〜再会という名のトラブル〜 突如現れた新型MS。 奪取された他のMSと対峙しているところから見て『敵では無い』と判断して間違いないとアスランは考えた。 だが敵は奪ったばかりだと言うのにMSをいとも簡単に操っており、相手は二機。 周囲のザフトのMSは殆ど破壊されて味方がくる様子が無いことを思うともう一機のMS気づいてやってくるのは時間の問題だった。 ガシィッ! MS同士が切り結ぶ音が辺りに響き渡った。 その音を切っ掛けにアスランは決断する。 「二人とも・・・。」 「何?」 「掴まってろっ!」 「うわぁああっ!!?」 返事も待たずに手にした操縦桿を前へと倒すとシートの後ろにいる二人の悲鳴がコクピット内で響いた。 前後を挟まれる形で戦っていたインパルス。けれど相手はインパルスと同時期に作られていた新型機二機。テストパイロットとしてインパルスの扱いには慣れていても本当の戦闘は初めてのシンにはあまりにも不利な状況だった。 そしてシンの脳裏に浮かぶのはもう一機のMS・・・アビスの存在。 《三対一になったらどうなるかわからない。援軍はまだなのか!?》 ドゴォッ! 天からの助けと言うより地の助け。 先ほどシンが助けたザクウォーリアがガイアに体当たりで退ける。 一瞬の間、カオスが仲間に気を取られた隙にシンはエクスカリバーを掲げて切りかかるがギリギリで避けられてしまう。 「くそっ!」 思わず零れる舌打ちを聞きつけたかのようにミネルバからの通信が入る。 『シン! 命令は捕獲だぞ!?』 ミネルバの副官アーサーの声だった。 だが今更言われなくとも命令を受けたのはシン自身だからわかっている。 《これだから現場を知らないヤツは!》 「わかってますよ。でも、出来るかどうかわかりませんよ! 大体どうしてこんなことになったんです。 こんな・・・・・・こんな簡単に・・・・・・・・・っ!!!」 『今はそんな事を言っている場合じゃないでしょ。 訓練でもないのよ。気を引き締めなさい!』 ピシャリと二人の言い争いを切り捨てる女性の声が響く。 ミネルバ艦長タリア・グラディス。29歳の若さで最新鋭艦の艦長に任命された事でザフト内では色々な噂を生み出した人物である。 だがタリアの言葉は間違ってはいない。 シンの目の前には正体がわからないが自分達と敵対する者が奪取した新型MSがあり、彼らがアーモリー・ワンに甚大な被害を与えた事は変えることの出来ない事実。 ならば今彼らに対抗できるシンが出来うる限りの事・・・・・・戦いをするしかないのだ。 通信を打ち切り再びエクスカリバーを構えるインパルスの前に現れたのは先ほどの二体とは違う蒼い色の機体。懸念していたアビスが現れた。 「くっそぉおおっ!!!」 「アスラン! カガリさんがっ!!」 「何っ!?」 ミリアリアの言葉にアスランが振り返ると抱えられた状態のカガリの額から血が流れている。 咄嗟にインパルスに手を貸した為に彼女に怪我をさせてしまった事を悔やみながらアスランは戦場から後退した。 《俺のミスだ・・・増援部隊も漸く来たようだし、あちらは大丈夫だろう。》 モニターを見ればバビを始めとしたザフトのMS部隊が空から舞い降りて来る。 元々自分達が関与して良い戦闘では無い。そう自らに言い聞かせながらアスランは撤退した。 ミネルバでは次々に入ってくる情報にクルーが慌しく走り回っていた。 格納庫は勿論の事、ブリッジや各部署は推進式前にも関わらず突如始まった戦闘の為にのんびりなどしていられる状況では無かった。 そんな中にミネルバ内に現れた二人の人物を見かけたヴィーノは通路中に響き渡るような大きな声で叫ぶ。 「動くなっ! 何故此処に民間人がいる!?」 銃は持っていない。だが自分の声で異常を感じたクルーが集まってくる足音を聞き取っていたヴィーノは警戒しながらも二人の行く先を阻むように立ち塞がった。 「何故・・・ね。許可を取らなかったのは悪いとは思ったけどこちらもちょっと急ぎなのよ。 直ぐそこの資材置き場で怪我をした民間人の少女の治療をお願いするわ。 頭も打っているようだから念の為に検査もして頂きたい。」 「嘘を吐くな。軍港への民間人の入港許可が出る無いだろう。」 「この子は民間人なのは確か。けど私は違うわ。 認識番号710315ジュール隊フレイ・アルスターです。 マザーコンピュータに照会すれば確認は取れます。・・・民間人を連れ込んだ責任を問うというならば資材置き場なんて危ない場所を『家族との面会場所』に指定した上層部に逆にお伺いしたいものだけれどね。」 厭味を含んだフレイの言葉にヴィーノは判断に迷ったが、彼女に抱きかかえられた幼い子供の姿に漸く頷き医務室へと案内した。 轟音が未だ聞こえるミネルバの中、医務室で治療を受けたマユはフレイが考えた通り脳震盪と判断され、しばらくすれば目を覚ますと医者は答えた。 けれど中々目を覚まさないマユを動かすことに不安を覚えフレイが付き添っていたところ、突如アラームが鳴り響いた。 全艦に発せられたコンディションレッド発令の放送。 予想外の出来事にフレイは天井から鳴り響くその声に動揺する。 《この艦・・・戦闘に出るの!? 推進式も済ませていないミネルバが緊急発進するなんて・・・そんなに事態が切迫してるなんて!!!》 マユをどうするべきか。 咄嗟にフレイは医師に判断を仰ごうと振り返るが医師も弱り顔で首を振った。 今更降りる事は出来ない。 発進シークエンスは既に始まっており、マユの状態を思うと降りる事もままならない状態。 フレイは良い。部隊は違っても彼女はザフト軍人であるのだから本部へ連絡を取り指令が下されればそれで終わる。 だがマユは・・・・・・。 《・・・開き直るしかないわね。》 今更どうにもならないなら考えても仕方が無い。 眠り続ける幼子の髪をそっと撫でるフレイの耳に医務室のドアが開く音が聞こえた。 怪我人かと思い振り返ったフレイの目に映ったのは立ち尽くす4人の人物。 先導してきたと思われるザフトレッドのルナマリアの背後にいる3人の中2人をフレイは知っていた。 「いやぁあああっ!? フ・・・フレイっ!!?」 「ミリィ!? それにカガ・・・・・アンタが何で此処にいるのよ。」 「やだ来ないでぇっ! 友達でも何でも幽霊だけはダメなのよぉっ!!!」 「・・・・・・・・・はぁ? ちょっとミリィってば。」 ずずぃっ 突如涙目で叫び出す友人ミリアリアの姿に怪訝そうな顔をしてフレイは近寄ってみた。 けれど顔面蒼白のミリアリアは目前に迫ったフレイの姿に精神が耐え切れなくなったのか・・・・・・・・。 こてっ 「おいミリアリア!? しっかりしろ!!!」 「揺らすなアレックス。すまないが横になれる場所は無いか。 彼女をベッドで休ませたいのだが。」 「え? あ・・・・・・はい。ではこちらのベッドに。」 その場で気絶して倒れかかったミリアリアをアスランが抱え込むようにして支える。 冷静なカガリは盛んにミリアリアを揺り起こそうとするアスランを止めて案内してきてくれたルナマリアに話しかけた。 状況がわからないまでも病人は病人。 ルナマリアは医師に目配せしアスランを空きベッドへと案内した。 再び増えた病人&怪我人に医師は治療の為に大忙し・・・でもない。 現在医療用のベッドに横たわるミリアリアは単に気絶しているだけ。放っておいても目覚める事は誰にでも予測出来、カガリはアスランに傍に付き添うように指示し看護師から怪我の治療を受けていた。 けれど医師としては事務仕事が増えてしまいブツブツ文句を言いながら書類を書き続けている。 暫くはそのままで大丈夫とフレイは目の前にいる人物、カガリ・ユラ・アスハと情報交換を始めた。 「へぇ・・・極秘会談ねぇ。これだけ大勢にばれてて極秘も何もあったもんじゃないわね。」 「言うな。こっちも色々あったんだ。」 確かに色々とあった。正直言いたくもないけれどオーブに戻れば首長達に報告しなければいけない事に漸く思い当たり、カガリは溜息混じりにフレイの言葉に答えた。 その事にフレイも思い当たったのかフォローのつもりか更に言い募る。 「いいけどね。ミネルバ艦内だけだから議長が緘口令は一応布いてくれるでしょ。 ところで何なのよミリアリアのあの反応! ザフトに入る前にアンタに皆に私の生存報告しておいてって連絡しておいたのにまるで死んでいると思い込んでましたって感じじゃないの。」 「私は言ったぞ。キサカに伝えるようにちゃんと命令しておいた。 行政府もてんてこ舞いの状態だったから連絡を取る余裕が無くてな。 アークエンジェルにいたメンバー全員に伝わるように連絡網の大元に話すように指示したんだ。 キサカも連絡を取ったと報告してきたから私も安心していたが・・・・・・これは何処かで情報が止まっているな。」 「誰よその大元。」 「コーヒーマニアの虎。」 《ここでヤツの本名を明かすわけにはなぁ・・・。》 ザフトではストライクとの戦いに敗れながら奇跡の生還を果たした戦士というだけでなく、先の大戦末期にラクスと共にエターナルでプラントを飛び出した艦長として『非常に有名な人物』である人物を思い出しながらカガリは思う。 イザークやディアッカは軍事裁判を受けてザフトに復帰したが、彼はそのまま逃亡兵扱いとされている。 現在オーブに潜伏している事を公に知られれば大問題に発展するのだ。 更にそれを『カガリが知っている』事も大きな問題になる。国家元首である彼女が情報を隠匿していたとしてプラントからその事を突かれれば唯でさえ不安定なオーブが揺らぎかねない。 《ホント、苦労が絶えないな。》 カガリが再び溜息を吐き俯く様を見てフレイは敢えて彼女の比喩には触れずに会話を続ける。 「ラミアス艦長じゃないの?」 「別の仕事が忙しかったらしい。」 「問題は何処で連絡が止まっているのかよね・・・。 でもラミアス艦長に連絡がいっていれば少なくともサイやミリィには伝えてくれるはずだし。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところでキラには?」 「あの頃はマルキオ導師のところで静養していた時期だから私は直接会っていない。 それに連絡ついていると思っていたから・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 フレイの沈黙に恐る恐るカガリは顔を上げる。 人為的に重力を発生させている医務室内であるというのにフレイの髪がふわふわとたなびいている様が彼女の怒りを示していた。 「やっぱキラには絶対伝えないと拙かったんだよな。」 「あったり前でしょーがっ! 何の為にいきなり国家元首に連絡取ったと思ってるのよ。」 「アレにはキサカを始め閣僚全員が呆れていたぞ。ちょっと面識があるくらいでろくに話したことの無い私に私的な用事で連絡を取ってくるなんてって。」 「ちょっとだろうと欠片だろうと伝手があるなら何でも利用するのは当然の事。 何しろ他に連絡先がはっきりしている人なんていなかったんだもの。」 《《《だからって普通は国のトップにダイレクトに連絡取ろうなんて思わない。》》》 胸を張って言い切るフレイの姿に周りは言葉には出さないまでも心の中で突っ込みを入れるが声には出さない。出せない。 ブリッジへの通信でカガリ達の乗船・治療の連絡を終えたルナマリアが振り向くとカーテンを締め切ったベッドからうめき声が聞こえてきた。 「うう・・・・・・。」 「気が付かれましたか。」 「ミリィ!?」 「下がれフレイ。私がまず話をする。」 「何でよ。」 「今のミリアリアじゃまたパニックを起こしかねないぞ。 説明が終わるまで待ってろ。」 友人の意識が回復したとしると直ぐにベッドに駆け寄ろうとしたフレイをカガリが押し止める。 《確かにまた気絶しかねないもんね。》 後ろでの二人のやり取りに苦笑しながらルナマリアはカガリの為に場所を空ける。 先ほどのパニック振りにはカガリは戸惑いの表情で声をかけた。 「大丈夫か? ミリアリア。」 「カガリさん・・・・・・あれ? 私どうしたんだっけ。 確か怪我の手当ての為に医務室に移動して・・・・・・それから・・・・・・・・・。」 ガタガタガタガタガタ 先ほど見た存在を思い出したのか顔を蒼くして震えだすミリアリアにカガリは宥める様に肩を叩き語り掛ける。 「落ち着けミリアリア。アレは幽霊なんかじゃない。」 かっちん☆ 《アレとは何よアレとはっ!》 《落ち着け! 何だかよくわからないし誰だか知らないけど今は落ち着くんだ!!》 説得の為とはいえカガリの言葉に思わずカーテンの向こうのベッドに殴りこみにでも行きそうな勢いのフレイにアスランが慌てて止める。 けれど次の二人の会話が更にフレイの怒りを買った。 「じゃあ何だって言うの!? ただの幻? 他人の空似とでも!!?」 「だから、幽霊じゃない。そして幻でも他人でも無い。 生きたフレイ・アルスター本人だ。お前達に連絡を取るように言っておいたんだが・・・どうやらオーブ内で情報が止まったらしい。 確認と取らなかった私のミスだ。」 「嘘吐けぇええっ!? あの状況のあの爆発でどうやったら生きてるっていうのよ!? 生きてたらゾンビかエイリアン。とにかく人外生物よ!!!」 「誰が人外生物よ! 黙って聞いてれば失礼にも程があるわよミリィ!!」 「いやぁあっ! デタ―――ッ!!!」 「勝手に人を殺さないでよね!」 「おい静かにしろ。」 「だってぇっ! ふつーなら死んでるって!!」 「だから生きてるの!」 「あーもー落ち着けっ!」 ごっちん★ 「「うう〜ん」」 カガリによって互いの頭を打ち合わせてこってりと倒れる二人。 けれどカガリは気づいていないのか倒れた二人に向かって説教を始めた。 「全く此処は医務室なんだぞ? 静かにしろと言っているのに人の話を聞かずにぎゃーぎゃーと・・・。」 とんとん 「ん? アス・・・じゃないアレックス?」 「二人とも聞いてないから。」 アスランの言葉に漸く状況を認識し「ちょっとやり過ぎたか。」と呟く『オーブの国家元首』を見て、ルナマリアを始めとした医務室にいるザフト兵は思った。 《《《大丈夫かな、オーブ。》》》 大胆不敵な強襲に想定外の逃亡法。 アンノウン改め仮名『ボギーワン』を取り逃したタリアは口元を歪めて星の海しか見えないモニターを睨む。 突然の事態に推進式を済ませないまま出航したミネルバ。初戦は黒星だった。 まだ就任したばかりの新米艦長。そしてクルーの殆どはアカデミーでも優秀な成績を修めたと言っても実戦を知らない若者ばかり。 相手の大胆な行動から敵は「歴戦の戦士」と思われる。 それを思えば「仕方が無い」のかも知れない。けれど奪われたのはプラントが数の劣勢を技術でカバーしようと開発した新型MSである以上、プラントの守り手であるザフトとしては「仕方ない」では済まされないのだ。 《追撃は続ける。何として彼らを仕留めなくてはならない。 敵発見に備えて少しでも体勢を整えないと・・・・・・。》 確固たる決意を胸に「コンディションイエロー」を発令して一息吐いたタリアに避難を兼ねてミネルバに乗り込んでいた『プラント最高評議会議長』が宥める様に言った。 「そう肩肘張ってもどうにもなるまい。条約に甘えてアーモリー・ワンの警備強化を怠った私の責任でもあるのだ。 まだトレースが可能なのだから少し気を楽にしたまえ。」 《《《んな事言われてリラックス出来るのは状況理解してない人間です。》》》 タリアの後ろに座る議長ギルバート・デュランダルの言葉にブリッジにいた全員の思いは一つ。 更にプラント最高の地位、悠然と笑う表情や豊かで艶やかな海の海草の様な髪が妙にタリアの癇に障った。 「実は敵を取り逃した私を馬鹿にしてるでしょ・・・。」 思わず呟いたタリアの声はあまりに小さく、言葉を捉えたのは傍に控えていたアーサーのみ。 暫くは胃の痛くなる時間が続くと嘆息した彼の耳に届いたのは艦内通信。ブリッジへの直接コードに不審に思いながらタリアが通信オンにするとバインダーを持ったルナマリアがモニターに映った。 突然の襲撃にザクウォーリアで出撃したものの機体の故障で撤退せざるを得なかった彼女だが怪我はないと聞いていた。 実際に見たところルナマリアに怪我をしている様子は無い。 《それなのに何故?》 そんなタリアの疑問に応える様にルナマリアは話し始める。 【戦闘中の為、ご報告が遅れました。 本艦発進前にミネルバ乗員ではない非番の女性兵と負傷した民間人の少女を収容。 まだ確認は取っておりませんが女性はジュール隊所属と名乗っております。民間人の少女は・・・・。】 おにーちゃんどこぉおおっ! うわぁああん!!! 【え! 子供ぉっ!!!】 ルナマリアのいる医務室からだろう。 通信マイクを通して問題の【民間人の少女】と思しき泣き声が聞こえている。 声に気づいて慌てたルナマリアがモニターに背を向けた瞬間。横からスイっと現れた私服姿の少女がルナマリアを押しやって話し始めた。 ルナマリアやメイリンとは違う色合いの燃えるような赤い髪をした少女に見覚えがあるのかギルバートが目を細める。 【報告代わります。 民間人の少女の名は《マユ・アスカ》です。怪我の詳細についてはまた後ほどご報告します。 そしてミネルバ発進直前にザクにて避難して来た民間人が三名おります。 こちらはオーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハ氏とその随員の方々です。】 「その三人が本物という保証は? そして貴女は誰なの。」 きっぱりとカガリの身分を言い切った少女にタリアは不審気に訊ねると、赤い髪の少女・・・気絶から回復したフレイは物怖じする様子無くはっきりと答えた。 少々気になるのはおでこの部分がうっすら赤く腫れているように見えることだろう。 【申し遅れました。先ほど報告にありましたジュール隊所属フレイ・アルスターです。 『ボランティアでこちらのパイロットの家族面会に付き添って』おりました。 しかし『上層部が指定した面会場』に『何故かミネルバ用の資材が』落ちてきまして、『面会に来た少女が頭部を負傷し早急に医師に診せる必要がある』と判断して一番近いミネルバに運び込みました。】 《怪我したの貴女じゃないの?》 そんな突込みを入れそうになるが報告を全て聞くことが先決とタリアはぐっと堪えて次の言葉を待つ。 【またアスハ氏に関しては先の大戦の折に面会した事があり、随員の一人はオーブの友人であった為に本物と判断致しました。】 報告を聞く限り・・・暗に上層部の『嫌がらせ的な場所指定』を理由に責任の所在はザフトの上層部にあると言外に伝えるフレイにタリアは頭痛を感じる。 これからタリアは上層部に糾弾される側である。 民間人の少女の事を話せば逆にその責任を押し付けられる可能性があるのだ。 《あーもー何だってこうも次々と問題が起こるのよ!》 「なるほど、その『面会場所を指定した人物』については査問会を開く。 詳細報告は私宛に出してくれアルスター君。」 「議長!?」 いつの間にか後ろの席から艦長席のタリアの傍らに移動していたギルバートが淡々とした様子でフレイの言葉に答えた。 【覚えていらっしゃいましたか。】 「カナーバ前議長から聞いたことがあるのでね。 あの不沈艦アークエンジェルに所属していた上に殉職された大西洋連邦事務次官のご令嬢とあれば尚更だ。」 ざわり ギルバートの言葉にブリッジの空気が変わる。 会話から連想される「ナチュラル」「元地球軍兵士」「大西洋連邦関係者」というキーワードに私服姿でモニターに映るフレイへの関心が集まった。 ブリッジの空気が伝わってはいないものの医務室にいるフレイはその言葉で皆がどんな反応を示しているのか予測できたのだろう。 尖った声でギルバートに答える。 【それが今の私に関係あるとでも?】 《《《議長、何て答えるんですか!?》》》 修羅場を予感してちょっぴりドキドキしながらギルバートに注目するブリッジ組。 本来ならその視線を窘めるべきタリアも興味津々の様子でギルバートの反応を窺っていた。 が、 ママっ! ママァ〜〜〜!!! えええっ! カガリさん子供いたの!? んな訳あるか! 大体私はこんな大きな子供にママに間違われる年齢じゃない!! 駄目よこの人はママじゃないわ! あなたシンの妹のマユちゃんでしょ!? ちょっと誰か格納庫に連絡してシンを呼んできて!!! ちがうもん! ママだもん!! マユずっとまってたからママがむかえにきてくれたんだもん!!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 突如起こった騒ぎに緊張感はぶち壊し。 ブリッジでも張り詰めた空気が急に和らぎ、逆に動けなくなって皆モニターを凝視したまま動かない。 数瞬ほど流れた気まずい雰囲気に終止符を打ったのはバインダーに視線を向け直したフレイだった。 【少々トラブルが起こりましたがアスハ代表から事態の説明と今後の動向に関しての面会要請を受けておりますので、議長もお疲れのところ申し訳ありませんが面会場所の確保が出来次第医務室へご連絡下さい。 グラディス艦長。突然の事態の為に乗り込むことなりましたので今後の私の処遇に関してのご判断、そしてジュール隊への連絡と軍服の支給も可能ならば手配をお願い致します。 では後ほど。】 ぴっ 軽快な電子音と共に真っ暗になる。 くっくっくっくっくっくっく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 不気味に響くはプラント最高評議長ギルバート・デュランダルから零れる含み笑い。 正体不明の敵にトラブルだらけのミネルバ。 ブリッジにいた人間の思いはひとつだった。 《《《帰りたい。》》》 けれどミネルバの行く先は暗い星の海とそこに隠れるボギーワン。 彼らはまだ知らない。 これから始まる大騒動を。 これまでのトラブルは序章に過ぎないことを。 つづく 思ったより時間を食ってしまいました。 とりあえず5話UPです。直ぐに続きに取り掛かろうとは思うのですがそろそろ原稿に取り掛からないとヤバイのでとっかかりだけ書いてある作品と平行して書いていこうと思います。 2005.11.20 SOSOGU |
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