〜鎮魂歌(レクイエム)〜 これほど無力感に晒された事はない。 机に打ち付けた拳が時間をおいてジンジンと痛みと痺れを伝えて来る。 それでも気が収まらずにイザークは机を叩き続けた。 そのうち血が出てもおかしくないという音を聞きつけてイザークが振り上げた右手を抑える。 「もう止めろ。気持ちはわかるけど今はそんなことやってもしょうがないだろ。」 「これは俺自身への戒めだ。放せっ!」 「イザークが自分を傷つけてもフレイは泣くのに?」 言われた言葉にイザークは顔を逸らした。 わかっている。この自傷行為がただの気晴らしに過ぎないと。 自分が傷つけば彼女はまた泣くのだろう。 それでもイザークは自分が許せなかった。 イザークがザフトに残ったのは守りたいと思ったからだ。 軍事裁判で戦時中の罪を問われたイザークは銃殺刑に処されてもおかしくはなかった。 当時戦争を煽っていた強硬派エザリア・ジュールの息子である事も考慮されていたのだろう。 刑が確定すると思われたイザークの裁判で彼を助けたのはギルバートだった。 今思うと少し意外な感じがする。 イザークが過ちを知っているからこそ助けたのだと後に語った言葉を嘘とは思わない。 けれど今はあの時の言葉とズレを感じていた。 《どれが本当なんだ。一体何が正しいんだ。》 それは自分自身が考えて見つけていくものだとわかっていても答えを求めずにはいられない。 確かなのは自分がプラントを守りたいと思っている事。 戦争の為に傷ついたフレイを助けたいと願っている事。 その気持ちの果てに何があるのかわからない。 それでもイザークは進み続けるのだろう。自分の信じる明日の為に。 「頭、冷えたか?」 「もう、大丈夫だ。放せ。」 伺う様に問うディアッカに対しイザークはぶっきらぼうに言い放ち、ディアッカの手を振り払う。 厳しい表情は変わらないが雰囲気が穏やかになったのを感じ取ったディアッカは苦笑しながら応える。 「こういう時、やっぱフレイにいてもらった方が楽だな。」 「何でだ?」 「只でさえピリピリした状況なのにお前まで稲妻落としてたら隊員全員胃潰瘍で倒れちゃうって。 でもフレイがいたらお前と口喧嘩して喝入れてくれるし隊の雰囲気変えてくれる。」 「はぁ!?」 「あれ自覚ない?」 「何がだ!」 「夫婦喧嘩は犬も食わない。」 茶化して笑うディアッカにイザークは思考を停止させる。 つまり、彼が言いたい事は自分とフレイが・・・。 「誰が夫婦だっ!」 「うわ怒った!!!」 さっさと部屋を飛び出し走るディアッカの後を怒りで顔を紅潮させたイザークが追う。 ボルテールの通路を走り抜ける二人の姿にシホが呆れたように見送り溜息を吐いた。 彼女の溜息に整備担当の一人が声をかける。 「エルスマン副官、ちゃんと隊長を浮上させてくれたみたいですね。」 「そうね。でも・・・。」 「でも?」 「フレイの時の方が隊長は嬉しそうだから。」 「ああ・・・何か寂しい感じがするのはそのせいか。」 シホの言葉に応える青年もまた少し寂しそうに笑う。 フレイの事情は隊員の殆どが知っている。 放たれた兵器の力の源は間違いなく核だ。 プラントの被害を知り彼女はきっと泣いている。 そしてきっとこう言うのだろう。 「『プラントに戻れない。』」 「フレイならそう言うでしょうね。だから今度こそ私達は踏ん張らなければならない。 あの子が帰るべき場所はここにあるのだから。」 「それじゃあ最終チェックをお願いします。」 「隊長達はどうするの。」 「追いかけっこに疲れたら引っ張ってきますって。 疲労してようが何だろうが仕事はやってもらいます。」 答えてウィンクする青年にシホは笑った。 《元通りにはならないかもしれない。けれど・・・。》 「アビーとフレイが戻ってきたら宴会でもしましょう。」 「誰の奢りで?」 「勿論隊長達の。」 ウィンクで返すシホに青年もまた微笑み返した。 * * * コロニー六基の崩壊。 映像で見せられた衝撃の瞬間にシンは血の凍る思いがした。 崩壊したコロニーの一つにマユはいるはずだった。 マユは今オーブにいる。 シンは今更ながら運命に感謝した。 もしもマユがブレイク・ザ・ワールドの時にギルバート共にプラントに戻っていれば生きてはいなかっただろう。 崩壊したコロニーに家族がいたクルーの泣き叫ぶ声がシンの胸に突き刺さる。 自分達はこんな悲劇を繰り返さない為に戦ってきたのに悲劇は繰り返された。 そしてこの悲劇を引き起こしたのは・・・。 「シン、ミーディングルームに。ルナマリアもだ。」 「レイ、これって・・・。」 「歩きながら話そう。既に機密ではないからな。」 答えて歩きだすレイにシンとルナマリアは一度顔を見合わせ頷き合うと、つき従う様にレイの後を追った。 まだ地上にいるミネルバを含め、動ける宇宙艦は全て宇宙に上がる事が決まった。 ならばこの先にあるのは戦い。 メイリンが生きているとしても、今回の戦いに彼女が現れる事はないだろう。 オーブにアスランがいたのならメイリンもオーブにいる。 そんなルナマリアの考えを読み取ったのかレイは話し始めた。 「今回の攻撃は月から行われている。 奴らは・・・ジブリールは廃棄されたコロニーに超大型のゲシュマディッヒ・パンツァーを搭載してビームを数回に渡って屈曲させたんだ。 まるで悪魔のような兵器によりプラントは月の裏側から攻撃されたんだ。誰もが表のアルザッヘルを警戒する中でジブリールはその裏をかいた。」 「でも元々ゲシュマディッヒ・パンツァーって防御の為のシステムだろ!?」 「発想の転換だな。ビームが直線に進むものというのが常識だ。今までは屈曲する方向を定めなかったから防御として使われていた。だがオーブにも似たシステムを搭載したMSがいただろう。」 「金色のMS・・・あれはビーム攻撃をそのまま反射させてた。」 「あの機体の特性は鏡だ。こちらから攻撃しないか限り反射による攻撃はない。 攻撃力も撃つこちらが威力を絞れば返される力も小さい。 しかしジブリールの兵器はオーブのそれを超えている。あの力の源は間違いなく核により生みだされたものだ。」 レイの言葉にルナマリアは唇を噛み締める。 あの時ジブリールの逃亡機と思われるシャトルを追ったのはルナマリアだ。 だが彼女は撃ち落とせずジブリールは逃げ延びてしまった。 悲劇の種を蒔いてしまったのだ。 深い後悔がルナマリアを覆う。 「私が、あの時ちゃんと撃ち落としていれば・・・・・・。」 「ルナのせいじゃない! 悪いのはジブリールを逃がしたオーブだろ!? あいつらが邪魔しなければジブリールは捕まえられてたんだ。だからっ!」 「でもオーブはマユちゃんを助けた。」 ルナマリアの言葉にシンは言葉を詰まらせる。 どんな理由があったにしろマユは命を救われている。 アスランが頼ったのか、オーブがアスラン達を見つけたのか。どちらであったにしろ戦力的には役に立たないマユを彼らは助けた。その目的は何なのだろう? マユの証言が必要だったとしても子供の証言は軽んじられ易い。 オーブにいたラクス・クラインはマユの言葉を信じたが、世界はマユの言葉に笑っていた。 けれどラクスは知っていた。マユの証言が世界では通用しないと。マユの証言を乗せたメッセージは世界ではなくミネルバに向けたものだと彼女は言った。それは真実なのだろう。揺らいでいるのはミネルバのクルーだけだ。そこにプラント攻撃の報に精神は追い詰められつつある。 「何が本当で・・・何が正しいの? 私達はどうすればいいの??」 「それは・・・。」 「確かなのはジブリールを生かしてはおけないという事だ。 奴は常に悲劇を生みだす。そしてこれからもプラントを狙い続けるだろう。 月にザフトのほぼ全ての戦力が集められつつある。当然宇宙艦であるミネルバも向かう。」 「ここから!?」 「戦力は多ければ多いほど成功率が上がる。数で圧倒的に負けるザフトが今度こそプラントを守り切るには総力戦が必要だ。 幸い大西洋連邦の求心力はロゴスの件で落ちている。地上にある連邦の部隊は動けないだろう。 ならば問題は月の駐留軍だ。それでも数は多い。 先ほどアビーから特命コードが届いたと報告があった。 詳細はミーティングルームで話す。」 「プラントは今・・・どうなっているのかしら。」 「何処もパニックだ。シェルターに入ってもあの兵器の前では紙屑同然だ。それに俺達コーディネイターには逃げる場所がない。」 レイの言葉に思い知らされた。 プラントは元々地上で肩身の狭い思いをしていたコーディネイターが新天地を求めて作ったコロニー群なのだ。 その時にコロニー建設の為に資金を提供したのが大西洋連邦を始めとしたプラント理事国家。 提供した資金の見返りに要求された過剰な資源生産のノルマ。 遂に耐え切れなくなったプラントは国家としての独立を求め行動を起こした。 結果、政治的な軋轢が生まれやがては戦争へと発展した。 それが一年以上にも及ぶ大戦の始まりだった。 一度地球から逃げ出したコーディネイターに戻る場所はない。 彼らが安心して住める場所はプラントだけなのだ。 ならば守るしかない。守り切らなければならない。 「和平の道は・・・。」 「有り得ないな。」 ルナマリアの呟きをレイは切り捨てる。 わかっていた。わかっていても言葉にせずにはいられないほどルナマリアは戦いに疲れていたのだ。 顔を逸らすルナマリアに目もくれずレイは話を続ける。 「相手は国家じゃない。テロリストだ。 話の通じる相手じゃない。停戦の申し出すら有り得ない相手に和平など成立しない。 勝つしかないんだ。」 レイの言葉にますます沈むルナマリアの手を握りシンは微笑む。 マユが生きていると知って心の余裕が出来たのか、柔らかな空気がシンを取り巻いていた。 「大丈夫だルナ。ルナは俺が守るから。」 《泣きたい。》 けれど泣けない現実にルナマリアは繋がれた手を握りしめ歩き続けた。 《戦わなくちゃ。全てを終わらせる為に。》 この戦いに勝てば戦争は終わる。 それだけを信じて。 * * * プラントの悲劇は既に全ての国に伝えられていた。オーブも例外ではなく行政府は騒然としていたが、プラントへの援助を申し出ようにも今は混乱状態。ましてやオーブの立場は難しくスムーズに受け入れてもらえるかどうか疑問だ。 一時は援軍の派遣も検討されたが、それは出来ないとカガリは首を振った。 「オーブの立場を思えば援軍の派遣は絶対に出来ない。」 カガリの言葉にアークエンジェルの面々は沈痛そうな面持ちで頷いた。 純粋に助けたい、守りたいという想いはあるがジブリールが逃亡した責任はオーブにある。 しかも逃亡したジブリールが起こした惨劇を思えば『むしのいい話』なのだ。 例えオーブが援軍を申し出たとしてもプラントの国民は絶対に受けないと叫ぶだろう。失ったものの痛みを思えばジブリール同様オーブを許す気にはなれないはずだ。 またここでオーブの理念が援軍派遣を拒否させる。 相手が個人であってもプラントは国家として動いている。『他国の争いに介入しない』という理念が響くのだ。 出来る事と言えばプラント損害を補う物資援助だがオーブも国土を戦場にしてしまい疲弊している。 まずは自国の復興を優先しなくてはならないオーブにそんな余力は無いのだ。 冷たいと言われようとも国家元首としてカガリがプラントの為に動く事は出来ない。 「わかってるよ。カガリ。」 キラが労わる様にカガリの肩を抱く。 少しの間だけとカガリはキラに寄り掛かった。 疲労の濃いカガリの表情に思うところがあるのかマユがカガリの軍服の裾を引っ張る。 「カガリおねーちゃん。疲れてるならベッド行く? それともおやつ食べる? マユのおやつ分けてあげる!」 キラから貰ったのかキャンディが小さな掌に二・三粒転がっている。 微笑み差し出すマユに少しだけ癒されたのかカガリはありがとうと答えて一つ手に取る。 口に含むと甘いイチゴの香りが口いっぱいに広がった。 久しく忘れていた小さな幸せを感じカガリが微笑むとラクスも安心したようで隣に立つハイネに目配せする。 ハイネはラクスの視線に応えて話を始めた。 「それじゃ、俺の推測に合わせてラクスが調べた議長の目的の検討を始める。」 緊張が走った。 これまで見えて来なかったギルバートの目的がわかるかもしれない。 自然とラクスが手にしているノートに注目が集まった。 何の変哲もない古いキャンパスノート。ラクスはきゅっとノートを抱え話し始めた。 「まず、申し上げたいのはこの戦いにおいて誰もが傷つき平和を願っていると言う事です。 幸福に暮したい。なりたい。その為には戦うしかないのだと、私達は戦ってしまいここまでやってきました。」 ラクスの言葉にメイリンが俯く。 彼女自身実感している事だった。 姉と二人で幸せになる為にザフトに入った。 戦わなければプラントを、幸せを守れないと信じて。 そしてアスランとザフトを脱出するまで、議長であるギルバートの『戦争を終わらせたい』という言葉を信じていた。 「議長は恐らく、そんな世界に全く新しい答えを示すつもりなのでしょう。」 言葉と共にラクスは抱えていたノートをテーブルに出した。 「議長の言う戦いの無い世界・・・人々が決して争う事の無い世界とは、生まれながらにその人の全てを遺伝子によって決めてしまう世界です。」 「遺伝子・・・で?」 マリューの呟きにラクスは頷く。 ナチュラルである彼女達にはかなりの衝撃なのだろう。 だがコーディネイターでありプラントの国民であるアスラン達は苦々しい想いでノートを見つめた。 遺伝子操作の果てに生まれた出生率問題。その打開策として布かれた婚姻統制は遺伝子解析により伴侶を決められる法令だ。 己の意思で生涯を共にする相手を決められない。 その事が苦痛でプラントから中立国へと移り住む者もいる中で、自分の生き方さえ決められたら自分達の心は耐えられるのだろうか? 《俺には出来ない。》 アスランは否定する。 だからザフトから抜け出したのだ。 ギルバートの思い描く未来の一端を垣間見た彼は、このシステムは絶対に受け入れられないと全身が叫ぶのを感じた。 開かれたノートの一ページの走り書きが暗澹たる未来を象徴している様に見える中、キラは答える。 「それがデスティニー・プラン・・・・。」 「生まれついての遺伝子によって人の役割を決め、そぐわない者は淘汰、矯正、管理される世界。」 「確かに、そんな世界なら本当は知らない自分自身や未来の不安から解放され、悩み苦しむことなく生きられるかもしれない。自分に割り振られた人生のスケジュールそのままに。何も感じることなく、ただ生きるだけの世界・・・。」 「コーディネイターの世界の究極。いや、最終形態か。」 皮肉気に答えるハイネだがその顔色は悪い。 メイリンも黙り込み何も答えられずにいる。 コーディネイターは遺伝子操作により進化した人類と言われているが、彼ら全員が遺伝子を信奉しているわけではない。 そもそも遺伝子操作は本人の意思が確立するよりずっと前、生命が命を形作る前の段階で行われるのだ。そこに自分の意思がない以上、遺伝子に対する考え方は皆違う。 それだけに恐ろしい。これから生まれる命がどのような認識の下に生まれてくるのか。 想像するだけで未来が暗闇に満ちている様に思える。 「そこには恐らく戦いはありません。 戦っても無駄だと、貴方の運命(遺伝子)が無駄だと言っていると、皆が知って生きるのですから・・・・・・。」 「だからオーブが邪魔だったんだな。」 ハイネの言葉にラクスは頷く。 彼女は議長の目的から、ハイネはザフトの行動や姿勢からオーブが狙われるとの結論に至った。 その理由がオーブの基本理念の根幹にある人の尊厳と、オーブの発言力だったのだ。 「でも、その世界に生きているのは『人』じゃない。」 キラの言葉にアスランは頷いた。 遺伝子による世界管理に人の意思が邪魔になるからオーブのように『人である事に拘る』国は邪魔だったのだ。 アスランは遺伝子が決めたパートナーであるラクスの手を取らない。 友人としては付き合えるが・・・自分自身の意思で選ぶのはキラだ。例え世界が否定したとしても抵抗する。 負ければマユの存在すら世界に否定されてしまうからだ。 「俺は・・・『人』でありたい。」 彼らが話を続ける間にもメイリンは以前自分が考えた事を思い返した。 人は考える。考えるのはそこに意思が存在するからだ。 自分は考えてザフトに志願した。その想いすら否定された気がして怖かった。 今、ザフトが作りだそうとしている未来が。その道を突き進もうとする姉を引きとめられない自分が許せない。 「無駄・・・なんでしょうか?」 メイリンの言葉に全員が注目する。 「自分が望む未来の為に足掻くのは、本当に無駄な事なんでしょうか。」 問いとは少し違う。 メイリンの意思は既に固まっている。 それを知りながらネオが流し眼でマリューを見やり呟いた。 「無駄・・・ねぇ。」 「無駄な事はしないのか?」 ハイネが全員を見回し問う。 だが誰もが意思を固めた表情を浮かべている。 わかっていても言葉に出す事は大切だ。一人アスランがハイネを真っ直ぐに見つめ返す。 「俺はそんなに諦めがよくない。」 「そうだね。」 キラが頷くと皆が答え始める。 「私もだ。」 「俺も。」 「そうね、私も・・・。」 「マユもーっ!」 マリューの言葉に続きマユが一生懸命主張しようと手を挙げている。 意味はわかっていないだろうが、懸命に自己主張をするマユを見る限り、彼女がギルバートの世界を受け入れる事はないだろう。 マユを抱き上げ「わかってるよ。」と微笑むとキラはアスランに向き直った。 「宇宙に上がろう、アスラン。僕達も。」 「議長を止める為に・・・?」 アスランの問いにキラだけでなくその場にいた全員が頷いた。 満場一致での決定にカガリも頷いた。 独立部隊のアークエンジェルが支援なしで宇宙に上がるのは危険だ。 これからのアークエンジェルに関する責任を背負うと言う意思表示にキラは微笑み返す。 「未来を作るのは運命(DNA)じゃない!」 * * * 既に月の最初の中継点での戦いが始まった。 一体何時発射されるかわからない恐怖の中、月のザフト艦隊は鉄壁の守りを敷く大西洋連邦軍と戦っていた。 本来はジブリール個人の軍隊ではない月の駐留軍が何故協力するのか。 それは大西洋連邦の大統領コープランドがただの飾りであり実質的な指導はロゴスが行っていたと物語っているのだろう。 だからこそ容赦はしない。 激しい戦いの中、ミネルバだけが参戦しない。 否、ミネルバだけが別行動していた。 「敵の守りは流石に堅いな。 ジュール隊がかなり善戦しているようだがまだ中継点に到達出来ていない。」 レイの言葉通りザフトは未だ中継点に一つも攻撃を浴びせる事が出来ない。 艦隊の守りを突破出来ずにいるのだ。 戦う間にもジブリールはプラントを撃つ為のエネルギーをチャージさせている。 もしかするとチャージが完了する前に撃つのかもしれない。その可能性を考えたギルバートの指示でミネルバは宇宙に上がった時の位置関係もあり単独での奇襲作戦を命じられた。 だが基地としての防御システムに残されていると推定される戦力は未知数。無謀と言える作戦に思うところがないわけじゃない。 実際、インパルスの・・・ルナマリア単独でのレクイエムへの直接奇襲にシンは反対した。 けれど彼女の硬い意思と本部から齎されたレクイエム建設時に掘られたと思しき試掘坑の詳細な情報提示により引き下がらざるを得なかった。 ルナマリアはまだオーブでジブリールの逃走を許してしまった自身の失態を挽回する機会を熱望している。その上、どうやって調査したのかと問いたくなるほどの試掘坑に関するデータを見せられては成功する可能性を考え、口を閉ざすのも当然と言えた。 プラントを守りたいという想いは同じなのだ。 【三人とも、準備は良い?】 通信モニターに映るタリアを見て三人は思い思いに頷く。 しかしタリアの様子がおかしい。 いつもは戦いになるときちんと切り替えて指示を出すタリアの声が少し震えている様に思えたのだ。 だがシンが問う前に通信は切られた。 「なんか・・・艦長おかしくなかったか?」 「それは恐らく、最初の攻撃で崩壊したコロニーに家族がいたからだろう。」 「え!? レイ、それって・・・。」 「艦長が安否確認の為に本部に通信を入れていたからな。 アビーからの情報だ。」 「じゃあ艦長の家族は・・・・・・。」 「夫はユニウス・セブンの・・・血のバレンタインで亡くなっているそうだが息子が一人いるそうだ。 だが艦長の息子アルバート・グラディスは大分前から行方不明になっていたとの報告が来ている。」 「それってどういう事よ。」 「ミネルバは連戦続きだったからな。次の戦いが常に控えている状態で艦長にそんな連絡をしては心を乱すと判断した本部が情報を止めていたらしい。」 「そんな酷いことを!?」 「だが艦長に知らせてアルバートが帰ってくるのか?」 レイの言葉にルナマリアは何も言えない。 遠いプラントで行方不明になった幼い息子。タリアがその事を知らされても動く事は出来ない。 不安を抱えたまま戦う事になるだけだ。しかも艦長交代は連戦連勝を続けるミネルバの結束に影響が出る。 上層部としては何も知らせずにタリアに戦い続けてもらっていた方が都合は良かったのだろう。 無論、人道的に批難されるべき行為だが、今までの戦いを振り返るとタリア以外の人間が突然艦長としてやってきて戦えていたと言われると少しだけ自信が揺らぐ。 共に闘い続けてきたタリアへの無意識ながらの精神的依存を思い知らされてルナマリアとしては首を振るしかない。 「本来なら情報は上層部が止めているはずだったが混乱の中での問い合わせだ。 秘匿情報と知らないオペレーターによって艦長へ報告されたらしい。」 「でも行方不明って・・・誘拐とか?」 「わからない。俺も詳しく聞かされているわけじゃないが黒髪の女性と行動しているところを見たという証言があるそうだ。 またアルバートの当日の様子から自発的に姿を消した可能性もあるとの指摘もあるな。」 レイの言葉にルナマリアが「そう・・・。」と返す間、シンは一人何やら考え込んでいた。 「アルバート・・・アルバート・・・・・・なーんかどっかで聞いたことあるような。」 「覚えがあって当然だ。マユと同じ施設に身を寄せていたんだからな。」 「あーっ!? いつもマユにひっついてたアイツ!!?」 「会う度にマユから引っぺがしていただろう。」 「ムカつくから引っぺがした後はマユしか見てなかった。」 「お前はそういう奴だよな。」 「シスコン・・・。」 マユ生存を知ったせいだろうか。シンのシスコンぶり復活に二人は呆れながら何やら嬉しそうに返す。 「何にせよアルバートの行方を知る為にも今は目の前の敵を倒さなければならない。 艦長もそれを知っているからミネルバから降りないんだ。」 「なら、私の任務って責任重大ね。」 「自覚しているなら行くぞ。時間がない。」 向かう先は自分達の剣。 今度こそジブリールを討つという使命に帯び、三人は進み続けた。 * * * 祈るしかない。それは何と言う苦痛だろう。 神に祈るばかりの神官や巫女の役割に疑問を抱いていた事がある。 けれど今はそんな彼らの気持ちを知った気がした。 跪き手を組んで空を見上げる様に顔を上げて祈る。 「お願い・・・どうか・・・・・・。」 フレイの呟きに幼い声が掛かる。 「誰に祈るんです?」 「アルバート・・・。」 振り返ればアルバート・グラディス少年がいた。 エターナルに来た時からアルバートは笑わない。 一度はエターナルから降ろされたが危険が去った事で再びエターナルへの乗艦を希望したアルバートにフレイは勿論、バルトフェルドも難色を示した。 『議長への切り札になるのは僕自身です。』 そう言って再びラクスとの会見を望むアルバートに二人はその言葉に隠れた意味を察した。 何故彼がラクスを探していたのか。ギルバートの望む世界を否定するのか。 彼自身を調べれば確証は得られるが、彼を使う事に躊躇いを感じるフレイの申し出によりアルバートを検査しようという意見は封じられた。 ラクスに判断を仰ぐ。 フレイの言葉に同意したバルトフェルドの権限で再びエターナルの乗艦許可を得たアルバートはプラントの崩壊で完全に感情を失くしたかのように怒りもしなくなった。 「泣いても何も変わらない。」 「わかっているわよ。そんなこと。」 淡々と言葉を続けるアルバートにフレイは立ち上がった。 祈っても何にもならない事はフレイ自身がよく知っている。それでも出来る事はそれだけなのだ。 オーブは立場上、レクイエムでの攻防戦に参加できない。アークエンジェルも今後のギルバートの行動を止める為に宇宙に上がると決めた。その為にオーブの第二宇宙艦隊所属となるアークエンジェルも単独での攻防戦参加は出来なくなったとターミナルから情報が上がってきている。 なら後はボルテールの、ジュール隊の仲間を頼るしかないのだ。 現在行方不明扱いのフレイが彼らにメッセージを届ける事は出来ない。 《イザーク・・・・・・。》 真っ直ぐな彼の事だからきっと最初の攻撃を止められなかった自分に憤っているだろう。 自分を責めてはいないか、傷つけてはいないか。 心配だが自分は傍には行けない。彼を支えている仲間がイザークを諌めてくれることを祈るだけだ。 「月の戦況はターミナルを通して刻時伝えられているわ。 どうやらミネルバはダイダロス基地にあるレクイエムを単独襲撃しているそうよ。」 「成功するんですか。」 「成功させるのよ。確率が低くても命令は絶対。 私は知っているわ。あの子達は強い。 二年前のキラ達のように、迷いながらも戦い続けているけど強いの。」 だから同じ過ちを繰り返させたくない。 そう願いながらもフレイには何も出来ない現実が歯痒かった。 「何で戦い続けるの。悲しいだけなのになんで繰り返すの・・・。」 「貴女が何を言いたいのかはわかりません。 僕の中ではっきりしているのは、お父さんが好きだと言う事。 お母さんと議長が許せないって事だけです。」 「それだけでここまで来たの?」 「僕にとってはそれが一番大切な事です。」 アルバートはモニターをつけた。 現在プラントに流されている月の戦いの様子。 放送元にフレイは驚愕した。 「戦闘の様子をライブで国民に流しているの!? しかもこれは・・・。」 「ミネルバですね。お母さんが指揮している戦艦。」 「中継点じゃない・・・ミネルバ単独のレクイエム強襲作戦。 なんて無茶な事をさせているの!? もしもの事があったらパニックは倍増するわ!!!」 けれどギルバートは許可した。ならば彼には自信があるのだろう。 ミネルバがこの作戦を成功させるという確信を持っている。 理由が、もしもラクスが指摘した遺伝子解析によるものなのだとしたら・・・・・・。 「全ては可能性でしかありません。 それを議長は理解していない。」 「アルバート・・・・・・。」 「ギルバート・デュランダルとタリア・グラディスが別れたのは婚姻統制で子供を授かる可能性が非常に低いと指摘されたからです。 子供が欲しかったお母さんは好きなのに議長と別れた。 けれど婚姻統制で定められた相手と結婚したにも関わらず子供に恵まれない夫婦は多いんですよ。」 何ででしょうね? 問うアルバートにフレイは返す言葉がない。 彼の言いたい事はわかっていた。 所詮確率は確率。ゼロで無い限り諦めないと言う人間が限りなく低い確率に挑み成功させてきた例は少なくない。 歴史を紐解けばそういった事例はいくつも出てくる。 逆に成功率が高いにも関わらず失敗する例もあるのだから確率が高くても成功しないのであれば理由は他にもあるのだろう。 《・・・人の心だけは、確率で語れない。》 もしギルバートが真実を知ったら彼はどうなるのだろう。 そして世界はどうなっていくのだろう。 「アルバート、貴方は祈りを無駄だと思う?」 「・・・いいえ。人が人を想う心を無駄だと決められる人間はいません。」 アルバートの言う通り、人が人を想う心を無駄と決められる人間はいない。 心だけは自由に持てるのだから。 もしもそんな無駄と言いきれる存在がいるのだとしたら・・・。 「・・・神様だけよね。」 「僕は神なんて信じない。」 アルバートの言葉にフレイは応えなかった。 * * * 「デストロイ三機も出したのだぞ・・・たった三機のMSで、ここまでしてやられるとはどういう事だ!!?」 ジブリールの怒りの声に応える声は無い。 皆、この基地を守る為に必死なのだ。上から命令するだけの男に構ってはいられない。 そんな中、新たな警戒音が鳴り響く。 「第六区に新たな敵MS!」 「何!? 別動隊か!!!」 オペレーターの声に司令官の一人が動揺するが状況は変わらない。 続けて報告されるデストロイや機動隊の応答がないという現実。 先程報告された第六区はレクイエムの発射口近く。レクイエム本体が攻撃されては全てが水の泡になる。 臨界を待つ前に撃つか。 ジブリールが迷った直後に悲痛な叫びが上がった。 「第一中継点フォーレの守備部隊壊滅!」 「このままではフォーレも落ちます!」 司令官の言葉にジブリールは歯軋りする。 迷っている暇はないのだ。 「レクイエム発射! フルパワーで無くても良い!! アプリリウスに打撃を与えるのだ!!!」 贅沢は言っていられない。臨界を待てばフォーレかレクイエムどちらかが先に落とされるだけだ。 威力が落ちても今フォーレに群がるザフト軍のいくつかを飲み込みプラントに打撃を与えれば戦況を覆せるかもしれない。 今はそれに賭けるしかないと決断した瞬間に更なる報告が届く。 「駄目です! フォーレに異常発生、ポジション取れません!!!」 今度こそジブリールは愕然とした。 僅かな差でザフトの方が先にフォーレに致命的な打撃を与えていたのだ。 もうプラントを狙う事は出来ない。やがてフォーレは落ち、残ったザフトの部隊はそのままこちらに向かってくるだろう。 「駄目ならそれでも良い! フォーレにいる奴らだけでも撃てっ!!!」 「それでは終わりです。次のチャージまではとても―――」 「いいから撃てっ!!!」 反論した司令官にもわかっていた。 これが足掻きであり、既に自分達は負けたのだと言う事を。 負けを知りながら足掻き続けるジブリールと違い彼はこの基地にいる全ての軍人を預かる身だ。 降伏しなくてはならない今、彼らの身の安全を考えるのであれば無駄な足掻きは認められない。 だからこそジブリールの言葉に従えぬと答えようとしたその時、ジブリールの目が怪しく光った。 「その隙に脱出する。」 囁かれた声に司令官は蔑みの色を乗せた目で返すがジブリールの態度は変わらない。 「君は実によくやってくれた。共にアルザッヘルに逃げれば、また・・・・・・。」 最後の囁きで司令官の表情が変わった。 陥落した基地の司令官と言う屈辱と新たな未来を切り開くかもしれない軍人の道。 希望を見出し部下にレクイエム発射準備を急ぐ命令を出す。 そんな司令官の背中を見つめながらジブリールはうんざりしていた。 《何故、こうも簡単に目先の利益しか見ないのか。》 オーブの軍人も同じだった。 ウナト・エマ・セイランは自分を売り渡そうとした憎き相手だがその信念には共感していた。 彼は己の欲よりも国の未来を憂いていた。 コーディネイターを認める人間でなければ仲間に引き入れたい人物だった。 だがそれは叶わないと知っていたから彼の周りにいる者達を引きいれたのだ。 何故彼らはジブリールの言葉に乗ったのか・・・正直呆れてしまう。 《私が裏切り者を本当に優遇すると思ったのか?》 ダイダロス基地に着いた直後、共にシャトルに乗って来たオーブの軍人とは別れている。 彼らがどうなったかは具体的には知らないが、司令官から処分は済んだと報告を受けているから彼らはもうこの世にはいないのだろう。 彼らを処理したにも関わらず彼は疑っていない。 つまり自分こそは選ばれた者だと信じているのだろう。 《愚かだな。選ばれるのは一人だけなのに。》 歩き出すジブリールに迷いは無い。 《私こそが神に選ばれた人間なのだ。》 この時点でジブリールは気づいていなかった。 それこそが根拠のない驕りである事に。 * * * フォーレが落ちた。 その報告がアビーから飛び込んできたシンに広がったのは高揚感だった。 後はレクイエム本体のみ。 第一中継点が使えない以上、プラントが狙われる心配は無くなった。 だが大元のレクイエム本体はまだ健在だ。第一中継点にいる部隊が撃たれる可能性がある。 「レイ、ルナは・・・っ!」 【心配するな。基地はほぼ壊滅状態。 だが脱出する奴らがいるかもしれないな。】 「まさか・・・ジブリールがまだ!?」 【可能性はゼロじゃない。俺は基地の裏手を見て来よう。 残りはお前一人で大丈夫か?】 「当り前さ!」 【ならルナマリアの事も信じてやれ。彼女は一人でもやり遂げられる。】 言って通信を切りレジェンドは基地の裏手へと飛び立った。 その姿を視界の端で見送りながらシンは残るウィンダムの掃討に移る。 「いつまで続けるんだ!」 吼えると同時に放たれたデスティニーのビームが次々にウィンダムを落としていく。 次の相手へと向かおうとした瞬間、閃光が走った。 どごぉおおおおぉぉぉ・・・・・・・・ 高々と吹きあがる爆煙。 位置を確認するとルナマリアが向かった場所から上がっている。 「それじゃ・・・ルナ・・・・・・っ!」 【・・・やった・・・シン・・・・・・・今度こそ・・・あった・・・。】 直後に雑音混じりにインパルスからの通信が入る。 爆発の影響で電波障害が起こっているがルナマリアが無傷である事はやがて爆煙の向こうから姿を現したインパルスが証明していた。 涙交じりに報告してくる声にシンも喜びを禁じえない。 「よくやったルナ!」 デスティニーの興味がインパルスに移っても攻撃は仕掛けられなかった。 司令塔陥落に次々に降伏信号を出してくるMSにミネルバが応答する。 がごぉおお・・・ 基地裏手で新たな爆発が起きた。 「レイ!?」 モニターを拡大するとブリッジをぶち抜かれ黒煙を上げて落ちていく戦艦が映し出された。 その傍で虚空に浮かぶレジェンドが爆発の光で照らされている。 「レイ! 今のはまさか!!?」 【ジブリールを乗せた逃亡艦と判断した。】 「それじゃあ・・・。」 【もしも乗っていなくても基地に残っている可能性は高い。 基地を調べればはっきりする。 どちらにしろ俺達の悲願が達成されたと言う事だ。】 【それじゃあ私達今度こそ・・・。】 【ルナマリアもよくやった。漸くロゴスを滅ぼす事が出来た。 胸を張っていい。俺達はやり遂げたんだ。】 レイの言葉にルナマリアの嗚咽が響いて来た。 プラントが攻撃され数基のコロニーが落とされる悲劇にルナマリアはずっと押し潰されそうになっていたのだろう。 決して彼女一人の責任ではないが、ジブリールを止められる最後の機会を逃したという事実が彼女には重かったのだろう。 「これで・・・・・・終わる。」 胸の中に広がる安堵感。 戦いが終わったらマユを取り戻さなくてはならない。 《オーブから、マユを。》 「会いたい。」 視線の先には月の向こうの青い星。 あの星の何処かにいるマユに伝えたかった。 もう自分達は何も失わなくて良いのだと、最愛の妹に伝えたかった。 * * * 月のダイダロス基地制圧と第一中継点フォーレ陥落の報告はほぼ同時にギルバートに届けられた。 安堵に満ちた顔で報告を終えた部下が退出するとギルバートは何もない空を見やり呟く。 「ありがとうジブリール。 そして―――サヨナラだ。」 誰に聞かれる事の無い言葉はギルバートが待ち望んでいた瞬間を意味していた。 《長かった・・・。》 実に長い時間だったと思う。 計画立案から全ての出来事はギルバートの予定表通りだった。 アーモリー・ワンの襲撃、ユニウス・セブン落下による地球壊滅作戦、黒海でのオーブの戦力の削ぎ落としからユーラシア西側の三都市破壊行為すらギルバートの予定表に書き込まれている出来事だった。 無論例外が無かったわけではないが全ては修正可能範囲内のこと。 ギルバートがここまで彼らの行動を予測できたのは遺伝子解析によりジブリール達の才能の限界を知っていたからだ。 後は彼らを取り巻く環境と情勢を計算に入れれば良い。 予定通り過ぎる中の例外はマユを中心にした関係者だった。 《アークエンジェル、ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハ、アスラン・ザラ、そして・・・・・・。》 「キラ・ヤマト。」 ギルバートの友人ラウ・ル・クルーゼが世界を憎悪した原因。 彼女が知らぬ間にギルバートが目をつけていたシンと関わっていたのは計算外だった。 だが修正可能と判断したギルバートはレイをシンにつけ様子を見る様に伝えた。 ラウ・ル・クルーゼの分身レイ・ザ・バレル。 彼ならばやれると確信し、レイがミネルバ所属となった後も密かに指令を出し続けていた。 そんな彼が、シンのステラを連合への引き渡すのを協力したとの報告に驚きもしたが、その後もギルバートに逆らう様子は無い。意外な一面を知りながらもレイに叱責するだけで済ませた。 だが、先日の通信でレイはまた表情を曇らせていた。 ぴーっ 通信の呼び出し音にギルバートは思考を停止させる。 応答ボタンを押すと月にいるミーアの護衛サラがモニターに映し出された。 【議長、予定通りアークエンジェルは月の中立都市コペルニクスに入港しました。】 「そうか・・・ミーアの様子は?」 【少々精神的に不安定ではありますが作戦に支障はないかと。】 「わかった。よろしく頼む。」 【では私はこれで・・・。】 「いや、待ってくれ。一つだけ・・・追加したい事がある。」 【何でしょう?】 サラの意外そうな表情にギルバートは苦笑する。 思えば自分がこうして予定を変更する事は珍しいのだから仕方がない。 「もしもラクス・クラインと共にマユ・アスカが行動していたら・・・・・・。」 【マユ・アスカ・・・オーブの声明発表に出てきた少女ですか?】 「そうだ。彼女を保護して欲しい。 だが最優先はラクス・クラインだ。可能であるならばで構わない。」 【承知しました。それでは失礼いたします。】 挨拶と共にサラの姿がモニターから消える。 真っ暗になったモニターを見つめながらギルバートは自嘲の笑みを浮かべた。 続く ここまで来たぞ! 頑張れ自分!!! 2008.7.20執筆時のSOSOGUの戯言です・・・。 残ってたので載せてみました。(苦笑) (2008.11.22UP) |
次へ NOVEL INDEX |