〜見えない紡ぎ糸〜


 ジュール隊の戦艦ボルテールは長期間隊長不在の状態が続いていた。
 副長補佐の女性を迎えに行く為に数日間だけ留守にするはずが何故か偽のラクス・クラインによるシャトルジャック事件に巻き込まれ、意図的でないにしろ事件発覚を遅らせた責任により謹慎を言い渡されていた。
 その間、隊員達は胃の負担が軽くなるはずだったが隊長が居る時の緊張感がクセになっていたのか逆に落ち着かない日々が続き、白い軍服と白金色に輝き流れる髪を見た時にはほっとしたものだった。
 しかし当人であるイザーク・ジュールはそんな彼らの想いなど気付きもせず、真っ直ぐにブリッジに向かい一通りの挨拶を済ませると直ぐに隊長室へと戻ってしまう。
 そんな隊長の後ろ姿に「フレイの安否は?」と呟いてしまうブリッジメンバー達は赤髪の少女の方が気になっていたらしいが・・・そんな事はイザークにはどうでも良い事だった。

 無論、フレイの事をどうでも良いと言うわけではない。
 彼が彼女について隊員達に話さなかったのは彼らを巻き込まない為だった。
 唯一イザークの真意を知るディアッカ・エルスマンがお気楽そうに微笑みながら入ってきたイザークを迎える。

「お疲れイザーク。」

 ソファに座りここ最近緊急特集と銘打って発売された雑誌を片手に持ちながら労わりの声を掛けるディアッカにイザークは軽く溜息を吐いて椅子に腰掛ける。
 直ぐにパソコンを立ち上げ連絡メールのチェックを始めながらイザークは漸くディアッカの声に応えた。

「確かに疲れたが仕方がないと言えば仕方ないな。」
「で? 俺にも教えてくれない?
 ラクス・クラインについて。」

 ディアッカは手にした雑誌を見せ付けるように持ち上げ皮肉気な笑顔を浮かべて問う。
 表紙には『大胆不敵!? ラクス・クラインの偽者現る!!!』と煽り文句と共にディオキア基地の防犯カメラで捉えられた『ラクス』の写真が載っていた。
 そう、彼女の為にイザークはずっと謹慎処分だったのだがイザーク自身は面白そうに笑うだけで怒りの感情は見えない。
 彼の謹慎理由は偽ラクス発覚を遅らせた事。公式に発表された理由であり誰もが知るところである。
 不可抗力にしても周囲への配慮で下された処分をイザークは抗弁することなく受け入れた為に真実として皆受け止めた。
 だが彼が処分に不服を申し立てなかったのはそうする事で少しでも『本物のラクス達』に向かう人数を減らす為だった。
 プライドの高いイザークならば、本当に偽ラクスの為にこんな処分を言い渡されたらいきり立つところだが、彼がそうしなかった事でイザークを知る者の中には不思議に思う者もいたが処分受け入れの時に言った言葉によりその疑問も解消されている。

『本物と偽者を見抜けず部下をむざむざと攫われた落ち度は言い訳しようがありません。
 部下の救出に直ぐに乗り出したいところですが僅かでも疑惑を持たれている私には許されないでしょう。
 謹慎を命じられた以上、彼女が無事である報を待ちたいと思います。』

 部下の命が危ない以上、プライド優先で暴れるわけにはいかない。
 イザークはプライドは高いが部下想いの隊長としても知られていた。
 だから一部の者を除いて彼の言葉を疑う者はいなかった。
 そう、一部の者を除いて。
 イザークが今プラントにいる方が偽者であり、シャトルジャックして逃亡した方が本物であると知っていると推測したギルバートを始めとした彼の協力者はイザークを疑ったのだ。
 そして彼が逃亡した本物と繋がっている可能性を考えた。
 イザークも真実を知るだけに自分に掛かる疑いは十分に予想できた。
 だから敢えて処分を受け入れ自分を監視している影に気付きながらも放置した。
 そうすれば本物のラクスの調査へ割ける人員を減らせると考えて。

《微々たるものだがな・・・。》

 イザークが思っていたほどにはギルバートも疑ってはいなかったらしく自分への監視は想定していたよりも少なかった。逆に気付かない振りをする方が大変なくらいにお粗末な自宅周辺調査をされた事もある。
 これではラクス達への調査の手はあまり減ってはいないだろうと考えながらイザークはディアッカの疑問に答えた。

「別に語るほどのものはないぞ。
 大層動揺していたようだがな。
 寧ろシャトルジャックした方が堂々としていてラクス・クラインらしかったが。」
「結構無茶する子だったからな。」
「エターナル強奪の事か? あれも相当だったな。」

 くくっ

 思い出し笑いが零れる。
 大戦末期の三隻同盟の内の一隻エターナルはフリーダムとジャスティス専用の軍艦として造られた艦だった。国家反逆罪の疑いでプラント中を逃げ回っていたはずのラクス・クラインは大胆にもクライン派の協力によりザフトの軍港へと侵入。最終調整に入っていたエターナルから無関係の軍人を退去させ砲撃によりゲートを破壊し脱出した。
 その情報にザフト中が揺れた様子をイザークは思い出し一頻り笑った。
 イザークの笑い声が途絶えた後、ディアッカは声を潜めて訊く。

「謹慎とは名ばかりの監視・調査は一応終わったのか?」

 ディアッカの言葉に問題ないと右手の人差し指と親指で丸を作り左手ではドアのロックパスを書き換え応える。

「調査の方は終わったらしい。何も出てこなかったがな。
 当たり前だ。俺はずっと彼女と彼女に面なる人間と接触していない上に連絡を取ろうともしていないのだからな。」
「調査はって事は・・・・・・。」
「監視は終わっていない。その内異動してくる奴がいるんじゃないか?
 流石に盗聴機や発信機は外されているがな。」
「わかってて放って置いたのかよ。」

 軍服の襟を引っ張り答えるイザークにディアッカは呆れた顔で言った。
 謹慎させられている間、イザークは自宅に篭りっぱなしだったがその前は全くの無人状態だった。
 生活の殆どがボルテールの隊長室に移されていたイザークだ。プラントの部屋は専門の者であれば侵入し調査する事は容易かっただろう。
 尤も、イザークはそれを予測しており尚且つ僅かに変わった雰囲気から盗聴機を、クローゼットの中にあった服からは発信機を発見していた。
 そして態と機械が付いている服を選んで行動していたのだ。

「下手に食って掛かるより早く監視が緩んでいい。
 流石に何時終わるともわからない厳しい監視は精神的に堪えるからな。」

 不敵そうに微笑み答えるイザークにディアッカは彼の行動の背景を思い軽く息を吐く。

「議長が目的を遂げるまで無くなる事は無い・・・か。
 お前も健気だねぇ。フレイが心配なんだろ。
 微々たる援護にしても無茶するな。」
「実際、ラクス・クラインが本当に何をするつもりなのかは俺にもわからん。
 世界もどう動いているのかまるで見えてこない。
 俺達から見て確かにデュランダル議長は理想的な指導者と言える。
 だが・・・・・・。」
「だが?」
「完璧過ぎると思わないか?」

 イザークの言葉にディアッカは肯定はしないが否定もしない。
 彼自身そう思っていた部分が多いが客観的に見るとイザークの言葉通りに懐疑的に見るのもどうかと思う。。
 『マユ』の処遇が正直気になるところだが・・・。

「そう言えば。」
「何だ?」
「謹慎前に頼まれてた奴、解析結果が出たぜ。」

 ひらひらとディアッカが二枚の栞を示す。
 色はどちらもパステルグリーンで、それぞれにAZ、MAと記載されている。
 一見すると一枚の栞だがよくよく見ると実は二枚の紙が合わさっているのがわかる。
 サンプルとしてイザークとフレイが入手したアスランとマユの髪がその栞の中に封じられていた。
 最初はフレイが持つ予定だったが万が一を考え不自然でない物に髪を保存しようと考えた時に目に付いたのはイザークが持っていた暇つぶし用の本だった。
 栞に忍ばせるならばイザークが持つ方が良いと渡されたのだが今となっては正解と言えるだろう。
 イザークはそのまま本に手紙を忍ばせディアッカに渡し検査を依頼した。
 その結果が出たと言う言葉にイザークの表情がまた真剣なものに変わる。

「メールを検閲される可能性があるかもって言ったら親父が渋々ながらもやってくれたよ。」
「タッド・エルスマン氏自身が解析したのか?」
「今の世界に親父も責任感じてたんだろうな。アスランの親父さんを止められなかった事、悔やんでるんだろうよ。で、こっちが解析結果。」
「・・・・・・ふん。予想通りだな。」

 ディアッカに渡された一枚の紙を見てイザークは目を細める。
 解析結果は遺伝子配列が相似している事を示していた。また其処から考えられる事もきちんと記されている。

「97%以上の確率で間違いなく『マユ』はアスランの子供だ。
 これで物証も挙がった訳だが・・・・・・アスランには俺から連絡するか?」
「そうだな。だがデータ送信はするなよ。何処まで監視が伸びているのか俺も把握し切れてはいないのだからな。」

 昔ならこんな風に同胞を疑う事は無かったのにな・・・。
 呟くイザークにディアッカもまた複雑そうに頷いていた。



 * * *



 っくしゅん!

 可愛らしさを感じさせるくしゃみがエターナルのブリッジ内に響き渡る。
 真っ先に振り返り声を掛けたのはエターナルの司令官であるラクスだった。
 活動しやすい様にいつもは下ろしている髪をポニーテールにして服も黒を基調とした和装に似たデザインの物に着替えている。丈は短くミニスカートの様に見えるが大きく丈の長い羽織に似た上着が彼女の身体を全体的に被い丈の短さを目立たなくさせている。
 これはアークエンジェル内でも着ていたラクスの戦闘服。
 既に英雄ラクス・クラインへと切り替えている彼女だがクルーや友人への気遣いは普段と変わらない。
 涼やかな声で優しくフレイに問いかける。

「あらフレイ、風邪ですか?」
「別に悪寒もないし喉も痛くないし身体もだるくないから・・・多分誰か噂しているのかもね。」
「ここに来るまで強行軍でしたもの。疲れが溜まっているのかもしれませんね。
 今日は特に急ぐ事案も無いようですし念の為に休みますか?
 シフト調整しなくても十分対応出来ますから問題ありませんよ。」
「大丈夫よ。寧ろ私はアンタの方が心配。」
「私・・・ですか?」
「平和の歌姫を心配とは、随分と余裕だね。」

 フレイの戸惑うラクスに代わりバルトフェルドが笑いながら答えた。
 だがフレイは答えずつかつかとバルトフェルドに歩み寄り答えの代わりにでこピンを放つ。

「っつ!?」
「誰も余裕なんて無いわよ。というか、私は誰よりもラクスが一番余裕が無いと思うけど?」
「・・・フレイ?」
「アンタね、平和の歌姫とか四大英雄とか呼ばれて忘れてるでしょ。」

 何のことなのかと不思議そうに首を傾げるラクスにフレイは今度はラクスに迫って答えた。

「アンタ一体今いくつだと思ってるのよ!」
「私は・・・・・・十八ですけど。」
「そう、私と一つしか変わらない花も恥らうお年頃。
 普通だったら学校通ったり仕事したり・・・人によって違うかもしれないけど休みの日には友達とショッピングを楽しんだり遊びに行ったりとにかく青春を謳歌している年齢なのよ。
 にも関わらず戦争に関わって戦いに参加して政治の世界に踏み込んで、本当ならもっと年上の大人達が先導して行うべき事を何でアンタが真っ先に立ち上がってやってるのよ。
 ずっと言ってやりたかった。アンタと話したかった。
 父親の死がきっかけかもしれないけど周りの大人達がだらしないからって無理するのは止めなさい。
 私達に出来る事なんてそんなに多くは無い。
 出来ない時は助けを求めていいの。周りに誰もいないわけじゃないでしょ?」

 ぐっさり

 フレイの言葉に傷つくブリッジ内のクルー達。
 特に副官とも言えるバルトフェルドとダコスタはフレイからの痛い言葉の矢が胸に突き刺さっていた。

「最後のそれはフォローだと思いたいが・・・。」
「痛い突っ込みですね隊長・・・。」
「だらしないって言われるとそうなんだろうが。」
「言い返せない辺り情けないですね。私達。」
「象徴とは言え歌姫に随分負担掛けてたのは事実だからな・・・。」

 二人こそこそと身を寄せ合い肩を叩きあい慰め合う。
 しかしフレイはそんな二人には目もくれずブリッジの中心に座るラクスを見つめていた。
 フレイの言いたい事はわかる。
 わかるけれどとラクスは毅然とした態度で反論した。

「私は無理なんて・・・それにこれは私が選んだ道です。」
「なら、何でオーブに逃げたの?」
「逃げたわけではありません。」
「いいえ、逃げたのよ。」

 ラクスの言葉を制してフレイは断言した。
 その目にははっきりとラクスを非難する光が宿っている。
 フレイの言葉と強い視線にラクスは気圧されるのを感じた。
 ラクスが押し黙ったのを確認するとフレイは言葉を続ける。

「私はずっとプラントにいたから知ってる。
 プラントに住む人々が貴女の存在にどれだけ依存し求めているかを。
 父親の代わりにプラントの為に立ったなら何でプラントに戻らなかったの?
 それは責任放棄じゃないの?
 アンタの留守に偽者が現れたのは?
 勿論用意したデュランダル議長に思うところがないわけじゃないわ。
 けどその隙を作ったのはアンタ自身じゃない。
 自分の名前がプラントにどんな影響を与えるかわかっていたなら何で姿を隠したの?
 国家反逆罪が濡れ衣だって言うなら、ちゃんと皆を納得させられるなら、『ラクス・クライン』の名前から逃げちゃいけなかったのよ!」

 ラクスだけでなく他のメンバーも皆わかっていた。
 クライン前議長の娘として立ったラクスだが既にシーゲル・クラインの名は薄れラクス・クラインの名が一人歩きを始め、プラント国民はアイドルとして出なく彼女自身を求めるようになっていた。
 また暫定的にではあるが議長として立ったアイリーン・カナーバはシーゲル・クラインとは懇意であり、ラクスの活動そのものを上手く情報操作し国家反逆罪が冤罪であると国民に報告してくれただろう。
 だから本当はラクスはプラントに戻った方が良いと言う声もあったのだが、既にプラント臨時最高評議会が機能している事を理由に下手な混乱は避けるべきだとラクスはプラントを去った。
 アスランがオーブへ亡命した事が彼女の選択を後押しした事もあったが今思えばそれは間違いなく逃げだった。
 フレイにはわかった。大きくなり過ぎた名に恐怖するラクスの気持ちが。

《私も多分アルスターの名から逃げられない。》

 これからどんな道を歩もうとフレイはアルスター家の娘という肩書きを外せない。
 ラクスやカガリに比べればちっぽけなものかもしれないがそれでもフレイには重かった。
 昔は父親の庇護の下、何の不安も無い名だったが後ろ盾である父を失い彼女の名と立場を利用しようとする人間が現れ始めその重さと恐ろしさを知った。
 プラントのみならず世界全体に影響を与えるようになった名がどれほどの重さなのか。
 けれどフレイは逃げてはいけない現実も既に知っていた。
 そこから生まれる怒りに任せ、フレイは振り返りブリッジ内にいる全員に叫ぶ。

「アンタ達もよ!
 指導者としてラクスを仰ぐのはアンタ達が決めた事かも知れない。
 だけどラクスの身にもなりなさいよね。
 この子を神様みたいにあがめてれば何とかなるとでも思ってるわけ?
 協力者は正直有難い。だけどね、それを取り纏める役目をラクスだけに押し付けるのは止めなさい。」

 気まずそうに俯くクルーの中、代表するようにバルトフェルドがフレイに抗弁する。

「僕らだってそれなりに対応はしているさ。
 これらのネットワークはラクスだけで出来る事じゃない。」
「だけどラクスの名の下に構成されているそれは間違いないでしょう?」
「・・・・・・否定はしない。」
「それが重かったからラクスはずっと身を隠してたんじゃないの?」

 押し黙ったままのラクスをバルトフェルド達は見つめるが、彼女はフレイの言葉を噛み締めるように瞑目し俯いている。
 僅かに震える肩が必死に耐えていたものが溢れ出すのを堪えているようで誰もが言葉を失った。

「ラクス、私は平和の歌姫と今の世界をどうにかしようとは思わない。
 だけど・・・・・・。」

 すっと右手を差し伸べる。
 その先には中心部に座るラクス。
 差し伸べられたフレイの手は二年前とは違い軍人としての訓練を経て少し硬くなり、綺麗に伸ばし整えられていた爪も実用性優先で小まめに切られている。

「ただの『ラクス』と、同じ志を持つ友達と出来る事があるなら頑張りたい。」

 アークエンジェルで初めて出会った時には振り払われた右手。
 同じ右手でありながら変化した心を表すように変わっている。
 右手と言葉に宿る温かさにくすぐったさを感じラクスは苦笑して応えた。

「あの時とは逆ですね。」
「アンタは振り払わないでしょう?」
「ずっと仲良くしたかったですから。」

 差し伸ばされたラクスの右手がフレイの右手を強く握り締めた。
 エターナルにはキラもカガリもいない。
 アスランもザフトに戻り覚悟を決める時はいつも一人の時だとラクスは思っていた。
 けれど一人ではない。
 目の前にはフレイが、そして周りには自分を支えてくれる仲間がいる。
 手を繋ぐ二人を見守ってくれるクルー達に微笑みラクスはフレイに言った。

「今はまだ時期ではありません。
 デュランダル議長の真意を知るまで私はプラントに戻ることはできません。
 だから今は情報収集を優先したいと思います。
 気になる情報が次々に寄せられてますし正直人手が足りません。
 お手伝い頂けますか、フレイ。」
「私に出来る事ならね。戦えって言われても無理だけど。」

 軍人って言っても前線タイプじゃないからねとウィンクするフレイにラクスは微笑み答える。

「一人の少年が直接私達に会いたいと言っているそうです。
 情報の詳細は会ってから話すと言って聞かないそうなので、少々危険ですがフレイに私の代理人としてプラントに向かって頂きます。」
「オーケー、わかった。」
「資料は用意させます。
 フレイは私たちに拉致されたと公式的には認識されている為、変装して頂く必要がありますのでそれらの打ち合わせについては専門チームがいますから彼らとお願いします。」
「すぐ用意するわ。」

 頷き握り合った手を離しフレイは無重力に任せ出口へと飛ぶ。
 けれどブリッジを出る前に振り返り言った。

「いい? 絶対一回はここにいるメンバーに自分の正直な気持ち話しておきなさいよ!」

 赤いセミロングの髪を靡かせドアの向こうへと消えたフレイを見送りラクスは嬉しそうに微笑み目を閉じた。
 沈黙が再びブリッジを支配する。
 けれど重いものではなく温かく優しい空気が彼女を取り巻いていた。
 バルトフェルドが後ろの司令官席に座るラクスを振り返り問う。

「俺達は頼りなかったのかい?」
「心強い方ばかりですよ。
 ただ・・・・・・。」
「ただ?」
「私が臆病だっただけです。」

 桃色の髪が無重力の空間の中で横に流れる。
 悲しげに微笑むラクスは確かにまだ十代の少女の顔をしていた。



 * * *



 猛烈な吹雪の中、ファントムペインの移動は行われていた。
 ストレッチャーに乗せられたまま移動するステラをスティングは憎々しげな視線を向ける。
 ネオはそんな二人の様子を見て密かに唇を噛み締めた。
 既に二人はアウルを含めた互いの記憶が無い。
 最初は二人からアウルの記憶だけを消去する事も提案されたが、消されたスティングの記憶を元に戻す事が出来ない以上二人の認識にズレが生じ今後の作戦に影響を及ぼすと判断された。
 結果的にとは言え、ネオは部下達から共有の思い出を、絆を全て奪い取った事になる。

《今更後悔しても詮無いことか。》

 ネオの脳裏に蘇るのは燃えるような赤い瞳をした少年。
 敵兵とわかっていながら命がけでステラを救うためにネオに引き渡した彼は言った。

『死なせたくないから帰すんだ。
 だから約束してくれ!
 彼女を・・・戦争とか、MSとか・・・そんな危ない世界から遠い優しい世界に帰すって!!!』

 必死に叫ぶ少年の目には涙が浮かびステラを思う気持ちが痛いほど伝わってきた。
 だからネオは答えた。

《約束・・・ね。》

 約束すると答えたもののネオにそんな権限は無い。
 彼に出来るのは与えられた任務を部下が遂行出来る様、尽力をする事のみ。
 それだけが彼らの未来に繋がる唯一の術だった。
 戦う為だけに育てられ戦う為だけに生かされている。人間でありながら人間として認識されない彼らを慈しむ人間など数えるほどにしかいない。

《俺は・・・何も出来ない。》

 信じてステラを託してくれた少年はあれからどうしただろう?
 通常であるならば恐らくは銃殺刑、良くてザフトからの強制脱退だろう。
 それも、監視付きで。
 もう会う事はないだろう彼が望んだのはステラの幸せだけだった。
 けれど実際はステラを再び戦地に送る事になっている。

《しかも今度は恐怖を撒き散らす殺戮兵器として・・・。》

「ノアローク大佐?」
「あ?」
「あ、じゃないですよ。大丈夫ですかボーっとされて。」

 気がつけばいつの間にか与えられた執務室にいた。
 長い事いる予定はないので調度品も少なく殺風景なそこは自分に相応しいとネオは思う。
 目の前には白衣を纏った研究員が立っており、カルテを片手に報告を再開した。

「ステラ・ルーシェですが、一時は危ない状態にありましたが投薬により薬物バランスを取り戻し今は順調です。
 予定されている作戦には十分間に合うでしょう。」
「記憶処理の方は?」
「こちらも問題ありません。スティング・オークレーも完全にステラを忘れていますしアウルの方も・・・・・・ただ揺り篭の空きが少々気になっていたようではありますが。それはステラも同様です。」
「そうか。俺達はこれ以上ないくらいに彼らから奪っているのに最後の絆すら取られても気付けないなんてな。」
「・・・記憶が無い方が彼らには幸せですよ。
 僕らには彼らを救う力は愚か資格すらないんですから。
 記憶処理は元々エクステンデットの調整の為に必要なものでしたが、もしかしたら研究所も免罪符を求めていたのかもしれませんね。」
「感傷でしかないがな。」

 一言で切り捨てるネオに報告していた研究員は自嘲の笑みを浮かべ話を続ける。

「では本題に移ります。やはりステラ・ルーシェが一番適任です。
 何と言っても効率が良い。彼女のブロックワードが『死』である事が最大の理由かと。」
「『X1デストロイ』か・・・よくもまああんな化け物を作ったと感心するよ。」

 ネオの目の前に表示されるのはMSのデータ。
 表示された縮尺がその巨大さを物語る。
 尚恐ろしいのは大きさではなく、装備されている武器の数々だった。
 恐らく今までに開発された武器の全てを備えているのではないかと言いたくなる程の数にネオも最初は言葉を失ったくらいだ。
 通常はMSの機能バランスの関係上、数も火力も限定されるがこのMSにはそれが無い。
 言うなれば歩く大量殺戮兵器。

「上は何を考えているんでしょうね。僕には理解出来ません。」
「訊いていつもと同じ事を言われるだけさ。」

 研究員の言葉に一息置いてネオは立ち上がる。

「『君たちは命令通り動いていれば良いのです。』ってね。
 作戦開始まで時間が無い。直ぐに準備を始めてくれ。」
「はい。」

 『命令通り』動き始める研究員を見送りネオは自嘲の笑みを浮かべる。
 研究員は気付いていない気づく必要は無い。
 そして彼はネオの言葉に含まれた本当の皮肉にも気付いていない。

《人間扱いされていないのは俺たちも同じなのかもな。》

 言葉に出る事の無いネオの推測に是非を唱えるものはこの基地にはいないのだから。



 * * *



 営倉に入って何日か経った。
 その間にもマユが強請ってもぎ取った面会許可を理由にシン達に会いに来ては寂しそうに去って行く。
 そんな日々の繰り返し。
 だからシンはその日もマユが来たと思い出入り口が開く音と共に飛び起きた。
 しかし予想と違い現れた兵士の姿に身を固くする。
 遂に自分に下される懲罰がはっきりするとシンは拳を握った。

「出ろ。釈放だ。」
「え?」

 驚いている間にも鍵は解除され出入り口が開く。
 見ればレイの方も同様だった。

「上層部からの通達だ。『今回の件は不問に付す。』との事だ。
 命拾いしたな。」
「それは・・・・・・。」

 問いかけてシンは口を噤む。
 兵の目が明らかに今回の処分について納得できないと語っている。
 彼らに訊いたところで答えは出ないだろう。
 営倉から出て通路を行くレイを追いかけシンは問う。

「レイ・・・これって一体。」

 シンとて馬鹿ではない。全くのお咎め無し等ありえないはずだ。
 何よりもそれなりの処罰はあると覚悟していたのだから。
 けれど出た判断は『不問に付す』という異例中の異例。
 有難いが同時に戸惑いが隠せない。

「俺にもわからない。
 だが・・・。」
「だが?」
「上層部にもお前の気持ちをわかってくれる人間がいたんじゃないか?」
「俺の・・・気持ち。」
「助けたかったんだろう? 彼女を。」

 レイの問いに思い浮かぶのは苦しそうに顔をゆがめるステラの姿。
 そんな中でも見舞いに来たシンに気付くと嬉しそうに微笑んでくれた少女を助けたくてシンは動いた。

《そう・・・俺は守りたかった。ステラを、ステラの幸せを。
 それを上層部にいた誰かがわかってくれた?》

 思い浮かぶのはディオキアで会ったデュランダルの姿。
 優しい人だと思った。
 この人についていけば戦争は終わると何処か心の隅で思っていた。
 今、その想いが大きくなっているのを感じシンは力強く頷く。

「ああ!」
「なら、その想いのまま俺達は突き進むのみだ。
 『わかってくれる人』がいるのだからな。
 だが最初にやるべき事がある。」
「マユ! ずっと寂しかっただろうからマユについててやんなきゃ!!」

 トリィトリィ!

 早く早くと急かす様にシンの肩に止まっていたトリィが羽根を羽ばたかせる。
 一人と一匹に促されレイは一瞬キョトンとした顔をし、直ぐに苦笑する。

「・・・・・・そうだな。」

 答えたレイの肩を叩きシンは笑顔を取り戻し部屋へと向かった。



 だが一方、タリアは上層部からの連絡に顔を強張らせていた。
 勿論自分もシンの助命を申し出ていた。
 だがこの処分はありえない。

【拘束したエクステンデットが逃走の末、死亡した事は遺憾であるが、貴艦のこれまでの功績と現在の戦況を鑑み、本件については不問に付す。】

 副長のアーサーも上層部からの『事実を捻じ曲げての処断』に戸惑いを隠せずにいた。
 タリアとて同じだった。

《でもこれじゃ・・・。》

 シンは成長できない。
 部下の浅慮を窘め正しく導いていくのが上に立つ者の役目だ。
 また懲罰は軍規を犯したものだけでなく周りへの牽制や戒めの為にもあるのだ。
 それを事実を捻じ曲げて全て無かった事にすれば組織そのものが瓦解する恐れがある。
 この判断に誰の思惑が絡んでいるのかタリアは気付いていた。

《どういうつもりなのギルバート!》

 思い浮かぶのは何を考えているのかわからない笑みを浮かべるプラント最高評議会議長の姿。
 タリアは唇を噛み締め、モニターに映る文章をもう一度最初から読み直し始める。
 結果が変わる事は無いとわかっていても。



 部屋にいなければ恐らくはリラクゼーションルームかメディカルルーム。
 シンの読みは当たっており其処に求める人物はいた。

「マユ!」
「おにーちゃん!」

 シンの呼びかけに不安そうだった顔が弾けた様に満面の笑顔へと変わりマユはシンへと飛びついた。
 胸に飛び込んできたマユを抱きしめるとふわりと柔らかな髪がシンの頬を擽る。
 丁度休憩時間だったのだろう。ヨウランとヴィーノもほっとした表情でシンとレイを迎える。

「シン! お前マジ心配したんだぞ!!」
「ゴメン、有難う。」

 下手したら二度と会えないかもしれないと心配していた友人達の中、ヴィーノだけが喜びを隠そうとしない。だが、他のメンバーは何処か複雑そうだった。
 特にルナマリアとアスランの表情は苦い。
 眉間に皺を寄せたアスランに気付いたのか、シンはマユを抱きしめたままアスランに向かう。

「ご心配お掛けしました。
 でも・・・司令部にも俺の気持ちわかってくれる人がいたみたいですね。」

 どんな理由でこんな判断になったのかアスランにも分からない。
 だが今度の事でマユをミネルバから降ろせると思っていたアスランとしては信じられない事だった。
 シンはマユを放そうとはしないだろう。この先もずっとミネルバに留める。

《くそっ!》

 やり場の無い怒りを抱えるアスランをアビーも複雑そうに見つめていた。



 * * *



 ユーラシア中央に突如進行した地球軍。
 瞬く間に三都市が落とされた報が世界中に駆け巡る中、まだその情報を知らないキラはメディカルルームにいた。
 あれからアウルの容態は少しずつ悪化しており苦しみ始めていた。

 う・・・うぁ・・・・・・

 時々うなされる様に声を上げるアウルにキラはドクターに訊ねる。

「先生、アウルの容態は!?」
「見ての通りあまり芳しくないな。」
「まだマシな方だ。これからドンドン体内の薬物バランスが崩れて苦しむ事になる。」

 何処から調達したのかザフトレッドの軍服を纏ったハイネの言葉にキラは批難するような目を向けたがハイネは肩を竦めてやり過ごす。
 無論彼のせいではないとわかっている。
 けれど・・・

「かあ・・・さん・・・・・・。」

 アウルはうわ言と共に弱々しく手を上げて誰かを求める様に彷徨わせる。
 その手を両手で握り締める。
 キラに出来るのは手を握り優しく語りかける事だけ。

「ここに、ここにいるよアウル。
 だから心配しないで。」

 声を掛けながらも何処か虚しい。
 アウルが真に求める母親はハイネの情報からすれば既に死亡している。
 嘘を吐いていると自身の言葉がキラの胸を締め付けた。

「この状況だけでも打開出来るのは・・・・・・データを入手するしかないか。」

 ハイネの言うデータが本当にアウル向けに作成されたものであればそれを基に治療薬を精製して投与する事はアークエンジェルの設備でも出来るかもしれない。
 けれど問題は治療薬が完成していない事。
 また薬の材料がどんなものなのかわからない以上、手に入れられないものであった場合は無駄になってしまう。
 それでも、希望が全く無いわけではない。
 やはり危険を冒してでもとキラが考え始めた時だった。

【キラ、ハイネ!】

 突如ブリッジから通信が強制的に開かれカガリの声が響き渡る。
 驚き通信モニターへ振り向く二人の目には焦った様子で叫ぶカガリの姿が映っていた。

【これよりアークエンジェルはベルリンに向かう!】
「何があったの!?」
【地球軍が・・・連合脱退を宣言した都市に侵攻したんだ。もう三都市も落とされた。】

 !

 三都市、それだけの数の都市が落とされる間に情報がターミナルにも全く届かなかった事も問題だった。
 通常一都市が落とされる事態になれば直ぐに情報は駆け巡る。
 つまり情報を届けるだけの余裕がなく、尚且つ通常では考えられないスピードで都市が潰された事を意味する。

「そんな馬鹿な。早過ぎる! ザフトの駐留軍もいるはずだろう!!
 いや・・・情報が遅かったのか?」
【信じられないスピードで落とされたんだ。駐留軍も・・・全滅したらしい。】

 くっ

 カガリの答えにハイネが悔しそうに歯を食い縛る。
 同胞が、自分が強いと知る自国の軍が敵わなかった相手に対する悔しさと僅かな恐怖。
 だがカガリはハイネを思いやる時間すら惜しいと話を続けた。

【これがターミナルから回ってきた映像だ。出すぞ。】

 次の瞬間映った映像は火の海と化した都市の姿だった。
 元々はかなり栄えた都市だったと窺い知れるが、繁栄を象徴するビル群は全て薙ぎ払われ瓦礫の山になっている。
 その上に多くの人々が焼け焦げ倒れ付す中、瓦礫から手や足など身体の一部のみが見えその下に既に息絶えた人が埋まっている事も察せられた。
 アングルが変わり空を舞うMSが見える。
 連合のウィンダムが飛び交う中、黒い大きな物体が見えた。
 まるで傘を被っている様に見えるそれは恐らくは巨大なMA。
 当然、今までのデータではこんな巨大な兵器が地上に現れた事は無い。

「こん・・・な・・・・・・ことって・・・・・・・・・・。」
「奴ら何故こんな無茶な事を!
 こんな事しでかせば国際的非難を浴びて同盟そのものが瓦解するぞっ!!?
 恐怖で支配するにしてもやり方が強引過ぎる。」
【そう、これでは何も残らない。
 まるで全てを焼き尽くす勢いで奴らはまだ進攻を続けているんだ。
 これを止めなくてはいけない。ザフトも増援を出しているがその端から返り討ちにあっている状態だ。
 もう連合とかプラントとかどうでもいい。誰でもいいから止めないと!】

 最後には叫ぶカガリは拳を握り怒りに身体を震わせていた。
 オーブの代表としてではなく一人の人間としてこの状況をどうにかしたいと体中で叫ぶ姉に応え様とし、ふと、キラは気付く。
 先程のカガリの言葉の中に、目の前で苦しむ少年を救う鍵が現れる可能性を見出して。

「ザフトも増援を出しているって事は・・・。」

 キラの呟きにハイネが瞠目する。
 言葉の意味に気付き真っ先に答えたのも彼だった。

「位置的に近いミネルバも来る可能性はあるな。
 だがMSの殆どを失った状態で本当に来るかどうかはわからない。」
「でも、出てくるかもしれない。問題は・・・僕がフリーダムで出なくてはいけないからハッキングに集中できないって事。ある程度補助プログラムを組んで誰かに頼む事は出来るけど・・・技術的な面でどうしてもある程度のデータ処理技術を持っている人間でないと無理だ。」

 ハッキングの達人といっても戦いながらでは話は別。
 しかし仮にもザフトの最新鋭の戦艦ミネルバにハッキングするのだからそう簡単には事は運べないだろう。
 何よりも人手不足のアークエンジェルにそれだけの技術と技能を持ち暇な人間などいるはずもない。
 一人だけ除いて。
 MSはフリーダム以外はオーブのムラサメとカガリのストライク・ルージュ。
 それぞれにパイロットがいる以上、客人状態のハイネには乗る資格が無かった。

「となるとやっぱ俺か。
 ミネルバへの通信コードを知り、データ処理技術もフェイスという事で一定のレベルはクリアしている。
 キラが組んだ補助プログラムを熟知すれば可能だろう。」
「時間も無いから直ぐに取り掛からないと。
 フリーダムの整備もあるし僕、先に行くね!」

 言って直ぐにメディカルルームを飛び出すキラを見送りはハイネは嘆息する。

「助けを呼ぶ声あれば何処へでもってか。
 まるで正義の味方だな、アークエンジェルは。」

 皮肉気に笑いながら言うハイネにカガリはさらりと受け流し答えた。

【そうか? 私にはミネルバの方がよほど正義の味方らしいと思うがな。】
「・・・・・・・。」
【ん? どうした??】
「あ、いや・・・何でもない。」

 一瞬考え込む様に沈黙したハイネに不思議そうに思いながらもカガリは話を続ける。

【とにかくアークエンジェルはこれからベルリンへ向かう。
 奴らの進路からして次に狙われるのは間違いなく其処だ。
 ザフトも同じ読みらしく防衛線を張ろうとベルリンへ集結しているそうだ。
 ハイネ、わかっているだろうがアークエンジェルの主力MSはフリーダムのみだ。
 お前にも色々頼む事になるだろう。打ち合わせがしたいからブリッジに来てくれ。】
「・・・わかった。」

 真っ黒になったモニターを見つめハイネは考える。
 先程のカガリの言葉を聞いた瞬間、何故自分が『あんな考え』に至ったかわからず戸惑っていた。

《突拍子もない考えだ。確たる証拠もないし憶測の域を出ない。
 だが・・・そう考えれば全てが繋がってしまう気がする。
 これまでの議長の行動の説明がついてしまう。
 いや、そもそも何で議長がそんなことをする必要があるんだ。
 仮にも一国を預かる人間が何故そんな愚かしい行動を・・・ありえない。
 そもそも行動の起源はなんだ? そしてその先にある目的は?》

 確かに見えかけた糸が掴みかけて闇に解ける感覚にハイネは不安を覚えていた。
 彼がキラ達に話した事は全て真実だが一つだけ話していないことがある。

 ハイネはザフトを裏切る気は全くない。

 だからアークエンジェル側からのザフトを見ながら、同時にアークエンジェルの行動理念を探り協力者を洗い出したらその全てを持って戻る気でいた。
 しかし今、彼の心は揺らいでいた。
 良心によるものではなく・・・フェイスとして、プラントの未来を憂える者として、世界の未来を想う者としてのハイネ・ヴェステンフルスは迷いを感じていた。
 傍らに視線を向ければ、悲しそうな表情を浮かべ魘されているアウルが横たわっている。

《本気で・・・ザフトが、ミネルバが世界から見てどう映るのかを調べてみる必要があるかもしれない。》

 杞憂であれば良い。
 けれど・・・・・・そう言い切るには何故かマユの笑顔がちらついて出来なかった。
 ブリッジに向かうためハイネはベッドサイドから離れメディカルルームから出て行った。
 シンとなったメディカルルーム。薬の調合のために部屋を出ていたドクターもおらずいるのはアウル一人。
 一筋の涙がアウルの頬を辿り枕へと吸い込まれる。

「泣くな・・・ステラ・・・・・・怖いものなんて・・・ない・・・・・・から。」

 ドクターが薬を持ってやってくるこの僅かな間に、アウルが呟いた言葉を聞くものはいなかった。


 続く


 ハイネ何かの糸口に気付きました的なお話。
 ささっとトンズラこくはずだったんですけどね〜。
 彼にはやはりアークエンジェルに居てもらった方がと思いまして。
 ・・・・・・・・・・・格好良いハイネ書きたかったんですよ。(←本音)

 2007.7.16 SOSOGU

 (2007.9.9 UP)

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