はじめのいっぽ 後編
 何時だって私が誰かに頼るとしたらサイ。
 二つ年上で優秀なサイは私にとって先生みたいな存在でもあったから、調べ方について意見を聞いてみた。

「へ? 地球とプラントの関係悪化について??
 コーディネイターに関する正確な知識ぃ???
 何だっていきなりそんな事訊くんだよ。」
「別にサイに訊いてるんじゃなくて調べるのに一番良いのはどれ?
 私はネットも調べてみるつもりだけど。」
「そりゃあニュースが一番だろうけど・・・拾い出すのが大変なんだよな。
 特集組んでいるのは週刊誌系が多いから主観が入ってたりデマもあったりして参考にするには危険過ぎる。
 本は・・・ちゃんとしたのが出てくるのはもうちょっと時間が掛かるし多少出ている最近のって著者はブルーコスモスの構成員が多いから止めた方が良いし・・・。」
「何でも良いのよ!」
「何でも良いわけないだろ。
 フレイは本当のところを知りたいんだろう?」
「そうよ!」
「だったら・・・俺はネットを薦める。最新の情報が常に更新されているしね。
 けれど検索の時にかなりの注意が必要だ。」
「どうしてよ。」
「ネットって言うのは個人が出しているHPが多いから色んな情報が渦巻いている。
 後、週刊誌と同じように主観の入った偏った考えがあたかも真実のように載せられている事もある。
 一番大事なのは地球とプラントの間に何時何があったのか。事実のみだ。」

 サイは真剣に答えてくれた。
 私の突然の相談事を真面目に受け止めてくれた。
 何故?

『決して人の考えを聞いてはダメ。
 あくまで純粋な情報を手に入れてそれについて自分がどう思うか。』

 ふいにキラのお母さんの言葉が蘇る。

『一番大事なのは地球とプラントの間に何時何があったのか。事実のみだ。』

 サイの言った言葉と重なる。
 二人とも同じ事を言っているの?
 考え込む私を他所にサイが持っていたパソコンを立ち上げて検索をかけ始めた。
 カタカタとキーボードを叩く音が微かに聞こえる。
 真剣な顔をしながらもサイの横顔が何故か嬉しそうに見えた。
 僅かな時間で検索に引っかかったサイトを選別しその幾つかを紹介してくれた。

「ここが事実のみを年表にしているみたいだ。
 締結された条約や起こった事件、それらに繋がる世界情勢。
 そういったものも辞書みたいに詳しく解説してくれているようだ。
 でも絶対一つのサイトに絞ってはいけない。最低でも2つ、出来れば3つ以上のサイトを見比べてみてごらん。」
「何故なの? どうしてなのよ!」
「フレイはこういったサイトにアクセスした事無いだろう?
 個人で手に入れられる情報には限界があるんだ。
 情報によってはデマが混じっている事があるし、一番怖いのは無意識のうちに主観で書かれる項目もあるって事。
 『正確な情報』を最新で手に入れたいんだろう?
 絶対確実とは言わないけれど正確さを求めたいなら俺の言った事、守れよ。」
「・・・・・・・・・サイ、嬉しそうね。」
「そうか? ・・・そうなのかもな。
 フレイがやっと世界に目を向けてくれたのが嬉しいのかも。」
「どうして?」
「子供はどうしたって親の影響を免れない。
 俺もそうだ。最近それを痛いくらいに感じてる。
 でも、色んな出会いを繰り返していくうちに親の影響で出来た壁にぶち当たる事もあるんだ。」
「それってどういうこと?」
「無意識のうちに親の価値観を受け継いでるから、目指している将来の自分・人間像に辿り着けないんだ。
 今のフレイの状況に合わせて分かりやすく言うと・・・例えばフレイはコーディネイターが嫌いだろ?
 でも俺から見るとフレイのコーディネイター嫌いはフレイのお父さんの影響によるものが大きい。
 そういう価値観って子供の時に受けた教育や周囲にいる人たちとか、環境が大きく関与して形成されるんだ。
 だから、いざコーディネイターと友達になりたいと思った時にその価値観がその友達の存在を否定してしまう。
 といってもコレは一般論であって必ず当てはまるとは限らないけど。」
「・・・わかんない。」
「そりゃそうだよ。人に言われてあっさり理解し今までの価値観を壊せたら世界は争いなんてしないだろうね。
 今、フレイは人生の岐路に立っているのかも知れない。
 そしてどの道を選ぶかはフレイにしか決められない。」
「サイ・・・・・・・・・。」
「俺に出来るのはここまで。後は頑張って、フレイ。」
「うん!」

 言っている事の半分も私は理解していなかった。
 けれどサイにこれ以上頼る事が出来ない事、そして自分でこれから頑張らなくてはならない事。
 それだけは分かった。
 何より心温まる言葉。

『頑張って、フレイ。』

 私の背中を押してくれるその言葉がとても嬉しかった。



 インターネットは確かに便利だった。
 サイが紹介してくれたサイトは主にここ最近の地球とプラントの外交経過を紹介していた。
 一番注目したのはプラント理事国家の資源ノルマの量。
 もちろん資金を出した以上、元を取り戻す為の要求は当たり前の事だ。
 それ以上の利益を得なければ資金を出した国の民は納得しないだろう。
 けれど一年の総生産に対してこの量は・・・・・・・・・。

 大西洋連邦を筆頭に新型資源コロニー(現プラント)製作に資金を提供した各国の要求する資源の量は膨大だった。
 引き換えとして報酬もあるがその内容を見れば自然と眉間に皺がよる。
 地球がプラントに渡している報酬の殆どが食料等の生きる為に決して欠かせない物で占められていた。
 サイはコメントを余り見るなと言ったけれどこの点に関してサイトの管理者も思うところがあったのか。サイト全体は事実のみを羅列するばかりのページで占められていたのに要求量を一覧にした資料の最後に記載してあった。

『各プラント理事国は今も尚プラントでの食糧生産を認めていない。
 そして宇宙で生産される資源を独占して非理事国との貧富差を大きくしている。この状態は長くは保てないだろう。
 プラントでは過剰な要求に不満が増し、非理事国では理事国の態度に憤慨する者も多い。
 大西洋連邦内でも宇宙の資源が齎す富を甘受しながらも疑問を唱える人が増えてきている。
 改めてナチュラルとコーディネイターの関係を種族としてではなく国家として見直す時期が来ているのではないだろうか?』

 次に見たのはコーディネイターとナチュラルの対立に関して主に取り上げているサイトだった。
 まずコーディネイターに対する理解を深める為にとその能力と施された遺伝子操作の技術、そして実際に出会ったコーディネイターの何人かの人間性の違いを紹介していた。

 カチリ

 マウスを押す音が鳴る。
 そして私はまた情報の海に身を投げた。


 インターネットだけでは無い。
 私の資料探しは図書館や本屋へと及んだ。
 今まではファッション雑誌や文庫・コミックといった娯楽を中心としたコーナーばかり見ていたのに実用書のコーナーに近いノンフィクションや政治・宗教コーナーへと足を運ぶようになった。
 パソコンに向かって左手には借りてきた本を開く。
 右手で必要な資料をコピーしたりプリントアウトする。
 そんな生活が続き「後もう少し」と自分に言い聞かせて眠い目を擦りながらも指先と目は字の羅列を追う。
 気付けばクリスマスが目前まで迫っていた。


 全てでは無いけれどニュースで聞く問題の殆どの情報を見直す作業は終わった。
 初めは自分が手に入れた情報の多さに飲み込まれそうになって自分の足が地に着いていないような気がして呆然としていたけれど、落ち着くにつれ段々と世界の背景が見え始めてきた。
 多分自分の中で消化されてきたのだと思うけど・・・知ったら知ったで自分の無知さに涙が出た。
 パパからのいい付けを守っていれば幸せになれる。
 そう信じていた。
 けれど信じ続ける事に不安を覚えていたのも確か。
 自分ではどうすることも出来なくて悩んでいた時に私はキラと出会った。
 その心地良さに身を委ね燻っていた不安を片隅に追いやり真っ直ぐに見つめ直す事をしなかった。

《そもそも何故私はあんなに怒っていたの?》

 時が経つにつれ冷静になる。
 実を言うとキラのお母さんに会う前から抱いていた一番の疑問だった。
 ずっとずっと考えても分からない。
 ただ思い当たるのはサイからキラがコーディネイターだと知らされた時に感じた喪失感。

《あの時、キラに裏切られた気がした。》


 12月24日クリスマス・イブ。
 私はトボトボと機械的に足を動かす。
 行き先はサイの家だった。

『色々調べ物が続いて疲れてるんだろ。
 少し気分転換した方がいいよ。今度俺の家で家族だけのクリスマスパーティーやるんだ。
 良かったら来て。』

 ここ最近寝不足の顔を見せちゃったから心配してくれてるってわかってた。
 けど今はそんなサイの優しさが辛い。
 私は今確かに立っているはずなのに・・・凄く足元が揺れてる感じがして。

《悲しい。》

 そう、悲しいの。
 今はパーティーに行く気分じゃない。
 それでも行くのはサイ達が心配してくれてるから。
 だから行くの。

 無表情で歩く私を自然とすれ違う人が避けていた。
 そんなに怖い顔をしてたのかしら?
 自嘲してしまう。

 そんな私の先で立ち止まる人影があった。

《偶然は怖い。》

 それはキラのお母さんに会ったときにも感じた事。
 二度目の偶然・・・目の前にキラがいた。


 既に臨月のはずのキラはとっくに病院に入っていると思っていた。
 だから会うわけない・・・そう思っていたのに!

 私に気付いてどうしたらいいかわからなくて戸惑っている。
 そんなキラの様子が手に取るようにわかる。
 漸く意を決したのか少し震えて怯えを感じさせる声でキラは話かけて来た。

「あ・・・その、久し振りだね。それから・・・ゴメンネ?」

《謝らないでよ。酷い事を言ったのは私なのに。》

「コーディネイターであることを隠していたつもりじゃなかったんだけど・・・。」

《ここは中立国だもの。ナチュラルだけが住んでるわけじゃないって皆知ってるわ。
 わざわざ言う事でも無いもの。》

「結果的フレイに不愉快な思いをさせちゃったね。」

《違う、私は怒っているのよ。
 ・・・でも何に? キラがコーディネイターだから??》

「二度と会わないから・・・。でも、偶然擦れ違うくらいは許してね。」

《会わない? もう二度?》

「それじゃあ・・・。」

《チ・ガ・ウ。
 私はキラがコーディネイターだから嫌いになったんじゃない!
 だって別れを告げられてこんなに悲しいのよ!?》

 涙を浮かべながらキラが私の脇を通り過ぎようとする。
 まるでテレビドラマのスローモーションの様に流れ行くその光景。

《イヤヨ!!!》

 通り過ぎたキラを呼び止めたくて振り向くとキラが右手を石畳に手を着いて蹲っていた。
 お腹を押さえて苦しそうなその様子に強張っていた身体が解けて私は咄嗟に駆け寄った。

「く・・・。」
「キラ。しっかりして!」
「だ・・・大丈夫。今朝から何だかおかしかったから・・・陣痛がきたみたい。」

 陣痛=出産

 そんな文字が頭に浮かび途端にパニックになった。

「きゃあああああ!
 病院? 救急車?!
 
警察〜〜〜〜〜!!!
「落ち着いて、陣痛がきても直ぐに出産ってわけじゃないんだから。」
「と、とにかく病院っ! 小母さんたちにも連絡しないと!!」
「だから落ち着いてってばーーーーー!!!

 慌てているはずなのに。
 凄く大変な場面に遭遇しちゃったはずなのに。
 けれど何故?
 以前感じていた暖かいものが胸に蘇っていた。


 結局救急車を呼んだ。
 付き添って病院についてからはずっとキラの傍にいた。
 病院の先生の話では普通の人よりも随分と早く陣痛の間隔が短くなってきていると言う。
 そして迫られた選択。
 家族である小母さん達に連絡が取れず傍についていられるのは私だけ。
 一緒に分娩室に入ってキラの傍にいるかそれとも外で待っているか。
 普通だったら病院側はこんな事は言わない。
 けれどキラがたった14歳の少女であり初産である事を考慮した担当医が出した判断だった。

「妊婦にも不安が多いんです。
 特に彼女はここ最近自分がコーディネイターである事に悩みを持っていたので・・・。
 少しでも気を落ち着けて出産に臨めるようにしたいのですよ。」

 『ここ最近』

 医師の言葉が胸に突き刺さる。
 それはきっと私の言葉が原因。
 キラを苦しめたのに・・・その私がキラの出産に立ち会うの?

「妊婦と少しだけ話をさせて下さい。」

 答えが出なくて・・・私はキラに判断を委ねる事にした。


 まだ準備中なのでキラは空いていた病室に寝かされていた。
 今は落ち着いている時らしい静かな目をしていた。

「フ・・レイ・・・どうしたの?
 大丈夫だから・・・僕は大丈夫だから。
 何処かに行く予定だったんでしょ? もう行っていいよ。」

 僅かに視線を私から逸らして言うキラに今まで積もっていた物が爆発した。
 ここが病院だという事も忘れて私は怒鳴りつける。

「どうしてアンタはそうなのよ!
 私の都合より自分の事でしょ!?
 そんな顔して・・・一人で大丈夫って言い切れる程アンタは強いの!!?」
「でもフレイはコーディネイターが嫌いなんでしょ?」
「そうよ嫌いよ!
 だって何も知らなかったんだもの!!
 でもキラだって何も言わなかった。そうでしょ!?
 一度だってキラは私の事を信用してなかったのよ!!
 中立って言っても本当に皆が皆コーディネイターに理解があるわけじゃない。
 だから言えなかった気持ちはわからなくはないわ!
 けどっ・・・あれだけ一緒にいてもアンタは遠くばっか見てた。
 傍にいる私よりも遠くにいる誰かの事ばかり考えてた。違う!?」
「それは・・・。」
「手に届く距離にいるのに・・・頼ってくれない。
 心を許してはくれない。
 そんな時にアンタがコーディネイターだって知り合いから伝え聞いた私の気持ちがわかる!!?」
「・・・・・・・・・フレイ。」
「悔しかったわ! 辛かった!!
 結局私の事を信用してなかったんだって裏切られた気がした!!!」

 気付いたら泣いていた。
 でもこんなになって漸く分かった。

《私達は何も始まっていなかった。
 友達だと言いながらお互いに何も知らなかった。》

 キラは拒絶される事に怯えてコーディネイターである事を隠し続けていた。
 私は初めからコーディネイターを拒絶して彼らの事を知ろうともしなかった。
 他にも沢山あるけれど色々な事が積み重なってそれが大きな擦れ違いの原因になっていった。

《まだ間に合う? キラの傍にいられる??》

 顔を上げるとキラも泣いていた。
 気付けば少し髪が伸びて肩に掛かっている。

《ああもう・・・毛先が痛んじゃって。
 後でちゃんと手入れの仕方を教えてあげないと。》

 こんな時なのにそんな事を思ってしまう自分に笑ってしまう。
 そっと手を延ばすと届く距離にキラの頬がある。
 流れる涙を指先で拭うとまた新しい涙が零れてキラの頬を汚した。

「傷つけてゴメンね・・・。」

 ぽつりと言葉が零れ出す。
 今までの私だったらきっとこんな言葉は出なかった。
 絶対に言えなかった。

 私の謝罪の言葉を受けてキラがまた泣き出す。
 結局私達は看護婦が呼びに来るまでお互いに抱き合って泣いていた。



 ガララララ・・・

 ストレッチャーで分娩室へ運ばれるキラについて歩いていると不意に呼びかけられた。

「ねぇフレイ。無事に出産が済んだら見せたい物があるんだ。
 僕の宝物。」
「そう、じゃあ私は今までの勉強の成果を見てもらおうかしら?」
「勉強?」
「キラのお母さん・・・カリダさんに宿題出されたの。
 だからその結果をね?」
「じゃあまた僕の家で。」
「それよりもキラ。ラマーズ法忘れてないでしょうね。」
「ひっひっふ〜だよね?」
「そう、吐く吐く吐くだから間違えないように!」
「あれ? そうだっけ??」
「ちょっと大丈夫なのっ!?」
「う〜ん・・・多分。」
「キ〜ラ〜〜〜!!」

 私達の会話に苦笑しながら看護婦が宥めた。
 行く先にある扉が開き、長い長い時間が始まる。





 ほぎゃっほぎゃっほぎゃあ!

「おめでとうございます! 3078gの元気な女の子です!!」

《もうグラム数なんてどうでもいいわよ。
 元気ならそれでいい!》

 そう私に思わせる程お産は時間が掛かった。
 傍について声をかけたり手を握っているだけの私ですらこの疲労感。
 出産したキラの疲れは私の比じゃないって見なくてもわかる。
 結局もう0時を過ぎてしまい12月25日。
 疲れるクリスマスイブだった。
 外には漸く連絡が着いた小母さん達がソファに座って待っていた。

 分娩室のドアが開くと疲れで倒れそうな私の身体を支えながら小父さんが「キラの傍にいてくれてありがとう。」と言ってくれたのが凄く嬉しかった。
 それを最後に目の前が真っ暗になり私は気絶した。


 翌日、目が覚めたらキラの家だった。
 疲労感がまだ残っているのか体が重い。
 けど無理やり起き上がってリビングに行くとサイがいた。

『フレイちゃんの家に連絡したら出たのは家政婦さんでしょ?
 帰ってこないからずっと心配して思い当たる知り合いに片っ端から連絡してて大騒ぎになっていたそうよ。
 だから事情とこちらの連絡先を話して預かる事にしたの。
 そうしたらこの子が朝一番に来てびっくりしちゃった。』
『昨日待っても来ないからずっと探してたんだぞ!?
 そうしたら夜遅くになってからまた家政婦さんから連絡があって病院にいるって聞いて・・・。
 友達に付いていてあげたい気持ちはわかるけど連絡一つ入れてくれよ!
 皆心配してたんだぞ!?』

 いつものぽやぽやとした柔らかな笑顔で言うキラのお母さんとは対照的に噛み付くようにして怒鳴りつけてくるサイに私は呆然とする。
 当たり前なのかもしれない。
 何時だってサイは落ち着いてて取り乱しているところを見た事が無かったから。
 でも大人に見えていたサイの取り乱し方に今まで知らなかった一面を見つけて笑ってしまった。
 笑い出す私に更に憤慨するサイ。

《ああ、漸く世界が動き出した。
 私も何時までも子供ではいられない。
 パパの作った揺り籠に閉じこもったままじゃいられない。》

 そう、思った。


 怒るサイを宥めるキラのお母さんに感謝しながら目覚ましに熱いコーヒーを飲む。
 朝の会話はもちろん出産を済ませたキラの事。

「じゃあ、後4・5日ぐらいは入院なんですね。」
「比較的安産だったけれど年齢の低さを考慮して安定するまではとお医者様がおっしゃったの。」
「午後に面会は出来ますか? 出来たらサイも一緒に。」
「大丈夫だと思うわ。後で一緒に行きましょうv」
「ええっ!? 俺もか??」
「そうよ。来年からキラもカトーゼミに入るんだから今のうちに顔合わせしておきなさいよ。
 これから大変になるからキラのフォローして欲しいし。」

《これはサイにとっての『初めの一歩』
 キラに会ってもまだ「コーディネイターだから」なんて言わせないんだから!
 そして私の一歩目はこれから。でもその前に・・・。》

「ところで小母さん。ずっと訊きたい事があったんですけど。」
「なぁに?」
「小母さんはずっとコーディネイターであるキラと接してたから知っていると思うんですけど・・・。」
「あら、キラにはコーディネイターの友達が何人かいたからある程度なら答えられるわよ。」
「じゃあ遠慮なく。」
「どうぞv」

 すぅーーー

 一呼吸。
 そうして気を落ち着ける。

「これはある人から聞いたんですけど・・・コーディネイターはみんな口から火を吹けるって本当ですか?
 それからジャンプの滞空時間はナチュラルの100倍って話も聞いてるんです。
 目からビームも出せるし手刀を放てば衝撃波、満月の夜には月に向かって吼えるって!
 ネットで真偽を確かめようとしてもそういった記述は見つけられなくて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・と。」
「と?」
「としでんせつまにあ。」

 ぶっ!

 カリダさんの間の抜けた言葉にサイが吹き出す。
 その内我慢しきれなくなってお腹をおさえて笑い出した。
 釣られる様にしてカリダさんも口元を押さえながら笑っている。

「どうして笑うのよっ!」
「いやだって・・・目からビームなんて・・・・・・・・っくくっくっく。」
「クク・・・今の話は『都市伝説マニア』じゃなくて『特撮マニア』じゃないか?
 しかも【懐かしの】って前置きが付きそうな位にネタが古いな。
 手刀で衝撃波ってのもよくあるネタだよ。フレイってそういうの好きだっけ・・・っぶ!」
「だからどうしてそこで笑うのよ!!!」

 私の叫び声が響いて部屋中の空気を揺らしても二人は笑うことを止めなかった。
 漸く笑いが治まって来たカリダさんの答えを聞いて再び私は激怒する。


 午後のキラとの面会。
 最初から私は仏頂面だった。
 キラはそんな私の様子に不安そうな顔で尋ねる。

「フレイ・・・体調でも悪いの?」
「違うわ!」
「それとも僕の事まだ怒ってる??」
「それも違う!!」
「だってさっきから凄く怒ってるじゃない。」
「確かに怒ってるけどキラにじゃないわよ。
 自分の馬鹿さ加減と嘘つきなパパ、それから・・・。」
「それから?」
「・・・言わない。言いたくない!」


『だってコーディネイターはナチュラルの可能性を引き伸ばした存在なのよ?
 キラは目からビームなんて出した事無いじゃない。
 それともフレイちゃんには出来るの??』
『その辺の情報はフレイのお父さんからか?
 だからいつも言ってるじゃないか鵜呑みにしちゃ駄目だって。
 でも・・・本当に信じてるなんて・・・・・・・っぶっくくくっく。』


《朝に一通り笑い終えた二人の返答。
 嗚呼思い出すだけで腹が立つ。
 あんなに笑わなくたっていいじゃない。
 これでキラにまで笑われたらやってられないわよ。
 だからキラには絶対不機嫌の理由なんて言わないんだから!》

「それより体調の方は本当に良いの?
 あんまり無理しちゃダメよ。」
「大丈夫だよ。早く退院して公園に散歩に行きたいくらいなんだから。
 ね、今度の週末は空いてる?
 見せたい『宝物』はお日様の下が一番良いんだ。」
「じゃあ私も『宿題』をまとめて持っていくわ。
 でもその前にキラ。」

 ベッド横の椅子から立ち上がり背筋をピンと張る。
 起き上がった状態のキラに向かい深呼吸して朝から考えていた言葉を発した。

「改めまして、私はフレイ・アルスター13歳。種族はナチュラル。
 コーディネイター嫌い改善の為、現在コーディネイターの友達を募集中です。」

 キラが驚きで目を見開いていた。
 やがて大きな瞳から涙が溢れ零れ落ちる。
 けどその涙を見ていてもあの日と違い私の心は痛まない。


 これが本当の意味でのスタート。
 直ぐに理解なんて出来ないかもしれない。
 傷付けてゴメン。
 また傷付けるかもしれない。
 でも立ち止まって進む事を止めたくは無いから。
 一緒に笑いあう日々をこれからも過ごしたいから。

 もう一度一緒にいよう。
 もう一度一緒に歩こう。
 もう一度あの陽だまりの中で過ごそう。


 答えを待つ私に後から後から溢れ出る涙を拭いながら微笑を浮かべキラは言った。

「改めまして、キラ・ヤマト14歳のコーディネイターです。
 ナチュラルの友達が出来て嬉しいです。こちらこそ宜しくね。」


 さあ「はじめのいっぽ」を踏み出そう。


 END


 遅れ倒して漸くUPです。
 嗚呼ちくしょう! 此処で叫び出すと仕事の愚痴しか出ないのでそこはカットv
 急いでヘリオポリス編書こう・・・。
 でないとまた番外編が浮かんで来る。(もう既に一つ浮かんでしまったし。)

 2004.6.18 SOSOGU

 再会へ

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