〜次なる舞台へ〜 次々に襲われるロゴスメンバー達からの救援を乞う声を無視しジブリールは道を急いだ。 今居る自分の屋敷も既に暴徒が押しかけてきている。 上のフロアは既に制圧間近、地下のフロアの存在に気付くのも時間の問題だろう。 《だが私は終わるわけにはいかない。》 ジブリールの心を支配するのは怒りだった。 ギルバートへの、コーディネイターへの、そして世界全てに対する怒り。 《愚か者どもめ・・・お前達は何もわかっちゃいない。 コーディネイターと手を取り合うだと? そんな事出来るわけがない! 全ての戦いは奴らが生まれたから始まったのだ。奴らがいるから世界は歪んでしまったんだ。 正常な秩序を取り戻し清浄な青き世界へと戻る為に私がやって来たことを全て否定して・・・デュランダルの言いなりになるなど許されることではない。ファントム・ペインも任務に失敗してばかりで・・・甘やかした私が愚かだった。 今度こそ勝たねば! このままでは世界は破滅へ進む。ソレを止めることが出来るのは私だけなのだ!!!》 進むジブリールに迷いはない。 使命感に燃える彼の足はこの状況を覆す力の元へと進む。 《ヘブンズベースへ!》 * * * ミネルバの格納庫では多くの整備士が歓声を上げ迎える中、ボロボロになったインパルスから誇らしげに降りてくるシンの姿が見られた。 いつもならここまで破壊されたMSを見れば「修理が大変だ。」と苦虫を噛み潰したような顔をする整備士達だが、今彼らが浮かべているのは満面の笑顔。誰もがシンを歓迎していた。 インパルスから降りたシンに真っ先に駆け寄ったのは同期の友人でるヴィーノ。ヴィーノはまずシンの身体に傷が無いのを確認すると喜びを隠せない様子で両手を広げて言った。 「シン、凄いじゃないか! お前!!」 「ううん、そんな。」 「本当にやったのか。あのフリーダムを!」 確認してくるヨウランにシン頷くと周囲にいた者達は皆、再び歓声を上げた。 『あの』とつく程にフリーダムの不敗伝説はザフトのみならず世界中で有名だった。 大戦を終戦に導いた鬼神の如き戦いぶりは今も健在で、ザフト・連合両軍共に今までフリーダムに倒されたMSは数知れない。 アスランですら止められなかったフリーダムを倒せる者などいないだろうと思われていたのに16歳のまだ新人と言えるシンが倒したのだ。 モニターで見ていてもまだ信じられず興奮した者達がシンを囲む中、シンが離れたところに立つアスランに気付き歩み寄る。 アスランは近づいてくるシンに何か迷ったようで踵を返そうとしたがその前にシンの声が響いた。 「仇は取りましたよ。」 びくっ シンの言葉にアスランは立ち止まる。 「アナタのもね。」 その瞬間、アスランは堪えていたものが堰き止めていた理性の壁を打ち崩したのを感じた。 身を翻しシンの襟首を掴み上げる。衝撃でシンが持っていたヘルメットが落ち格納庫に微妙な空気が流れた。 そこへマユを部屋に送り届けて来たアビーが来たが彼女は二人の姿から大方の事情を察し止めようとしたが、その前にアスランの声が格納庫に響く。 「アイツを討てたのがそんなに嬉しいか! 得意か! キラは、お前を殺そうとはしていなかったっ!!!」 《キラ?》 引っかかる名にシンは眉を潜めるがアスランは構わず続ける。 「それを・・・何が仇だっ!」 自分の戦果を否定するアスランに反感を抱いたシンは一瞬生まれた疑念を捨てて反論した。 「嬉しかったら悪いんですか。強敵をやっと倒せて喜んじゃいけないんですか!? どうしろって言うんですか。泣いて悲しめって言うんですか。祈れって言うんですかっ!!? 俺が討たれりゃ良かったと言いたいんですか、アンタは!!!」 「お前は本当に・・・『誰を討った』のかわかっているのかっ!!?」 《不味い!》 レイはアスランの言わんとしている事に気付いたが制止の声は間に合わなかった。 「お前がたった今討ったのは・・・フリーダムに乗っていたのは・・・。」 「アスラン!」 「パイロットの名はキラ・ヤマト!」 《キラ・・・ヤマト?》 再び感じたひっかかった名を出され息を止めた瞬間。 衝撃は来た。 「マユの実の母親だっ!」 一瞬静まり返った格納庫でぼそぼそと囁く声が響き始める。 「マユの母親って?」「でもシンの両親は死んでるはずだろ?」「今の、ファミリーネームが違ったよな。」 突然齎された情報に一瞬呆けたシンだがアスランの言葉を反芻し、訳の分からない事を言い出す上官に対する反感もあり言い返す。 「・・・は? 何言ってるんですか。あの人は・・・。」 「お前はカリダ小母さんを母親だと思ってたんだろう。だが違う! マユは彼女の孫だ。マユの父親は・・・っ!」 けれど言葉は続かなかった。腕を掴み引っ張る手に振り向くとそこには必死にアスランの腕を引っ張るアビーがいる。 アスランの注意が自分に向いた事に気付くとアビーは叫んだ。 「やめて下さいアスラン! これ以上は、トダカさんの事だってあるのに。」 「トダカ・・・さん?」 再び思わぬ人物の名を聞いてシンはアビーへと顔を向ける。 「しまった!」と表情を凍りつかせるアビーにシンは胸に重い何かが生まれるのを感じた。 嫌な感覚に、確かめずにはいられずシンは問いかける。 「アビー、今のは?」 「シン、止めろ。アスランも。」 レイの制止する声で自分で言ってしまった真実の重さを思い出しアスランは俯く。 シンも思考と止めアスランの手を自分の襟首から外すレイを見つめた。 「キラもアークエンジェルも・・・敵じゃない。討たれる理由なんてなかった。」 擦れた声で吐き出すように言うアスランにシンが瞠目し反論しようとするが、レイが今度はシンを制し代わりに答えた。 「敵ですよ。」 !? 「あちらの思惑は知りませんが、本国がそうと定めたのならば『敵』です。 それを決めるのは貴方ではない。我々は『ザフト』ですから。 シンは命じられた任務を遂行した。責められる言われはありません。」 「レイ・・・。」 「お互い頭に血が上って混乱しているようです。 お引取り下さい。」 シンと話したければまず自分を通せ。 そんな声が聞こえる様なシンの前に立ち塞がるレイの姿にアスランは自分の無力を感じた。 * * * 身体中の痛みを感じながらキラは目を覚ました。 真っ先に見えるのは白い天井、いや違う。それは以前にも見たメディカルルームの二段ベッドのもの。 自分のいる場所を理解しながらも無意識に出る言葉は問うものだった。 「こ・・・こ・・・は・・・・・・。」 「メディカルルームさ。」 「ムゥ・・・さ・・・ん?」 覚えのある声にキラは少しずつ意識がはっきりしてくるのを感じた。 ぼやけていた視界が次第にクリアになっていく。首を声のした方に向けると向かいのベッドに座る顔に大きな傷を持つ男が見えた。 キラが呼ぶ声を聞くと男は不機嫌そうに顔を歪め半分諦めの入った訂正をする。 「全くこの艦にいる奴らはどいつもこいつも俺を見てムームーって、まるで唸っているような名で呼びやがって・・・。 それで無かったら少佐と呼びやがる。 この際はっきり言っておくがな。俺はネオ・ノアローク、ノアローク大佐と呼べ。 勝手に階級変えるなってんだ。」 「ムゥさん・・・本当に・・・。」 記憶を無くしたのかと続けようとしたのだが胸に走った痛みに声が詰まる。 何も言えなくなったキラに言葉の続きを誤解したネオは更に苛立ったように喚いた。 「だーっ! もうお前は、たった今訂正したばっかなのに何聞いてたんだよ!」 ごん! 「あ。」 思わず出たのは五十音中一番最初の音。 ベッドに倒れ行くネオの姿を見送りキラはカーテンの向こうを見た。 奥に見える人影は二つ。見事にネオの側頭部に当たったのはまだ氷が溶け切っていない氷嚢だった。 《これは痛い・・・。》 助けてやりたいが痛みで自由にならない身体ではどうにもならない。 《まあムウさん丈夫だし死にはしないだろうから良いけど。 でも誰が・・・。》 「ネオ・・・五月蠅い・・・・・・。」 「「アウル!?」」 声の主の正体に二人が驚くと同時にカーテンが開けられマリューが出て来た。 濡れタオルを持ち苦笑しながら後ろ手にカーテンを閉めるとマリューは言った。 「全く・・・他にも病人がいるって事を忘れないでね。 キラちゃん気づいたのね・・・良かったわ。」 「マリューさん、アークエンジェルは・・・カガリ達は!」 「大丈夫よ、落ち着いて。今から説明するから。」 「爆発したのはメインエンジンだけさ。 それでザフトの目を誤魔化したってわけ。」 「ちょっと!」 マリューが窘めるようにネオを睨みつけるがネオは黙るどころか皮肉っぽくせせら笑う。 戸惑うキラが傷の痛みを堪えながら起き上ると更に追い討ちをかけてきた。 「その傷、インパルスにやられたんだろ。ザマミロ!」 「ムゥっ!」 ぴしゅっ! 今度こそ怒ったマリューが怒鳴るとメディカルルームのドアが開いた。 入ってきたのはトレーを持ったカガリとハイネ。 キラが起きているのに気づくとカガリは嬉しそうにキラのベッドに駆け寄った。 「キラ!」 「よう、お邪魔するぜ。」 「カガリ、ハイネも・・・。」 「食事を持ってきた。重湯を用意したんだが・・・奥の奴は食べられそうか。」 気遣うようにカガリが問うと落着きを取り戻したマリューが微笑みながら答える。 「ええ、一時は危なかったけれど・・・一先ず最初のヤマは越えたとドクターが。」 「早い回復の為にも胃からの栄養吸収が一番だからな。食べられるなら食べた方が良いだろう。」 「ありがとう。」 カガリからトレーを受け取ると早速マリューは奥へ戻って行った。 カーテン越しだが影で膝にトレーを乗せて起き上がろうとするアウルを押し止める姿が見えた。 すると弱々しいアウルの声が響く。 「かあ・・・さ・・ん。」 「無理しなくて良いわ。食べられないなら下げるから。」 「う・・うん・・・・・・食べる・・・・・・。」 「じゃあ、ゆっくり・・・ね。」 ふぅっとスプーンに掬った重湯に息を吹きかけ冷ましてはアウルの口元に運ぶ様子が見える。 静かに、ゆっくりと始められた食事は食器の音ばかりが響く。 しーん 何故か静かにしなくてはという強迫観念が働いたキラがこそこそと声を潜めてカガリとハイネに囁く。 「ねぇ、僕はもうお役御免?」 「あーいやー、何て言うかだなー。」 「やっぱお母さんもナイスバディの方が良かったってことじゃねーか?」 「ハーイーネーっ! お前キラにいい加減な事言うな。」 「お前さんが寝ている間、アウルの看病してたのはあの美人さんだからさ。」 「マリューさんが?」 仲間外れが嫌なのかネオまだ話に参加し自然と四人は顔を突き合わせながら会話を続ける。 ネオの言葉に驚いたキラが問うとネオは頷いて答えた。 「人手不足って言っても艦長までが雑用するなんてな。 俺の世話まで焼いてくれたし。」 「アウルの治療の為に打った薬があるだろ。 あれで記憶の混乱が再び起こったらしくてな。 刷り込みがリセットされてキラが寝てる間にずっと傍に看病してたマリュー・ラミアスを母親だと思い込んだらしい。」 「再インプリンティングってとこか。」 「そっか・・・。」 「何? 淋しいのか??」 ハイネが問うとキラは曖昧に微笑みながら言った。 「ほっとした部分もあるけど・・・やっぱりね。」 「まぁ、正直艦長も戸惑っているところもあるみたいだし、先輩として相談に乗ってやればいいさ。」 「先輩?」 「先輩だろ。母親としては。」 苦笑して頷くと目の前に湯気を立てるプレートが差し出された。 先ほどのアウルの重湯と違いこちらは固形食。重い物が食べられないキラを気遣ったのか消化の良いものや果物が多く載っている。 「ほら、お前ずっと眠ってたから腹減ってるだろ。」 「ありがとうカガリ。」 「おーいお姫様。俺の分は?」 「レディーファーストだ。」 完全無視されてしくしくと泣く腹を抱えネオはベッドで蹲る。 と言っても食事が出されないわけではないとわかっているらしくそれ以上文句は言って来なかった。 なら早くネオが食事にありつける様にとキラがスプーンを取りコーンポタージュを啜る。 「それにしても咄嗟とは言えよく判断できたな。」 ハイネの言葉にキラは不思議そうに見返すとハイネは苦笑しながら答えた。 「原子炉の緊急停止さ。」 「それは・・・当り前だよ。フリーダムの一番恐ろしいところは乗っている僕が一番よく知っている。」 一度は取ったスプーンを置いてキラは答えた。 もしあの場面でフリーダムの原子炉が動いたまま爆発していたら、いくら硬く作られていたとしても装甲に罅が入り原子炉そのものが爆発していたかもしれない。 そうなればギリギリで海中に逃れたアークエンジェルは勿論、インパルスやミネルバとて核爆発に巻き込まれ蒸発していた可能性がある。 それは即ち、あの場にいた全ての人間の命がかかっていたという事で・・・。 「マユを守る為か?」 「・・・少し違う。皆を、守るためだよ。」 儚く微笑むキラにカガリが泣いて抱き締めた。 肩が震えているのに気づきキラはカガリを抱きよせ目を瞑る。 多分ブリッジから動くなと言われて行動派の姉はずっと辛かったのだろうと、キラは今更ながらあんな託けをした自分を悔いた。 だから今はカガリが望む通りにしてやる事がキラが彼女に出来る贖罪なのだ。 「全く、カガリを抑えるの大変だったんだぞ。 ルージュでキラを探しに行くって言って聞かないのを俺がムラサメで行くからって説き伏せたんだ。 何しろあの時は海中でザフトが待ち構えている可能性もあったから。 万が一にも代表一人を危険に晒す訳にはいかないし、最悪また見つかって鬼ごっこの再開だ。 だがザフトも馬鹿じゃない。海に浮かんだ破片を調査して今頃はアークエンジェルが逃げ果せた事を知っているだろう。 他にも二次災害の可能性があったしな。」 「そうだ・・・廃棄物は・・・放射性物質の漏洩は!」 ハイネの言葉にキラは自分が恐れていた『もう一つの懸念』を思い出し慌てるが、ハイネはチッチッと指を振り微笑んだ。 「それも大丈夫。元々アークエンジェルは宇宙艦、その辺の装備は揃ってたし格納庫は密閉、整備士達にはノーマルスーツの着用を厳命した上でフリーダムを収容したんだ。 調べたが放射性物質の漏洩は確認されなかった。マードック主任が確認してエンジンごと全て封印してある。 誰も被爆してないよ。」 「良かった・・・。」 核爆発の次に恐ろしかったのが放射性物質の漏洩により仲間が被曝する事。 核と言われると放射能汚染と皆考えるが正確に述べるのであれば少し違う。 放射能とは放射線を発する能力をもったものの事なのだ。 原子炉につきものの核廃棄物には放射線を発する物質がある。 フリーダムは元々宇宙での戦いを想定した機体。元々放射線がある宇宙では核爆発以外に気にする事はないが、地上で活動する事がないわけではない。 また衝撃で放射線物質が漏れたらパイロットスーツを修理の度に整備士達は厳重な体制を取らなくてはならない。 それでは困るからこそフリーダムの原子炉は勿論核廃棄物を保管する部分も含めた全てを最も硬い装甲で覆っている。 けれど絶対防御が出来るわけではない以上キラは不安だった。 その不安が解消されてホッとすると同時にカガリの腕に力が籠められキラは少し息が苦しくなるのを感じた。 「お前は人の心配するより自分の心配しろ! 死んだかと思ったぞ!!」 「こうやってカガリに抱きつかれるのは二度目だね。」 「三度目があったら私がこの手で墓に入れてやる!」 「それは怖いな。」 今度こそ憂いなく笑うキラに怒るカガリ、この二人はもう安心だとハイネは席を立ちネオを揺り起こす。 「おい不貞寝してんな。俺が同行するから食堂行くぞ。」 「はぁ!? 俺は捕虜だぞ。」 「アホか。本気で捕虜扱いするならこの部屋で自由にさせず拘束してるさ。 殆ど怪我が治っている敵兵を拘束具なしに放置するわけないだろ。」 「なら!」 「ちょっと聞きたい事があるんだよ。お前の部下はあの通り手厚く看護している。 誰も危害を加えようなんてしないともう解ってるだろう。」 ハイネの言葉にネオは押し黙った。 確かに自分は捕虜として扱われていないとわかっていた。 それでも大人しくこの部屋に居続けたのは一重にアウルを案じたからだ。 一度は死んだと思っていた部下が生きていた上に自分の手が届くところにいると知り放置出来るわけがない。 自分に出来る事を探ったものの見つけられたのは傍に居る事だけだった。 《ま、あの美人さんが気にならなかったとは言わないが。》 アークエンジェルに乗る者達が敵味方ではっきりと区別できるような者達で無い事はマリューの行動からもわかっている。 ぽりぽりと頭を掻いて反論してこないネオにハイネは重ねて言った。 「見張らなくても大丈夫だ。それより話したい事がある。」 「敵に情報を漏らす訳ないだろ。それとも拷問するか?」 「知りたいのは連合の軍事機密じゃない。」 ハイネの表情が険しくなる。その目が光るのを見てネオは構えた。 「ロード・ジブリールという人物の人となりについてだ。」 !? 確かにネオはジブリールを知っている。 親しいわけではないがどんな男かぐらいは大凡理解していた。 だがハイネが何故ジブリールが企んでいる事ではなく彼の人格に注目するのか分からず戸惑っているとハイネは視線を真っ直ぐにネオを見つめ言葉を続ける。 「ザフトは現在同盟を超えて各国より寄せられる義勇軍を束ね編成を始めている。 目標はヘブンズベース。そこに残ったロゴスメンバーが集まりつつある。 当然ブルーコスモスの盟主ロード・ジブリールもいるだろう。 だが全世界との戦いだ。どれほどの戦力を持っているかは知らないが遠からずヘブンズベースは落ちる。 何よりも士気の差が激しいからな。 だが俺はデストロイなんてものを作り出した奴が大人しく投降するとは思えない。 陥落する前に逃げ出すはずだ。 だが、奴が逃げ込むとしたらそこは何処だ?」 「知ってどうする。」 「議長の本当の目的を探る。」 「はぁ!? 話が通じねえぞ。 ジブリールの行動を予測する事が何でデュランダル議長の目的に繋がるんだ!?」 ネオの言葉は尤もだった。 ジブリールとギルバートは敵対している。それは誰の目からも明らかだった。 けれど皮肉気に笑って応えるハイネは確信していた。 《議長は、ジルリールを識っている。》 * * * ミネルバがカーペンタリア基地に着き、久しぶりに外に出られると言うのにマユが閉じこもったまま部屋から出てこない。 その知らせを聞いたシンは真っ先にマユとアビーの部屋の前へ行った。 インターフォンを鳴らしてもマユは返事をしない。 パネルを操作して中の音を確認すると微かな泣き声が聞こえた。 「キライ・・・みんな・・・ダイキライ・・・・・。」 !? 「ママかえして・・・マユのママかえしてよぉ・・・・・。」 《マ・・・ユ・・・・・・。》 「おにーちゃんもキライ・・・ダイッキライ・・・・・・・・・。」 震えて泣くマユの言葉をそれ以上聞けなくてシンは走り去った。 どうやって部屋まで来たのか覚えていない。 誰とすれ違ったのかそもそも通路に人がいたのかもわからない。 ただ痛いくらいに高鳴る心臓の音だけがシンを支配した。 《ママって誰だ・・・マユは誰の事を言っている・・・。》 思い出すのは格納庫でのアスランの言葉。 《マユの実の母親? フリーダムに乗っていたのが?? いや、年齢がおかしい。若過ぎるじゃないか。あの人はどう見ても20歳前後、マユの母親なんてそんなわけない・・・。》 それでも確信を持って叫んだアスランの声が耳の奥で木魂する。 『お前はカリダ小母さんを母親だと思ってたんだろう。だが違う! マユは彼女の孫だ。マユの父親は・・・っ!』 《父親? もしキラ・ヤマトが本当にマユの母親なら相手は誰だ?》 『なんかシンよりもアレックスさんの方がマユちゃんと似てるな〜って。』 以前ルナマリアが言った言葉が思い出された。 猛然と否定したシンだがそれは本当に血縁が無い事を悟られないためでもあった。 シンはこの年代では珍しい一世代目のコーディネイター。マユも同じだから特徴が違っても不思議はナイト言い逃れてきたが遺伝子を調べられればバレてしまう。 《キラ・ヤマトは一世代目のコーディネイターだ。》 それはIDを書き換える為にトダカが調べた情報だった。 シンがマユがコーディネイターかを確認した時にトダカから聞かされた。 もしアスランの言う通りフリーダムのパイロットがキラで、彼女がマユの母親ならばその父親も恐らくそう離れた年ではないと推測出来る。 そしてアスランは彼女と面識がある。 フリーダムとジャスティスは三隻同盟の双璧として知られている。 そこまで考えてシンは首を振った。 《二人が出会ったのが戦中ならマユが生まれるはずが無い。 アスランがマユの父親であるはずがない。だけど母親の件は・・・。》 トダカはヤマト家について詳しくは語らなかった。だが書き換えた彼ならば知っていたはずなのだ。 確認をするならトダカだがオーブとは国交断絶状態、しかもシン自身はトダカと殆ど連絡を取っていなかった。 《でも本国の施設なら連絡方法を知っているかも。》 思い立ったが吉日とばかりにシンは起き上がりブリッジに連絡を入れる。 「メイリン、本国のマユが所属していた施設の人と連絡取りたいんだ。 申請出すからフォーム転送して。」 【あ、シン! 丁度良かった。こっちから連絡入れるところだったの。 呼び出しがあったの。議長がシンに会いたいって、アスランさんと一緒に。】 「議長が?」 【とーっても大事なお話みたいね。急いで! あ、申請は代わりに私が出しておいてあげる。】 「わかった。サンキュ!」 ぷつんと通信は切れ、モニターはブラックアウトする。 再び静かになった部屋はシン一人。 レイは用事があると朝から出かけたきりまだ戻ってきていなかった。 はぁっ! 急に出てきた疲れにベッドに突っ伏す。。 フリーダムを倒した時には高揚感が強かったせいか感じなかった疲れが今頃襲ってきたのだろうか。 しかしギルバートの前で疲れた顔を見せるわけにはいかない。 「顔洗おう・・・。」 再び起き上がるとシンは備え付けられた洗面所へと向かった。 * * * 隕石にカモフラージュしザフトの捜査の目から逃れるエターナル。 かの艦のブリッジの中でも一際高い位置にある座席に座る少女がいた。 桃色の長い髪を高く結い上げ、羽織に似た服は可愛らしく優しげな顔の少女にはよく似合い年頃の少女らしく思えるが、その眼差しは鋭く瞳に宿る光は強い。 輝く星々に目を向けながら少女、ラクスは考えていた。 しゅん! 軽い電子音と共にブリッジのドアが開く。 まだシフトチェンジの時間ではない。来客かとラクスがブリッジの入口に目を向けると同時に入ってきた少女は元気よく叫んだ。 「ラクス! 今戻ったわ。」 「お帰りなさい・・・ってフレイ・・・髪切りましたの?」 目を丸くするラクスの前にはセミロングの髪をショートカットにしたフレイがいた。 驚くラクスにフレイはウィンクしながら笑顔で答える。 「変装に必要だったのよ。変装時は更に黒く染めてカラーコンタクトもつけたのよ☆」 「髪は女の命と言いますのに・・・。」 「そうよ。だから私は命を掛けたの。 その甲斐あって大成功! アンタに会いたいって言ってた客人を連れて来たわ。」 「こんにちは、初めまして。」 フレイが振り返り挨拶を促すとフレイの陰から現れた人陰はぺこりとお辞儀しながらラクスの前に進み出た。 客人の幼さにラクスはまた驚く。 報告で少年だと聞いていたもののその年齢までは確認してなかった。 金色の髪をしたまだ幼い・・・10歳にもならない少年。けれど何処かで見たことのあるような、会った事があるような気がする顔にラクスが必死に記憶を手繰ろうとするが思い出せず、困ったと言いたげな微笑みを浮かべながらも少年に手を差し出した。 「初めまして・・・で、よろしいのでしょうか? ラクス・クラインですわ。ようこそエターナルへ。」 「ふっふ〜ん、やっぱ記憶に引っかかるんでしょ。」 何やら知っているらしいフレイは意味ありげな微笑みを浮かべ問う。 誤魔化しても意味はないとラクスは苦笑しながらフレイに答え首を傾げた。 「ええ。仕事柄、人の顔を覚えるのは得意なのですがどうしても思い出せなくて。」 「思い出せなくて当然よ。この子自身と会った事はないはずだもの。 私達が知っているのは母親の方よ。尤も、ラクスは写真でしか知らないでしょうけど。」 「母親・・・? 写真・・・?」 フレイのヒントに再びラクスは記憶を探り始めた。 少年の金色の髪は鮮やかさよりも落ち着いた色合いだ。顔立ちも幼さのせいか女性的に見え、似た金髪の女性を思い出そうとすると不意に白いイメージが重なった。 《写真でしか知らない・・・フレイがこんな事を言ってくるという事は現時点で私が知っているはずの人物。 そして今、重なった白のイメージ・・・。》 記憶の底に引っかかり出てきそうで出てこないもどかしさを感じるラクスに少年は進み出て名乗った。 「僕の名はアルバート・グラディスです。」 !? 名を聞いてやっとラクスは思い出した。 直接の面識がないのは道理だった。ラクスは極一部の者を除いてザフト関係者との接触を絶っていたのだから。 そして現状況で彼女が知らないはずのない重要人物と目される一人。 「貴方は、ミネルバ艦長の?」 「はい、タリア・グラディスは僕の母です。」 「そうですか・・・しかしグラディス艦長の御子息である貴方が何故私を探していたのですか?」 「ラクス・クラインだけがあの人を止められると思ったからです。」 《あの人?》 真っ直ぐに迷いのない眼差しがラクスに向けられる。 ラクスは今、少年の言った『あの人』と言葉が気になった。 自分の母親を指すのであれば『母』で良いはず。アルバートとタリアの親子としての仲がどういったものかはわからないが、少年が『あの人』と言った時、タリアが『母』だと答えた時とは違う硬い感情を感じた。その違和感がラクスを戸惑わせていた。 「あの人とは・・・。」 「デュランダル議長の事よ。アルバートは議長と直接面会したことがあるんですって。」 フレイの補足説明でアルバートとギルバートとの間に何かあったのだろうと察し、ラクスは深く頷きアルバートの視線に合わせる為に膝立ちになると彼の目を見つめながら真剣に答えた。 「それは勿論、彼の目的が世界の為にならないとわかれば。 今もメンデルに調査隊を派遣して調べているところですわ。」 「調べるまでもなく彼の考えている事はわかっています。」 はっきりと断言するアルバート。その青い瞳は感情で揺らいでいた。 彼には静かな怒りが宿っていると感じ、ラクスが戸惑いの表情を浮かべフレイを見ると彼女も肩を竦めて首を振る。 ここまでフレイが彼と何も話さなかったわけがない。 その彼女が何も言わず戻ってすぐに直接ラクスと面会させたのは彼女も判断に困ったからだろう。 けれどアルバートは戸惑うラクスに構わず話を続ける。 「彼の目的は。」 「議長の・・・目的。」 「世界の全てを、自分の管理下に置くことです。」 突拍子もない言葉にラクスは勿論、ブリッジにいた全員が何も言えなかった。 続く MY設定が更に増えるの図・・・。 2007.11.20 SOSOGU (2008.1.12 UP) |
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