〜いぬみみネコミミうさぎみみ〜 ザフトの最新鋭の戦艦ミネルバ。 ここでは戦艦に有るまじき光景が当たり前の様に見受けられる。 その原因は何時だってミネルバのマスコット的存在なのだがその事はさておくとする。 マスコットに魅了されてはしゃぎ回る黒髪の少年パイロットは十分問題だかそれもさておくとしよう。 今更彼に何を言っても無駄だからだ。 しかし今現在目の前にある存在はどう受け止めるべきか。 マッド・エイブスは暫しの沈黙の後、デジタルカメラを構えた。 事の起こりはやはりマユ。 彼女はシンから譲り受けたトリィとアスランに作ってもらったハロ、更にギルバートから貰ったお菓子と玩具に囲まれてご満悦。 割り当てられた『お仕事』も終えて貰った画用紙とクレヨンでお絵かきをして遊んでいたが飽きてしまい、クレヨンを放り出した。 カタヅケ! カタヅケナアカンデー!! ぴょんぴょん飛びながら注意するハロにムゥっと剥れながらもマユはクレヨンを箱にしまい定位置へと置く。 先日放り出したままだった為にお気に入りの桃色のクレヨンをレイに踏み潰された事は記憶に新しい。 注文はしたものの箱は一本だけ欠けた状態で新たなクレヨンを待っている。 前線に出る戦艦故に失ってしまった日用品の補充は難しい。 アビーとレイに厳しく注意されアスランにはハロに注意機能を付けられてマユは嫌々ながらも整理整頓を心がけるようになった。 部屋の片隅にはマユ専用の玩具箱。 何か面白い遊びは無いかと引っ掻き回すと見慣れないものが出てくる? 「こんなのあったかな?」 首を捻りながらふわふわした長いものを引っ張り出す。 真っ黒な毛皮っぽいものにマユは益々わからないと唸るが何の玩具か全く思い当たらない。 他に何か無いかと探すと同じ色合いの小さな物体が出てきた。 「さんかくが二つ?」 紐に繋がれた同じ素材の三角形の物体。 よくよく見ると紐に絡んで色違いの似た素材のものが出てくる。 「むー。」 他にもあるかもしれないとマユは玩具箱をひっくり返して探し出した。 関係ないものを箱に仕舞い残ったのは最初に引っ張り出した黒のふわふわと茶色のちょっぴり固めの毛で出来たふわふわ、そして最後は真っ白なふわふわ。 二つで一組らしく似てはいるもののそれぞれ形が違う。 それらに関する説明書きも出てきた事でマユはその正体を知り嬉しそうに笑った。 正体が分かればなんて事はない。 けれど一人では『身に着けられない』とマユはそれらを引っ掴み兄の許へと向かった。 「なーアビーが何で此処にいるんだ?」 「仕事だから。」 シンの不満たらたらの言葉に対しアビーの声は事務的だ。 確かにアビーの仕事はマユの世話だがそれだけと言う訳にも行かないのが現実でありザフトと言う組織だ。 マユには暫く一人遊びをさせてアビーは格納庫でのデータ処理を手伝う事になったのだが、マユが一人という事実に不安と不満を抱くシンは渋い顔で彼女を見つめる。 《いっそ仕事だと言って連れ歩いてくれれば良いのに!》 シンとしては妹が目の届く範囲にいてくれると安心出来るし志気向上へと繋がると考えているのだがそれに待ったをかけたのはアビーを始めとした同僚全てであった。 《《《そんな事したらお前仕事しなくなるだろう。》》》 全員が言いたいと思いながらも呑み込んだ言葉をシンだけが知らない。 マユにも用事が無い限りは格納庫を始めとしたシンがよく行く部署へは近寄らないように言い聞かせてある。 だから今日も何も起こらないはずだった。 マユがお願いに来るまでは。 アカンデー! アカンデー! ハロの特徴的な声が格納庫に響き全員が入り口へと目を向けると其処にはシンが目に入れても痛くないとばかりに溺愛しているマユ・アスカが立っていた。 《《《は! シンはっ!!?》》》 マユの姿を確認したらシンがどんな行動に出るかミネルバにいる全員が知っている。 慌てて整備士達が一斉にシンに目を向けるとアビーとレイ、それにアスランが三人がかりで押さえ込んでいた。最早条件反射と化した対応に拍手を送りたくなるが今はそんな事はどうでもいい。 とにかくマユを早々に部屋に帰そうとルナマリアが進み出てマユの視線にあわせて膝立ちになり問う。 「どうしたのマユちゃん。」 「あのね。これつけてほしいの。」 にぱぁ 笑顔全開。無邪気な少女が両手に大事そうに抱えるモノにルナマリアを始めとしたクルー達が首を傾げる。 一瞬かとフェイクファーの襟巻きかと思ったが少々細長すぎるような気がするし他の種類もあるの上に小さな塊もある。 正体が何なのかわからずルナマリアは訊ねた。 「これ何?」 「んっとね。アニマルグッズだって。」 ぴらんとマユに差し出された紙を見てルナマリアはわなわなと肩を震わせる。 最初は見間違いかと思い最初から読み直したが印刷された文字に変化は無い。 【これで貴方も人気者! パーティー向けアニマルグッズ。 獣ならではの妖艶さを演出します。 注意:落としたい相手がいるならば別売『媚薬効果付のアニマル香水』と合わせての御使用をお薦めします。】 どういう意図で製作発売されたものかが良くわかる煽り文句に言葉もない。 握り潰しそうな勢いで説明書を握り締めルナマリアは必死に怒りを抑えながらマユに問いかける。 「こっ・・・こんなもん何処で手に入れたの!?」 「ギルおじちゃんがくれたオモチャだよ?」 ルナマリアの反応にマユも何か感じるところがあったのだろう。 ちょっぴり腰が引け気味になりながら答えるとルナマリアの怒りは最高潮に達した。 《ギチョォオオオっ!!!》 最早相手がプラントの最高権力者であるとか自分達が統治者と認める人物だとかそんな事はどうでもいい。 今大事な事はこんな幼く可愛いもう一人の妹とも言っていいマユにこんな卑猥な目的のグッズを手渡したという事。マユが大事そうに抱えてなければきっとすぐさまダストシュートに放り込む勢いで怒り狂っているルナマリアにハイネが怪訝な顔をして彼女の持つ説明書きを覗き込み彼女の怒りの理由を察すると同時に頭痛を覚えてマユの両肩に手を置いて確認した。 「おいこれ・・・・。 マユ、これを読んだのか?」 ハイネの真剣な顔と傍らで顔を高潮させて説明書を完全に右手で握り潰すルナマリア。 マユも何か自分が分かっていないところで問題が起こっていると察し、一瞬の間を置いて不安そうな表情を浮かべながら答えた。 「よめないところもあったけどアニマルとパーティーはわかったよ。 ドウブツさんごっこのオモチャでしょ?」 《《セーフ!》》 何か間違ってた?とでも言いた気な様子で見上げてくるマユの言葉に二人は安堵の溜息を吐く。 シンが少し落ち着いたのかシンを押さえていたレイが寄って来てルナマリアが握り潰した説明書きを開いて読み暫し沈黙。 彼も思うところがあるのだろう。 何しろギルバートは彼の養い親でもある。その彼の品性に関わること故に彼の心中は察するに余る。 「ギルには俺から連絡しておこう。 恐らく何かの間違いだろうが。」 「間違いであって欲しいわ・・・切実に。」 レイの言葉にルナマリアの感情を必死に抑える声が被さる。 だがマユは自分が怒られる事をしたのではないとわかり笑顔を取り戻しレイに駆け寄って強請る。 「マユはうさぎさん! おにーちゃんがワンちゃんでレイおにーちゃんがネコちゃん!」 一緒につけよう?とネコ耳を差し出すマユだがヨウランを始めとした友人達はその無邪気な笑顔に首を振る。 《《《シンはともかくレイがやるとは思えない・・・。》》》 ザフトアカデミーきっての貴公子と名高いあのレイ・ザ・バレルが、いくら親友の妹(4歳児)に強請られたからと言って自身の恥を晒すネコ耳をつけるとは考えられ・・・・・・ 「この黒いのがネコ耳か?」 「うん☆ シッポもあるんだよ。 ふわふわしててキモチいいの!」 「そうか。シン、こっちがお前の犬耳セットだ。 アビー、マユだけではうさぎ耳を着けられないから手伝ってやってくれ。」 「「「うそぉおおおっ!!?」」」 有り得ない。あのレイがネコ耳を、そんな女の子が喜びそうなネタに自らなろうとするなんて絶対的に有り得ないとその場にいた全員が世界の終わりを見たような絶叫を上げる。 だがレイはそんな皆の反応に不審そうな目を向けるのみでネコ耳の調整をしながらロッカールームへと向かう。 その背中を見ながら恐怖する中、開放されたシンが大喜びでその場で犬耳をつけ、挙句にアスランにシッポの調整をさせるという大胆不敵な行動に出る。 マユはマユでアビーにうさぎ耳をつけて貰い大喜びで「うさぎさん〜☆」とルナマリアの足に抱きついてはしゃいでいた。 《《《これは一体誰のせいだ?》》》 マユの願いを聞き入れたレイか、それとも妹に激甘なシンか。 こんなおもちゃを持って遊びに来たマユが問題なのか。 《《《いやマユのせいじゃない。》》》 幼い子どもがおもちゃで遊ぶのは寧ろ普通の事だ。 問題だったのはおもちゃそのものであり与えた人物。 その日、ミネルバ内ではギルバート・デュランダル議長の株が大いに下がったのは言うまでもない。 数日後、ギルバートはマッドが撮ったと思われる写真を手に執務室である人物を待っていた。 写真はネコ耳をつけたまま働くレイを始め、整備士の間をちょろちょろと走り回るうさぎ耳のマユと彼女を追いかける犬耳姿のシン。更にそんな彼らを叱りながら追いかけるアスランの姿も写っていた。 実に微笑ましい光景だが全ての事情をレイからのメールで知っているギルバートはこの写真を見て頬を緩めたくとも出来なかった。 ぴーっ 無感情なインターフォンの呼び出し音にギルバートが「どうぞ」と答えると真っ青な顔をした秘書の一人が入ってくる。 まだ若く此処最近ギルバート付きになったばかりの青年は栗色の髪を後ろに流し僅かに垂れた前髪から覗く額には大量の汗が浮き出ている。 彼にはギルバートから呼び出された理由がわかっていた。 ギルバートが地球に降りる前、4歳児向けのおもちゃやお菓子のプレゼントを用意するように頼まれ予算一杯用意したのだが・・・・・・ギルバートにソレを渡した後、プレゼントのおもちゃを買いに出たついでにと別の店で買った合コン用の【オモチャ】が見当たらなくなったのだ。 いくら探しても見つからないソレの代わりに見つかったのは値札のタグ。 『マユが直ぐに遊べるように包装はしないように。値札や余分なタグも全て外しておいてくれ。』 彼はギルバートの命令通りにプレゼントの包装を断り値札やタグを十分に注意しながら外した。 これまたついでにと【オモチャ】のタグも外したのが全ての間違いだったのかもしれない。 いくら探しても見つからない【オモチャ】が今何処にあるのか。考えられる場所は最早ひとつしかなかった。 コツコツ 靴音を立ててギルバートの前に立った青年は彼の笑顔に確信する。 気分は既に死刑台に上りきった死刑囚。 「ミッシェル君。先日君に用意してもらったプレゼントの件だがね。」 デュランダルはとても爽やかな笑顔を浮かべていた。 その日より一ヶ月。 新人秘書のミッシェルと名乗る青年は何故か公共施設のトイレ掃除係を命じられたと言う。 余談だが、レイのメールには添付ファイルがあった。 『ギルおじちゃん。ありがとーv』 うさぎ耳をつけてお礼を言うマユの映像ファイルはその後しばらく、デュランダルの目覚まし時計に使われたのは彼だけの秘密である。 END えーと、何となく書きたくなったネタです。 特に意味はありませんので次からはちゃんと続きを書こうと思います。 2007.5.6 SOSOGU (2007.5.16 DESTINYコンテンツへ移動) |
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