〜やっと会えた 後編〜 「何だ・・・お前はぁあっ!!!」 再び飛び来るフリーダムにステラは再び攻撃を仕掛けようとする。 けれどまた避けられ苛立ちを隠せない彼女の耳に飛び込んできたのはネオから通信だった。 【気をつけろステラ! そいつはフリーダムだ。手強いぞ!!】 「何だろうと私はっ!」 【ちっ!】 二人が会話する間にフリーダムは飛び退り代わりに砲撃が向かってくる。 アークエンジェルからのゴットフリートによる砲撃。 軌道にいたネオが飛び退るとネオを庇うようにステラのデストロイが前に進み出て砲撃を陽電子リフレクターで弾く姿に皆驚愕した。 だが驚く間にネオのウィンダムがフリーダムへと向かう。 「やらせはせん!」 「!?」 銃弾の嵐を避けながらも再びデストロイに砲撃を行うが全て弾かれる。 フリーダムが注意を引いている間にシンのインパルスがデストロイに迫る。 砲撃ではなく直接ビームサーベルでの攻撃。データを見る限りでは確実な攻撃方法はリフレクターが展開される前に懐に飛び込んで行う直接攻撃だとわかっていた。 一度はコクピット近く切りつけダメージを与えるが怯えたステラの無差別の砲撃に阻まれ一旦距離を置かざるを得なくなり、インパルスは砲撃を避けながら少し離れた空を飛びながら再びデストロイの全容を見た。 「何だよこの化け物は・・・。」 周りを見えれば今のデストロイの攻撃で瓦礫となった街の姿。 操縦桿を握る手に自然と力が篭る。 「どうしてこんな事を・・・・! そんなに殺したいのかぁああ!!!」 再びデストロイに迫ろうとするインパルス。 確実に縮まっていく距離に焦ったネオのウィンダムが態と狙いを外しながらビームを撃ってインパルスを制止しそのまま体当たりで押し止める。 【やめろ坊主っ!】 「くそ! 何をっ!?」 【あれに乗っているのはステラだぞ!!!】 「!」 直接接触による通信。 聞き覚えのある声にシンは驚愕する。 《まさか・・・そんな・・・。》 改めてデストロイを見る。 先程出る前にミネルバに見せられたデストロイのデータ。 そして自分が切りつけた箇所。 モニターを操作しクローズアップさせると自分が切ったところからコクピットの中が直接確認できる。 灰色一色のコクピットの中、不似合いなピンク色のパイロットスーツに身を包んだステラが見えた。 《!》 怯えて涙を流しながらも操縦桿を握る少女。 シンは攻撃を止めデストロイを呆然と見つめた。 動きを止めたインパルスにミネルバが気付きブリッジやリラクゼーションルームに集まっていたアスラン達がざわめいていた。 「シン!」 「どうしたの? どこかやられた??」 インパルスの異変にモニターに向かいアスランとルナマリアが叫ぶ。 けれど応えはなくこの場から動く事も出来ない自分達に苛立ちが募る。 そこへアビーがマユを抱き上げたまま入ってきた。 戦闘の様子を全く知らないのか、アスラン達の様子と部屋の中の雰囲気から異変があったと察しアビーはヨウランに問いかける。 「何かあったの?」 「アビー!? 今まで何処にいたんだ。」 「マユちゃんのお昼寝に付き添ってたの。 最近はバタバタしてて疲れを溜めてたみたいだから。 シンが騒ぐだろうからベルリンに近くなったら直ぐに起こすつもりだったんだけどマユちゃん中々起きれなくて。」 「そう言えばシンもマユが寝ているのならと珍しく出撃前に会うのを控えたな。」 レイがアビーをフォローするように答えると皆が騒いでいるせいか、まだ目がトロンとしていたマユが目を擦りながら言った。 「ねむーい。」 「やっぱり、まだ寝かせてた方が良かったかしら。 マユちゃんお部屋に戻る?」 「・・・・・・おにーちゃんは?」 首を巡らし真っ先に探すのは兄のシンの姿。 けれど見慣れた黒髪が見当たらず不満げな様子で頬を膨らませるマユにヴィーノが躊躇いながらも説明した。 「シンは・・・今インパルスで例のデカイMSと戦ってる。」 「MS? あの巨大なMAと思われていたのはMSだったの!?」 「おにーちゃん・・・。」 『戦っている』との言葉にマユはまだ重そうな瞼を必死に支えながらモニターを見た。 映っているのはインパルスが攻撃を止め無防備に飛んでいる姿。 デストロイも攻撃を一時止め戦場には微妙な空気が流れ始めていた。 「ステラ・・・。」 怯えるステラを助けたい。 シンを支配するのはその思いだけだった。 ネオが約束を破ったとかそんな事は今はどうでもいい。 ステラが怯えて泣いている。その事実が何よりも大事だった。 事実、助けを求める様にステラは泣きながらデストロイを一歩前に進ませた。 誰かの名を呼びながら。 「ネオ・・・!」 涙を流しステラはインパルスの傍らに居るウィンダムを求める。 だがデストロイが突如止まり無防備になった瞬間を『何も知らないキラ』が逃すはずもなかった。 陽電子リフレクターも解除したままのデストロイに向けてクスィフィアス・レール砲を発射する。 まともに攻撃を受け、先程インパルスにより切り裂かれたデストロイのコクピット内は煙が充満しエラー音が木魂した。 バランスを崩し始めるデストロイを呆然と見つめるシン。 彼には目の前の現実を直ぐに認識できなかった。 【何をやっている! 的になりたいのか!?】 どこかで聞いたような気がする声がインパルスの通信機から響いた。 多分国際救難チャンネルか何かを使ったのだろう。 だが誰の声であるかなどどうでも良かった。 どう動いたらいいのかわからない。わからなかった。 「ネオ・・・・怖い・・・怖いよぉ・・・。」 怯えるステラは動きを止めたまま。 デストロイの様子からステラの異変に気付いたネオはフリーダムを止めようとビームライフルを撃つがあっさり避けられる。 だがそれは初めから牽制の為。隠し持っていたクナイ状の武器を投げつけシールドを破壊した。 それでもフリーダムの攻勢は変わらない。手強い敵だと思いながらネオは少しでもデストロイからフリーダムを遠ざけ様とライフルを撃ち続けた。 【マリューさん、こちらを頼みます!】 「え?」 突如入った通信にマリューは戸惑った。 次の瞬間、フリーダムはバランスを崩したかの様に見せかけウィンダムとのすれ違いざまにビームライフルで下からネオのウィンダムの腕ごと飛行ユニットを撃ち落とす。 「なに!?」 警告音がコクピット内に響くがどうにもならずウィンダムは落ちていった。 その様子にキラの言葉の意味を察するが戦艦であるアークエンジェルは小回りが利かない。 とにかく状況を確認しなくてはとモニターに映る映像を拡大し落ちたウィンダムを見た。 爆発する前に放り出されたのだろう。パイロットがうつ伏せで倒れているのが見える。 !? マリューはパイロットの後姿を見た時に衝撃を受けた。 二年前によく似た後姿をした男がいた。 《まさか・・・そんな事あるはずが。》 見たところ大きな怪我は無いようだが直ぐに診る必要がある。 だが助けに行きたくとも動けるMSはフリーダムだけである為に迷うマリューにカガリが声を掛けた。 「私が行こう。ストライク・ルージュを準備してくれ。」 「カガリさん! まだ敵を倒していないのに危ないわ。」 「大丈夫だ。これくらい。 この辺は戦闘が落ち着いているしモニターをよく見ろ。 少し離れたところ、瓦礫の影に人影が見える。 避難出来なかった民間人かもしれないし急がなくては。」 カガリの指摘通り映像の縮尺を変えると瓦礫の影に何か動く影が見える。 これ以上この場に留まれば奇跡的に助かった命もまた危うくなる。 ならばと許可しようとした矢先にハイネがマリューの言葉を遮った。 「いや、俺が行こう。」 「ハイネ!?」 「データは確認してメディカルルームに送った。 俺に出来る事はもうないからな。 悪いが空いているムラサメはあるか?」 ハイネが申し出たのは何もやる事がないからではない。 ここでカガリが出ればストライク・ルージュに助けられたと人々が記憶するだろう。 ミネルバとの通信の事もある以上、これ以上彼女をこの戦いに関わらせるわけにはいかない。 ハイネの目を見て彼の気遣いを察しながらも複雑な心境でマリューは溜息を吐く。 「バルトフェルド隊長専用のムラサメならあるわ。」 「砂漠の虎のか・・・直ぐに行く。」 複雑な心境なのはハイネも一緒。 元ザフトの英雄でありながらザフトを離れた英雄専用の機体。 それに乗れば更にザフトが遠くなる。 『ザフトを裏切るつもりの無い』ハイネにとって皮肉な機体へと向かう為、彼は席を立った。 今まで見た事がない相手に押されスティングが焦る中、それは起こった。 フリーダムにより撃墜されるネオのウィンダム。 上官を上官として見ていなくても指揮官とは認識しているスティングは動揺した。 一人戦っても良いがスティングは『そういう風に育てられて』はいなかった。 「ネオが・・・くそっ! ボナパルト!! 一時離脱する!!!」 部隊を指揮するネオのウィンダムが落とされ数を減らした友軍機の残存数を確認しスティングが叫ぶがその僅かの間に出来た隙を対峙していたラスティが見逃すはずがなかった。 時間を稼ぐために距離を取ろうとするカオスに迫りツインソードを振り上げる。 「余所見して勝てると思っているのか!? 悪いが俺はフリーダムみたいな余裕のある戦い方は出来ない。怨むなよ!」 カオスのコクピット目指し一気にバーニアを噴かすオレンジのウィンダム。 はぁあああ―――っ!!! 後は振り上げた剣を振り下ろすだけ。 けれどどうしてだろう。 敵を倒そうと思ったのに。 コクピットごと真っ二つにしてやろう思ったのに。 不意に耳に蘇る声があった。 『ラスティにもコンサートチケット送りますね。 ・・・寝ちゃダメですよ?』 少年特有のソプラノの声。 まだ声変わり前だと言っていた年下の同期生。 鮮やかな緑色の髪がふわふわとして触ると心地よさが伝わってきて、彼が笑うと戦争中だと言うのに何だか心が安らぎポカポカとした。 《何で・・・・・・今ニコルの言葉を思いだすんだ。》 「くっそぉおおっ!!!」 振り翳したソードの軌道を変え背についた飛行ユニットごと大型ビーム砲を切り落とす。 飛行能力を失い落ちてゆくカオスを助ける友軍機はない。 けれどカオスのパイロットが生きて逃げ延びる可能性もなくはない。 それでもラスティにはカオスを追う事は出来なかった。 「ネオ・・・ネオ―――っ!!!」 撃墜されたウィンダムを見たステラの精神は限界だった。 ずっと自分を守ってくれた人がいなくなった。 助けてくれる人がいなくなった。 思い出すのは出撃前にネオがステラに言い聞かせた言葉。 『やっつけないと・・・・・・でないと、怖いものが私達を。』 死 ステラの脳裏に浮かんだ言葉が更にステラを追い詰める。 いやぁあああ―――っ!!! ステラの悲鳴に連動するようにデストロイの胸部にあるエネルギー砲スキュラが光った。 発射されるビームが僅かに残っていた建物を薙ぎ払う。 【止めるんだステラ! 大丈夫だ落ち着いて!! ステラ―――っ!!!】 正気を取り戻したシンが必死に呼びかけを再開するが取り乱したステラには届かない。 再び動き始めたデストロイにキラのフリーダムが暴走を止めようと切りかかる。 けれど陽電子リフレクターに阻まれ弾かれた。 リフレクター解除と同時に発射されたビーム砲の嵐にフリーダムが距離を取ると漸くシンのインパルスも動き出した。 フリーダムに向かって。 【お前もぉおっ!!! 何も知らないくせに! あれは・・・・・・あれはっ!!】 《泣いているステラなのにっ!!!》 まるで追い立てるようにフリーダムにビームサーベルを振りかぶるインパルスにミネルバでは戸惑いが広がっていた。 その中で一人だけ戸惑いとは違う喜色の笑みと悲しみの涙を浮かべる者がいた。 柔らかな頬に一筋の涙。悲しみのための涙かと思ったが何処かほっとした嬉しそうな顔にアビーは問う。 「マユちゃんどうしたの?」 「・・・ママ。」 「え?」 「あれ、ママなの。」 アビーに抱き上げられたままのマユが指差す先にあるのは大型モニター。 映るのはデストロイと戦うフリーダムの姿だった。 縮尺からして人間の姿が映っているようには見えない。 アビーはマユの言葉の意味が判らず首を傾げて「何処?」とまた問いかけた。 すると二人の様子に気付いたアスランがアビーの隣に立ちマユに言った。 「マユどうしたんだ?」 「あおいおハネはママなの。そう言ったの! でも何で? 何でおにーちゃんはママにイジワルするの??」 「マユちゃん何言って・・・まだ寝ぼけてる?」 「ちがうもん! あれはママ、ママなの!!! ママやっとマユにあいに来てくれたの。」 違う違うと首を振り力説するマユにアスランは衝撃を受けた。 《まさか・・・マユは覚えているのか!?》 キラがフリーダムに乗り始めたのはオペレーション・スピットブレイクによりアラスカが襲われた時。 当然当時はフリーダムのパイロットがキラだと知っていたのはキラにフリーダムを託したラクスとそれをラクスから告げられたアスラン。そしてアークエンジェルの面々だった。 オーブの行政府がそれを知ったのはアークエンジェルがオーブに身を寄せてからであり、キラの両親であるヤマト夫妻もそれ以降のはず。二つだったマユがフリーダムのパイロットが誰かを知らされるとしたらそれはヤマト夫妻以外考え難い。 カガリはマユの存在を知らなかったしウズミが知っていたとしてもあの状況で子どもにそんな事を話す訳がない。 「まさか・・・小母さんが。」 アスランの呟きとマユの言動にレイは気付いたらしく三人を見つめ眉を顰める。 険しい顔でマユとアスランを見つめるレイにアビーは気付きながらも気付いていない振りをした。 何故かはわからない。けれどそうした方が良いと感じた。 幸いと言うべきか他のクルーは皆シンの様子に気を取られていて部屋の一角で起こった異変に気付いていない。 アビーは小さく息を吐きズシリと心に掛かる重荷を感じていた。 フリーダムを押し退けるとシンは怯えるステラを落ち着かせようとインパルスのビームサーベルを収め必死に呼びかけ始めた。 無防備にデストロイに近づいて行くインパルスにキラは訳も分からぬままただ見守るしかない。 何よりもシンがこうまでデストロイへの攻撃をやめさせようとする理由が気になった。 《マユ・・・じゃない。シンは一体誰を守ろうとしているんだ?》 見る限りでは彼の行動は無茶苦茶ながらもデストロイ守る行動だった。 ザフトの被った被害とミネルバの様子を見る限りではインパルスのそれは明らかにシンの独断行動。 シンがどれだけマユを大切にしているかはハイネからも伝え聞いている。 同時に捕虜としたエクステンデットの少女の事にも気にかけていたとも。 キラが知る限り彼女以外にシンに連合との接点は思い当たらない。 《いや・・・・・・エクステンデットそのものが接点なら。 あんな滅茶苦茶な機体を操れるのは恐らくエクステンデットだけ。 ならばシンは彼らを守ろうとしている?》 だがキラは改めて滅茶苦茶になった都市を見て首を振った。 エクステンデットは確かに被害者かもしれない。 けれど彼らが操るデストロイにより失われた命は十万単位に上っている。 そして尚も奪われようとしている命を彼らを助けるために諦めろと言われて諦められる訳がない。 何よりもシンには死んでもらっては困る。 《マユを・・・あの子を守れるのは君なんだ。シン!》 この状況でデストロイが再び攻撃に転じれば真っ先にインパルスがやられてしまう。 直ぐにでもフォローが出来る様にキラはシンに気付かれないようにそっと距離を測りながらデストロイへの攻撃が出来るように移動を始めた。 【ステラ! 大丈夫だステラ!!】 シンが叫ぶ間にもステラは怯えてインパルスに向け指先のスプリットビームガンを撃ち続けた。 それでもシールドすら構えることなくインパルスはデストロイに近づいて行く。 見ている誰もが何時インパルスが撃ち落されるかと焦る中、シンだけが絶対の確信を持ってステラに呼びかけ続けた。 【君は死なない!】 シンの言葉が初めてステラの胸に響いた。 一瞬涙が止まる。 【君は俺が・・・俺が守るから!!!】 初めてだった。ステラに守るという言葉を教えてくれた少年はシンが初めてだった。 ネオは怖いものをやっつけないといけないと言った。 スティングもアウルも負けてはいけないと言った。 だけど誰一人ステラを守ってくれると言ってくれる者はいなかった。 幼い心のまま研究所で戦闘能力だけを求められ記憶も操作され生きてきたステラはただ死に怯えていた。 死にたくなければ戦うしかない。 守ってくれる人などいなかった。 だけど今、初めて自分の怯えを理解し守ると言ってくれた人がいた。 「シ・・・ン・・・・・・。」 腕を下ろし再び無防備になるデストロイに戦場には戸惑いの空気が漂った。 けれどステラにはどうでも良かった。 手を伸ばせば優しい少年に手が届きそうな気がする。 心を飛ばせば彼は抱き締めてくれるだろうか。 《シンは・・・・・ステラを守るって言ってくれた。だから!》 ステラの心が解れたその瞬間、破損したコクピットの一部が小規模の爆発を起した。 モニターのガラスが割れる音で目の前の現実に戻ったステラはコクピットの亀裂から見える外を見た。 空中で止まっているのはシンの乗るインパルス。だが、その背後に様子を伺うように飛んできたフリーダムを見た瞬間恐怖が戻って来た。 脳裏に蘇るのはフリーダムに落とされたネオのウィンダムの姿。 地上に落ち爆発したウィンダムが象徴するのは『死』。 再び恐慌状態に陥ったステラの胸に蘇るのはブロックワードと共に語ったネオの言葉。 『でないと・・・コワイモノが皆・・・・・・ステラも。 私達を・・・殺す。』 「あ・・・ぁあああああ・・・・・・。」 体中に突き刺さった破片によって負った傷がジクジクと痛み始めた。 《痛い・・・怖い・・・・・・・あれは・・・・・・・・コワイモノ・・・!》 いやぁあああああっ!!! 再び動き始めたデストロイにミネルバは騒然となった。 シンが何故フリーダムの邪魔をしたかはわからない。 その後暫くして一度は動きを止めインパルスへの攻撃を止めたデストロイに投降の可能性を考え沈黙を守り続けていたが此処に来てまた動き出したという事実にタリアは唇を噛み締めた。 《シンが説得か何かしたにしても失敗したと見て間違いないでしょう。 もう今しかアレを倒すチャンスはない!》 決断したタリアの声が響いた。 「トリスタン照準。 目標、敵巨大MSデストロイ! メイリン、シンに射線上から撤退するように伝えて!!」 「はい! シン、聞こえる!? これからトリスタンによる攻撃を行うから射線上から離れて!! シン返事は!? シン!! シンッ!!!」 メイリンが必死にインカムに叫び続けるが応えはない。 状況が分からない中、最悪の可能性をばかりが頭を駆け巡りメイリンは悲痛な叫びを続けた。 ミネルバからの通信の声はもうシンには聞こえていなかった。 先程の呼びかけの中、一度だけステラの心が自分を取り巻いたような気がした。 確かに感じた温かな空気は少女の理解。シンがステラを傷つけないと分かってくれた証。 《ステラはわかってくれた。なのに何故!?》 このままではまた皆がステラを攻撃する。 デストロイを倒せばステラは死ぬ。 シンにはそんな事を許容する事は絶対に出来なかった。 「ステラ―――っ!!!」 シンの必死の呼びかけも虚しくデストロイの胸部が光り始める。 スキュラが放たれる寸前、動いたのはフリーダムだった。 一気にデストロイの前に躍り出て正確に中央の発射口にビームサーベルを差込みエネルギーの出口を塞ぐ。 残った発射口も手持ちの武器で塞ぐとフリーダムは直ぐに飛び退った。 ラスティから齎された設計データの一部を見ていたキラはそれ以上デストロイが動く事はないとわかっていた。 ゴテゴテに武装したデストロイは火薬庫のようなもの。 ボディから切り外せない武器の殆どは動力部に繋がっており胸部のスキュラはエンジンの間近に設置されていた。 主要な武器を大爆発させてしまえば致命的なダメージによりデストロイは倒れる。 同時にコクピットにいるパイロットが無事ではすまない事もキラは理解していた。 エクステンデットを助けようとしていたシンに怨まれる事も。 《だけどゴメン・・・・・・譲れないんだ。》 エネルギーの行き場を失い爆発を起こし倒れて行くデストロイにシンが悲鳴を上げているだろうと予測できていても、キラにはそれ以外選べる道はなかった。 【キラ・・・・・・他の連合の機体も撤退を始めている。 アークエンジェルに戻るぞ。】 振り返ればバルトフェルド専用機のムラサメがフリーダムを労わるように肩に手をかけている。 キラからの通信の後、保護した民間人をカオスを倒したラスティのウィンダムに預けたハイネは捕虜とした連合の指揮官と思われるウィンダムのパイロットを乗せてアークエンジェルに帰還するところだった。 けれど動こうとしないフリーダムに何か感じるものがあったのか態々引き返して来たのだ。 キラは言葉にしなくてもハイネの気遣いを察し、頷き返してアークエンジェルへと向かい飛び立った。 デストロイの瓦礫の中、シンはコクピットから動けないままだったステラを見つけた。 弱々しいながらも呼吸をしている少女に少しでも落ち着ける場所をとデストロイから離れシンは失しに呼びかける。 「ステラ・・・ステラ・・・っ!」 シンの呼び声に応える様にステラの瞼が動いた。 初めて会った時の優しい微笑み。やっと本当の彼女が戻ったと喜ぶのも束の間。 握る手から少しずつ『生きる力』が失われつつあるのに気付きシンは溢れ出る涙を止められなかった。 「ステラ・・・・・・何でこんなっ・・・。」 緩めた首元からシンが返した桜貝から作られたペンダントが零れ落ちる。 良く見ると紐はもう一本あるのが見える。 手繰り寄せると白いものが出てきた。 《マユが作った・・・折り紙の、花。》 パイロットスーツに守られ汚れ一つ無い紙の花は誇らしげにステラの胸を飾る。 ステラは確かに覚えていないかもしれない。 けれど何処かで大切なものだと知っていたのだろう。 「シ・・・ン・・・・。会いに・・・・来・・・た。」 残り少ない力を振り絞り話始めるステラにシンは掛ける言葉が見つからない。 「シン・・・・ステラを・・・・・・・守・・・るって・・・・。」 「ステラ!」 涙を流し叫ぶシンにステラは淡く微笑み最期の言葉を紡ぐ。 「シン・・・・・す・・・き・・・・・・・・。」 その言葉を最後にステラは目を閉じた。 シンの手から零れ落ちた手はそのまま地に落ちた。 ステラ―――っ!!! 短い命だった。幸薄い人生だった。 それでも微笑んでいた少女の死にシンは少女を抱き締めた空に吼える。 《前にもこんな事があった。》 シンの胸に去来するのはオーブ侵攻時に家族を失った時の事。 家族の遺体を前にシンは唯一残った携帯を握り締め立ち尽くすしかなかった。 まだ幼いマユ・ヤマトは家族を失った事もわからずにただ泣くしか出来なかった。 同じ痛みを持つはずマユが傍で笑ってくれなかったらシンは動く事も出来ず一人きりの殻に篭ったままだったかもしれない。 《マユを守りたいから俺はザフトに入った。力を手に入れた。 そして守りたいものは増えた。俺はステラを守りたかった。》 あの日、憎しみと涙に染まったシンの深紅の瞳の先には青い翼のMSがいた。 《守れなかった約束を、ステラを俺は・・・守れなかった。 だけどステラは微笑んでくれた。なのに!》 再び何も出来ず大切な人を死なせてしまった現実がシンに一つの決意を与えた。 * * * デストロイが倒れ一斉に連合軍が撤退して行く様子がモニターにも映りミネルバは一気に忙しくなった。 本来休憩中であるはずのクルーも次々に到着したザフトの援軍を迎え、アークエンジェルから齎されたデータを元に市民の救出活動と同時に避難の手配などやる事は山積みだった。 行き場が分からぬまま動くより素早い対応が出来る分、心理的に楽ではあるが実際に告げられた仕事の数に皆疲れを覚える。 順調に進む避難所の確保と怪我人の治療、資材運搬などで疲れ切った数人がリラクゼーションルームに入るなりぼやき混じりに言った。 「おい、シンの奴まだ戻ってこないらしいぞ。」 「え? だってデストロイも倒したし連合も撤退したんだろ??」 「でも通信に応じないってメイリンが。」 部屋の中に戦闘時とはまた違う戸惑いの空気が漂い始めた。 シンはついこの間銃殺刑になるかもしれない軍規違反を犯したばかりだ。 にも関わらず通信にも出ないまま戻ってこないシンにクルー達はあの事件以来、胸にわだかまる物を感じて無言になる。 けれどただ一人マユは笑顔だった。 一番心配するべき妹のマユの様子に皆が不審そうに顔を見合わせる。 理由を知るアスランは慌てて「皆が休めないだろう。部屋に戻ろう。」とマユを抱き上げ部屋へと向かう。 その後をアビーが追う様に出て行く様子をレイが睨んでいた。 部屋に向かう途中、マユはご機嫌顔でアスランの肩に手を添えながら言った。 「ねぇアスおにーちゃん! おにーちゃんがおそくてもおこらないでね?」 「・・・何でだ?」 兄を怒らないで欲しいと言われてもそうはいかない。 シンは軍規違反を犯しているのだ。 その事でこの間まで営倉入りになっていたのはマユとて知っている事。 理由も無しにお咎めなしなど出来ないとマユにもわかるはずなのにとアスランが首を傾げるとマユはエヘヘと笑いながら答えた。 「きっとおにーちゃんはママはむかえにいってるのよ。 だからマユはいい子でまってるの。」 微笑むマユだがアスランは顔を曇らせたまま「皆と相談しないわからないな」と言葉を濁しその場を誤魔化した。 マユはシンがフリーダムを迎えに行っているのだと信じているがそれは有りえない事だとアスランはわかっていた。 理由はわからないがシンは明らかにフリーダムを敵視しデストロイを庇っていた。 シンが守ろうとしていたデストロイを倒したフリーダムを迎えに行くなど考え難い。 けれどマユは先程の戦闘の意味もシンが抱いただろうフリーダムへの憎しみも知らずアスランの首に腕を巻きつけ早く早くと部屋への道を急かす。 「やっとあえたの。 でもこれからずっとあえるね。 ずっとマユのソバにいてくれるの。 ママといっしょにねれるようにベッドのシーツかえないと。 今日はママといっしょだもん!」 マユの言葉にアスランもアビーも互いに曇り顔で見合わせる。 嬉しそうに語るマユに真実など言える筈がなかった。 続く 戦闘シーン苦手です・・・。 2007.7.22 SOSOGU (2007.9.26 UP) |
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