最凶ボディーガード キラ君 前編

 それはマルキオ導師の孤児院で起こった問題が原因だった。

「大変お米がもう切れそうよ。」
「小麦粉も本日の分で最後ですわ。」
「しかし今月は厳しくとても食料を買うお金がありません。
 次の寄付の日までまだ10日は先ですし・・・。」
「ラクス〜御飯まだ〜?」
「お腹空いたよぉ〜〜!!!」
「マルキオ様。今日もおやつは無しですか?」

 世界中のほんの一部とはいえ、先の大戦はあまりに激しく戦争孤児は大勢いた。
 出来うる限りの支援は行われているがどうしても行き届かないところも出てくる。
 マルキオ導師の孤児院でもその問題の一部が起こっていた。
 米びつを眺め途方に暮れるカリダとボウルに入った今日のパンを焼く為の小麦粉を悲しそうに見つめるラクス、そして同じく眉間に皺を寄せて唸っているマルキオ。
 大人三人が集まってもいい知恵など浮かぶはずも無く、彼らを取り囲むように集まった子供達が事態が切迫している事を教えていた。

 かたん

 海を眺められるテラスにあるロッキングチェアに座っていたキラは家の中から聞こえてくる声に決意をしたように立ち上がった。



 数日後、キラはL4に作られた新しいプラント『アーモリー・ワン』にいた。
 シャトルから降り、アスランと共にカガリを挟み込むようにしてエア・ポート内を移動する。
 新しい戦艦の進水式に参加しようと他のプラントから大勢の人々が詰め掛けており、人で溢れ返ったロビーを眺め険しい顔をするカガリに怪しいサングラスを掛けたアスランが問い掛けた。

「服はそれで良いのか?
 ドレスも一応は持ってきているんだろう?」
「どうだって良いだろ。服なんて。」
「時には必要なんだよ、演出も。
 妙に気取る必要も無いが軽く見られてもいけないんだ。
 今の君はオーブの国家元首なんだぞ。」

 ある意味、アスランの言葉は的を得ている。
 だからこそカガリは返答に詰まったのだが・・・傍らにいたキラの突っ込みは容赦が無かった。

「でもさ、カガリがドレスに着替えたら逆に目立って極秘会見がバレるんじゃないかな?」

 ぐっさ!

 キラの突っ込みはアスランの胸を突き抜けた。
 事実、カガリのドレスはヒラヒラとした装飾が多く目立ちやすい。
 元々式典に出る事を前提に作られているので人目を惹き易いデザインなのだ。
 さらに華美では無いが、上質の宝石で作られたアクセサリーは身に着けている者が只者では無い事を示す。
 人込み溢れるこのアーモリー・ワンで人目を惹く服装をすれば彼女の身分に気付く者が必ず出てくるだろう。

「オーブの首長の服が地味で良かったよね☆」

 にっこりと微笑みカガリに言うキラはとてもボディーガードには見えないし、寧ろ只の観光客に見える。
 会話さえ聞かなければ・・・。
 いや、それ以前にフォローのつもりかも知れないキラの言葉にある意味カガリは傷ついた。

《《キラ・・・お前性格変わった?》》

 キラの実の姉カガリとキラの幼馴染兼親友のアスランは一致した見解を示した。



 さて、何故キラが此処に居るのか?
 答え・・・あの日キラはカガリに仕事の斡旋を頼んだのだ。

『子供達にお腹一杯御飯を食べさせてあげたいんだ。』

 キラの切なる願いに『姉』と『オーブの代表首長』のプライドを掛けてカガリは胸を叩いて答えた。

『お姉ちゃんに任せろ!』

 そんなあっさりと応えて良いのかという疑問の声も上がりそうだが、離れて暮らしている弟の事をずっと気に掛けていたカガリは寧ろ頼られて嬉しいくらいだった。
 まさかキラがそんな彼女の性格を計算に入れて頼みに来たのだとは思いもせずに、カガリはアスランに命じて『自分の目が届く場所』で『高所得が望める』仕事を探した。
 けれどそんな上手い仕事がそこらに転がっているはずが無い。

『検索掛けたけどノーヒット。カガリ、無理だよ。
 只でさえ忙しい君の目が届くところで良い仕事なんてあるわけないだろ?』
『無い!? そんな!!!
 キラは傷つき易くって傍で見てないと危なっかしい・・・けど優しい良い奴なんだぞ!
 あの戦いで心に傷を負ったアイツが子供達の為に無理をして出てきたって言うのに!!!』
『そんな事は俺だって分かっている!』
『分かっているなら捜せ!』
『けど雇用が無いんだからしょうがないだろ!?』

 仕事が見つからず喧嘩を始めた二人。
 キラはキラで最初から当てにしていないのか、二人が喧嘩している隙に勝手にアスランのパソコンの中にあるカガリのスケジュールを調べ始めた。

『ねぇ、カガリ今度プラントに行くの?』
『キラ!? お前はまた勝手に人のパソコンを!!!』

 アスランが慌ててキラから自分のパソコンを取り上げようとする。
 そんな二人を尻目にカガリは少し考え込んで名案を思いついたといった様子で手を打った。

『・・・そうか! キラ、お前そのプラント行きについて来い!!
 アスランは口煩くてたまらん。お前が一緒に来てくれると私も気が楽になるv
 名目上はボディーガードって事で申請しておくからなvvv』
『カ〜ガ〜リ〜。誰が口煩いんだ。』
『うっさい小姑。バイト代は私が決められるし、常に私の傍に居るから安心だ★』

 名案とばかりにキラの手を取って告げるカガリは実際何も考えていない。
 カガリと違い多少は理性を残しているアスランが尚も反対しようと口を開けたその瞬間、キラは儚げな笑みと共にアスランに言った。

『カガリのボディーガードなんて砂漠の時以来だ。
 アスラン、よろしくね☆』

 どっきん!

《キラ・・・キ〜ラ〜! お前は何て可愛いんだ!!》

『こっちこそ!!!』

 キラ馬鹿二人組があっさりと落ちた瞬間だった。


 さて、話は戻る。
 先ほどのやり取りなど億尾にも出さず、カガリ達はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの部下の案内を受け、アーモリー・ワンの軍事工廠のある区画へと移動した。
 議長が待つ部屋の前まで来たが中に入れるのは二人まで。
 仕方なくカガリとアスランのみが入って行った。

《ボディーガードとして来たのに仕事無いじゃないか。》

 ボーっとしていても良いかも知れないが折角プラントに来たのだから『何か』をして置きたかった。

 にっこり

「済みません。折角ですからこちらのプラントの観光案内のデータとか見せてもらえますか?」

 一見天使の微笑み。無邪気な顔でそう問い掛けるキラを不審に思う者はその場に居なかった。



 折角だからと軍事基地内を歩き回りながらの会見となった。
 その時はキラもアスランと同じようにカガリより一歩遅れてついて行く。
 歩きながらもカガリは力を持つことに対する危険性を叫ぶが彼女よりよほど政治家らしく、事実現在のプラントを支えているギルバートには通じない。
 それどころか彼はカガリを諭すように微笑みながら答えた。

「いいえ、姫。争いが無くならぬからこそ力が必要なのです。」

 ごごぉおおおん

 彼の言葉の直後、轟音と地震が襲う。
 「何だ!?」と叫び音の方向へ視線を向ければ格納庫を破壊して出てきた3体のMSにカガリ達は目を見張った。

「ガンダム・・・!?」

 それはキラやアスランに酷く馴染み深い機体の兄弟機。
 明らかに新型のMSであるソレにキラは険しい表情で見つめる。
 状況ははっきりしないがその新型MSが何者かに乗っ取られた事だけは確かだった。
 この場合、その「何者か」を考えられるのは連合軍だが憶測だけで迂闊な言葉を吐くわけには行かない。
 とにかく避難をとザフト兵に案内されてシェルターに向かった三人だが、途中、破壊工作を続けるMSの流れ弾で案内をしていた兵士が倒れてしまった。
 まだ無事なMSを起動させてザフトも応戦するが機体の力にパイロットの資質が圧倒的な差を作り出し、まるで歯が立たない。
 これでは避難もままならないと辺りを見回せば運良く破壊されず倒れただけのザクを見つけ、アスランはキラに目を向ける。

 こくん

 覚悟を決めたキラは先にアスランを機体に向かわせてカガリを抱き起こす。

「行くよカガリ!」
「え?」
「アレに乗るんだ! 良いから早く!!」
「なっ!?」

 無理やり起こされて起動し始めたザクのコクピットへ押し込まれたカガリは追いやられるようにシートの後ろへと周る。
 二人を乗せるとアスランはザクを立ち上がらせた。
 瓦礫の音で気付いたのだろう。
 丁度移動してきた新型MSの一つ、ガイアがこちらを向いて攻撃を仕掛けてきた。
 並みのパイロットなら一撃でやられていただろうが幸い勘を忘れていなかったアスランの操縦技術で攻撃をかわし難を逃れる。
 しかし敵がもう一機現れ、ザクの左腕を持っていかれた三人は状況の拙さに最悪の事態を想定した。

 どぉおおん

 キラ達の乗るザクへ攻撃を仕掛けようとした敵MSの背にミサイルが打ち込まれる。
 フェイズシフト装甲のおかげで殆ど無傷だが気を惹く事は出来たらしく新たなザフトの機体にその場にいた全員の注目が集まった。

「援軍!? MAか!」
「違うよ、アスラン。あれはモビルスーツだよ。」

 どう見てもMAにしか見えないシャトルを見据えながら言い切るキラにアスランとカガリは不思議そうな顔をする。
 改めて自分達を助けたシャトルを見ると他にも飛んできたシャトルと合体し、本来の姿が現れた。

「ZGMF-]56S・インパルス。」
「ってか、何でキラが知ってるんだ。」

 知るはずの無い機体の型名だけでなく名前を呟くキラに二人の視線が集中する。
 アスランはふと、ある可能性に思い当たったが『余りに拙い方法による情報取得』なので口にする事は憚られた。
 けれどカガリは2年近くも国家元首としてオーブを治めてきたと言うのに2年前と殆ど変わらず素直で真っ直ぐな性格のままキラに疑問をぶつけた。
 そんなカガリを嬉しく思いながらも彼女の国家元首としての未来を憂う思いと共にキラは答える。

「カガリ、僕の特技はハッキングだよ?」

《《何時の間にハッキングしたんだお前は。
  しかもプラントの最高レベルの機密を。》》


「カガリ達が議長と会談している間、暇だったからアーモリー・ワンの観光案内端末見せてもらったついでに回線繋いでちょちょいっとね♪」

《《ちょちょいっとなんてレベルで出来る芸当じゃないぞキラ。》》

「流石にセキュリティ硬かったけど、レベルが高い分久し振りにワクワクしてちょっと本気出しちゃった☆」

 てへっv

 ちょっと舌を出して微笑む姿は悪戯っ子が大人の許しを得る時に見せる可愛らしい仕草と何ら変わらない。
 それどころかキラの整った外見と常に纏っている儚げな雰囲気により事の大きさを何でもない様に思えてならないアスランは相当毒されている。

「もう・・・しょうがない奴だなぁ〜キラはv」
「ソーユー問題かよっ!」

 まだ思考が正常なカガリが突っ込みを入れるが既にアスランには聞こえていない。
 既に目の前のモニターに映るMS同士の戦いに意識を向けていたアスランは状況を見極めながら介入したものかどうかと考えていた。

「とりあえず、あちらの機体は味方と考えて良さそうだな。
 だが押されている・・・二人とも捕まっていろっ!」
「うわわわわっ!?」
「ひゃあ!」

 突然それだけ言うとアスランは一気に突っ込んでいく。
 けれどアスランと違ってシートベルトなど無いカガリとキラは掴まるものが殆ど無いコクピット内で悲鳴を上げた。

《類友っ! やっぱりコイツら類友だぁ!!
 キラだけじゃない。アスランも無茶苦茶な奴だ―――!!!》


 カガリの心中など全く気付きもせずに昔取った杵柄とばかりに新型MSに喧嘩を売るアスラン・ザラ。
 エースの名は伊達では無かったらしく一矢報いる事は出来たが、もう一機の攻撃を受けてしまった。

「カガリっ!」

 コクピット内でキラの悲鳴が反響したと同時に激しい衝撃が三人を襲う。

 がん! どさっ

 身体を吹っ飛ばされたカガリを庇ったキラ。
 カガリの代わりに打ち付けられたキラの身体が跳ね返りアスランの座るシートに倒れこんだ。
 慌ててキラの身体を抱き上げるとキラのこめかみから流れる血がアスランの手のひら一杯につく。
 あまりの血の量に真っ青になる二人。
 その隙に攻撃を仕掛けられたがアスランの反応の方が早く、ザクを後退させて攻撃を避け、そのまま戦場を離れた。
 MSの動きを見れば引き際を見極めた戦士の潔い退却の姿と思えるが・・・・・・・・

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり

「いででででっでっでででっでででっ!!!」
「お〜ま〜え〜は〜! よりにもよってキラに怪我をさせて〜〜〜!!!」


 大事な弟の怪我に我を忘れたカガリのこめかみグリグリ攻撃は確実にアスランにダメージを与えていた。
 それでも何とかMSを操縦し戦場から離れるアスランは器用と言うか根性だけはあると言うか。
 だが、いつまでもやられていてはたまらない。

「いっででで・・・止めろカガリ!
 大体キラはお前を庇ったせいで怪我したんだぞ!?」
「何を言う!?
 そもそもお前が万全の状態じゃないのにあいつ等の戦いに首を突っ込んだのがそもそもの原因だろーがっ!!!」

《どーでも良いから早く避難しようよ・・・。》

 痛みで薄れていく意識の中、キラは思ったが言葉にはならなかった。


 つづく


 昨年4月に委託のみで参加したSEEDオンリー合わせの作品「最凶ボディーガードキラ君」です。
 突っ込み入れたくて書いた作品だったのですが・・・・・・・・・気づいたらシリーズ化してました。
 おかしい。元々これっきりの単発作品だったはずなのに何故シリーズ化!?
 けどまあ第4弾予定しているので多分DESTINY終了辺りまで突っ込みいれる予定です。
 途中から話が大分変わってしまっていますが、突っ込みは本放送に合わせたものを予定しているので宜しければ次もお付き合い下さい。


 2006.6.8 SOSOGU
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