再会 |
ユニウスセブンの悲劇より10ヶ月後、アスランはザフトの戦艦ヴェザリウス内に立っていた。 ドッグ内にあるヴェザリウスの展望ルームに映るのは忙しそうに整備・チェックに勤しむ整備兵達の姿。 そんな彼らの様子を見てアスランは思う。 《何て遠くまで来てしまったんだろう。》 10ヶ月前の2月13日、運命の日の前日にレノアからヴィジフォンによる連絡があった。 普段は研究の忙しさに定期連絡以外はメールすら送って来ない母の喜びに満ちた表情に少々驚きを覚えながらアスランはレノアの言葉を待った。 『突破口が見つかったわ! アスラン、ラクス嬢との婚約を破棄出来るわよv』 結局、自らの持つ権力を最大限まで利用して取り纏めたパトリック。 今、アスランとレノアの二人はパトリックとは冷戦状態になっていた。 息子だけならまだしも最愛の妻までろくに口をきいてくれなくなってしまった事は流石に精神的ダメージが大きいらしく今一元気の無いパトリック。そんな彼を慰めるのは友人であるシーゲル・クラインだけだった。 『そんなに二人が怒っているのならば無理にアスランとラクスを婚約させなければいいんじゃないか?』 しかし夢・・・もとい野望を諦めるという事を知らないパトリックはシーゲルの言葉に首を縦に振ろうとはしなかった。 『ダメだーーーー!! ふわふわレースの可愛い孫をこの手にするんだ!!!』 『無理にラクスとくっつけるよりもアスランの好きな子に頼んだ方が早いじゃないか。婚姻統制の事だって他の議員のご子息にも候補がいるから問題ないぞ。・・・政治的観点ではお前には良くないかも知れないがな。』 『確かに政治的思惑が全く無いとは言わないが、はっきり言ってラクス嬢は可愛い。お前に似てなくて。』 『何気に失礼だな。』 ちょっぴりこめかみに青筋が浮かぶシーゲルに見向きもせずにパトリックは語りを続ける。 というより演説に近い独り言と言うべきか。 『装いが女の子らしく立ち振る舞いからもお姫様オーラが放たれている。』 『いやそれはアイドルという名の偶像に過ぎないんだが。』 『そんなラクス嬢と私の自慢、レノア似のアスランの間に子供が出来れば最高に可愛いコーディネイターが誕生するぞv』 『どーゆーコーディネイトをするつもりなんだお前は。』 シーゲルの突込みが聞こえていないのか自分の言葉に酔っているパトリック・ザラ。 彼のせいでアスランとラクスの婚約は未だ続行中なのだ。 ここまで暴走するとレノアも何かしら決定的なモノを手にしないとパトリックを止められないと判断したのだが・・・相手のラクスには特に欠点は無く、父親のシーゲルも無理に婚約を纏めようとしていたわけではないので突っ込むところが無い。 アスランも色々情報を探っては見たがプラント内ではアスランとラクスの婚約破棄を求められる何かは見つからなかった。 しかしパトリックを止められる情報を手にしたとレノアは言ったのだ。 喜び母がディセンベル市の自宅に帰ってくるのを楽しみにしていたアスランは母を迎えにエアポートへと向かっている時にユニウス・セブン崩壊のニュースを見たのである。 眩い光に包まれて砕け散るユニウス・セブン。 農耕を中心としたそのプラントは政治的拠点や軍の施設とは無縁であり、はっきり言ってプラント国家全体で見れば田舎と評されるところだった。 もちろんプラントの食糧事情を考えれば農学関係の研究所などがあるのでそういった点では重要なところではあったが、戦争とは無縁と思われ誰もここが狙われるなど考えたことも無かった。 そうでなければパトリックがレノアのユニウス・セブン行きを許すはずがないのである。 けれど破壊されたユニウス・セブンは幻などではなくレノアを含めた24万3721人が地球軍の核攻撃の犠牲となった。 後の調査では正確にはブルーコスモスの暴走によるものとわかったがプラントにしてみれば地球軍とブルーコスモスはイコールで結ばれる存在だった為、この情報にあまり意味はなかった。 実際、突然妻を無くしたパトリックの悲しみはナチュラル全体に対する怒りへと変わりその後、強硬派としてプラント最高評議会に立つ事になる。 何にせよアスランの悲しみも薄らぐ事は無かった。 一番の理由はレノアが最後に言ってた言葉も宇宙の藻屑へと消えた事。 結局全てを話す前に息子とは永遠の別れとなってしまった彼女の遺品はユニウス・セブンと共にデブリベルトの中。回収は不可能だった。 母の恨みやキラへの愛の為アスランはザフトへ志願した。 《とっとと戦争を終わらせてキラをこの手に!!(母上への追悼も兼ねてv)》 本音はかなり薄情なアスラン・ザラ。 しかし建前上の理由、『母を殺された復讐』は人々の涙を誘ったのだった。 ここまで来るまでの過程を思い出し溜息を吐く。 《キラと俺の未来の為とはいえ・・・やはり気が重いな。》 レノアの敵というお題目は何処へ行ったという突込みが入りそうだがその場にアスラン以外おらず尚且つその心内を読んで突っ込みを入れられるような人物は今まではいなかった。 尽きぬ悩みを抱えたアスランは展望ルームから出て割り当てられた自室へ続く廊下へと足を向けた。 その時。 どげしぃっ 突然背中から強い衝撃を受けてアスランの身体は前のめりに倒れていく。とっさに力の流れに逆らわず右手を着いて前転することで無様に顔面を打ち付ける事は回避したものの状況がわからず何がぶつかったのかを確かめようと振り向いた。 「あーらゴメンナサイ。 あんまり鮮やかな赤なんで絨毯と間違えちゃったv」 「普通絨毯は直立して無いし踏む為にとび蹴りかます女もいない。」 だんっ! そこにいたのは金色の長い髪を編み上げた一般兵と同じ緑色の軍服に白衣を纏った少女と明るめの茶髪を以前よりも少々短めに切った少女と同じ色の軍服を着た赤みを帯びた琥珀色の瞳の少年。 足を思い切り踏みつけられ足を抱えて跳ね回る少年と敵意を感じる冷ややかな目でこちらを見つめる少女に覚えがあった。 「まさか・・・アリシアとジョルディ?」 「あら覚えていたの? 友達のメールを無視して返事しない薄情なアスラン・ザラ君の事だからとっくに月時代のクラスメートの顔なんて忘れてると思ってたわよ。」 敢えて友達とは言わないアリシアの目は表情と反して笑っていない。 顔の筋肉だけで笑っているというのはこういうのを言うのかもしれないと思うアスランはただ呆然とするばかり。 「メール? え、でも・・・・・・・・。」 「その上、連絡が取れない友達を心配してわざわざお家を訪ねてあげた女の子を門前払いするんだから酷い話よね。」 「は? ちょっとそれは。」 「アスラン・・・・・・・・・今は何も言わずに謝っとけ。それで多分全てが済む。」 ぼごぉっ 小声でアスランにアドバイスを入れようとしたジョルディの鳩尾にアリシアの肘鉄がめり込む。 余りの衝撃に声も無く崩れ落ちるジョルディに目もくれずアリシアは相変わらずアスランを睨みつけている。 「余計な事言うんじゃないわよ。 で、折角再会した元クラスメートに何か言う事は無いのかしら?」 「アリシア、俺達友達じゃ?」 「友達扱いしない薄情者を友達と呼んでやる程、私はお人よしじゃあ無いのよ。」 《こっ怖い!》 絶対零度の風が吹き荒れる。 空調完備のはずの戦艦内で吹き荒れるブリザードにアスランは震えた。 その内ダイヤモンドダストが見えるかも知れない。 しかし恐怖に負けてここで引いたらこの先、更にとんでもない事になる。 そんな予感に駆られたアスランは先ほどのジョルディの言葉を思い出した。 《兎に角謝ろう。何が何だかわからないけど謝ろう。》 今まで他人に負けを認めたことの無い、アカデミーでもトップの成績で卒業したアスラン・ザラが初めて白旗を揚げた瞬間だった。 「ごっごめん!」 「何に対してかしら? 何もわからずに只謝るようなお馬鹿を友人に持った覚えはないけれど??」 「兎に角ゴメン!!」 「謝る相手は私だけかしら。」 「あ・・・ジョルディもゴメン!」 「・・・どうやら何も分かっていないようねv」 しゅこぉおぉおぉぉぉおぉぉおぉぉ 更に口の端を上げてにっこりと笑うアリシアの表情が昔カリダに見せられた能面、般若の顔に見えた。 背後から漂う黒さを越して闇と言った方が良いくらい深い色をしたオーラがアスランに圧し掛かる。 冷や汗をダラダラ流すアスランの姿は蛇に睨まれた蛙の姿。 その緊張状態を解いたのは同じクルーゼ隊に配属されたイザークだった。 アカデミー時代からアスランに勝負を申し込んではその殆どで負けていたイザークは戦艦内での研修が始まるその前にもう一勝負とばかりに探し回っていたのだった。 「アスラーーーン! こんなところにいたのかこの馬鹿者ぉっ!! 今度は将棋で勝負だ!!!」 「邪魔すんじゃないわよこのオカッパ。」 ばきゃぁっっ!!!!! イザークが来たのはアリシアが立っている通路の背後にある角。 通路に転がっている少年とアスランの目の前に立っている少女に目もくれずに突進してきたところへ振り向かずに放たれた少女の・・・アリシアの裏拳にぶっ飛ばされる。 同年代の女の子に負けた事の無いイザーク・ジュール、初めての敗北の瞬間だった。 赤服二人を圧倒するこの少女、何故に緑服なのか。 アリシアは気絶したイザークを放っておいて再びアスランに問いかける。 「まあ私はとっても気長で優しいから正しい答えを持って医務室にいらっしゃいv 元クラスメートに免じて待っててあげるわvv」 《答えって何だ!?》 そう叫びたくとも恐怖が勝り口を噤む。 この雰囲気にアスランは覚えがあった。 遠い昔、たった一度だけの事。 母が大事にしていた若い頃に父から送られたという指輪をキラに見せてやろうと持ち出したアスラン。 ところがキラの家へ行く途中で落としてしまい見つからず泣きながら謝った。 拳固を脳天に食らった後のレノアは微笑み言葉の上では許していたのだが・・・・・・・・・・・・・・・こめかみの青筋はそのまま。 母の笑顔が怖いと思ったアスランはその後、レノアには決して逆らわなくなった。 余談だが指輪は親切な人が警察に届けてくれて事なきを得た。それでも母の怒りは簡単には収まらなかったが・・・。 今のアリシアはその時のレノアとそっくりだった。 外見は勿論全く似ていないが纏う雰囲気は似ている。 《そう言えばアリシアは母上達と個人的に会ってたっけ・・・・・・・・。》 一時期の事とは言え、 クラスメートであり友人であった自分よりもアリシアが多く会ったのはレノアだった。 また実の息子であるにも関わらず自分よりもレノアと多く語り合ったのはアリシアだった。 《その結果がこれか・・・?》 恐怖降臨。 いや恐怖再来。 未だに腹を庇う様に倒れているジョルディを引き摺り颯爽と去っていくアリシア姿はアスランから見ても格好良かった。 「何にしても怪我するな。医務室に近づくな。 俺から言える最大のアドバイスはそれだけだ。」 翌日食堂に現れたジョルディを捕まえてアリシアが一体何に対して怒っているのかを問い質したが彼女が恐ろしいのはジョルディも一緒。アドバイス以外は勘弁してくれとそれ以上は教えてくれない。 ヴェザリウスの食堂は確かに誰でも出入り自由だし部門ごとの差別も無いがそれはあくまで建前上の事。 エリートである赤服を着るパイロットと一般整備兵が話をするのは格納庫でだけという事の方が多い。 そもそも個人的に仲良くなる事が少ない。あまり宜しくない事だがパイロットの気位が高くて整備兵が馴染めなかったり、逆に友好的なパイロットであってもその肩書きから整備兵が一線を置くというケースが多かった。 特にアスランは国防委員長の息子、そのバックグラウンドの力に皆どうしても距離を置いてしまうのだ。もちろん同じパイロット仲間であったり先輩兵の中にはフレンドリーな者もいるのだが全体的に見てその垣根を越えてアスラン達と食事するくらいに仲の良いものなど今まではいなかった。 そう、今までは。 「アリシアは医務室勤務なんだよ。元々医療関係、看護士の資格を取ったところでアイツも志願したから自然の流れだな。 何より・・・下心が絶対に無い女の子って点がヴェザリウスに配属された最大の理由だ。」 「何ですかそれ?」 アスランの月時代の友人を紹介されると同時に食事にも誘われたニコルが尋ねる。 そもそも女性兵を配属するのに能力値以外に重要視する点とは何なのか、ニコルには思い当たらなかった。 きょとんとした顔のニコルにチッチと右手に持ったスプーンを振りながらジョルディは答える。 「大体な・・・お前ら自分達がどういう立場かわかってるのか?」 「パイロット候補生ですが。」 「・・・・・・自分の名前言ってみろ。フルネームで。アスランは他の赤服3人の名前も。」 「ニコル・アマルフィです。」 「アスラン・ザラ、イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、そしてラスティ・マッケンジーだが?」 「うんうん、じゃあ今度は苗字だけ言ってみろ。」 「アマルフィ、ザラ、ジュール、エルスマン、マッケンジー。」 「その内4人はテレビでよく聞く名だな。」 「当たり前だ。最高評議会議員だからな。」 「でもそれがどうかしましたか?」 「だぁーーーーーーーーーー!! ここまで言えば分かるだろ普通っ!!!」 《何故ちゃぶ台返しが出来ないんだここの食堂は!》 そう叫びたくなるジョルディの気持ちを他所に天然二人は全く気付いてくれない。 流石にジョルディが可哀想になったのか近くでコーヒーを啜っていた2期先輩であるミゲルが立ち上がり肩を震わせるジョルディを落ち着かせるように背中を叩きながら二人に解説してくれた。 「あのな、お前ら。 親の七光りに頼ったり虎の威を借るような真似を全くしないのはお前らの美点だと俺もよ〜く認めてるさ。 でもお前らがそうでも周りがそう判断しないこともある。 早い話がお前らの機嫌を取って甘い汁が吸えないかな〜って思ってる奴等がいるんだ。 そんな奴等ばかりじゃないけどそういう危険がゼロじゃないって事をさ。」 「え〜〜〜と?」 「玉の輿狙いの子がいるってこと。」 「玉の輿・・・?」 「そう、結婚狙い。アスランの場合は愛人かな?」 「「うえええええぇぇええっぇぇぇえっっ!!!!!」」 ミゲルの説明で漸く話が見えた二人の絶叫が食堂に響き渡る。 《気付けよ!》 そんな食堂にいた全員の心の中の突っ込みは言葉に出る事は無い。 「そんな訳でヴェザリウスとガモフに配属される女の子は他のところに比べて遥かに少ないんだ。 わかったか?」 「ええ漸く。いくら元々の人数が少ないとはいえ昨日から今日までの艦内ですれ違った女性って1人だけでしたから妙だとは思ってたんですけど・・・。」 「この艦内の女性は75%の割合で結婚しているか婚約しているかのどっちかだからな。」 「ジョルディ、後の25%は?」 「アリシア一人。ちなみに俺達付き合ってるから手を出すなよ。」 「誰が出すか。そんな恐ろしい事出来るか!」 考えるだけでも恐ろしいとばかりに顔色を変えて言うアスランは昨日の恐怖を思い出したのか次第に強張っていく。 その様子に疲れたような顔をしたジョルディがまた問う。 「やっぱお前も怖かったのか。」 「まるで本気で怒った母上を見ているようだったよ。」 「俺もアイツが怖い。」 「でも付き合ってるんでしょう?」 「それでも怖いんだ・・・まあキラが絡んだ時だけだから良いんだけどな。」 「そうだキラ! ジョルディ、お前のところにキラから連絡無かったか? 何か情報とか入ってこなかったか??」 「は?」 突然話が変えるアスランにジョルディが間抜けな顔をする。 傍らにいるミゲルとニコルも不思議そうに顔を見合わせるがアスランは二人を放っておいて話を続ける。 「いくら手紙を出しても返事は来ないし、メールは使えないし。 その内ジョルディ達のメールも来なくなってキラの事もあるしおかしいと思って何度メールを出しても誰からも返事は来ない。」 「ちょっと待て。」 「アリシアに相談したくてもあんの頑固オヤジのせいで中々家を訪ねられなくって・・・。」 「だから一度黙れアスラン。」 ぐわし 無理やりアスランの頭を押さえて話を止めさせるとジョルディはニコルに向き直って真顔で訊く。 「コイツ・・・確か今期トップで卒業したんだよな?」 「えっ? ええ、間違いありませんが。」 《ザフト、ダメかもしんない。》 プライベートな話になるからとアスランの部屋へと移動した面々。 その場にいるのはアスランと同室であるラスティを含めた7人だった。 食堂から移動した来た4人と食堂でのやり取りをその場で聞いたイザークがディアッカを引き連れて部屋で寝ているラスティを叩き起こした形になる。 「何で寝てた俺まで・・・。」 安らかな眠りを妨げられ不機嫌そうなラスティ。 「それは俺のセリフだぜ。」 明らかに嫌そうな顔で溜息を吐くディアッカ。 「軟弱者が! 兎に角お前!! 茶髪の・・・整備兵A、あの女の事を話せ!!!」 何処までも高飛車に叫ぶイザーク。 「整備兵Aって俺か? あの女って・・・やっぱアリシアだよな。」 うざったそうに呟くジョルディ。 「イザーク、幾らなんでも失礼過ぎます。謝って下さい。」 眉をひそめながらイザークを窘めるニコル。 「ってーか、何で俺も此処にいるんだろ。」 呆れ顔で如何にも部外者と言わんばかりのミゲル。 「静かにしろお前ら!!!!!」 話をとっとと始めたいアスランの叫びで漸く皆が落ち着く。 静かになった6人に目配せし、絶対余計な口を挟むなよ、と前置きしてジョルディは話し始めた。 「まずは全員に分かるようにキラの事から話すけど、キラって言うのは俺にとっては月の幼年学校のクラスメートの女の子で友達。そしてアスランの幼馴染なんだ。」 「へえ。」 「更にアスランの恋人でもある。」 「「「「「なにぃぃぃいいいいぃぃぃぃぃっ!!!」」」」」 「黙れよお前ら。今は突っ込みも我慢しろ。 確かキラとは将来も誓い合ってたよな?」 「ああ、指輪は用意できなかったが代わりの物を預けてある。」 アスランの答えに頷くと渋い顔をしてジョルディは更に続ける。 「3年前にアスランはプラントに引っ越したがキラはその後1ヶ月は月のコペルニクスに残ったんだ。 ご両親がナチュラルの一世代目コーディネイターだからプラントへは移り難かったんだろうな。」 「それは辛いですね・・・。」 「ちょっと待てジョルディ1ヶ月って何で知ってるんだ!?」 「今話すから待ってろ。 兎に角、キラは俺達にもに手紙を送ってくれたんだ。 特にアリシアには信頼を置いていたから相談事も交えた手紙を送っててあんまり心配したアリシアがキラが引っ越す日に月へ行ったんだよ。」 「ほお、随分骨のある女だな。」 「そしてその後、アリシアは直接アスランの家に行ったが門前払いを食らったそうだ。」 「ちょっと待て!?」 「俺達も全然連絡取れないし、そうこうしているうちにアスランの婚約発表がされた。」 「ああラクス・クラインとのロイヤルカップル報道か。」 ぽんと手を打ち言うミゲルとラスティは楽観的だが、ジョルディの言葉にこの世の終わりを見たのはアスラン。 青を通り越して灰に近いその顔色に半眼で見やるジョルディは追い討ちをかけるように言う。 「お前忘れてたな。自分が婚約してる事。」 「アリシアの怒りはそれかーーーーーーーー!!!」 「怒るに決まってるだろ。キラに手を出しといて婚約なんかする奴を何の理由も聞かずに許すと思うか?」 「確かに怒りますよね。」 「ま、当たり前だよな〜。」 絶望に打ちひしがれるアスランにまた追い討ちの矢が刺さる。 「月時代の友達は全員アスランとメール連絡出来なくなるしわざわざ心配して訪ねて行ったアリシアを追い返すしキラを捨ててプラントのアイドルと婚約とは良い身分だよな〜アスラン?」 「違う! それは誤解だぁっ!!!」 「ああ、大体察してる。」 「「「「「え?」」」」」 意外な言葉に全員の動きが止まる。 皆の様子を見て苦笑しながらジョルディはまた言葉を続けた。 「メールは大体ドメインで分かるんだよ。 俺達は一般家庭だから仕事上必要だったり趣味で入れ込んで無い限り契約サーバーだろ? でもお前らの家はどうだ??」 「確かに俺ん家は自宅でサーバーコンピュータを保有してるし管理する奴雇ってるけど。」 「ディアッカの所もか。アスランの家もそうだろ?」 「ああ・・・確かに。」 神妙な顔をして頷くアスラン。 同じく頷くニコルとイザークを確認する。 「ある程度権限を持っていればサーバーを管理下においてメールを各個人のパソコンに配信する前にアドレスチェックするプログラムを組んでおけば・・・可能だよな? 送信に関しても同じ事。 自分で出来なくても常に自宅にいる信頼の置ける人物に管理を任せれば確実だし。」 「それって犯罪ですよ。」 「手紙やヴィジフォンにしても同じこと。最初に受けるのは誰だ?」 「俺の家は大抵は秘書か執事がやるな。」 ジョルディの言いたい事を理解したニコルはびっくりしている。 しかし途中から全員が事情を察した。 「自宅を訪ねたアリシアだって執事の対応で大体察したのさ。 でも連絡をどうしても取りたいアリシアは小母さんにも連絡を取ってたみたいだけどアスランと同じ状態だってぼやいてた。」 「まさか父上が?」 「他に心当たりはないだろ。」 「あ、あんのクソオヤジ〜〜〜!」 「その前に気付けよな、お前も。3年も経ってるんだぞ?」 「これでアカデミートップ・・・確かにザフトの未来は暗いな。」 うんうんと頷くミゲルにディアッカも同意する。 しかし理由は分かった。 漸く光が差し込んできたとばかりに復活するアスランは立ち上がって部屋を出て行った。 それを見送った6人は再び話し込む。 「あ〜ありゃアリシアのところに行ったな。」 「しかしあの女は只者じゃなかったぞ? 大丈夫なのかアスランの奴。」 「イザークにそこまで言わせるなんて。 そんなに強いんですか?」 「強いけどそれ以上に怖い。」 ニコルの問いに答えたジョルディ。 言い切る『アリシアの恋人』に呆れたディアッカが突っ込みを入れる。 「お前の彼女だろ?」 「でも怖いんだ。多分アスラン許してもらえないだろうな。」 ジョルディの言葉は真実だった。 ばきゃあ! ごがん!! 医務室に飛び込み婚約が無理やりのものと話したアスラン。 けれどアスランが話し終えた瞬間アリシアの予備動作無しのアッパーがあごに決まる。 元々狭い艦の中。部屋も狭く重力の弱さもあり伸び上がった腕の衝撃によってアスランは脳天を天井に打ちつけた。 倒れ伏すアスランに腰に手を当ててアリシアは怒鳴りつける。 「漸くわかった様だけど肝心なところを忘れてない? キラにどう説明する気よ。あの子を傷付けたらこの程度では済まないわ。 本当に許して欲しければまずは態度で示しなさい。 何が何でもラクス・クラインとの婚約を解消してみろ!!」 《赤服を・・・エースパイロットを・・・あのアスラン・ザラを殴り飛ばした上に偉そう。 この子怖い〜!!》 初めこそは仕事をそつなくこなし、乗務員からも愛想が良いと誉め言葉を貰っていた少女の本性を知って怯えた軍医。 少女のシフトが終わった後、慌てて隊長室への直通回線を開いたのだった。 アリシアの知らないところで行われた通信に出たクルーゼは医師の言葉に面白そうに口元を歪めた。 更に7日後。ブリーフィングルームに集められたMSパイロット生達は恐ろしい辞令を聞く事になった。 「非常に遺憾ではあるが以前から行われていた対MA仕様のMSシミュレーションで戦闘管制を担当していたオペレーター、ヴェサリウス及びガモフに所属する全員が胃痛を訴えた為一時配置替えとなった。 普通なら回復を待って復帰してもらうところなのだが医師の診断ではそのうち2人が胃潰瘍でかなり重症との事だ。 先日入った情報の再調査及びそれに関わる作戦遂行に間に合わせる事は出来るが今までのシミュレーション結果を考慮するとそれは出来ないという判断になった為、新しくオペレーターを選出する事になった。」 擬似体感MS戦闘のシミュレーション結果。 その言葉を聞いて皆苦い顔になる。 特にニコルはいつかこうなるのではないかとずっと懸念していたのだ。 戦闘が始まると真っ先に先陣を切って突っ走るイザーク。 そのイザークの後ろに気をつけてばかりのディアッカ。 自分もプログラムのMAを打ち落としながらイザークと通信で口げんかしているアスラン。 はっきり言ってオペレーターの指示や情報なんて聞いちゃいないのだ。 この三人が微妙なコンビネーションを保ちハイスコアを上げていると言えば聞こえは良いが実際このスコアを叩き出せたのはオペレーターからのデータを受け取ったニコルやミゲル達のフォローがあってこそのものなのだ。 『結果良ければ全て良し』という言葉があるがそれは軍には通用しない。 過程に問題があれば成功率を考慮してスコアに関係無く最低ランクに評価されることだってあるのだ。 パイロットの能力は何ら問題は無い。 パイロットの性格に問題が有る。 それがわかっている。ならばパイロットをどうにか制御するのがオペレーターの仕事。 しかし彼らの肩書きや性格からオペレーターは恐れをなして何も言えないのだ。 それらを思えば今回の辞令は至極当たり前の結果だった。 「今更ですか? しかし本当に間に合うのですか、隊長。」 進み出て言うイザークに対しクルーゼから不敵な笑みが零れる。 他のパイロットも明らかに不安と不審感を抱えて目の前に立つ白い隊長服に身を包んだクルーゼに視線を送った。 「大丈夫だ。それにアスランは彼女の事を昔から知っているとの事だし馴染むのも早いだろう。」 『彼女』 クルーゼの言葉に一週間前の話を思い出し6人が青ざめる。 ヴェサリウスに配属された女性はわずか4人。 そのうち2人が今回病で倒れたと言うオペレーターだ。 そして後の2人が医務室勤務。 医務室勤務の女性は1人が交代要員の医師、もう1人が看護士だ。 まず医師がオペレーターになる事などありえない。 「しかしそれでは医務室の方が人手が足りなくなるのではありませんか!?」 《必死だな、アスラン。》 そんなミゲルに心の声に同意するように皆同情した生ぬるい目で抗弁するアスランを見守る。 が、 「今のところ医務室の方は人員が足りているそうだ。そちらの人員追加も要請しているので問題は無い。 この度、体調を崩したオペレーターに関しては症状の軽い者は医務室で一時安静。入院を勧められた者は艦を降りる事になった。 勿論オペレーターの人員要請をしているが中々適任者がいなくてな・・・。」 アスランの言葉を切って捨てるクルーゼ。 だが額から幾筋もの汗を流しながらまだまだ食い下がるアスラン。 「でもいきなり看護士をオペレーターになんて!」 「今回の急病人続出でオペレーター適正に関して見直す事になった。 彼女を的確と判断したのは私だ。それでも何か言いたい事があると言うならばシミュレーションの結果を見てからにして貰おう。 今日の午後から再びMS戦闘のシミュレーションを行う。では解散!」 言うだけ言って去って行くクルーゼの姿を呆然とした顔のまま見送ったアスラン。 流石に可哀想に思ったのかぽんと肩を叩く二人。 右肩をミゲル、左肩をラスティ。 「「頑張れ。」」 それだけ言って二人もクルーゼの後を追うように部屋を出て行く。 後のパイロット達も「そんじゃまた後で。」「大丈夫、彼女も仕事に私情は挟まないでしょう。」「大丈夫死にゃしないって。」等とかなり無責任且つ希望的観測に過ぎない言葉をかけて去って行く。 最終的に一人ぽつんと残されたアスランは今更ながらの悲鳴を上げた。 午後、予定時刻通りに行われたシミュレーションを見ながらクルーゼが楽しそうに笑う。その視線の先にあるのはインカムを片手で押さえ右手でパネルを叩く少女。 今回クルーゼからの指令によりオペレーターとなったアリシアだった。 勿論元々看護士である為、彼女は医務室勤務のままだ。今のところは非常勤としている。結果次第では常勤に戻る予定だが・・・今の状態を見る限りでは非常勤で押し通してもらう事になるだろう。 シミュレーション室に響き渡る元気な声。 馬鹿ッパっ! 周りを見ろって言ってるのよ。1時の方向敵ミサイル接近、後方に味方機あり。打ち落として!! 何時までも同じところに留まってたら敵の的よ。8時の方向45度上方よりMA群接近。直ぐにそちらに向かってオロール機を援護。言われたら直ぐにやりなさい色黒! 遠慮ばかりしてたら自分がやられるでしょブロッコリー! 自分の力過大評価してんじゃないわよ!! にやけた顔してんじゃないわよオレンジ頭! 人事じゃないってのよ。90度真下より敵機3機接近。 それでもエースかアスラン! 流れを読め!! 第二陣接近、後方10000メートルより熱源多数在り。 ヴェザリウスの援護に回れ。直ぐ動けこのでこっぱち!!! 先輩方も笑ってないで動いて。ミゲル機マシュー機ガモフ援護へ。 彼女の声に苦笑いがどうしても零れるがそのシミュレーションの過程と結果はコレまで以上の物だった。 「全く問題が無いとは言いませんが彼女は確かに彼ら限定で適正なオペレーターなのでしょう。 しかし隊長、何故彼女を選ばれたのですか?」 当たり前と言えば当たり前なヴェザリウス艦長アデスの言葉に不適な笑みを浮かべながらクルーゼは答える。 「医務室の医者より泣きつかれてな・・・切っ掛けは確かにソレだが決めた理由は彼女の志願理由と履歴書だ。」 クルーゼの手には二枚の書類。 手渡されたそれを見てアデスは目で書かれた内容を追い表情を強張らせる。 志願理由・・・尊敬していた人物を血のバレンタインで失った為、また親友の為に戦争を終わらせたい為。 ここまでは普通だ。問題はこの先。 履歴書に記されたある欄である。 好きなもの・・・キラと(一応恋人)ジョルディ 嫌いなもの・・・アスラン・ザラとパトリック・ザラ 嫌いなものにここまではっきりと人の名前を書くというのは珍しいが、普通これから入ろうとしているザフトの最高責任者とその息子の名を書くと言う点で「何で採用した」と突込みが入るがそれも置いておこう。 尊敬する人・・・レノア・ザラとカリダ・ヤマト 何故嫌いな人物の妻(もしくは母)の名がここに来ると言うのか。 「た・・・たいちょぉ?」 「中々面白い子だろう。」 そう言ったきり黙ってシミュレーション内容を見つめるクルーゼにアデスから溜息が零れる。 《後で胃薬貰って来よう・・・。》 アデス艦長も医務室の常連になりそうだ。 その一方クルーゼは思い出していた、アリシアのオペレーターとしての適正を判断する面接の時の事を。 『私はまだまだです。尊敬する方だったら取り乱したり怒鳴ったりいきなり実力行使に出たりしないで言葉と雰囲気だけで圧倒するので。 キラ・・・友達なんですけど今回の騒ぎには彼女の事が絡んでてつい怒りが抑えられなくて・・・。この度の騒ぎ、ご報告が遅れて申し訳ありませんでした。処罰は覚悟しております。』 ぺこりと頭を下げるアリシア。履歴書の面白い内容にクルーゼは何かを感じた。 それは宿敵とも呼べるムウ・ラ・フラガと向き合った時と似た感覚。 『怒りを抑えなくていいから是非オペレーターとしてブリッジに入って欲しいのだが、どうかな?』 その後、ヴェザリウスのブリッジが非常に賑やかになった事は言うまでも無い。 END 結果的に一番長いお話になりました。「再会」をお届けします。(でもまだ例のリク小説より負けますが。) 昨夜の内にUPしようと思っていたのですが喘息の発作でおもいっきし体調崩しました。やっぱり季節的にこれから辛くなりそうですね・・・。 それはまた別として、 30000HITを無事突破致しました。本当に有難うございます! この後皆様のリク通り萌えないゴミシリーズで番外編を書きたいと思います。 ずっと書こうかどうか迷っていたお話があるので書いてみますねv 2004.5.9 SOSOGU |
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