最凶ボディーガード キラ君 後編

 IN ミネルバ

 ギルバートの姿を見つけ、『安全に降りられる場所』と判断したミネルバ内。早速キラを抱えて降りようとした時に再び争いは始まる。

「放せアスラン! キラは私が運ぶ!! 私はキラの姉だぞ!!?」
「いい加減、我が侭を言うな!
 最近体力が落ちているお前にキラを支えながら降りるなんて出来るのか!?
 キラの安全の為にも俺がキラを連れて降りる!!!」

 ワイワイギャーギャー。
 一見すると単なる痴話喧嘩。
 だがその二人が間に挟んでいるのは儚げな青年一人。
 明らかにザフト関係者ではないとわかる三人がミネルバ配備でないザクで乗り入れてきたと知ったルナマリア・ホークは、職務に忠実だった。
 先ほどの戦闘を考えれば警戒するのは当たり前。
 だが彼女は銃を構えたままどう口を挟んだものかと困惑してしまう。
 銃を向けられていることに気付かずにコクピット入り口辺りで騒ぐ二人を放っておいて怪我をしたのかこめかみを押さえながら一人降りて来た。

「済みません。あの二人放っておいても大丈夫ですからお話聞いてくれませんか?」

 にっこりv

《多分・・・敵では無いと思ふ。》

 あまりに無邪気な笑顔で友好的に語り掛けられルナマリアは無意識に銃を下ろした。

「有難うございます☆
 あちらのザクで喧嘩している女性はオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ氏です。」
「オーブの・・・アスハ・・・・!?」
「デュランダル議長との会談中に騒ぎに巻き込まれ、シェルターに入れなかった為にあの機体を借りました。
 その時に襲撃者のMSの攻撃を受けた為に破損しています。
 お借りした機体を損傷させてしまった事を改めてお詫び申し上げます。」
「ああ・・・はい・・・ご丁寧にどうも。」

 そこであっさり頷いて良いのかという突っ込みもあるのだが、状況の展開に周囲の兵士達はついていけず誰もその事を指摘しない。
 ルナマリアの背後にいる整備兵にも悲しみを湛えた微笑を向けながらぺこりと頭を下げるキラ。
 その場にいた整備兵はドキドキと高鳴り始めた胸を押さえて「気にしないで下さいv」「全っ然構いませんから!」と整備兵らしからぬセリフを吐く。
 それでいいのか?と突っ込む冷静な思考の持ち主はゼロ。
 キラはその事を確信すると更に深い笑みを浮かべて話を続けた。

「議長はこちらにいらっしゃるのでしょう? お目に掛かりたいのですが。」
「あーっ!? キラ何時の間に!!!」
「カガリお前があんまりごねるからキラが怪我に耐えられなくて一人で降りたんだぞ!?」
「お前が言うのかソーユー事をっ!
 大体お前が素直に引き下がっていれば何の問題も無かったって言うのに!!!」
「国家元首の癖に政治以外の仕事をしようとするのがいけないんだ!
 少しは代表らしく大人しくしてろ!!!」

 ぴきぴきぴき

《折角穏便に話が進められると思ったのに君達の喧嘩で全て台無しだよ。》

 こめかみにうっすらと浮かび上がる血管。
 それでも笑顔を崩さないのは2年前の戦いの経験で神経が擦り切れたせいだろう。
 キラはゆっくりと二人の乗るザクを振り仰いで優しく優しく語り掛ける。

「二人とも・・・此処が何処かは分かっているよね?」

《《キラ・・・もしかしてもしかし無くても怒ってますか?》》

 思わず手を取り合って怯える二人にキラは「仲良く二人で降りてきてねv」と語尾に可愛らしさを表現するハートマーク付きで声を掛ける。
 その姿にその場にいたザフト兵は全員確信した。

《《《この人が影のボスだっ!!!》》》

 しかしキラはそんな彼らにあくまでカガリを代表であることを主張するように紹介の続きを始める。

「今降りてくる紺色の髪の彼は随員のアレックス・ディノ。
 僕は臨時のボディーガードとして雇われたキラ・ヤマトと言います。」
「え? でもさっき代表は『アスラン』って言ってたような・・・。」
「アレックスです。」
「でも・・・。」
「アレックス・ディノです。」

 ずもももん

 疑問の声を上げるルナマリアに対し、あくまで《アレックス》だと主張するキラの威圧すら感じる言葉に思わず頷いた。
 とにかく怪我の治療の為に医務室へと案内をする事にしたルナマリアは自分が先導する形で三人を引き連れて通路を歩いている途中、コンディション・レッドが発令される。

「アスラン!」

 思わず・・・だろう。
 キラ曰く『アレックス・ディノ』に向かってそう叫んだカガリを見た時のザフト兵全員の心は一つだった。

《《《やっぱアスランじゃん!》》》

 けれど彼らがソレを口にはしなかったのは偏にキラの笑顔が妙に怖かったからだった。



 戦闘が一段楽し、ギルバートや艦長であるタリア・グラディスへの『民間人乗船』の報告を終えたルナマリアは後ろでひたすら騒ぐ三人・・・いや、二人の姿に頭痛を覚える。
 キラの頭の怪我は思ったよりも浅く、頭部の出血だった為に流れる血の量は多かったが貧血を起こすほどでも無かった。
 傷は汚れてもいないので血止めと保護の為のガーゼと包帯で十分だろうと医者は判断し、手当てをしようとしたのだが・・・そこで喧嘩を始める者がいたのだ。

「貸せ! キラの手当ては私がする!!」
「ろくに怪我の手当てもした事の無いお前がずれやすい頭部にしっかりと包帯を巻けるのか!?
 応急処置の訓練を受けた俺がやる! その方が確実だ!!」

《そこで何で医者に任せようと思わないのよアンタらは・・・。》

 事実、目の前に医者がいて診断まで下したのだ。
 ここはそのまま医者に手当てをさせるのが筋と言うものなのに彼らはあくまで自分がキラの世話をする事のだと言い張り続ける。

「構わないから治療を続けましょう。
 ガーゼは自分で抑えているので包帯巻いてもらえますか?」

 ニコニコしながら喧嘩を続ける二人を無視して言うキラは天使なのか悪魔なのか・・・。
 そんなことを思ったせいだろうか? ルナマリアはその後、真の恐怖の大魔王の存在を知る。



 無事ギルバートとの会見を済ませて艦内を案内して貰う事になったカガリ達は、本来ならば他国には見せられるはずの無い格納庫へと案内された。
 オーブの代表首長が乗船していると知っていたクルー達もカガリが格納庫にいるのを見て驚いた。
 MSの機能や配備されているその数は勿論の事、どのような整備がされているか等、出来うる限り知られては成らない機密が満載の格納庫なのだ。
 だが議長が許可したなら仕方が無いと言えばそうなる。
 ギルバートの姿を認めたクルーは直ぐに自分の仕事に戻って行った。
 一方カガリ達に自国のMSを自慢するかのように説明するギルバートに思う事があったのだろう。
 カガリが少し怒りを含んだ声で答えようとした。
 が。

「議長は嬉しそうですね。
 嬉しいついでに最後の最新機も見せて下さいませんか?」
「!?」
「アーモリー・ワンで強奪されたのはアビス・カオス・ガイアの三機、ミネルバから発進したのはインパルス。
 でももう一機あるでしょう・・・ZGMF-23S・セイバーが♪」

 まるで内緒話を楽しむかのようにちょっとだけ声を潜めて、けれどはっきりきっぱり言い切るキラにその場にいた全員の背中に冷や汗が伝った。

《《《《《何でそれを知っているんだ!?
         ってゆーかそれを知ってるアンタは何者!!?》》》》》


「強奪された三機とインパルス。それで全部ですよ。」

 それに対しギルバートはにこやかに笑ってキラに答える。
 亀の甲より年の功。
 一度は驚いたもののキラよりも人生経験の長いギルバートは完璧な微笑みで全てをうやむやにしようとした。
 が、キラは更に突っ込んでくる。

「ええv アーモリー・ワンにあったのはそれで全部でしたねvv
 セイバーは現在アプリリウス・ワンにあるんですよね〜♪
 でもミネルバに載せる予定だった機体ですからデータはあるんでしょう?」

 ぴししぃっ!

 今度こそギルバートの笑顔が凍りついた。
 ギルバートだけでなくタリアも顔を強張らせ、整備班リーダーのマッドも顔色を変えてファイルを持ったまま動けなくなった。
 当たり前である。他国の・・・しかも自称ボディーガードのまだ二十歳にもならないであろう青年に自国の軍事機密を知られているのだから。
 笑顔を凍りつかせながらもギルバートはその明晰な頭脳を働かせてどうやってこの場を治めようかと考えていた。
 しかし先に動いたのはカガリだった。

「キラ・・・お前は何時何処まで調べたんだ。」
「ん〜と・・・カガリのボディーガードの話が決まってからプラントの調査(ハッキング)をしたんだ。
 主に会談の場のアーモリー・ワンね。
 あそこは軍事工廠があるからどんなのが配備されているかを主に調べたよ。
 大方の情報はプラントに来る前に手に入れてた♪」
「で、そのついでに機密をハッキングしたと?」
「ううん。流石にオーブからじゃ難しくってね☆
 カガリ達が議長と会談している間に調べられなかった部分だけちょこっとv
 ザクの中でも言ったけど暇だったしvvv」

《《《暇とかそんな軽く言ってくれるなよ!》》》

 あくまでにこやかに爽やかに言ってくれるキラに対してザフト兵は皆、心の中で悲鳴を上げる。
 けれども話はまだまだ続く。

「大体カガリも会談の場はもう少し選んでもらわないと駄目だよ?
 武器のある場所は戦いが起こり易いんだから。
 でもまさかあそこまで大胆不敵に襲撃してくる人達がいるなんてね〜。
 時間無くてつい大西洋連合とかの地球側のチェックを怠ったのが拙かったみたい。
 今度はしっかりチェックしてカガリを護るからね!」
「キラ・・・お前ボディーガードの仕事を勘違いしてないか?」
「何言っているのさ!
 危険を予知してガードするのがボディーガードでしょ!?」
「いや、普通のボディーガードは他国の軍事機密をハッキングしたりしないし、その事を相手に暴露したりはしない。」
「あ・・・★」

 アスランの言葉に改めてキラは格納庫内を見回す。
 全員の視線がキラに集まっているのを見て漸く自分の言葉の拙さに気付いたらしく少し考え込むように首を傾げた後、にっこり笑ってのたまう。

「でも、強奪されたりあれだけ戦闘披露しているから機密も何も無いですよねv」

「「「お前がソレを言うなぁぁああっ!!!」」」

 全員の心が一つになった叫びは防音が施された格納庫を突き抜けミネルバ全体に響いた。



 さて格納庫での騒ぎの後、流石に拙かろうとキラはカガリと共にお説教タイムに突入。
 何故カガリまでというと、《監督責任》というものだ。
 雇い主であるカガリは更に言うならオーブの国家元首。
 オーブ国民であるキラの《度の過ぎた暇つぶし》の為にひたすらギルバートとタリアにぺこぺこと頭を下げていた。
 何とか許してもらえたのはあの強奪騒ぎのせいで機密も何もへったくれも無くなってしまったから・・・と言うのが何とも皮肉だ。
 そんな中、齎されたニュース。

「ユニウス・セブンが動いている!?
 何故!!? どういう事だ!!!」

 安定軌道にあった嘗ての悲劇の地。
 ユニウス・セブンはユニウス条約締結の場でもあり、プラントにとっては二重に心にかかる場所だった。
 100年単位でこの軌道が変わることは無いと専門家も判断したその大地が動き出した報にカガリだけでなくキラも目を見張る。
 漸くキラの驚く顔を見れたことにちょっと快感を覚えながらも真面目な表情でギルバートは話を続けた。

「原因はまだわかりません。
 けれど動いているのです・・・・非常に危険な軌道を。」

 言われなくともわかる。
 その危険な軌道の先にあるものは母なる蒼い惑星。そこにはキラやカガリにとって掛け替えの無い人々が住んでいる。

「墜ちたら・・・どうなるんだ。」

 疑問では無い。ソレは確認。
 あんな巨大なものが墜ちればどうなるかわからないカガリでは無い。
 それでも確認せずにはいられなかった。ギルバートも彼女の気持ちを察したのだろう。

「どうなるかは・・・姫もご存知でしょう?」

 詳しく語る必要などなかった。



 キラ達の話が終わり、ユニウス・セブンの報を受けたアスランは艦長室の前で二人を迎えた。
 その瞳は全てを知っていると語っている。
 だが此処での彼らは部外者であり、勝手に艦内を歩き回れる身分でもない。
 出来る事など無かった。
 暗く沈む表情を隠すことなく歩き続ける三人だが、沈黙に耐えられなかったのかカガリが二人に問いかけた。

「ユニウス・セブンをどうするんだ?」
「砕くしかない。」

 何の感情も見られない声でアスランは言い放った。
 その言葉に驚いたカガリがアスランに視線を向けるが彼は真っ直ぐに前だけを見つめている。
 アスランの言葉を受けるようにキラも言い募った。

「あれだけの質量だもの。軌道を離れて今は地球の引力に引かれている。
 もう元の軌道に戻す事も軌道をずらす事も不可能だ。
 ならば地球に落ちる前に砕くしか手は無い。
 完全には無理でも欠片が小さくなれば被害も最小限に抑えられる。」
「けど・・・あそこにはまだ・・・・・・。」

 震える声で小さく反論するカガリに二人の眉間に皺が寄った。
 カガリに言われなくても分かっていた。
 アスランにとっては母が住んでいたプラントであり、彼女の遺体がある場所でもあった。
 キラにとっても幼い頃から馴染みの親友の母親であり、自分の母の親友でもあった人の最期の地なのだ。
 誰も喜んであの大地を砕こうというのではない。
 けれどかの大地が向かう先には大事な人達が住んでいるのだ。

《仕方ない・・・そう分かっていても辛いな。》

 既に言葉も無く、再び黙って苦渋に満ちた表情で歩いている三人に飛び込んできた声があった。

「ちきゅーめつぼー?」

 直ぐ傍の部屋だった。
 開放されたドアの向こうから零れる光に惹かれて近づくとシン達紅服パイロットと同年代の整備兵・オペレーターの少女がいた。
 呟いたのは前髪が明るいオレンジメッシュの少年。
 聞こえてきたセリフから考えるに既に彼らもユニウス・セブンの事を知っているらしい。
 特に手伝う事も出来ない自分達に彼らにかける言葉は無いと去ろうとした時だった。

「ま、仕方ないんじゃないか?
 不可抗力だし。けど、変なゴタゴタも綺麗に無くなって案外楽かも・・・俺達プラントには。」

 言ったのは浅黒い肌をした黒髪の少年。
 彼が浮かべている皮肉気な笑みから冗談交じりの言葉だと分かっていてもカガリにはどうしても許せなかった。
 怒りに硬く拳を作って彼女は部屋へ飛び込む。
 アスランが気付いて牽制しようとした時にはもう遅かった。

「よくそんな事が言えるなお前達はっ!」

 突然の乱入者にシン達も驚いてドアの方へと注目した。
 先頭を切って入ってきたのは金色に輝く髪が印象的なオーブの代表。
 聞かれては拙い人物に聞かれたと苦虫を噛み潰すような様子で敬礼する彼らに尚もカガリは怒鳴りつける。

「これがどんな事態なのか本当にわかっているのか!?
 やはりそういう考えなのか・・・お前達ザフトはっ!!!」

《別に只の冗談だろっ!?》

 全員がそう思っていたわけではないし、自分達の事を決め付けられた事にその場にいた皆がカガリに反感を抱く。
 特に『アスハ』に恨みを抱くシンはカガリの態度に反撃しようとした。
 けれどその前にシンの言葉を遮る声があった。

「それは違うよカガリ。」
「キラっ!?」

 自分の言葉にNOを唱える弟に驚いてカガリは振り向いた。
 その先にはにこにこと無邪気な微笑みながら進み出てくるキラ。
 その妙に威圧感すら感じさせる笑みの意味がわからずカガリだけでなくアスランやシン達も言葉を失った。

「ダメだよカガリ。そんな風に決め付けちゃ。」
「・・・っでも!」
「そんな発言を平気でする人と同一視したら地球上にいるザフト軍の人が可哀想じゃないか☆」

 びしししいいいぃぃぃっ!

 その一言で空気が凍った。

《《《そおいえば・・・さっきヨウランは何て言った?》》》

 ぎぎぃっ

 不気味な音を立ててその場にいた少年少女達はヨウランへと顔を向ける。
 既に固まっている少年にキラは更に追い討ちをかけるように言葉を続けた。

「有名どころでカーペンタリア基地にジブラルタル基地。大勢のザフト軍の人が居るところだよね?
 結構酷い事言うよね〜彼
 。自分が楽出来るなら同じプラントの人間が何万と死んでも構わないんだね〜。
 でもそんな冷血漢とその人達を一緒にするのは失礼だよ。」
「あ・・・・いや、確かにそうだけど。」
「もしかして地べたを這いずり回ってる人は同じ人間じゃないって奴?
 うわサイテー★ その程度の違いで同じコーディネイターを差別するんだ。君達??」

 ぶんぶんっ!

 首を傾げて訊ねるキラに慌ててルナマリアやメイリン、ヴィーノも首を振る。

「中立国にいるプラントに友好的なコーディネイターやナチュラルが何十万と死んでも心が痛むどころか嬉しいの?」

 再び問いかけられて今度はシンとレイも首を振る。
 それを見届けてからキラはカガリを諭すように問いかけた。

「ほらねv 一緒にしちゃいけないよvv もう少し落ち着こうねカガリvv」

《《お前の方が酷いと想うぞキラ・・・。》》

 微笑を深くして言う彼に恐怖しながら入れられない突込みを心の中でする情けないオーブの代表カガリとそのボディーガード・アレックス。
 二人の不甲斐無さがキラを更に暴走させる。

「具体的な例を挙げると地球には色々な人がいるよね〜♪
 例えば先の大戦で平和の為に奔走した盲目の導師とか。」
「マルキオ導師の事か。」

 さくっ

「ザフト&地球軍に親を殺されて身寄りの無くなったナチュラル&コーディネイターの戦争孤児とか。」
「マルキオ導師の孤児院の子供達だな。」

 さくさくっ

「そんな子供達を世話するナチュラルの女性にコーディネイターの女の子とか。」
「キラのお母さんにラクス。」

 さくさくさくっ

「戦争で恋人をザフトに殺されてもコーディネイターを友とし、戦争の悲惨さを伝える為に戦場カメラマンになったナチュラルの女の子とか。」
「それミリアリアだよな。」

 さくさくさくさくっ

「戦争の為にコーディネイターとナチュラルの能力の格差にコンプレックスを抱きながらそれを克服して今も平和の為に奔走するナチュラルもいるよ。」
「ああ! あの色眼鏡っ!!」

 さくさくさくさくさくっ

「第三勢力として戦争を終わらせようと奔走したアークエンジェルやクサナギ・・・エターナルのクルーもあそこにはいるんだよね・・・。
 種族の違いなど関係なく必死に戦争に立ち向かった彼らも消えて無くなれって・・・いやぁ・・・君、本当に血が通った人間?」

 ざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっく・・・

《《《もう止めてやれよ。》》》

 そう言いたくなる位に、哀れな泣き顔を見せるヨウラン。
 心の矢を放ち続けるキラを止めようとしないカガリとアスランにイラついた怖いもの知らずのシンがキラに喰って掛かる。

「別に本気で言ったわけじゃないさ、ヨウランも。
 そんな事も分からないのかよアンタはっ!」

 ふっ

 シンの言葉に対し浮かべられるのは氷の微笑。
 キラ・ヤマトは容赦無かった。

「冗談で言った言葉だからこそ怒っているんだよ。
 本気で言ってたら問答無用で瞬殺してるよvvv」
「なっ!?」
「ユニウス条約って知ってる?」
「知ってるに決まってるだろ!」
「じゃあその基本理念を言ってご覧。」
「今後の相互理解に・・・・努める・・・・・・・・・・。」

《あ゙。》

 口に出して漸くシンはキラが何を言いたいのかを理解したが反論する機会は最早無かった。
 間髪いれずに嬉しそうなキラの声が部屋に響く。

「よかった〜v 言えないかと思ってたよvv
 君が言った通り【相互理解】に【努める】のがこの条約の最大の理念vvv
 けどね? 条約締結から一体どれだけの時間が経ってると思ってるの??
 努力の欠片もしていたなら他国の人間が乗っている艦で、こんなオープンな場所で、あんな大声で人でなしな『冗談』が言えるはずが無いんだよ。
 地球にいるコーディネイターの為に頑張るナチュラルの活動や同じくナチュラルと理解を深めようと活動をしているコーディネイター達の事はちょっと調べればわかるはずだから余計にね。
 つまり彼は【始めから努力なんかして無かった】って事だよね♪」

 ぐっさり☆

 止めだった。
 ヨウランはその場で滝のような涙を流しながら「見捨てないで〜。」と近くに居たヴィーノにしがみ付く。
 それでもキラの追求は止まらない。

「ああところで君はシン・アスカ君だよね。
 君のザフト志願理由を調べさせてもらったけれど・・・逆恨みしたくなる気持ちわかるけれど二年も経ったんだからあの状況が少しは客観的に見られるようになってるよね?」
「逆恨みだってっ!? 俺の家族はアスハに殺されたんだ!!
 あのオノゴロ侵攻戦の時・・・当時の代表の言葉で誰が死ぬことになるかあんた達は本当に分かっていたのかよ!!?」
「その言葉そのまま返すよ☆
 戦いを避ける為に大西洋連邦と同盟を組んでいたら君の家族がどうなっていたか分かっているのかな?
 民間人だからそのまま平和に暮らせる? そんなわけないじゃないか。
 大西洋連邦のTOPにはブルーコスモスがわんさかと居たんだよ。
 しかもその筆頭はブルーコスモスの盟主☆
 その人達が中立国のコーディネイターを利用しないわけがないじゃない。
 それとも君は一時的に戦闘を回避して後で『同盟を組んだからお前は同胞であるコーディネイターを殺して来い!』って家族揃ってMSに乗せられ方がマシだったの?
 あそこ本っ当に無茶苦茶だよ??
 実際に訓練した事も無ければ戦闘に関する知識も無い中立国の民間人コーディネイター(学生)を新型MSに無理やり乗せてザフトのエリート軍団と戦わせた前科があるんだから。
 更に無理にでも戦わせるために【ナチュラルの友達の身の安全】をチラつかせてねv」

 ずこ―――ん

 一気にトゲトゲ付の言葉を吐かれて精神的なダメージが重いシンは半泣きになってレイにしがみ付く。

「あの時に力が無かったのが悔しくてザフトに入ったんだってね。
 どう? 今度こそ戦争の根っこをどうにか出来る力は手に入ったのかな??
 力があるなら今すぐ双方の種族のいがみ合いをどうにかしてよ。
 アスハを此れでもかってくらい貶すんだから出来ないわけ無いよね〜vvv」

 う・・・うっく・・・ひっく・・・・

 天使の微笑みとは裏腹に鋼鉄のトゲトゲ言葉を吐くキラにシンは今度こそ泣いてしまう。
 かける言葉も無くただシンを支えていたレイが、ささやかながら泣き続けるシンの頭を撫でているのが何ともいえない。

《《《鬼かよアンタはっ!》》》

 確かに真実かも知れないが実際に家族を失ったシンにはその話は酷というもの。
 だがキラがどれ程酷い状況を乗り越えてあの戦いに参戦したかを知っているカガリがキラを力いっぱい抱き締めて叫んだ。

「ゴメンなキラっ! 私の力が足りないばっかりに辛い想いさせてるんだよな!!
 優しいお前が心を鬼にしてまでそんな事を言わなくても良いんだっ!!!
 お前にはまだまだ心の休養が必要だ。
 また海を眺める生活が出来るように私も頑張るから・・・だから・・・だからもう勘弁してやってくれ!!!!!」

《《《うわぁ。最終的には嫌いな『アスハ』に庇われてるよシン。》》》

「キラ! お前の帰る家が無事であるように俺も破砕作業支援をするから!!
 お前はもう休んでるんだ!!!」

《《《安請け合いするなぁっ!
      今他国の人間であるアンタに作業支援の許可が出るわけが無いだろう!!!》》》

 しかし・・・有言実行のアレックス・・・もといアスラン・ザラは議長特例でその後、ユニウス・セブン破砕作業に参加。
 悲劇が忘れられない者達の妨害を受けながらも同じく破砕作業にきていたイザーク達との共闘により危機を回避、必死にユニウス・セブンの大地を割る努力を続けた。
 ギリギリまで主砲での破砕を試みた満身創痍のミネルバと共にオーブへと辿り着き、降りていく三人・・・特にキラの後姿を見送りながらミネルバクルーはカガリに祈った。

《《《お願いだからその人を隠居させといて下さい。代表!》》》

 けれどオーブに住まう女神は彼らに微笑んではくれなかった。



 満身創痍のミネルバの修理の為、オーブのドッグに入るとタリアに挨拶に来た女性が居た。
 柔らかにウェーブを描く栗色の髪。優しさを感じさせる暖かな微笑を浮かべて彼女は言った。

「ミネルバの修理を担当させて頂くマリア・ベルネスです。」

 右手を差し出す彼女にタリアも微笑み返しながら手を握り返して名乗る。

「艦長のタリア・グラディスです。よろしく。」
「こちらこそ。それからこちらが整備主任。腕は確かですわ。」

 少し無骨さを感じさせる浅黒い肌の中年男性に微笑みながらタリアは「よろしく。」と会釈する。
 だが、紹介された彼の後ろに控えていた人物に気付いて硬直した。

《な・・・なんで彼がっ!?》

「最後に彼がプログラミング担当のキラ・ヤマト君です。
 オーブ一の腕前ですからご安心下さい。」
「再びよろしくお願いしますvvv」
「何故君が・・・。」
「ユニウス・セブン落下によって生じた高波で家が流されちゃったので再び出稼ぎです☆
 ついでですからザクに乗った時に見つけたプログラムバグも直しちゃいますね★」
「バグっ!? そんなものがあったの!!?」
「今まで不具合出なくて良かったですね〜。
 でもこの先誤作動の可能性ありますし、ちゃちゃっと直してしまいましょうねv」

《いやぁぁあっ!
 この子に関わってからシン達は妙に怯えたり精神が不安定になったりしてるし、艦の機密データを勝手に読み取られちゃうし、もう関わり合いになりたくない!!!
 代表は何でこの子を寄越したのよぉ!!!!!》


 っくしゅっ!

「カガリ大丈夫か?」
「ヘーキヘーキ。それより今度のキラの職場は大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だよ。マリューさんが見ててくれるしマードックさんも居る。
 何よりもキラの能力が最大限に生かされる現場だからな。
 それにきっとグラディス艦長も喜んでくれるさv」
「そうだなっ★」

 あはははははははははははは

 ごくごく純粋な好意でキラをミネルバへと向わせた二人は嬉しそうに笑いあう。
 そんな彼らにタリアの心の悲鳴など届かない。

 そしてキラもまた・・・

「カガリのボディーガードは結構楽しかったのにな。
 でもまたカガリがオーブを出る時があるだろうしその時にまた頼もうっとvvv」

 臨時ボディーガードのキラ・ヤマト
 物理的にはアスランを使い精神的には言葉の毒でカガリだけを守るオーブ連合首長国内【最凶】のボディーガードとしてプラントで有名になった。


 END


 アップするの忘れてた・・・。
 すみませんでした。
 前中後編の三部にするには丁度いい区切りがなかったので全後編。
 お楽しみ頂けたでしょうか?


 2006.7.6 SOSOGU
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