言葉に耳を傾ける。 元婚約者として、友人として諭してきたラクスの言葉を再び突きつけられアスランはぎゅっと拳を固める。 「少なくとも・・・【大戦末期のアスラン・ザラ】は己の信念というものを確かに抱いていたと私は思っている。 自分の信じるものと父親の望むものが違う事を知り、それを理解していた。」 そこまで語りカガリは二人に背を向けて艦内への扉に立ち、最後に振り返る。 「必要なのは全てを受け入れ前に進む力だ。」 《そして私も。》 カンカンカン・・・・・ 反響しながら小さくなっていく足音。 彼女が去った事を知りながらもアスランは答える。 「わかっているさ・・・・・・。」 呟くようなその言葉を聞き、レイは僅かに眉根を寄せていた。 ミネルバを受け入れる為、軍港に立ち並ぶはオーブ連合首長国を支える首長達。 推進式も済ませていない新造艦であるはずのミネルバの満身創痍の姿に皆、頭では理解していたものの実際にその様子を目の当たりにして動揺を隠せない。 その中でも特に難しい顔でミネルバを眺める宰相ウナト・エマ・セイランに息子のユウナはにやけた顔で話しかける。 「既に歴戦といった様子ですね。」 「全く・・・襲撃に巻き込まれた結果とは言え、姫も面倒なもので帰国される。」 「仕方がないじゃないですよ、父上。 『キラ』のIDカードを騒ぎで失くしたと例のデータと共に連絡があったじゃないですか。 カガリだって望んでこうなったわけじゃないんですし。」 「・・・・・・・・・。」 事の問題はそんな簡単なものではない。 事情を知っているとは言っても今の地球の混乱を思えばミネルバは英雄であると同時に厄介者でもあるのだ。 その事を本当に理解しているのか? 時々ウナトは思う。何故自分は『あの日』に残されたのかと。 指示通りの港にミネルバを着け、タリア達は港へと降り立った。 ドッグ内には赤紫色の首長服を身に纏った集団が壮年の男性を先頭にタリア達を出迎える。 「ようこそオーブへ。私は宰相を務めますウナト・エマ・セイランです。 そしてこちらが・・・。」 ウナトの言葉を合図に人垣が割れ道が出来る。 その向こうから一人の女性がゆっくりとタリア達の前へと歩み寄ってきた。 南の海のエメラルドグリーンに雪のような白。 二つの色をバランスよく組み合わせたドレスを纏った女性。 むき出しの肩は南の島国であるオーブにしては白く、けれどドレスの色に映える。 そしてドレスに合わせたかのような小鳥のマイクロユニットが彼女の肩に止まり首を傾げていた。 「お出迎えが遅くなり申し訳ありませんでした。 オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハです。 この度はユニウス・セブン破砕にご尽力頂き、感謝致します。」 完璧なオーブの淑女の礼を取る目の前の女性はタリアの知るカガリにそっくりであり違う人間だった。 思わず後ろを振り向くとそこには首長服を纏ったカガリがいる。 「これは・・・!?」 二人のカガリ・ユラ・アスハ。 タリアは勿論副長であるアーサー・トラインは驚きを隠せず上ずった声を上げた。 見比べてみて尚驚く。 同じ金色の髪に褐色の瞳。何よりも顔の造りもそっくりなのだ。 整形技術はあるもののモデルとなった人間と比べれば雰囲気の違いからどこか不自然さを匂わすもの。 だが二人のソレは自然そのものだった。 纏う雰囲気は違う。けれど違和感の無いそっくりな二人。 驚くタリア達をさておいてカガリは進み出てドレス姿の『カガリ』と右手を高く上げて打ち合う。 ぱん! 「ミネルバの事を頼むキラ。」 「お任せ下さいアスハ代表。」 それを切っ掛けに首長達の対応が変わる。 「オーブは大事無いか。」 「少し高波で沿岸部が流されましたが都市部は大丈夫です。代表も良くご無事で。」 首長服を着たカガリにウナトが進み出て答える。 途端に先程まで『オーブにいたカガリ』を囲んでいた首長達は彼女から離れて『ミネルバに乗っていたカガリ』を取り巻いた。 慣れた様子で首長達を制するウナトに首長服姿のカガリが感謝の言葉を掛ける。 「留守の間の采配に感謝するウナト・エマ。」 「いえ、代表もあの状況でよくご連絡下さいました。あのファイルの指示通りにほぼ用意も整えております。 お疲れのところ申し訳ありませんが詳しい事は行政府で。 ・・・早急に議題に挙げたい案件がありまして。」 最後の一言だけ声を潜めるウナトにカガリは頷いて歩き始めた。 すれ違い様にふくよかな身体を屈め恭しく礼を取る女性、乳母のマーナにデータを渡すともうカガリは脇目を振らずドックから出て行った。 「ユウナ、お前はミネルバ修理の指揮をとるんだ。」 「ええ!? でもこれから閣議でしょぉ? 僕抜きでやるっていうのぉ?」 《《《何その微妙な語尾。きもいな〜。》》》 ミネルバクルーは免疫無いがオーブ関係者は慣れているのか威厳も何も無いユウナから目を逸らしている。 「それにヤマト准将がいるんだから彼女にやらせればいいじゃないのぉ。」 「ミネルバはユニウス・セブン破砕に尽力を尽くしてくれた賓客。 代表自身が礼を取れない以上、代理となる人物を立てねばならん。 婚約者であるお前が一番適任だ。補佐は准将とアレックスが就くからここに残るんだ。 アレックス、帰った早々悪いが頼む。今回の件の報告書はまた明日の夜に提出してくれ。」 「分かりました。」 「そっかぁv そおだよねぇ〜vvv」 《《《納得したのかよ、それで。》》》 代表代理に相応しいと言われたとユウナは受け取ったのだろう。 アスランとウナトが確認をしている間もうきうき笑顔で踊っている。 その傍らでドレス姿のカガリの影武者の少女は小さく溜息を吐きお辞儀をしてウナトを見送りながら考えていた。 《これは息子が居なくても閣議を取り仕切る自信があると言う意味か、単に息子が首長として役者不足だと考えているのか・・・どう取るべきなのかな。》 少なくとも本当に代理の為に残したとは思えない。 今優先すべきはミネルバでは無く今後の対応。 既に準備が整っているのであれば部下に任せて良い筈だ。 今のオーブの状況でそこまでミネルバを優遇する必要は無いしタリア達もそれは承知している事は先程の挨拶の時の物腰からも察せられた。 分かっていないのはユウナだけだ。 代表代理と言っても名前だけ。皆、本当の責任者が誰なのかを悟る。 ウナトの姿が完全に消えたのを見届けると少女はタリア達を振り返り金髪の鬘を取り外した。 金色の髪の下から現れたのは深い栗色の髪。顔を伏せ、指先で何か光るものを取り外す仕草をする。 次の瞬間にはカガリと同じ造作の顔をした別の色彩を纏った少女が立っていた。 「改めまして、ようこそオーブへ。 僕の名はキラ・ヤマトです。驚かせてすみませんでした。 なにぶんアーモリー・ワンの会見は極秘でしたので代表はオーブ一般国民の『キラ・ヤマト』として入国されたのです。 襲撃時にIDを落としてしまいこのような入国方法を選ばれました。 事件が事件なだけに代表がミネルバに乗っていたことは出来るだけ伏せて頂きたいと思います。 よろしいですか?」 「影武者・・・・・・。」 何故カガリが正式な入国ルートを選ばなかったのか・・・いや、『選べなかった』のかを説明するキラにタリアは目の前の少女が何の役割を負っているのかを悟る。 対するキラはタリアの呟きを笑って受け流し答える。 「否定はしません。けれど公表されれば貴女方も『オーブ代表を危険に晒した』と謗られるでしょう。 お互いの為にも内密にお願い致します。」 耽々と話を進めるキラ。そこには先程までの『カガリ』は居なかった。 見かけから察するにまだ十代。この若さで准将の地位にあるその理由の一端を感じ、タリアはオーブの底知れない影を見た気がした。 「修理に必要なものはほぼ取り揃えておりますが、何分不明点も多いので追加資材は修理担当のベルネスにお申し付け下さい。」 「詳細についてはまた後に。私から改めてお話しましょう。」 《《《いやもうアンタ良いから。っつーか本当に形だけなんだな。》》》 最後の最後でユウナが補足するように発言するが、格好つけても威厳も何もあったものではない。 それ以前にキラと話している間、存在すら忘れられていたのだ。 《どう考えても厄介払いね・・・。》 ウナトの真意は他にあるかも知れない。 だが表面上見る限り、彼の声ならぬセリフが今更聞こえてきたような気がする。 『お前が居ても邪魔なだけ。』 呆れたように心中で溜息を吐くタリア達だがそれでもユウナは気づかない。 もう放っておこうとキラに向き直りタリアが話を再開しようとした時、それまで大人しくキラの肩に止まっていたトリィが羽ばたいた。 トリィ! 向かうはタリア達よりはるか後方。 「トリィ!? 戻っておいで!」 ざわめく兵士達の声に慌てたキラが呼びかけるが戻ってくる気配は無い。 代わりに後方より人を掻き分けて現れる少女。キラは彼女に目を奪われた。 鮮やかな赤い髪にアッシュ・グレイの瞳。 屈託無く笑う少女はキラにとって憧れの存在で、あの日永遠に失ったはずの存在。 信じられるわけが無い。けれど目の前に立つのは記憶にある人物より少し大人びていて・・・。 「フ・・・レイ・・・。」 知らず知らずの内に声が震える。 先程までタリアと対等に話していたとは思えぬ狼狽振りに周囲は驚くばかり。 息を切らせて笑顔を浮かべるフレイの肩にトリィが舞い降り止まる。 「キラ!」 フレイとキラは終戦から2年近くを経て漸く再会を果たした。 続く 何だか最近話が長めになりつつあります。今のところ前回が最高ですけど。 とりあえずUP! 月曜どころか水曜じゃん・・・。(滝汗) これでは、このままでは本当に間に合わない! そんなわけで自分の尻に火を点けてみようと思う今日この頃。 2006.5.17 SOSOGU |
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