パパリンの暴走
『シルバーウィンドが連絡を絶った!?』
『アレにはラクス・クライン嬢が乗っているのです。
 早急に捜索隊を結成しなければ。』
『議員方お静かに。
 捜索隊の結成も勿論ですが現在オーブからヘリオポリスに関する抗議書が届いております。
 こちらの対処が先でしょう。』
『クライン議長、貴方の御息女の安否が気遣われているのですよ?』
『無論、私とて娘の心配はしております。
 けれど議会で私情を挟んでは冷静な判断は出来ますまい。』
『・・・ではこうしては如何か?
 現在クルーゼ隊がデブリベルトに近い位置で地球軍の新型を見失ったとの報告があるのです。
 どうやって姿を隠したのか・・・見当が付かない今、闇雲に探しても到底発見できるとは思えません。
 またクルーゼ隊は二隻で地球軍を追っている。
 ここはヘリオポリスに関する報告の為にクルーゼ隊長の乗るヴェサリウスをプラントへ帰還させ、地球軍の艦の捜索を兼ねてガモフをデブリベルトに向かわせると言うのは・・・。』
『しかし、捜索隊の指揮は誰が?』
『クルーゼ隊にはラクス嬢の婚約者、アスラン・ザラがおります。』
『・・・・・・・・・・わかりました。ではアスランに指揮をさせましょう。
 皆様方、異論はありますか?
 ありませんね。では直ぐに連絡を。』



 さて、お話はキラからアスランの話へと変わる。
 キラとモニター越しに話は出来たもののザフトに来る事を拒まれアークエンジェルは見失って意気消沈のアスラン。
 しかし彼はまだ知らない。
 自分がパパになっていた事を。
 愛しい恋人に拒まれた点のみに思考を奪われ部屋にも戻らずイージスの中でメソメソしながらOSのチェックをするアスラン。
 腐ってもアカデミートップと言うべきか。

 ぽーん

『クルーゼ隊アスラン・ザラ。クルーゼ隊アスラン・ザラ。
 直ぐに隊長室へ出頭するように。繰り返す。
 クルーゼ隊アスラン・ザラ。クルーゼ隊アスラン・ザラ。
 直ぐに隊長室へ出頭するように。』

 滅多に無い全艦内放送。
 しかも呼び出しという事で格納庫内はざわめく。
 だが呼び出し放送が掛かっているにも関わらずコクピットから出てこないアスランに痺れを切らし、ジョルディがイージスへと近づき声を掛ける。

「おーいアスラン。呼び出しだぞ。」
「・・・・・・・・きら・・・・・・・。」
「おい? 何言ってるんだ。
 呼び出し掛かってんだから早く行けよ。
 行かなきゃどやされんぞ。」
「・・・・・・・・きら・・・・・・・。」

 ごつ

 目の焦点が合ってないアスランの頭を軽く小突くジョルディ。
 途端に格納庫内のざわめきが大きくなる。

「おっおいっ! ジョルディの奴、あのアスラン・ザラを殴ったぞ!?」
「あの泣く子も黙る強面国防委員長の愛息子を!」
「いいのか!? いやそれ以前にアイツ首飛んだりしねぇ!!?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしてパイロット以外アスランに近寄ろうとする者が少ないのかが伺い知れる会話が交わされるが二人は全く気にしない。というより聞こえてない。
 更にジョルディは小突いても無反応のアスランを無理やりコクピットから引きずり出す。

「あーもー何悩んでんだか知らねーけど、あの放送の声はアリシアだぞ?
 隊長だけじゃなくアリシアのお仕置きまで受けたいのか??」
「・・・・・・・・きら・・・・・・・。」
「しゃーねーなー。」

 抵抗もせずに成すがままの状態のアスランが使い物にならないと判断し、ジョルディはそのまま引き摺るように隊長室へと向かった。
 その後交わされる会話など気付きもせずに。

「アスラン・ザラを引き摺ってった・・・。」
「しかもアスランも抵抗しなかったぞ?」
「俺、今まであのオペレーター兼看護士の子が最強だと思ってたけどジョルディも相当じゃないか!?」
「そう言えばジョルディってパイロット達と仲良かったよ。特に紅と。」
「今度っからジョルディは『さん付け』で呼ぼう。」

 うん

 一斉に頷く整備班。
 その中に整備主任まで混じっているのが悲しい。
 アスランに関わったせいで整備班友達を無くしかけてるとは露にも思わないジョルディ。
 幸いなのか不幸なのか・・・その後ジョルディは異動となる。




《どうして俺まで。》

 ジョルディは荷物をまとめながら考える。
 突然のガモフへの異動。
 アスランに言い渡されたガモフでのラクス・クライン嬢の捜索隊指揮。
 万が一地球軍を見つけてMS戦になった時の為に唯一あの曲者パイロット達に指示を出せるアリシアも一緒に連れて行くのはわかるが何故自分もなのか。
 けれどクルーゼの判断も分からなくは無い。


 無理やりアスランを引き摺って行ったものの意識が全く現実に戻って来ようとしなかった。
 ジョルディがぺちぺちとアスランの頬を叩く様を見て、クルーゼは判断したのだろう。

《今のアスランには世話役もとい補佐が必要。
 補佐はアスランに遠慮なく接する事の出来る人物で無ければならない。》

 どちらにしろ指揮官には副官が付くもの。
 イザークがアスランと仲が良くない事はヴェサリウス・ガモフの乗組員全員が知っている。
 戦闘管制であるアリシアを外す事が出来ない以上、パイロットが減ってもニコルを付けるつもりだったのだ。
 しかし整備士の中に適任者がいた。

『君はイージスの整備担当か。
 ではアスランの異動に合わせて君もガモフに異動してもらうことになる。』
『えっ!?』
『同時に捜索隊指揮官補佐も兼務して欲しい。』
『隊長。イージス担当と言っても俺はただの一整備士ですが。』

 ぴぴっ

 電子音が鳴り響く。
 クルーゼの手元にあるモニターに映るのはジョルディの履歴書だった。

『確かに本来ならば一整備士の君に頼む仕事ではない。
 しかしパイロット以外でアスランと対等に話せる者があまりに少ない。
 アリシアに任せられれば問題は無かったのだが彼女は既に医務室勤務兼MS管制だ。
 これ以上兼任させるわけにはいかない。』
『・・・・・・・・・・・・。』
『君も恋人にばかり負担を掛けるのは心苦しいだろう。』

《そう来るかーーーーーーーーー!?》

 只今ヴェサリウス及びガモフ内でアスランの手綱が取れる数少ない人物&アスランが恐れているアリシアの恋人ジョルディ君。
 【恋人】を引き合いに出されて退路を立たれた状態になり・・・

『・・・・・・・・はい。』

 了承せざるを得なかった。



「っちう訳でイージス整備担当兼ラクス嬢捜索隊指揮官補佐となりましたジョルディ・キッシュです。
 宜しくお願いします。
 私と同時にガモフへ異動になったのはそこで半死人しているラクス・クライン嬢捜索隊指揮官アスラン・ザラと戦闘管制担当兼看護士のアリシア・コードウェルの二人です。
 これからの航路に関してお話する前に何か質問はありますか?」


 あれから急ぎガモフへ異動。
 無気力状態で動かないアスランに縄を掛けて引き摺るジョルディの姿はガモフの乗組員の殆どが目撃し、もちろんその中にイザークらGのパイロット達もいた。
 アリシアも共に乗り込んで来た事に気付き一体何が起きたのかと驚いていると直ぐにブリッジに出頭するようにと放送が掛かり困惑状態で三人は出頭した。
 そこにいきなりのラクス行方不明の報に捜索隊結成の話である。
 只でさえあっさりとアークエンジェルに逃げられ不機嫌さ最高潮のイザークが食って掛かった。

「何が『っちう訳で』だ! ふざけるな!!
 地球軍の新型を未だ仕留められずにいるのにラクス・クラインの捜索も同時に行えだと!?」
「あー、気持ちはわかるけど話をとっとと進めたいから明確な質問をしてくれ。」
「プラントを脅かす可能性を秘めた地球軍の艦とラクス・クラインの捜索とどっちが優先だ!」
「答えは両方。少なくともな。
 ザラ国防委員長曰く、当ても無く探し回るくらいならデブリベルトを捜索しろ・・・だとさ。
 ラクス嬢が消息を絶った場所が俺達の傍であり尚且つ『足つき』はこの近くで見失っている。
 もし『足つき』がデブリベルトに隠れてたらめっけもん・・・ってところだろう。」
「ま、仕方ないんじゃない?」

 ジョルディの言葉を肯定するようにディアッカがイザークを宥める。
 その隣でニコルが苦笑しながらも頷いてくれたのを見届けてジョルディはホッとする。

《元々俺は人の上に立つタイプじゃないんだけどな〜。》

 ぼやきたいが現在アスランが使い物にならない以上、補佐であるジョルディが動かなければならない。
 頼りのアリシアはシフトの関係上、仮眠中だったにも関わらず無理やり叩き起こされ異動させられたので今はミーティングを休んで寝直している。
 後、数時間は起きてこないだろう。
 溜息を吐くジョルディにぽんと背中を叩くのは何時の間にか隣に来たニコル。

「大丈夫。僕も出来る限りフォローはしますから。」

 心強い味方が出来、漸く硬直した笑顔からいつもの柔らかな表情を浮かべるジョルディにニコルはどうしてもわからなかった疑問を口にする。

「ところでアスランは一体どうしたんですか?
 ヘリオポリス崩壊から生気が抜けきった顔して・・・。」
「正直俺も知りたいところさ。
 それより航路と捜索に関してクルーゼ隊長から殆ど指示を貰っている。
 説明するから皆モニターに注目してくれ。」

 着々とガモフはデブリベルトへ向かう準備を始めていた。
 ジョルディが聞いた命令はただ一つ。

 急いでラクスを捜索する事。
 正確にはその命令は最高評議会からでは無く『パトリック・ザラ国防委員長』から発せられたのだが。
 何でも国防委員長自身が後からもう一隻軍艦を率いてやってくると言うのだから相当慌てているのだろう。
 プラント一番のアイドルの上にプラント最高評議会議長の娘。
 特に今回ユニウス・セブン追悼慰霊団代表として調査に行って行方不明となったのだから尚更世間の注目を浴びているのだから最高評議会も揺れているのだろうとジョルディは無理に納得していた。

《ちょっと大げさ過ぎる気もするけどな。》




 同時刻、キラはアークエンジェルの格納庫に居た。
 ユニウス・セブンの調査はキラにはあまりに辛いものだった。


 同じコーディネイターの沢山の遺体が虚空に浮かんでいるのを見ても半分現実感が無かった。
 というより感覚が麻痺してしまったのだろう。
 シェルター前に密集する遺体の山。
 建物の中には必ず人の姿があった。
 恐らく自分の身に何が起こったのか分からないのだろう。
 不思議そうな顔をしたまま凍りついている幼い少女。
 まるで眠っているように浮かんでいる初老の男性。
 老人・大人・子供、皆ユニウス・セブンに住んでいた民間人だろう。
 誰一人として武器を所持している様子は無く宙に浮かんでいた。
 軍人ならまだしも彼らが討たれるいわれの無い存在である事は明白だった。
 その様子にキラ達ヘリオポリスの学生だけでなくマリューら地球軍士官も皆、驚愕したまま巨大な墓標と化したユニウス・セブンを見つめる。
 高官である彼女達はあの血のバレンタインを起こしたのが地球軍上層部に食い込んでいるブルーコスモスだと知っていた。
 けれどこの悲劇の痕を目の前にして自分達がやったのではないと言い切れるか・・・。
 少なくともマリューには言えない。
 マリューの斜め後ろに控えるように立つナタルも思わず視線を逸らしている。
 特にキラがショックを受けたのは一般家庭と思われる建物の中で見た母子。

 殆どの調査を終えて、最後の確認にと立ち寄った。
 幼子を掻き抱いたまま息絶えた女性はまだ若く、その腕の中で眠るように凍りついた子供は丁度イリアと同じ位だった。
 そしてその傍で漂うのは目を模ったボタンが外れかけたクマのぬいぐるみ。

【マ〜マ!】

 急に聞こえるはずのない娘の声が聞こえた気がした。
 サイ達からプレゼントの一つとして受け取ったクマのぬいぐるみ。
 喜んでぬいぐるみに顔を埋めるイリア。
 笑顔を浮かべて娘とぬいぐるみを抱き締める自分。
 全てが目の前の母子に重なった。

「・・・・・・・・・っっ!!!!!」

 声にならない悲鳴を上げて身体を震わせるキラに驚きサイが宥める。
 キラが何故これほどまでに衝撃を受けたのかを察したマリューがサイにキラを連れて先にアークエンジェルに戻るよう指示を出した。
 半ば呆然とした表情のままその場から動こうとしないキラの腕を掴み強引に建物から出るサイ。
 彼も目の前の光景に胸が痛んだがそれ以上にキラの様子が心配だった。
 自分では操縦できない事に無力感を覚えながらキラをストライクのコクピットに押し入れOSを起動させる。
 立ち上がる時の電子音で漸く落ち着いてきたのかキラが一筋の涙を流した。

「うっく・・・ひっく・・・・・・・。」
「キラ、大丈夫。怖い事は無い。
 早くイリアのところへ帰ろう?」
「・・・・・・うん・・・・・・。」

 障害物の多いこの場所ではあまり速度は出せず軽くバーニアを吹かせてゆっくりとアークエンジェルへ向かう。
 それが幸いだったのかそれとも不幸だったのか。
 サイは目の端に映る救難信号を放つポットを見つけた。
 何故こんなところにと思いながらも放ってはおけずキラに伝えストライクで回収しアークエンジェルへ収容した。
 勝手に開けるわけにも行かない上にマードックに「拾った以上最後まで責任持て!」と引き止められ、マリュー達の到着をまで待ったのだ。
 やがて到着したマリュー達に事情を説明するとナタルが渋い顔をして言う。

「全く君は拾い物が好きだな。」
「いや、見つけたのは俺なんですけど。」
「類は友を呼ぶと言うだろう。」

 折角のサイのフォローもぴしゃりとナタルによって切り捨てられる。

「開けますぜ!」

 ぱしゅぅ!

 マードックの声と共に開かれる救命ポッドからは密閉された空気が漏れる音が鳴る。
 一瞬広がる沈黙、それを打ち破る高い声が格納庫内に響き渡った。

 ハロ! ハロハローーー!!

 真っ先に飛び出してきたのはピンク色の球体。
 飛び跳ねながら電子的な声を放つ。
 なにやら丸い金属板がのようなものが開いたり閉じたりして羽の様に見えた。

「有難う。ご苦労様です。」

 次に響いたのは明らかに少女の声だった。
 ハロの後を追うように広がる白と紫とピンク。
 白を基調とし長い裾や袖に紫を配したドレスを着用し、流れるような長いピンク色の髪が印象的な美少女はポッドから飛び出し辺りを見回す。

「あら? あらあら??」

 無重力の中、そのまま流れて行ってしまいそうな少女を止め様とキラは思わず手を差し出して腕を掴んだ。

「まあ。これはザフトの艦ではありませんのね?」

《《《制服見ればわかるだろ。》》》

 少女のボケたセリフにキラ以外は皆思わず突っ込みを入れそうになるが慌てて口を噤んだ。
 これがキラとピンクの髪の少女ラクスとの最初の出会いとなる。


 キラが精神的に参ってきている事をユニウス・セブン調査時に察したマリューは「物資の搬入は手伝わなくて良い」と医務室に戻る事を勧めた。
 勿論ナタルが搬入作業時警護の問題を提示して渋ったがフラガがメビウスゼロで辺りを探索する事を申し出て、ラクスの尋問はナタルとマリューが当たる事になった。


「キラは休んでいた方がいいよ。
 出来るだけイリアの傍にいてあげて。」

 サイがフレイのご機嫌伺いも兼ねてキラに付き添い医務室に来た。
 ドアを開けて二人の口が開いたまま固まった。

「おうまさんカッパカッパ〜♪」
「バッカバッカv」
「フレイっ! テメー人の事おちょくってるだろ!?」
「やーね、空耳でしょ? それとも幻聴かしら?? 難聴の可能性も高いわね、ラスティ。」
「みげるぅ〜かえるのうた〜〜〜☆」
「勘弁してくれ、もう何十曲歌ったと思ってるんだ・・・。
 つーか息するだけでも痛いんだぞ。肋骨の骨折っっててててて〜。」

 キラ達を出迎えたのはイリア専属の馬となって医務室中を四つん這いで動き回るラスティ。
 その傍のベッドの上でミゲルが青ざめた顔で胸を押さえている。
 どうやったのかマリュー達が掛けたはずの手錠はラスティの手首から消えうせていた。
 デスクの上に転がっているのが問題の手錠だろう。
 フレイは優雅に机について爪の手入れをしていた。
 ドアが開いた音で気付いたのかフレイが手元から顔を上げて笑顔で二人を迎える。

「お帰りキラ、サイ。」

 トリィ!

 フレイが気付くと同時にずっとイリアの傍にいたトリィがキラの肩に飛び乗った。

 トリィ、トリィ〜!

 甘えるようにキラの頬を擽るトリィを指であやしながらキラはイリアの傍に寄る。
 母親が帰って来たことに気付いてそれまで乗っていたラスティの背中から飛び降りイリアはキラの足元に駆け寄る。

「おかえりママ!」
「ただいま。遊んでもらってたの?」
「んっとね。らすはおうまさんなの。
 じーじみたいにかたぐるまやぶんぶんもしてくれたの〜♪
 それとね。みげるはおうたをたくさんうたってくれたの!」
「でもあんまり童謡を知らなくて同じ歌ばかり。
 もう耳タコよ。」

 嬉しそうに母親に報告するイリアの説明を補足するように苦笑したフレイが言うと「悪かったな!」と不機嫌そうにミゲルが口をへの字にする。
 随分と四人とも馴染んだようだった。

「ところでフレイ。ラスティの手錠はどうしたんだ?」
「ああそれは・・・外れたと言うか外したというか。」
「言っとくけど俺達が外した訳じゃないぞ。
 犯人はソイツだ。」

 トリィ!

 ミゲルが指差した先では踏ん反り返るようにキラの肩に止まっているトリィ。
 意味がわからずキラが怪訝な顔をするとフレイが答えた。

「トリィに組み込まれているアンロック機能が手錠を外したのよ。
 この手錠、旧式の鍵じゃなくて電子ロックだったから悪戯しちゃったのね♪」
「悪戯しちゃったのね・・・ってトリィにそんな機能があったなんて僕知らないよ?」
「私も前にキラがトリィを洗濯して壊しちゃうまで知らなかったけどね。
 修理を手伝ってくれたサイ達も分解・チェックするまで知らなかったはずよ。」

 フレイの言葉にサイを振り返れば少々困ったような照れ臭そうな顔をしてサイが頬を掻いていた。
 そんなサイの様子にラスティ達が呆れていると弁解するようにサイは答えた。

「CPUの交換の時にデータの破損が無いかを調べたんだ。
 その時に自動アンロックプログラムが組まれている事に気付いたんだけど・・・まあいいかと思って放っておいたんだ。
 かなり高度なプログラムだったから消すのは勿体無かったし。」
「「をいをい。」」

 あっさりとサイは言葉にするがこれは結構物騒な機能である。
 一応コーディネイター、しかも軍人を拘束する為のロック。
 そう簡単に解除出来ては困るし出来るはずが無いのにソレを成し遂げたのは子供の手にも乗るような小さなペットロボなのだからその機能の高さに驚くと共に脅威を覚えるのが普通。
 平和な中立国に住んでいたとはいえ・・・・・・・・・ラスティは呆れてしまった。

「まさか他にも変な機能があるんじゃないんだろうな。」
「変な機能なんてないわよ。
 イリアが迷子になった時の為に発信機。
 ベストショットを収める為のカメラ機能とデータ保存用のメモリーチップ。
 痴漢撃退用の警報装置に低出力スタンガン、止めのくちばし攻撃機能。
 どう? 攻撃機能は威力の軽いのばかりなのがちょっと難だけど変じゃないでしょ??」
「何ソレ!? フレイ、僕トリィにそんな機能があるなんて聞いてないよ!!?」
「十分変だぞそれは! 普通のペットロボには痴漢撃退用に攻撃機能は付いていない!!!」
「でも元々付いてた奴を改良しただけなんだけど。」
「嘘吐け! んなわけあるか!!」
「本当だよ。俺が分解して見たから保証する。」

 サイの言葉にキラは頭痛を覚える。

《アスラン・・・君、トリィになんてもの付けてたのさ。》

 アスランからすれば自分が離れている間、少しでも変な奴がキラに近づいては大変と思ったが故の行動。
 サイとフレイは黙っているが本当は盗聴機に盗撮機、痴漢撃退用の一撃必殺超小型レーザー砲まで付いていたのだ。
 流石にコレはヤバイと驚き、ゼミ仲間の協力を得て盗聴・盗撮機能を他の機能と取替えて武器を『死なない程度』の威力のモノに替えておいたのだから現在の機能だけでも嘆くキラには話さない。・・・いや、話せないが正解か。

「とにかくマリューさん達に見つかると拙いから手錠もう一度掛けておいて。」
「確かにな〜。フレイ、手錠取ってくれ。」
「はいはい。」

 がちゃり

 再び手錠が掛けられると同時に閉められていた医務室のドアが開いた。

 しゅん!

 音に驚き振り返るとマリューと一緒に格納庫で会ったピンクの髪の少女も立っていた。

「「あああっ!!?」」
「あら、確か・・・・・・・・・アスランのお友達のラスティさんでしたっけ?
 写真で拝見した事がありますわv
 そちらは先輩のミゲル?さんでよろしかったでしょうか??」
「「ラクス・クライン!!!」」
「私の事をご存知なのですか? 会った事はないはずですけれど。」
「ほのぼの会話の前に確認したいんだけど・・・。」

 驚愕してラクスを指差すラスティ達の前にホエホエ笑顔で立つのはプラントが誇る歌姫ラクス。
 会話に割って入るマリューは青ざめた顔でラスティに訊ねた。

「この子は本当にシーゲル・クライン議長の娘さんなのね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」

 肯定するラスティ。

《出来れば肯定しないで欲しかった。》

 そんなマリューの想いが窺い知れる何とも言えない表情に皆困惑を覚える。
 ラクスの背後に控えていたナタルが再び士官室に戻る事を提案するがそれに異を唱えたのはラクス自身だった。

「折角皆さんとお会いしたのですからゆっくりお話したいですわ。」
「残念ですが彼らは治療中の為にここにいるだけで本来ならば独房に入れなければならない捕虜なのです。
 民間人の貴女を彼らを一緒の部屋に居させるわけにはいきません。」
「ではそちらの方達とは?」

 ラクスの視線の先にいるのはキラとイリア。

《《《《うひいいいいぃぃぃぃいい!!!》》》》

 思わず悲鳴を上げたくなったのはラスティらザフト側とマリューら地球軍側。
 キラはラクスがアスランの婚約者であることを知らない。
 そしてラクスはキラとは初対面。

《《《《もし何かの拍子にお互いの立場がわかったら・・・間違いなく修羅場る!!!》》》》

 止めようとマリューが言いかける前にキラはニッコリ笑って答える。

「僕は構いませんよ♪ 娘も一緒で良いですか?」
「勿論ですともv 私、子供は大好きですのvvv」
「じゃあここは医務室だから別の部屋に行きましょう。
 艦長、何処か部屋をお借りしたいのですが。
 そろそろイリアを寝かしつけたいのでベッドのある部屋で空いているところはありますか?」

 にこにこと笑いながら娘を抱き上げ言うキラ。
 思わずナタルが答える。

「駄目だ!」
「あらどうしてですの?
 彼女は見たところ民間の方ですのに。」
「そうですよ。」
「しかしラクス嬢、貴女はクライン議長の御息女です。」
「こちらの方は先ほど私の事民間人と仰いましたよね?」

 フォローを入れるつもりなのかミゲルが言い募るがラクスの切り返しにぐうの音も出ない。
 更に彼らにとって最悪な事にフレイが更にラクスの言葉を後押しした。

「別にいいじゃない。いい加減ラスティ達も子守りに疲れたみたいだし。
 キラもいいって言ってるし。
 それとも何か拙い事でもあるの?」

 フレイの言葉に四人は思った。

《《《《理由が言えるものならとっくにそうしてる!!!》》》》

「いえ・・・・・・・・・何も。」

 下手に反対して問い詰められたら答えられないマリューはこめかみに青筋を浮かべながら答えた。


 「それではv」とキラ達が泊まっている部屋の隣が空いているのでそこへ向かう三人の姿が見えなくなるとナタルがマリューを叱咤する。

「何で許可するのですか艦長!
 万が一にもお互いの立場がバレたら子供の命も危なくなるかも知れないのですよ!?」
「そんな事言ったってじゃあどうすれば良かったのよ!
 下手に反対して理由を訊かれたらまた『貴女はプラントの要人の娘さんだから。』って言うつもり?
 貴女がさっきラクス嬢を民間人扱いした事で揚げ足取られた以上そんな理由は聞いてくれないわよ。」
「彼女がコーディネイターでナチュラルの反感を買い易い事を理由に挙げれば!」
「キラちゃんもイリアちゃんもコーディネイターなのにそんなの理由にならないわ!!!」
「ねぇ、さっきから何言ってるの?」

 はっ・・・

 ゆら〜りと二人が視線を横に向ければフレイがいる。

《《この子が残っている事忘れてた!》》

 フレイより更に後方ではミゲルとラスティが頭を抱え・・・いや、耳を塞いでいる。

「どうしてあの子とキラが一緒に居ちゃいけないのかしら?
 何か私に隠してる事があるようですね。」

 15歳の少女のきつい視線がマリューとナタルを貫く。

「答えてもらえますね。」

 既に命令口調になったフレイ。
 恐る恐る答えた瞬間、医務室を超音波が襲った。





「あ〜あ、だから俺たち耳塞いでたのに何で用意しとかなかったんだ。」

 フレイの怒りの叫びは強力だった。
 「わざわざ見えるように耳塞ぐポーズしといたのに。」とミゲルが呆れた様に隣のベッドに横たわる二人を見つめる。
 一時的とはいえ聴覚が麻痺して倒れるマリューとナタルはウンウンと唸っている。

「で、どうするミゲル?」
「どうするって・・・俺はベッドに縛り付けられてるしお前は手錠かけてあるしドアにはロックが掛かってるし。」
「放っておくのか? まあ今すぐ出てったフレイを追いかけても遅いと思うけどな。」
「ラクス嬢に口止めするしかないだろう。
 お前行って来い。」
「やれやれ。」

 かしゃんっ!

 軽い音を立ててラスティの手錠が外れる。
 ロックをあっさり解かれてナタルが驚きながら問う。

「なっ!? どうやってロックを!」
「俺が解いたわけじゃないけどな。さっきトリィに解かれた時に手錠のロック機能そのものがクラッキングされてこの手錠はもう使い物にならなくなってたのさ。
 あんた等の目を誤魔化す為にかけてあっただけ。
 安心しなよ。破壊工作はしない。
 ラクス・クラインが居る以上下手な行動をして彼女を危険に晒すわけにはいかないからな。」
「頼んだぞラスティ。」
「おっけー。」



「僕の事を知っている?」
「ええ、貴女のお友達からお聞きしたのです。」

《僕の事を知っててプラントの要人の娘さんと会う機会のありそうな人って・・・。》

 アスラン

 キラには彼しか思い浮かばなかった。
 ラクスの言った「お友達」という言葉にキラは傷つく。

《そうだよね・・・。あれからもう三年も経っているんだもん。
 あの時の事も彼にはもうただの思い出なんだね。》

 ヘリオポリス崩壊時に失われたのはキラ達の居場所だけでは無かった。
 キラにとって一番の宝はイリア。その次に大事なもの。
 アスランから贈られた手作りヴェールはキラにとってとても大事な物だった。
 あれはアスランとの約束・・・絆の証だと思っていたからだ。
 だから自宅の部屋に大事に飾ってあった。
 けれど家ごと今は宇宙の塵となって宇宙空間を漂っている事だろう。
 回収は不可能だ。
 それを悟ってキラはあの時泣いた。
 アスラン達の手により崩壊したヘリオポリス。
 アスラン自身に絆を断ち切られたような気がして涙が溢れるのを堪えられなかった。
 その上、イリアを失うなんて耐え切れなくて・・・・・・・・・。
 偶然がもたらした娘との再会を喜んだのも束の間、ユニウス・セブンの惨状を見てキラはまた傷ついた。
 そしてラクスの言葉。

 ベッドよりキラに抱っこして欲しいと強請ったイリアはキラの腕の中で毛布に包まれてまどろんでいる。
 その娘の体温が今のキラを支えていた。
 これ以上泣くわけにはいかない。
 母親としてまだ未熟だけれども、それでもキラは精一杯イリアに泣き顔を見せないように頑張っていた。
 今回は何度も娘を不安にさせた。

《だからこれ以上は!》

 そう思った瞬間。
 フレイが部屋に飛び込んで来た。

 はあーっ! はあーっ!

 走ってきたのかフレイが肩で息を吐きながらドアに凭れ掛かるように立っている。

「まあどうしましたの? そんなに慌てて。」

 きょとんとした顔をでラクスが訊ねるがフレイは無視してキラへと歩み寄る。
 フレイから感じる気迫に押されてキラは思わず一歩下がるが直ぐに追いつかれて肩をがっしりと捕まれた。

「ふ・・・ふれい?」
「キラ、絶対プラントには行っちゃダメ。」
「何なの急に一体。」
「そしてオーブに戻ったらウチの子になりなさい!」
「どうしちゃったの!? ねえフレイ何を言ってるの!!!」
「あんな馬鹿男はこの子にのし付けてくれてやんのよ!!!!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 静寂が部屋を支配する。
 娘を抱えたまま固まるキラ。
 ほわほわ笑いながら二人のやり取りを見守るラクス。
 そこへたどり着くラスティ。

「えーと。状況説明してもいいかな?」

 誤魔化し笑いを浮かべるラスティが天の助けに見えたのはキラだけだった。



 さてその頃プラントではいい年した大人が喧嘩をしていた。

パトリーック! お前これからクルーゼからの報告を元にオーブへの正式回答の決議をしようと言うのにラクスの捜索隊第二陣として出るだと!!?
 お前にはもっとやることがあるだろーがっ!!!」
「私はラクス嬢の義理の父親でもあるんだ。
 お前は実の父親だろう? 心配じゃないのか!?」
「心配に決まっている!
 それ以前にお前はまだ親じゃないだろう!!」
「アスランとラクス嬢が結婚したら義父だ!!!」
「だからその暴走癖をどうにかしろお前は。婚約はあくまで予定で未定だ。
 二人の気持ちが変わるとか結婚には至らないという可能性は考えないのか!?
 第一、私にはプラント最高評議会議長としての役目もある。
 あの娘もその事を十分に承知しているのだ。
 だからこそ私は自分の責任を放棄するわけにはいかない。
 何よりもアスランが既に捜索に向かっているのだからココは彼らに任せるんだ。
 大体何だ? その手のデジカメは。」
「久し振りにコレクションを増やそうと思ってな。
 最近アスランの写真が撮れなくて淋しくて・・・ああ安心しろ、ちゃんとラクス嬢の写真も撮ってくる。」
「本来の目的はそれかーーー!!!」
「ではもう出航の時間だ。シーゲル、後は任せたぞ!」
戻れっ! 戻らんかパトリーーーック!!!

 軍港でのこの騒動。
 既に慣れ切っているパトリックの秘書が深々と頭を下げながらシーゲルを取り押さえる。

《《《これがプラントのTOP2・・・・・・・・・・・・。》》》

 見送る者、見送られる者、共にプラントの未来に漂う暗雲を感じたという。


 続く


 久々更新。『パパリンの暴走』をお届け致します。
 パトリックパパ=パパリン等と言うお茶目な呼び方をした最大の理由・・・。
 オフラインで通販リストに載せている番外編の影響です。
 ちなみにそちらを読まなくても本編を楽しめるように書いてますので御安心を。
 こちらでパパの変態度をしっかり強調しておこうと思いまして長くなる事がわかっていながら書き切ってみました。
 そろそろ話も終わりに近づいてきました。
 予定では上手く纏められれば後1話、多くても3話でしょう。
 最初のUPから既に1年以上が経過した長い長いお話も漸く決着が・・・っ!
 どうか最後までお付き合いお願い致します♪

2004.10.6 SOSOGU


 動き出す世界へ

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