別れの時
 シトシトと小雨が降るある日の事。
 キラは父親のハルマに連れられて本日発売のゲームを買いに出かけていた。
 当たり前のように二人に付いていくアスラン。
 珍しく仕事が休みのレノアは息子が留守なのを都合が良いとばかりにヤマト家に訪れていた。

 もう既に100回は超えているカリダとレノアそしてアリシアの相談会を兼ねたお茶会だが、その日は緊張に満ちている。
 漂う紅茶の香り。淹れたてのお茶から立ち上る湯気がゆらゆらと揺れている。
 お茶受けのケーキは最近美味しいと口コミ情報によって知られつつある隠れた名店で買った特製ケーキ。
 レノアが品種改良したイチゴをふんだんに使われたストロベリータルトが塗られたシロップでぴかぴか光っている。
 とても優雅な休日の午後・・・であるはずなのにリビングに満ちる空気は重い。
 
「そろそろヤバイわね・・・。」
「プラントと地球、特に大西洋連邦でブルーコスモスの活動が活発化していて殆どのコーディネイターがプラントや永世中立宣言をしたオーブ、その他の中立国に流れているそうよ。」
「あれから二年・・・全く進歩の無い我が息子も大概情けないけど。」
「キラがあれほど鈍いとはねぇ・・・。」
「「アリシアちゃん何とかしてよ!!!」」

《そんな事言われてもね?》

 詰め寄る二人の事など全く気にも留めてない様子でアリシアは紅茶を啜った。

 そう、あれから3年。
 アスランが暴走を始めたのが10歳。
 そして今アリシアは13歳。
 コーディネイターとしては既に成人していた。

 しかし精神面での成長は全く追いつかず、キラは相変わらずぽやぽやしておりアスランはキラに寄って来る者を蹴散らかすようにしてキラにべったり取り付いて世話を焼きまくっている。
 キラもアスランも何かある度にアリシアに相談するところも変わっておらず、既に諦めモードに入ったアリシアは成るようになれと放っておく事にした。
 平和な世の中ならばそれでよかったかも知れないが世界の情勢が時間を与えてはくれなかった。

『プラントと地球の開戦は間近だ。』

 もうこれは決定事項だろう。
 市民の間ではまだ噂でしかないがプラント最高評議会で国防委員長を務めているレノアの夫、パトリック・ザラからの情報でこの三人は時間が無い事を知っていた。
 「早く避難を。」と妻に連日メールしてくる夫を説き伏せるのももう難しい。
 仕事の事もあるので現在手掛けている研究が一段落したらと言って漸く納得してもらえたのだ。
 引き伸ばしても1ヶ月が限界だろう。
 それまでの間に何とかしなければならない。
 だからレノアとカリダはアリシアを急に呼び出したのだ。
 しかし・・・

「私、1週間後にプラントに引っ越しますから。」
「「何ですってーーー!!?」」
「後、ジョルディも同じ日に引っ越すそうです。」
「「それはどうでもいい。」」

 仮にもキラとアスランの共通の友達であるジョルディの引越しはどうでも良いと言い切る二人も問題だが「そうですか。」とあっさり流すアリシアもこの3年で大分捻くれた人格が形成されたようである。

「そんな訳でしばらく忙しいんです。大した事は出来ませんよ。」
「ここはやはり最終手段でアスランを突付いて既成事実を・・・そして完全に恋人への昇格を!」
「でもいくらコーディネイターの成人が13歳って言っても私達のIDはオーブの物だからそれだけではちょっと弱いし何よりもあの人がどう出るか・・・。」
「ハルマさんがいたわね。」
「とにかく明日キラとアスラン君に探り入れてみますから1日だけ待って下さい。
 それに最近のキラの様子からすると結構まんざらでもないみたいだし。」
「「お願いねv」」

 女三人がそんな会話をしている頃、意外な所で事態は進んでいた。


 キラとアスランそしてハルマが目的のゲームソフトを手に入れた後、文具関係を買いたいと言うアスランの希望で近くのショップに入りファイルケース等色々物色していた。
 するとキラと比べると大分明るい茶髪、赤みを帯びた琥珀色の瞳をした少年。ジョルディがレターセットコーナーでうんうんと唸っていた。

「あれ? ジョルディじゃない。どうしたのこんなところで。」
「キラ、それにアスランも。偶然だな。
 ・・・・・・明日言うつもりだったんだけどまあ良いかな。」
「ジョルディ?」
「俺、一週間後にプラントへ引っ越す事になったから。」
「「えええっ!?」」

 あっけらかんと笑いながら言うジョルディに「突然すぎる」「どうして!?」と詰め寄る二人を宥めたのは一緒に来ていたハルマだった。
 ブルーコスモスの事、近頃の地球とプラントの関係悪化、そして月にある大西洋連邦を中心とした軍事設備。あまりに多い不安要素を諭されてキラもアスランも黙るしか無かった。

「そんな顔するなよ。その内お前らも来るだろう?」
「でも僕は・・・。」

 ジョルディの言葉に俯くキラ。
 その暗い表情と娘を気遣い肩を抱くハルマの様子にジョルディは『キラは一世代目』という事を思い出した。
 あまり気にしたことのないジョルディだがそんな者ばかりではない。
 その事がキラの交友関係に影を落とした事が何度もあったのだ。
 俯くキラに不安を吹き飛ばすやたら明るい笑顔を浮かべてジョルディは話す。

「それにさ、こうしてちゃんとメッセージカードも用意してるし。
 何かあったら連絡が取れるように父さん達に頼んでプラントでの新しいアドレス取って貰ったんだ。
 明日これを渡すから・・・な?」
「うん・・・・・・有難うジョルディ。」
「それはそうと俺アスランに用があったんだ。
 明日にしようと思ってたんだけどこれから時間取れるか?」
「俺に?」
「プラントに行ったら教えてやれないからな♪」

 なにやら意味ありげにウィンクするジョルディにアスランは躊躇ったが「先に帰って夕飯用意しているねv」と微笑むキラに背中を押されてジョルディの家に行くことにした。
 買い物を終えショッピングモールの入り口で分かれたアスランとジョルディを見送ってキラは先ほどまで浮かべていた微笑を止めた。

「キラ・・・無理して笑うのは良くないぞ。二人とも多分気付いていたよ?」
「わかってるよ父さん。でも・・・ジョルディがプラントに行っちゃう様にアリシアやケイン、そしてアスランもプラントに引っ越しちゃうのかな?」
「プラントに行きたいのか。」
「違う、皆と一緒に居たいの。」
「でもプラントはコーディネイターは簡単に入国許可が下りるがナチュラルは申請し国防省の許可を得た人しか入国許可が出ない上に移住となるとかなり厳しい審査を受けて許可を得なければならない。」
「・・・・・・。」
「キラだけなら出来なくはないよ。レノアさんに身元保証人になって貰えればキラはプラントに行ける。」
「父さんと母さんは?」
「私達は行けない・・・元々オーブのIDを持っているからそちらへの移住が一番妥当だからね。」
「・・・父さん達が一緒じゃなきゃ嫌だ。」

 穏やかな顔でキラに現状を伝えるハルマはその表情には現れないが友達と共に居たいという娘の願いとと娘と居たいという自分の願いが相容れない現状に葛藤を感じていた。
 そんな父の想いを無意識に感じ取ったのか俯きながらハルマの上着の袖をキュっと掴むキラ。
 娘の心の中に生まれた自分と同じ葛藤を感じ取りハルマはニッコリと微笑みながらキラの右手を掴み歩き始めた。

「今は何とも言えないよ。それよりももう帰ろう?
 母さん達が待っているし、今夜の夕飯は何だろうな。」
「僕今日お魚が食べたい! お寿司がいいな☆」
「じゃあ母さんに連絡してお汁を用意しておいて貰おう。私達はこれからお寿司屋さんへお遣いだ。」
「うん!!」

 父の笑顔に釣られる様に満開の笑顔でキラは繋がれた右手に力を込め歩き出した。


 さて一方アスランはジョルディに引っ張られるようにしてジョルディの家に着いたかと思うと今度は押し込められる様にしてジョルディの自室に入った。
 「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出て行ったジョルディが大きな紙袋と持ちニヤニヤと笑いながら戻って来た。

《何か企んでないかコイツ。》

 呆れ顔でジョルディを迎えるアスラン。
 ジョルディはその前に座り込んで紙袋を逆さまにした。

 バサバサバサッ

「何だコレ・・・本と雑誌?」
「アスラン、あれからキラとはどうなんだ。」
「どうって別に普通だけど。」
「お前はこのまんまで良いのか。」
「どういう意味だ。」
「俺達の引越しだってはっきり言って遅い方だ。」
「だから?」
「ザラ国防委員長の息子であるお前はブルーコスモスにとって格好の標的だ。避難を促されてはいないのか?」
「父からは何度も連絡を受けている・・・ってお前知ってたのか!?」
「何を。」
「俺の父がプラントの要人だって事だ。身分を隠しての留学だったのに。」
「お前な・・・・・・『ザラ』って名乗ってる時点で隠してないから。
 だから学校の女子が「玉の輿」だって騒いでたんじゃないか。
 っていうか本当にばれてないと思ってたのか?」

 こっくり

 思いっきり頷くアスランに頭痛を覚えて倒れたくなる。
 が、そういう訳にも行かない。
 プラントに戻ればザラ国防委員長の一人息子として扱われるこの友人とは恐らく話すことはおろか会うことすら叶わなくなるだろうと思い、今行動に出ているのだから。

「と、とにかくプラントに戻ってからは今の様に会えるとは限らないしお前にこんな事を教えてやる奴が現れるかどうか正直疑問だからな。
 それにキラもプラントに来れるかどうか・・・お前の実りそうで実らなそうな初恋を叶えるのは今しかないと俺は思っている。けれどキラはあんな調子だからこのままじゃ何年経ってもこのまんま変わらないぞ?
 お前はキラが好きだろう。」
「・・・ああ。」
「ならコレを読んでおけ!」

 ぴきききぃっ!!!

 ジョルディの示した際ほどの雑誌や本を見てアスランは固まった。
 アスラン達の年齢では手に入れられないはずのアダルト雑誌や本の数々。

「これ・・・どうやって手に入れたんだ!?」
「しーっ! 大きな声出すなって。
 へへへv 兄貴の部屋からパクって来たんだvv
 コレ読んで早いところキラとの仲を近日中に発展させないと後悔するぜ?」

 半分は確かにアスランを心配しての事なのだろうがもう半分は確実に面白がっているジョルディ。
 しかし目の前の挑発的な格好をしている女性の写真が載っている雑誌の記事を食い入るように見つめるアスランは哲学書を読んでいる時と同じ真面目さである。

《おいおいマジになって読むなよな〜? こういうのって男の都合に良い様に書かれている記事もあるんだから話半分に見ておかないと後で痛い目みるんだぞ??》

 ちょっと見せた雑誌の過激な内容を思いアスランには早過ぎたかもしれないと後悔しかけているが今更遅い。
 後悔とは後で悔いると書くのだから・・・。


 翌日の放課後、アリシアもキラに引っ越す事を伝えていた。

「アリシアも引っ越しちゃうの!?」
「私の家も急な話でね・・・今の時期で無いとお父さんの仕事先が受け入れてくれないから急遽決まったの。
 ジョルディも似たような状況らしいわ。」
「そんな・・・。」
「泣かないでキラ。きっとまた会えるから。」
「だって僕はきっとプラントへは行けない。
 戦争が起こるかも知れない、起こらないかも知れない。
 でも確かなのは今の地球とプラントの関係回復には長い長い時間が必要だって事だ。」
「そうね。3年先か10年先か・・・数十年かかるかも知れない。
 先が見えないわね。でもねぇキラ、大事な事忘れてない?」
「何?」
「このまま一生会えなくなるかも知れないのよ。
 私やジョルディ、それにアスラン君ともね。」

 アリシアの言葉にキラは胸を突かれた。
 考えなかったわけではないけれど敢えて考えないようにしていたその可能性を指摘され、痛んだ胸にそっと手を添える。
 アリシアはそんなキラを包むように抱きしめてまた問い掛けた。

「キラ、私はキラが大好きよ。」
「僕もだよ。」
「アスラン君の事も好きでしょう?」
「もちろんだよ。僕等親友だよ?」
「じゃあ私に対する好きとアスラン君に対する好きは同じかしら。」

 抱き締めたキラの体がビクリと震えるのを感じアリシアはふんわりと微笑む。

《後一押しだったって訳ね・・・でもキラが妙に『親友』に拘る理由って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。

 ずっとずっと昔、ジョルディがこっそりと教えてくれた出来事を思い出す。
 今はアスランの様子を見て望みが無いとアタックを仕掛ける女の子は少なくなった。
 けれど以前はしょっちゅうあったアスランへのアプローチに巻き込まれたのはいつもキラだった。

『男女の間で友情なんて成立するはずがないのに』

 そんな言葉をキラに投げかけた子が居たと言う。
 恐らくキラが拘っているのはその時の言葉だとアリシアは確信しキラを落ち着かせるように背中を軽く叩きながら言い募る。

「キラがアスラン君に感じている友情は大切なのかもしれない。でもそれに拘って大事なものを忘れてはダメよ?」
「・・・・・・・・・アスランと遊びに行く時、時々その笑顔を直視するのが辛くなる。
 手をギュっと握られると走った後みたいに胸がバクバクする事もある。
 他の皆に対してはそんな事無いのにアスランだけなの。」

 アリシアの腕に縋る様に寄りかかり涙ぐんで語るキラはとても儚げに映った。
 これなら・・・とアリシアが思った時。

「僕、病気になっちゃったのかなぁ。」

 ごがん!

《ここまで来てあれだけ恋愛感情を匂わす話をしといて何でそうなるのよっ!!!
 そりゃまあ恋の病とか言うけどさ!!!!!》

 キラの鈍さはもう嫌と言うほど知っていたはずなのに改めて思い知らされてアリシアは続けようとしていた言葉が凍ってしまい何も言えなくなった。
 その間にキラは自問し始める。

「だってアスランに対してだけなんだよ?」
《だからそれがアスラン君に対する恋愛感情の芽生えだって。》
「胸の動悸だけじゃない、何か顔もカァーっと熱くなって熱が出てくる事もあるんだ。」
《普通の人はそれで自覚するんだけど。》
「大体見慣れてるアスランの顔を見られなくなるなんて僕おかしいよ!」
《おかしいのはキラのその思考の方だってば!!!》

 はあああああぁぁぁあ

 キラだけでなくアリシアも思わず長い長い溜息を吐く。

《キラがこれほど鈍いとなると・・・私が直接講釈垂れても多分否定するんだろうな〜。
 となると・・・・・・・。》

「キラ、一度アスラン君とよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜く話し合いなさい。
 今キラの身に起きているその症状も事細かに話して相談するの。」
「でもアスランに心配かけるのは。」
「イーから! それはアスラン君じゃないと治らない病気なの!!
 治したかったらつべこべ言わず私の言う通りにする!!!」
「で・・・でもアリシ・・・」
「返事は!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ。」

 わかれば宜しい。
 そんなアリシアの言葉にキラは、何故かはわかならいがちょっとアスランに会うのが怖くなった。



 アリシアと別れてからキラはいつものように玄関ホールへ向かった。
 同じくいつも通りキラを待つアスラン。
 しかしその様子は「いつものアスラン」では無かった。
 いつも課題や勉強、得意のマイクロユニット作りに取り組む時と同じ鋭い目をしていた。
 纏う雰囲気も違いピリピリした空気が怒っている時と似ている。
 アスランまでの距離が後5メートルというところでキラの足は竦んでしまった。
 距離が開いたまま動かないキラに苛立ったのかアスランの方から近づいて行く。
 目を逸らさぬままにキラへと近づくアスランをキラは動く事も出来ず立ち尽くしていた。
 キラの目の前で立ち止まるアスランは硬い表情のまま話しかける。

「キラ、今日は俺の家に来てくれ。小母さんにはもうキラは泊まると伝えてあるから。」
「何で?」
「ゆっくり話したい事がある。」


 アスランに引っ張られるようにして辿り着いた月のザラ家は人気が無かった。
 レノアがいない事を気にかけるキラの心内を読んだのか、家の鍵を開けながら独り言のようにアスランは言った。

「母上はまた研究所で泊り込みだそうだ。」
「またって最近小母さん忙しそうだけど・・・大丈夫なの?」
「何でも一ヵ月後には研究所を撤収するそうだ。」
「!?」
「母上と俺はその3日前にプラントに移る。」
「アスランも・・・なの?
 アスランもプラントへ引っ越しちゃうの!?」
「・・・前々から父上に避難を促されていたんだ。
 ブルーコスモスの動きが以前より活発になってきているってね。
 元々テロを恐れて俺達を月に送ったのにその月の治安にも不安が生じ始めてる。
 ならば『自分の力が届く範囲に』という父上の気持ちもわからなくはないさ。」
「じゃあ。もうすぐお別れなんだね。」
「話っていうのはそれについても含んでる。とにかく部屋へ。」

 アスランの言葉に頷き家に上がるキラはその後起きる出来事を予測できなかった自分を責めることになる。


 キラの部屋と違いシンプル且つ機能的なアスランの部屋には趣味のマイクロユニット製作に必要な道具はあってもそれ以外の物が置かれていない。
 バスケやサッカー、色んなスポーツをして遊んだりする事はあるが基本的に道具を部屋に持ち込まず納戸に保管してプライベートの空間と区別しているのがアスラン・ザラという人物である。
 最初はそのすっきりし過ぎた空間に生活感が感じられないと皆落ち着けないのだが、幼い頃から出入りしそんなアスランの性格を熟知しているキラは馴染んでおりクッションを抱えてベッドの上に座った。
 ふとベッドの傍らに設置してあるアスランの机の上を見ると愛用のノートパソコンの隣に見慣れない箱が置かれていた。

「アスランこれは何?」
「それは後で使うから。」
「は? 使う??」
「今すぐには使わないから開けないで。」
「うん・・・。」
「それよりも話だけど。」

 直球で『プラントへの避難』について話されるのは辛く俯くキラの傍らに座りアスランは話を始めた。

「はっきり言うけど俺はプラントへ引っ越す事になる。」
「・・・うん。」
「出来ればキラも一緒の日に引っ越して欲しいけど小父さんの仕事は俺達がどうこう出来るものじゃない。
 どうしたってキラが月から避難するまでの間、俺はキラの傍に居れなくなるんだ。」
「寂しいね・・・・・・。」
「だからねキラ、結婚しよう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」

「俺とキラは13歳だから親のサインさえあれば結婚出来るし。」
「そこでどうしてそうなるのかなぁアスラン!」
「夫婦になればそのままキラをプラントに連れて行く事に問題はないし親の都合で離れ離れにならなくて済む。」


 大真面目に語るのは学年一の成績を誇るアスラン・ザラ。
 成績の良さはそのまま頭の良さとは決してイコールでは無いということを実証している。
 だがそんなアスランに突っ込みを入れられるキラも只者では無い。

「アスラン・・・・・・・・・結婚の大前提を知ってて言ってる?」
「もちろん! 愛してるキラ!! 俺と結婚してくれ!!!」
「わかってるならその前に必要な段階や手順を踏んでよーーーーーーーーーーー!!!!!」


 思わず大声で怒鳴り返すキラだが実は一番混乱しているのは自分自身だとわかっておらず、普段は滅多に働かせない脳をフル回転させて今の状況を把握しようと必死に必死に考え始めた。

《愛してるって愛してるって!? アスランが僕を!!? 僕ら親友でしょ!!!
 嗚呼、僕はアスランに胸の動悸が酷い病気の相談したかったはずなのになんでこんな事になってるのさ。
 でもちょっと嬉しいっていうか何ていうかまた動悸が復活したっていうか、何だか前に読んだ恋愛小説みたいって・・・・・・・・・・・恋愛小説? 恋愛?? 恋???
 もしかして僕はアスランに恋してる!? 本にあった手順と全然違うじゃない!!
 まず恋をして告白して付き合ってそれから結婚の申し込みでしょーーーーーー!!!!!

 この間わずか0.5秒。コーディネイター故か、キラの脳の回転は非常に速かった。
 だがアスランはキラの様子に全く気付かずに怒鳴り返す。

「ちゃんと踏んでるだろ!?
 映画にも行ってるし食事一緒にするのもしょっちゅうだし、デートの定番と言われてる場所は全部行ったはずだ!」
「全然違う! その前にあるでしょ!! もっともっと大事な事がっ!!!」

 ぽん

 思い出したように手を叩くアスランの様子にホッと安心の息を吐くキラ。
 だがアスランは既に暴走を始めていた。

 ばさっ

 気がつけばキラは座っていたベッドに仰向けに倒れていた。
 自分の状況が掴めず周りに目を向けると目の前には壮絶な笑みを浮かべたアスランが居た。
 キラの身体の上に馬乗りになり見下ろすアスランの腕を視線で伝って見るとアスランの両手はキラの腕をしっかりと掴んでいる。そしてキラの足の間にアスランの右膝が割り込むように入っている様子も見える。

《ねぇこの状況って・・・・・・・・。》

「良かったv キラがその気なら話は早いよねvvv」
《だからアスラン、僕の話わかってる?》
「本当はもうちょっと話をしてからと思ってたんだけどね♪
 お風呂も用意してたんだけど先に始めようか。」
《何を用意してたって!? そんでもって何を始めるって!!?》

 うちゅっ

 突然キラの目の前が暗くなる・・・というよりキラの顔を塞ぐ者が居た。

「ふっぅううううっ!!?」

《キっキスぅぅうう!? しかもいきなりマウストゥマウス!
 ちょっと待ってよアスランーーーー!!
 何か陶然とした顔してる! 怖いーーーー!!!》

 キラの恐怖などお構い無しにアスランはどんどん行動を始めていった。

《うひぃぃいぃいい! 人の歯舐めないでよ!!
 何で僕は口開けちゃったんだ。アスランの舌がっ舌が入って来る!!!》

 人はソレをディーブキスを言う。

《あれ何か胸のところがスースーする・・・って何時の間にかブラウスのボタンが外されてる!?
 いやああああぁぁぁあ! ブラが!! ブラも外されてるよ僕ーーーーー!!!》

 キスをしている間に進める辺り手際の良いアスラン。

《あー漸くキスが終わった。よしアスランに抗議してやる・・・って?
 ちょっと項を舐めないで吸い付くのも止めて! くすぐったいっていうか身体から力が抜ける〜〜〜。》

 一般的にキスマークと呼ばれる物を付けられている事に気付かぬキラ。

《何か・・・足の方もスースーするような・・・・・・・・・って僕のズボンどこ!
 うあイタタタタタタ人の胸掴むな揉むなぁ!!!》

「アスラン痛い止めて!」
「え? 痛いの? でも俺は気持ち良いしもっと触ってたいし揉むと胸大きくなるって本に書いてあったし。」
「本!!?」
「ジョルディに見せてもらったんだ。
 大丈夫、ちゃんとネットでも検索して勉強したから痛くないよキラvvv
 さぁ続きしようね☆」

《痛くないって何!?》

 抗議しようとしたが行動はアスランの方が早かった。
 キラの口を塞ぐように再びキスをしながらアスランはまた動き出す。

 その後、キラはいつも相談に乗ってもらっているアリシアにも報告出来ない目に遭った。
 普段は触らせないような所をアスランに触られ、他人には絶対に見せた事の無い箇所を全開でアスランに見せ、あまつさえそこに指で弄られ舌で舐められ更にアスラン自身を入れられて揺さぶられた。
 顔から火が噴出しそうなくらい恥ずかしい声を散々アスランに聞かせて気絶した。


 朝になり薄ぼんやりと明るくなった部屋の中でキラは目を覚ました。
 重い瞼を持ち上げると目の前には誰かの裸の胸。
 状況を確認しようと身動ぎするが自分を閉じ込めるように囲っている腕があり動けない。
 仕方なく上を向くとそこには既に目を覚ましたアスランが柔らかな微笑を浮かべてキラを見つめていた。

「お早うキラ。身体は大丈夫? 辛くない?? 大変なら学校休もうか???」

 ぷっちり

 一応労わってはいるようだがかなりお気楽なアスランの言葉にキラの血管が切れた。

「恋人のお付き合いより先に婚前交渉してどうするーーーーーーーー!!!」

 ばききぃっ

 キラの右手が会心の一撃を放った。
 しかし幸せ一杯のアスランはダメージゼロ。それどころかキラの腰に右手を添えて額や瞼にキスの雨を降らせてくる。

「元気みたいだね、良かった♪ じゃあ今夜も大丈夫だね☆」
「え。」
「小母さんには昨日のうちに話は通してあるし母上はキラがお嫁さんなら言う事無いってv」
「ちょっと?」
「俺がプラントへ移ってからキラが追ってくるまでの間、キラが寂しくないように出来るだけ俺で満たしてあげるvv」
「だからアスラン?」
「今日から俺がプラントに引っ越すまでキラは俺の家に泊まる事になってるからvvv」
「それってつまり・・・・・・・・。」
「頑張ろうねキラvvvvv」


 アスラン・ザラは暴走を始めた。
 とんでもない方向に暴走を始めた。

 週末にジョルディとアリシアを見送る為に宇宙港へ来たキラに、ジョルディは平謝りしアリシアは同情しつつも激励の言葉をかけた。

『キラ、これからの女は強くなくちゃいけないわ。頑張るのよ!
 少なくともプラントに来れば私がいるから早く来るのよ!!』

 けど、きっと励ましにはなっていない。


 更に3週間後、アスランも避難することになった。

『キラの好きな桜並木の下で。』

 アスランは別れの場を指定して待ち合わせた。
 朝早く旅立つアスランを見送る為にやって来たキラを取り囲んだのは桜吹雪だった。
 花びらに塗れて歩き続けると優しさに満ちた微笑でアスランが迎えた。

「キラ、泣くなよ。」
「泣いてないよ。」
「でも目が赤いぞ?」
「それは君のせいで寝不足だからだよ。腰も痛いし足に力は入らないしここまで歩いて来るの大変だったんだから!」
「ゴメンゴメン。ね、それよりコレ・・・。」

 アスランが差し出した手の上には小さな鳥型ロボット。キラが手を差し出すと羽ばたいて手から手へと乗り移った。

『トリィ!』

「本当に戦争になるなんて事は無いよ。プラントと地球で。」

 アスランが発するそれはナチュラルの両親を持つキラを慰める言葉。

「避難なんて意味無いと思うけど・・・キラもそのうちプラントに来るだろ?」

 けれどキラは明確な返事は出来なかった。
 『トリィは次に会う時までのお守りだよ。』と笑うアスランをキラは涙を堪えて見送ったのだった。


 END


 恐らく・・・記録的にLOST-SEED的には一番長いお話になりました。
 本当だったら2話くらいに分けたかったのですが前回後2話くらいで・・・とあとがきで書いてしまったので「今更覆せるかーーーーー!」と一気に書きました。
 結局エロシーンは端折りました。だって私が書くとギャグにしかならなかったんですよ!
 色っぽいキラを書こうとすると文章が変になり、黒ザラで書こうとすると1文字も打てない。
 「じゃあ全部ギャグで書いたろか!?」と思ったのですが話の流れが悪くなり収まりも良くなくなるので止めました。
 っつう訳で次のお話で幼年期編は完全に終わりです。
 その後のお話がまだ続いており書くつもりですので宜しければお付き合い下さいませv

 2004.3.24 SOSOGU

 旅立ちの刻に続く

 NOVEL INDEX