最凶ボディーガード キラ君 〜影の支配者〜 前編

《ミネルバの修理時にこっそりデータは取ったし、【あの子】の調教・・・もとい指導もちゃんとしたし、孤児院も暫く食料の心配は無い。じゃあ僕も・・・。》

「キーラー。」

 必要な分だけ稼いだキラが暫く休もうと考えたところ、キラのシャツの裾を引っ張る存在がいた。視線を落とすとキラをぐるりと囲むように孤児院の子供達が困り顔でキラを見上げている。大人には厳しくても子供には甘いキラは微笑みながら子供達の視線の高さに合わせて身を屈めて問い掛けた。

「どうしたの?」
「あたしの服キツイの。」
「僕のズボンが短い〜。」
「俺のシャツ破れちゃった。」

 口々に訴え自分の服を引っ張って見せる子供達に困惑してキラは更に問い掛ける。

「替えの服は? ラクスと母さんは何て??」
「「「もう服も無ければ布を買うお金も無いって。」」」

 この瞬間、キラは再び動く決意をしたのだった。



 アスハの宮殿は使用人こそ多いものの住民は少ない。
 現オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハとその護衛アレックス・ディノ。(正確にはアスラン・ザラ)対外的にはカガリの護衛の為に住み込みとなっているアスランだが、実際はアスラン・ザラからキラを守る為にカガリが【アレックス】として縛っているだけである。

「アスラン、昨日は済まなかったな。」
「いや、大した事は無い。ユウナ・ロマ・セイランの嫌味はいつもの事だし。」
「何を見ているんだ?」
「ニュース。何処も酷い状況だからな・・・。大西洋連邦が流す情報は『コーディネイターがユニウス・セブンを落として我々の命を脅かした。』の一点のみ。見事に編集されてミネルバを始めとしたザフトの奮闘は無かったものとされているよ。」

 食事もそこそこにパソコンのモニターを睨みつけるアスラン。カガリも開かれたウィンドウに目を向けるが映る映像はどれも酷い状況だった。
 生活を破壊され、家族や親しい人を失い泣き叫ぶ人々。これは事実には違いない。けれど他に伝えられているユニウス・セブンでのMSの戦闘映像を見る限りではプラント理事国家に都合の良い編集になっている。事実を知るものには強引な情報操作。流石に呆れてカガリが溜息混じりに呟く。

「普通、撮った人間がいるんだからジャーナリストならば撮影者を探して事実確認しないか? それにマニアな人間ならザフトの機体であってもミレニアムステージに移りつつあるザフトにしてはあの機体を使うのはおかしいと疑問に思っても良いと思うんだが・・・。」
「『プラントはテロリストを匿ってる』って大西洋連邦を始めとしたプラント理事国家の発表を頭から信じる国民もどうかと思うがな、俺は。」
「まあ、自国の公式発表だから信じるんだろうけどな。」
「俺は父上の例があるから自分で納得できない情報は信じないな。だが実際に疑問に思う者がいてネットでその点に関して疑問を述べようとしても・・・。」
「ブルーコスモスが何してくるかわかんないってか。」

 はあぁあああ

 至った結論に涙が出てくる。一体先の大戦でどれだけの人間が犠牲になったのか本当に世界はわかっているのだろうか? 少なくともブルーコスモスのトップは理解していないと思うのは、あの狂信的な彼らの行動を思い出すからだろう。
 愚痴って溜息吐いても状況は変わらない。分かっていても愚痴らずにはいられない。カガリも昨夜遅くまでの閣議で精神的に疲れ果てていた。更に今朝確認したメールボックスを思うと更に疲れは倍増する。

《潤いが欲しい・・・・・・。アスランみたいに護衛ってだけじゃなくてちゃんと私の仕事を手伝ってくれる気の利いたアイツが来てくれたら・・・。》

「世界がこんな状態だから俺はプラントに行こうと思う。」
「プラントに!? 本当かアスラン!」
「・・・カガリ、妙に嬉しそうじゃないか?」

 思ってもみなかったアスランの言葉に零れる笑みを隠せないカガリ。普通は驚く場面で喜ぶカガリを不審に思ったアスランは眉を潜めて問い掛けるが、カガリは満面の笑みを崩す事無く胸を張って言い切った。

「いや、そんな事無い。そんな事はないぞ!」
「まあいいけど。暫く戻れないから護衛の手配をしなくてはいけない。」
「それなら充てがあるから大丈夫。心配するな。」
「そうか?」
「ああ、だからゆっくりと観光気分で行って来い!」
「それじゃあこれ。」
「何だ? 指輪??」

 アスランの手を見れば指先で光る小さな輪。よく目を凝らすと小さいながら赤いルビーのついた繊細なデザインの指輪だった。カガリの気質を思うとルビーは確かに似合っているだろうが、デザインとしては少し繊細過ぎるかもしれない。
 取り出された指輪の意味がわからずカガリが呆けているとアスランはカガリの左手を取り、薬指にそっとその指輪をはめ込んだ。

「一応虫除け。無いよりマシだろ。あのモミアゲにはやっぱムカツクし。」
「お前にしては気が利くな。」
「『お前にしては』は余計だ。」



 バタバタバタ

 食後、既に用意してあったスーツケースを手にヘリに乗り込んで行ったアスランを見送りながらカガリは本っ当に嬉しそうに叫ぶ。

「本っ当に暫く帰って来なくて良いからな〜〜〜〜〜。」



 * * *



 アスランがプラントへと出立した後直ぐ、マルキオ導師の別宅の一室で鳴り響く通信機。発信元がアスハの宮殿であるとわかったキラが回線を開くとモニターには満面の笑みを浮かべたカガリが映し出された。 

【キラ! アスランがプラントに行くって出てったから仕事が出来たぞ!!】
【じゃあもう一度?】
【そうだ。私のボディーガード宜しくな。本当は寄付が出来れば良いんだが・・・。】
【カガリ。働ける人間がいるなら働くべきだと僕は思うよ。】
【キラ・・・。】

 だったら普段から普通にバイトしろと第三者は言うだろうが『可愛い弟の健気な言葉』と受け止めているカガリにはそんな考えなど浮かばない。感涙しているカガリを前にキラはモニター越しにぺこりとお辞儀をして『雇用主』に礼を言った。

【それではどうか宜しくお願いします。アスハ代表。】



《さーてー、色々下拵えした方が良いよね。折角だしミネルバから取ったデータ検証を始めて・・・それから・・・v》



 INミネルバ

「シン〜〜〜! レイも〜〜〜!! 気分転換に街に出ない? 上陸許可貰えたって副長から聞いてるでしょ。メイリン達も『ヨウランを慰める会』の為に出てったし。ね〜え〜〜。」

 シンとレイの部屋の外ではルナマリアがオーブの街へ繰り出そうと二人を誘いに来たのだがインターホンを幾ら鳴らしても二人からの返事は無い。在室している事は知っているだけに呆れたルナマリアは勝手に室内の音声が聞き取れるように通信回線を開いてみた。
 中は見えないが二人の会話が聞こえる。

《人のこと無視して何話してるのよあの二人!》


 さて一方、設定が無理やり変えられて会話ダダ漏れ状態である事に気付かないレイはパソコンを前にベッドで不貞寝しているシンに声を掛けた。

「上陸したかったんじゃなかったのか?」
「・・・・・・だって俺・・・・・・。」
「あのキラと言う奴のことなら気にしなくても良い。
 確かに2年も期間がありながらあの時の状況や判断を下さなければいけなかった当時の代表の気持ちも考えなかったお前に非が無いとは言わない。」

 ぐさっ

「お前がヘリオポリス崩壊後も平和を満喫出来たのはウズミ元代表やその後を継いで代表に立ったホムラ代表を始めとした当時の首長達の頑張りに因るもの。また彼の言葉を思えば恐らく無理やり戦わされた『当時学生だったコーディネイター』が彼自身であった事も簡単に推測出来る。あの頃の戦況を思えば彼の友人の一人や二人は亡くなっていてもおかしくは無い。代表も父親や叔父を亡くしているのは確か。大切な人を亡くしたのは世界中でお前一人では無い。」

 ぐさぐさっ

「オーブが侵攻される時、国民の事を思えばどちらの手も取れない事は確か。ナチュラルの国民の事を考えずにザフトに協力を要請しろとは言えない。そしてオーブ軍の殆どがナチュラルでお前を助けてくれたオーブの将校もナチュラルだっただろう。奮戦して死んでいった兵士達はナチュラルとコーディネイター、どちらも守ろうとしていた。」

 ぐさぐさぐさっ

「当時辛い状況にいた人間からすればお前の言葉は『あの状況で完全に守られることを当然と考えていた思慮の無いお子様』と思われても仕方が無いだろう。」

 ぐささささ―――!!!

 止め。
 無論シンとて考えなかったわけでは無い。それでも改めて言葉にされると傷つかずには居られず、言葉という名のナイフでハリセンボン状態シンは慰めを求めるように妹の形見の携帯電話をぎゅっと掴む。シンの状態に気付いていないレイは尚も言葉を続けた。
 ・・・シンを力付ける為に。

「だが、家族を失った悲しみはお前だけのもの。お前の怒りにも正当性はある。」
「・・・レイ。お前、俺を虐めてんのか慰めてんのかわかんねーよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「っておい!? 何だよその沈黙は!!!」
「フォローのつもりだったんだが。」
「お前本気か!? 最初に人の事これでもかって位に思いっきり批難しといて最後にちょこっとだけ『正当性はある』って言っても全然慰めにならねーよ!!」

 レイのばっかやろ―――っ!!!

 雄叫びのような声を残し、カードと形見の携帯だけを持ってシンはザフトの制服のまま飛び出して行った。後に残されたレイは一人考える人のポーズを取り唸る。

「やはりギルの様には行かないか・・・ちゃんと参考書を見たんだがな・・・・・・。」
「どーゆー本を参考にしたんだか知らないけど、後でちゃんとシンに謝りなさいよね。」
「ルナマリア?」

 レイがドアの方を見上げると其処には呆れ顔の同僚が立っていた。

「シンを誘いに来たのに二人でずーっと話し込んでるからどうしようかと思ってたんだけどね。会話は一部しか聞こえなかったけど、その一部を聞いただけでも相当酷いわよ。
 本当に一体何を読んで・・・。」

 かたん

 小さな物音に二人とも音のした方向へと視線移す。レイのベッド脇の小さな本棚。その中でレイ愛読の本が一冊倒れていた。

 『正しい躾〜犬編〜』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とにかくシンに絶対謝りなさいよ。」

 本の題名でレイの参考書が何だったのかを察したルナマリアはそれ以上言わず部屋を出て行った。だが、参考書の選択が間違っている事に気付かないレイ・ザ・バレルは一切外出せずに悩み続けたのだった。



 * * *



 アスハ家の宮殿は豪華ではあるが華美では無い。キラは落ち着いた雰囲気を醸し出す宮殿内を一人歩いていた。
 アスハの宮殿内でキラの『表面上の正体』を知る者は多い。嘗てオーブ軍と共に先の大戦を終戦に導いた伝説のMSパイロット。

「キラ〜!」
「カガリ。」

 元々軍人ではないにも関わらず伝説のパイロットにまで祭り上げられてしまった事を自覚していないキラはにこやかに自分の方へと走ってタックルをかましてきた現オーブの代表首長を務める『実の姉』を危なげなく受け止めた。

「そうやって直ぐに人に抱きつく癖直した方が良いよ。」

《《《人にではありません。貴方にだけです。》》》

「着いた早々悪いんだが・・・。」
「直ぐに閣議があるんでしょう?」
「ああ・・・。例の大西洋連邦とユーラシア連邦の同盟条約だ。」
「まあ早い話が陣営を定めろって脅しだよね〜。そんなにプラントと喧嘩したいのかね? 前にアレだけ犠牲を出して懲りたかと思ったんだけど。」
「サルでも出来る反省を一切しない首脳陣ばかりでな・・・頭の痛い話だ。オーブの首長達も『足並みを揃えるべきだ』と主張してきてこれ以上抑え切れるかどうか・・・・・。」
「大丈夫だよカガリv 僕がついてるvv 」
「キラ、慰めてくれているのはわかるんだが・・・。」
「カガリ、僕は君のボディーガード何だよ。もう下準備をしてあるしこれからもドシドシやってくから少しは安心してよ★」
「キラ・・・お前またボディーガードの仕事勘違いしていないか?」
「間違えてなんかいないよ? 僕が君を守る。だから笑ってカガリ。僕は笑ってるカガリの方が好きだよ。」

 そう、既にキラの仕事は開始されていた。



《チクショウチクショウチクショウチクショウど・ち・く・しょ―――っ!!!》

《何だよレイの奴! 大っ嫌いだ!! もう絶対にアイツの服ランドリーに出してやったり散らかした本片付けたり朝の弱いアイツにカフェオレ作ってやったりなんかしないんだからなっ!!!》

 ・・・・・・・・・妹がいたせいだろうか。結構世話好きなところのあるシン・アスカ。レイの世話をしないと堅く心に誓いながらミネルバから飛び出した。しかし服はそのままなので港で呼び止める兵士がいたがシンは気付かずに飛び出して行く。
 暫く走るとその視線の先に小さな黒い影の集団が見えてきた。
 影に興味を持ったシンが走るのを止め、ゆっくりと歩いて影のある方へと歩き出すと、そこには一人一つずつ荷物を抱えて歩く子供と引率と思われる女性がシンの出てきた軍港に向かって歩いて来た。
 紫がかった紺色の髪をした女性はシンの姿に気付いたのかこちらに顔を向けた。
 新緑の瞳で真っ直ぐにシンを見つめながら女性は本当に驚いているのか怪しい声を上げて近づいて来た。

「あら、あらあら?」
「おにーちゃんザフト?」
「これアスランと同じ服ー。」
「違うよアレックスだよ。」
「アスランだって。でも着てたのずっと前だよね。」
「な、何だぁ?」

 一気に子供達に囲まれて戸惑うシンに先程の女性が今度は楽しそうに笑いながら声を掛ける。

「ミネルバの方かしら? 幾らここが中立と言っても『あんな事件』があった後だもの。軍服で市街地をウロウロするのは危険よ。早く私服に着替えた方が良いわ。」
「ご親切にどうも。でもちょっと部屋には戻れなくて・・・一番近い衣料品店は何処ですか?」
「その格好のままお店に行くの?」
「やめたほーがいいよー。」
「コロニーが落ちたことすっごく怒ってる人たちもいるし。」
「でも・・・。」
「小母さん、服貸してあげよーよ。」
「何言ってんだよ。これは届け物だぞ。」
「大丈夫だよ。事情話せばきっと許してくれるし。」
「そうね・・・サイズが合うかわからないけど、着てみる?」

 ニッコリ笑って差し出す女性の微笑みは聖母のように見えたのは、シンが傷ついていたからだろう。
 少なくとも、シンはその後そう想った。



 * * *



 ざわめく町並み。オーブ本島にもユニウス・セブンの落下による被害はあるが都市部の被害は幸いにも軽微だったらしく、街には普段と変わらぬ様子で歩く人々で溢れかえっていた。
 そんな中を物珍しげに辺りを見回しながら楽しげに笑う赤い髪の少女が一人。ミネルバ内では「可愛い」と評判のメイリン・ホークである。その傍らには整備士のヴィーノと表情がコレでもかと言うほど暗く鬱陶しいヨウラン。メイリン達はヨウランを励ます為に殊更楽しげに笑って見せる。
 けれどおいしそうなお店があると喫茶店を指差しても、ヨウランに似合いそうな良い洋服が展示されているとブランド店のマネキンを見せてもヨウランの表情は浮かない。

《あ〜、やっぱあの人から受けたダメージが相当響いてるわ。》
《これじゃ暫く仕事にも支障を来たすぞ〜。》

 はああっ☆

 メイリンとヴィーノが二人して溜息を吐くと、周りの人々が一斉に驚きの声を上げた。

「おいこれ見てみろよ!」
「何処の誰が撮ったんだ? プラントの公式発表にこんな資料なかったじゃねーか。」
「『アーモリー・ワン襲撃時に奪取されたMS3機により破砕作業の中断を余儀無くされ・・・。』って何処の部隊だよ。」
「今もこの部隊が何処の所属か分からないって・・・・・・もし同盟条約した何処かの国が差し向けた部隊だったりしたら・・・。」
「まず既に同盟している国のどれかなのは確かだ。アーモリー・ワン襲撃に使用されたMSは『ダガー』なんだぞ!? 少なくとも大西洋連邦や彼らに親しい国が怪しい。」
「現在同盟に条約の意志を示していないのはオーブだけだ。我が国のMSはM1アストレイやムラサメ。それにコレだけの事が出来る戦艦やMSが奪われたならとっくに騒ぎになっているはずだ。同盟条約に調印している国の何処かが今回の被害を拡大させたって言うのかよ!」

 !!?

 『アーモリー・ワン』『大西洋連邦』『同盟条約』というキーワードに3人が振り向くと街の人々がビルに映し出された巨大スクリーンに注目していた。
 まずは青空の広がる場所で奪われた新型MS3機と戦うインパルスやザク。そしてアーモリー・ワンの港近くの宙域でザフトの戦艦と交戦するダガー。最後にはユニウス・セブン破砕作業を妨害するテロリストのMSとの戦闘と共に彼らと交戦するザクを攻撃する奪われた3機の映像。
 メイリンはこの映像に見覚えがあった。

「この映像って・・・・・・ミネルバの戦闘記録!?」
「どうしてこれがオーブに!」

 公式発表として使われなかったこの映像は現在ミネルバとプラントにあるザフトのマザーコンピュータにのみ記録されているはずなのだ。国外に流出なんてあってはならない事。
 けれど既にこうして他国の、しかも民間人に、見られてしまった。彼らに出来る事は最早一つだけ。

「艦長に、早くミネルバに連絡を!」



 かっかっかっ・・・

 カガリは走っていた。
 向かう先はアスハの宮殿の一角。
 宮殿内を走るなとマーナが叫んでいるのだが、今は彼女の小言を聞いている暇などないのだからと後ろから聞こえる喧騒には耳を塞いで彼女は走り続けた。
 先程オーブの行政府に届けられた知らせとオーブを始めとした各国に配信された映像にカガリは愕然とした。

《これはミネルバの戦闘記録!? 何故コレが流出しているんだ!!》

 現在の問題はこれを見た国民が示している反応である。

 やはりこのような乱暴な手を使う連合とは表面上だけでも手を結んで争いを回避すべきだという意見と、先にプラントを攻撃し尚且つユニウス・セブン落下による被害を拡大させ、今もプラントに対し戦争を仕掛けようとしているような連合と手を結ぶべきではないという意見が生まれている。
 特に後者に関しては先の大戦時に言い掛かりでオーブを侵略した挙句、あの戦いを《オーブ解放戦》などと呼ぶ大西洋連邦への反感が言葉に力を添えている。
 現在閣議の最大の問題がこの同盟条約を結ぶかどうか。カガリとしては勿論反対には違いないが、今オーブが大きく二つに割れるのは好ましくない。だから今、犯人の許へと走り続けていた。

《犯人はわかっている。こんな事が出来るのはあいつしかいない。だが、何のために!? これでは混乱が増えるばかりじゃないか!!!》

 ばあん!

 カガリが開け放ったドアの向こうには麗らかな木漏れ日の中、パソコンのモニターを睨みながらキーボードを叩く手を止めないキラの姿。これで中身を知らなければ仕事熱心な少年で済むのだが・・・今は彼の行動を容認するわけには行かない。カガリはのっしのっしとキラに歩み寄り、必死に怒鳴りだしたくなる気持ちを抑えながら声を掛けた。

「キラ、お前今何やってるんだ。」
「んー? あ、カガリお帰り〜v 丁度良かった。僕のお仕事の成果見てよvv」
「丁度良かったじゃないぃいいっ! やっぱお前か!! オーブを始めとした周辺各国にあの映像を配信したのは!!!」
「勿論☆」
「そこであっさり肯定するなっ! どうするんだこの混乱を!! 配信された映像はまるでウィルスみたいに次の国の何処かのパソコンに送り込まれたりして今じゃネットワークの充実した国で今回の事を知らない奴はいない。世界中で同盟を疑問視する声が上がって騒ぎが起こってるんだぞ!!!」
「そりゃソレを狙ってやったんだもん。何も起こらない方が困るよ。」
「キラ、お前一体何をしようとしているんだ? 騒ぎを起こしてどうしようって言うんだ!?」
「カガリ、よーく考えてみようよ。そもそも君が苦労している最大の理由は何だと想う?」
「首長達の大西洋連邦寄りな考え・・・かな? 特に今回の同盟条約に関してはオーブの理念を曲げてでも結ぼうとしているし。」
「違うねカガリ。情報操作をして自分達に都合の良い展開に持っていこうとしている大西洋連邦なのは確かだ。けど・・・正確にはブルーコスモスの思い通りに地球全体の考えが操作されていることが問題なんだよ。だから足並みを揃えるべきだと首長達は主張する。
 此処で問題なのは世界で『正しい』と思われている考えが一つしかない事。対等な力を持つ別の意見が無いことだよ。勿論現在も僅かながら今回の事件を切っ掛けに持ち出された条約の内容を疑問視する声はある。けれど被害の大きさに打ち消されているんだ。じゃあどうすれば疑問の声に力を与える事が出来る? どうすればカガリと同じ気持ちになれる? どうしてカガリはそこまで同盟を拒否したいと思うの?
 答えは簡単。カガリは全てを見てきたからだ。
 アーモリー・ワンで何があったのか。ユニウス・セブン破砕中に何が起こったのか。そしてミネルバが最後まで奮闘してきたその姿を、君は見てきた。
 けれど大西洋連邦はどうやってかは知らないけれどユニウス・セブンを動かした犯人達の映像を手に入れて自分達の都合の良い部分だけを世界に知らせた。それはつまり・・・皆を騙したことになる。
 大西洋連邦がした事をただ訴える事も出来る。けれど同盟条約に関する回答を唯一していないオーブが訴えても説得力が無い。『中立を守る為だけにやっている』と心無い人達が陰口叩くだろうしね。
 でもね、ただ情報だけを提供してみたらどうだろう? 意図的に大西洋連邦が隠していた事実を提示すればオーブが公式発表するまでも無く疑問視する声は生まれる。特にオーブの様に連合に侵略された国や地域では同盟条約が内包している危険を声高に叫ぶだろうね〜。
 『いざとなれば大西洋連邦やユーラシア連邦は同盟を盾に自分達の都合の戦いに私達を巻き込むのではないか!?』とかね。十分に考えられるんじゃない? 以前も機密保持を盾に中立国の人間を拘束した挙句に戦いに巻き込んだ『実績』をエッセンスとして加えると更に各地で意見が分かれるだろうね〜。楽しみだなぁ。」

 くっくっく

「キ・・・キラ?」

 暗い笑みを浮かべて笑い出すキラにカガリは冷や汗ダラダラ状態。確かにキラの様に先の大戦で巻き込まれた人間は多い。当時どれほどの非道が行なわれていたのかを暴露する方法もあるがそれは過去の事と切って捨てられる可能性も高いからこそカガリは考えに入れなかった。と言うよりも入れられなかった。巻き込まれたのは自分達の力が及ばなかったから、守り切れなかったのは自分の責任だからとカガリは考えていたのだから。
 だがしかし・・・・・・。

《被害者本人にされてしまうとやって良かったと思っちゃうのはやっぱ施政者として拙いよなぁ。》

 何処まで言っても代表首長カガリ・ユラ・アスハ。けれど彼女はまだキラの恐ろしさをまだ知らない。



 さて一方その頃のシンは・・・

「うーん。デザインの問題があるな。」
「ブーツに合わないね。靴はお店で買ってね。」
「それに黒髪だから下のシャツだけにした方が良くない?」
「俺で遊ぶなよお前等・・・。」

 只今子供達に囲まれてファッションショーをしていた。


 つづく


 (2008.8.14 UP)
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